勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    中国軍の新型国産空母「福建」が11月5日、南シナ海に面した海南省三亜市の軍港で就役した。国営新華社通信が7日に報じた。現地での式典には習近平国家主席が出席。中国の空母としては3隻目で、米軍以外では初めて「電磁式カタパルト」を備える。東シナ海や南シナ海から西太平洋へと広がる中国の軍事行動がさらに活発化しそうだ。

     

    中国が、空母3隻を擁して「大海軍」を目指しており、台湾侵攻作戦の一環とされている。だが、作戦上では無用の長物とされている。空母は本来、基地から遠く離れた地域での作戦行動に従事するものだ。それが、中国本土から至近距離の台湾でどう動き回るのか。敵潜水艦攻撃の「好餌」にされる、最も脆弱な存在と化すと評されている。空母は、防御力が弱い存在だ。

     

    『毎日新聞』(11月7日付)は、「中国の最新空母『福建』が就役 3隻体制確立 軍事行動活発化か」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「福建」は、2022年6月に上海市で進水し、試験航行を重ねてきた。中国軍の空母はこれまで、ウクライナから購入した船体を改修した「遼寧」(12年就役)と、国産初の「山東」(19年就役)の2隻体制だった。3隻となれば「任務、訓練、補修」のローテーション運用によって、常時少なくとも1隻の空母を展開できることになる。中国の軍事専門家は国営メディアの取材に「我が海軍が『近海防御』から『遠洋防衛』へと戦略を転換するうえで、重要な支柱となる」と強調していた」

     

    空母の役割は、第二次世界大戦時と大きく変っている。中国は、昔の感覚で空母を持てば「大海軍」というイメージに酔っているだけだ。米国本土へ攻撃する目的でもない限り無駄である。近隣国威圧する「外交用」である。

     

    (2)「福建は全長約320メートル、満載排水量は8万トン超で中国海軍最大。電磁式カタパルトはリニアモーターで艦載機を加速し、発艦させる仕組みだ。これまでの2隻の空母は、先端がそりあがった飛行甲板から艦載機の推進力のみで飛び立つ「スキージャンプ」方式であり、電磁式カタパルトはこれまで米軍の原子力空母だけが備えた技術だった。この装置により、艦載機はより多くの燃料や兵器を搭載して発艦できるようになる。出力を調整することで無人機(ドローン)など多様な機体の発艦にも対応できるのが特徴だ。中国海軍は9月、電磁式カタパルトを使用し、戦闘機や早期警戒機を発艦させる訓練の映像を公開していた。

     

    電磁式カタパルトは、中国が長いこと開発できず、中国幹部は「スパイでもしない限り入手は不可能」としていた。自国開発ではない。違法手段での入手が疑われている。

     

    (3)「福建を含む中国軍の空母はいずれも通常動力で、米軍のような原子力空母の実用化には至っていない。4隻目の空母には原子力を採用するとの情報がある。原子力空母は長期間の作戦行動が可能になるほか、電磁式カタパルトのような最新装備に必要な膨大な電力を原子力によってまかなえるのが利点だ。軍事専門家の間では、通常動力の福建が電磁式カタパルトの能力を十分に生かせるかについて、疑問視する声が出ている。既存の2隻とは設計が大きく異なるため、艦載機を含む運用の習熟には一定の時間を要する可能性もある。では、その福建の配備を、米国の安全保障関係者はどう見ているのか」

     

    軍事専門家の間では、通常動力の福建が電磁式カタパルトの能力を十分に生かせるかについて、疑問視する声が出ている。

     

    (4)「米軍の準機関紙「星条旗新聞」(電子版)は5日、米シンクタンク「ディフェンス・プライオリティーズ」でアジア研究を統括するライル・ゴールドスタイン氏の論考を掲載。ゴールドスタイン氏は「確かに目を引く存在だが、米国の安全保障に対する脅威とはならない」と主張した。ゴールドスタイン氏は、福建の電磁式カタパルトを「驚くべき技術的成果」と評価。大型レーダーを備える早期警戒機の発艦に成功した点に着目し、「これほど重い航空機を(空母で)運用できるのは米海軍だけであり、それが情報収集や戦闘指揮で圧倒的に有利な立場をもたらした。この優位性はもはや存在しない」と警鐘を鳴らした」

