勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、欧州初となる工場をドイツに建設する方向で最終調整に入っている模様だ。ドイツのシュタルクワツィンガー教育・研究相が21日、台湾を訪問した。

     

    すでにこの1月、ショルツ連立政権の一角である自由民主党(FDP)の議員団が訪台している。FDP所属のシュタルクワツィンガー氏は、台湾の国家科学及び技術委員会の呉政忠主任委員と臨んだ技術協力協定調印式で、「同じ考えを持つパートナーとの協力を促進することは、私の省と私にとって非常に重要だ」と述べている。

     

    ドイツのショルツ政権は最近、日本政府と「合同会議」を開催して、「脱中国」政策を模索している。TSMCが、ドイツを欧州最初の工場立地として選ぼうとしている背景には、ドイツの「脱中国」政策との関連性があろう。

     

    『ロイター』(3月21日付)は、「ドイツ教育相が訪台、『尊敬するパートナー』と賞賛 中国は抗議」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「ドイツのシュタルクワツィンガー教育・研究相が21日、台湾を訪問した。「尊敬するパートナー」である台湾を訪問できたことを光栄に思うと述べる一方、自身の訪問はドイツ政府の中国戦略とは無関係とも強調した。中国は同氏の訪台を「卑劣な行為」と呼び、独政府に抗議した。中国は台湾を自国の領土とみなし、軍事的、政治的、経済的圧力を強めている。ドイツ政府は現在、これまで緊密だった中国との関係を見直している」

     

    ドイツの教育・研究相が訪台したことは、通常ではごく稀なケースであろう。わざわざ、教育・研究相が訪台したのは、TSMCの工場建設や技術の保護などの打合せと見られる。

     

    (2)「北京では、中国外務省報道官が、シュタルクワツィンガー氏の「卑劣な行為」についてドイツ政府に強い抗議を行ったと述べた。記者会見で、ドイツは「台湾独立分離主義勢力との付き合いや交流、台湾独立分離主義勢力に誤ったシグナルを送ることを直ちにやめよ。台湾問題を利用して中国の内政に干渉することも、直ちにやめるべきだ」とした」

     

    中国は、ドイツを初めとして外交関係を結んでいる国が、台湾訪問することに極めて警戒的姿勢を見せている。「一つの中国」という原則に反するという理由だ。だが、台湾にも主権がある。国民を統治しているからだ。中国は、こういう現実を無視した主張を繰り広