     

    空母での戦闘機の発艦着艦は、極めて危険を伴う作業とされている。大型レーダーを備える早期警戒機の発艦に成功したからと言って、何百回と練習を重ねるうちに勘を掴むのであろう。数少ない回数で、成功とは言えないのだ。

     

    (5)「さらに、「台湾有事にどう役立てるかは不透明だ」としつつ、中国軍が台湾の東側に防衛線を広げるため空母を展開させたり、太平洋へ進出して米国の補給線を攻撃したりする可能性があるとの見方を示した。その一方で「中国には長期の空母遠征作戦を支える基地インフラが不足しており、空母の数も少ない。米軍にとっては無防備な標的となるだろう」と述べ、その脆弱(ぜいじゃく)性に言及。そのうえで「中国に空母があろうとなかろうと、台湾問題は米軍にとって極めて困難な問題であることに変わりはない」

     

    中国空母は、どういう作戦行動を取るのか。興味深い対象になっている。中国本土から至近の距離での作戦は、無意味であるからだ。戦闘機が、本土基地から発進すれば済むからだ。戦時に本土で接岸状態にある空母は、敵の攻撃対象になる。厄介な者を持ち込んだものだ。

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    米海軍は、かねてから中国軍が2027年(建軍100年)に台湾侵攻作戦を行うと警戒姿勢を取っている。台湾軍も同様に厳戒体制を敷いている。中国軍が、演習を装って台湾を包囲して急襲するケースを想定しているのだ。中国軍は、頻繁に台湾包囲演習を行っているので、これが台湾の油断を誘うとみているのであろう。

    『日本経済新聞 電子版』(3月19日付)は、「台湾、7月に大規模演習『中国軍の27年侵攻想定』」と題する記事を掲載した。

    台湾の顧立雄国防部長(国防相)は19日、2025年7月に実施する定例の大規模な軍事演習「漢光」において中国人民解放軍による27年の侵攻を想定すると説明した。中国軍が訓練から海上封鎖や攻撃に転じる可能性を指摘し、演習の重要性を訴えた。


    (1)「立法院(国会)で記者団に「警戒すべき兆候を察知したら(素早く)対応できるようにしなくてはならない」と語った。中国が、演習から実際の戦争に切り替える時間は従来の想定よりも短くなる可能性に触れた。軍の即応能力の検証と向上を進めるべきだと強調した。演習「漢光」は4月に軍事シミュレーションをして、7月に戦闘機や戦車も投入する訓練につなげる。米国では27年に中国が台湾に侵攻する態勢を整えるとの分析がある」

    米海軍は、すでに中国軍による「27年台湾侵攻作戦」を前提にして、すべての準備を終っていると声明した。台湾海峡で、中国輸送船を迎え撃つ体制を整えたとしている。中国軍が演習を装って台湾を急襲するには、兵員と武器弾薬を整えなければならないが、事前情報で把握されるであろう。「孫氏の兵法」に従った急襲戦術であろう。古い。

    (2)「国防部は4年に1度の防衛戦略「4年期国防総検討」を立法院に報告した。中国軍の軍用機や海警局などを利用した実際の武力攻撃に至らない「グレーゾーン」でのかく乱行為で台湾軍が消耗戦を強いられているとして危機感を示した。台湾軍と民間企業が協力して無人機などの研究開発を進める方針を記した。機動性が高く分散できる武器で中国軍を食い止める「非対称戦」を展開する能力を構築する目標を改めて掲げた。市民を動員して重要インフラなどを保護し、社会全体の防衛力を高めていくとした。米国との軍事交流を深め、友好関係にある国との安全保障パートナーシップ関係を深掘りする方針も示した」

    ウクライナが、ロシア侵略に対してどのように対抗してきたか。多くの有益なヒントが得られるであろう。


    『日本経済新聞 電子版』(3月18日付)は、「中国軍、台湾周辺で予告なし演習 頼政権威圧へ常態化か」と題する記事を掲載した。

    中国人民解放軍が、予告や内容の説明なしに台湾周辺で演習を繰り返している。台湾側に準備時間を与えず、対立する頼清徳(ライ・チンドォー)政権を威圧するためだ。演習の事実を曖昧にする動きが常態化しつつあるとの見方もある。

    (3)「台湾の国防部(国防省)は17〜18日、中国の軍用機が台湾周辺で活動し、軍艦と合同で「戦備警戒パトロール」を実施したと発表した。軍用機の多くが台湾海峡の暗黙の「休戦ライン」である中間線を越え、台湾の防空識別圏に進入した。中国外務省の毛寧報道局長は17日の記者会見で軍事演習は「国家の主権を守るため必要だ」と述べ、実施したことを認めた。一方、中国軍で台湾方面を管轄する東部戦区は18日時点で演習の事実関係を公表していない」

    中国経済は、混乱の坩堝にあるのに台湾で侵攻作戦準備の演習を行っている。「短期決戦」で済むはずがなく、中国自身が「大火傷」を負う危険性を忘れているのだ。


    (4)「台湾周辺での2024年12月の軍事行動も同様だ。中国は浙江省や福建省の東の沖に訓練用の「留保空域」を設定し、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」に艦船90隻超を展開したものの、演習したかどうかを説明しなかった。実弾を使った射撃訓練も予告しない。台湾国防部は25年2月、中国が事前通告をしないまま台湾南部・高雄の屏東沖に演習区域を設け、射撃訓練をすると発表したとして非難した。中国国防省の呉謙報道官は24年12月の記者会見で「(台湾周辺で)演習をするかどうかや、いつするかは必要性などに基づいて我々が自主的に決める」と説明した」

    中国は、台湾を脅かす軍事演習を重ねれば重ねるほど、警戒されることに気付かないのだ。何とも言えない「発想の貧困」を感じるほかない。

    (5)「日本の安全保障当局者は、「演習開始の時期や期間、内容を曖昧にすることで台湾側の不安をあおる狙いだろう」と分析する。「こうした形の演習が今後のトレンドになる可能性がある」とみる。北京の外交筋は「演習自体をうやむやにすれば他国が中国を批判しづらくなる」と指摘する。日米首脳が2月にまとめた共同声明は台湾海峡の安定の重要性を記し、中国を念頭に「力または威圧によるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対」すると表明した」

    中国は、演習という既成事実を積み重ねて行き、「本番」(侵攻作戦)を敢行する積もりだろうか。あるいは、トランプ政権の関税による混乱に乗じて事を起こそうとしているのか。「孫氏の兵法」通りの動きかも知れない。


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    半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、欧州初となる工場をドイツに建設する方向で最終調整に入っている模様だ。ドイツのシュタルクワツィンガー教育・研究相が21日、台湾を訪問した。

     

    すでにこの1月、ショルツ連立政権の一角である自由民主党(FDP)の議員団が訪台している。FDP所属のシュタルクワツィンガー氏は、台湾の国家科学及び技術委員会の呉政忠主任委員と臨んだ技術協力協定調印式で、「同じ考えを持つパートナーとの協力を促進することは、私の省と私にとって非常に重要だ」と述べている。

     

    ドイツのショルツ政権は最近、日本政府と「合同会議」を開催して、「脱中国」政策を模索している。TSMCが、ドイツを欧州最初の工場立地として選ぼうとしている背景には、ドイツの「脱中国」政策との関連性があろう。

     

    『ロイター』(3月21日付)は、「ドイツ教育相が訪台、『尊敬するパートナー』と賞賛 中国は抗議」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ドイツのシュタルクワツィンガー教育・研究相が21日、台湾を訪問した。「尊敬するパートナー」である台湾を訪問できたことを光栄に思うと述べる一方、自身の訪問はドイツ政府の中国戦略とは無関係とも強調した。中国は同氏の訪台を「卑劣な行為」と呼び、独政府に抗議した。中国は台湾を自国の領土とみなし、軍事的、政治的、経済的圧力を強めている。ドイツ政府は現在、これまで緊密だった中国との関係を見直している」

     

    ドイツの教育・研究相が訪台したことは、通常ではごく稀なケースであろう。わざわざ、教育・研究相が訪台したのは、TSMCの工場建設や技術の保護などの打合せと見られる。

     

    (2)「北京では、中国外務省報道官が、シュタルクワツィンガー氏の「卑劣な行為」についてドイツ政府に強い抗議を行ったと述べた。記者会見で、ドイツは「台湾独立分離主義勢力との付き合いや交流、台湾独立分離主義勢力に誤ったシグナルを送ることを直ちにやめよ。台湾問題を利用して中国の内政に干渉することも、直ちにやめるべきだ」とした」

     

    中国は、ドイツを初めとして外交関係を結んでいる国が、台湾訪問することに極めて警戒的姿勢を見せている。「一つの中国」という原則に反するという理由だ。だが、台湾にも主権がある。国民を統治しているからだ。中国は、こういう現実を無視した主張を繰り広げている。ドイツのTSMCによる半導体工場建設問題は、どのようになっているのか。

     

    『日本経済新聞』(22年12月23日付け)は、「台湾TSMC、欧州初の半導体工場 ドイツに建設検討」と題する記事を掲載した。

     

    半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、欧州初となる工場をドイツに建設する方向で最終調整に入ったことが、12月23日分かった。年明けに経営幹部が現地入りし、地元政府による支援内容などについて最終協議する。早ければ2024年に工場建設を始める。投資額は数十億ドルに達する見通しだ。

     

    (3)「計画は、複数のサプライヤーの経営幹部が明らかにした。ドイツ東部のザクセン州ドレスデン市に工場を建設する予定だという。TSMCの広報担当者は日本経済新聞の取材に対し、「(工場建設について)いかなる可能性も排除しない」と述べた。工場建設が正式に決まれば、欧州連合(EU)にとって大きな追い風となる。欧州は、これまで半導体の多くを台湾などアジアから調達してきた。危機感を持つ欧州は域内での半導体生産の拡大に向け、「欧州半導体法」で官民が30年までに430億ユーロ(約6兆円)を投じる計画などを持つ。TSMCが予定する生産品目は、主にスマートフォンなどに搭載される「先端品」ではなく、「成熟品」といわれる「22~28ナノ品」になる見通し。自動車や家電製品などへの採用が想定される」

     

    ドイツのドレスデン市が、工場建設候補地という。生産品種は、中級品の「22~28ナノ品」でスマホなどに搭載されるという。

     

    (4)「関係者によると、TSMCは21年、顧客から欧州進出の要請を受けたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて検討を中止した。その後、欧州の大手自動車メーカーの間で、現地での半導体製造への需要が高まり、改めて工場建設を検討することになったという。あるサプライヤーの経営幹部は、新工場建設について「我々は顧客(TSMC)をサポートしたい」とした上で、「(実現には補助金などの)公的支援が必要になる」との見方を示した。欧州への進出にあたっては、人材の確保も課題となりそうだ。TSMCは米アリゾナ州に先端品の新工場を建設中で、数百人規模の技術者を派遣している。日本の熊本県にも500~600人の技術者を派遣する必要があるという」

     

    TSMCは、熊本で第二工場建設計画を発表している。これとの兼ね合いもあり、ドイツ工場建設計画は未だ発表されていない。中国にとっては、正式発表を受けてショックとなろう。

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    米空軍で輸送や給油を担当するマイク・ミニハン司令官が内部メモで、2025年に台湾有事が起こると予測、準備を急ぐよう指示したことが1月27日に分かった。こうした、台湾侵攻を巡る情報が飛び交う中で、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は冷静に対応。台湾での先端半導体設備投資を積極化させているのだ。この冷静な対応姿勢の裏には、どのような経営哲学があるのか。 

    英誌『エコノミスト』(1月21日付)は、「TSMCの周到な長期戦略」と題する記事を掲載した。 

    半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手で、時価総額4300億ドル(約55兆円)を誇る台湾積体電路製造(TSMC)は、世界で最も危険な地政学的火種を抱える国や地域をまたにかけて事業を展開している。そうした大変な状況にもかかわらず、冷静さを失うことがない同社には好感さえ覚える。

     

    (1)「TSMCが誇る比類なき先端半導体の製造能力は、米国と中国双方の垂涎の的だ。同社による半導体の供給量は、米国向けが中国向けを大きく上回るが、米中のいずれかが経済的圧力か軍事力によってその独立性を完全に奪えば、世界に与えるその影響は甚大なものになるだろう。同社の工場の多くは台湾西岸にあるため、中国が台湾海峡を経て侵略してくる危険に常にさらされている。だが同社がうろたえることはない。「もし戦争が勃発したら半導体のことを心配していればいいなどという事態ではなくなる」と91歳のTSMC創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏は2022年、ある音声番組ポッドキャストでこう述べた。彼の後継者で同社董事長の劉徳音(マーク・リュウ)氏は、誰にとっても平和が一番だと強調する」 

    中国は、TSMCから半導体供給を受けなければ、自動車などの産業がストップするほどの高い依存度である。中国が、そのTSMCのある台湾へ軍事侵攻するか、という「信念」を持っているのだ。 

    (2)「TSMCは、米国からのラブコールに応じて米陣営(注:米国での工場建設)に加わったかにみえる。バイデン米大統領は昨年12月、同社が米国アリゾナ州フェニックスに建設中の巨大な半導体製造工場の前に立ち、同社が総額400億ドルを投資すると発表したことに歓迎の意を表した。ただ、同社をよくみると地政学的にやっかいな事態にどう対処すべきか教訓を与えてくれる。TSMCは一部の見方とは異なり、米中新冷戦によって台湾との決別を強いられているわけではない。同社の台湾の工場は、今も世界で使われる最先端半導体の75%以上を生産している」 

    TSMCが、米国へ工場進出したのは外交的な意味もある。米国民へ台湾の存在を深く認識させて、中国の台湾侵攻の際は防衛に立ち上がるような期待感を持っているであろう。

     

    (3)「同社は、ビジネスの利益を最優先するために極めて高度な外交も展開しているのだ。米国以外でもソニーグループのために日本で初の半導体工場を建設する。こうした動きは生産拠点を顧客企業近くに移す戦略のようにみえるが、台湾に住む人からはTSMCが台湾を見捨てるのではないかとの疑念を招く。米調査会社ニュー・ストリート・リサーチのアナリスト、ピエール・フェラグ氏は、「まったくの見当違いだ」と反論する。TSMCはアリゾナとほぼ同時期に台湾でも新工場の建設を進めており、しかもそれらの生産能力はアリゾナで建設中の2つの新工場の4倍に達するうえ、より先端の半導体を生産することになるからだ」 

    TSMCが、日本へ工場を建設するだけでなく、筑波へ研究所も開設した。オールジャパン(政府・産業界・学界)の参加を得た半導体研究所である。TSMCは、さらに日本でも二番目の工場建設計画を示唆しているほど。これも、日本に対して台湾防衛での協力を求めるという意味合いがあろう。TSMCが、米国へ工場進出している背景と同様なものがあっても不自然ではないのだ。

     

    (4)「米国への大規模投資は、急な戦略転換をしたというより長期的な保険という意味合いが強い。米国に生産拠点を持つことで、人材と各種サプライヤーを確保するという難しい課題に着手することが可能になる。これで「中国が台湾爆撃という信じがたい行動に出た場合」に備えた拠点拡大への準備になる。ただ、当面は研究開発の大部分と生産能力の少なくとも8割は台湾にとどまることになりそうだ」 

    TSMCが、米国で大規模投資をするのは長期的なリスク分散を図る意味もある。仮に、中国が台湾侵攻すれば、半導体生産機能も止る事態になる。TSMCの世界供給責任を果たすためにも、米国進出は不可欠である。人材確保という面もあるのだ。

     

    (5)「ある意味、TSMCはバイデン政権にうまく取り入っている。アリゾナ工場は米国の半導体安全保障問題を解決できないかもしれない。少なくとも、バイデン氏が重視する製造業の良質な雇用(組合はつくらないなど)をある程度提供することにはなるからだ。つまり同社は自社の将来にとり長期的に保険となる体制を築きつつあるのだ。同社は最先端の半導体は一層複雑になり、生産コストは上昇していくし、世界経済のデジタル化が進むほどその利用は増えていくとみている。そうなればTSMCはいずれ、人口が減少している台湾では対応しきれなくなるかもしれない。その場合、米国を筆頭に世界の優秀な頭脳を集めることが死活問題となる」 

    TSMCは、長期的な視点から米国への進出を行なっている。一つは自社のために、もう一つは、米国による台湾防衛への協力要請である。

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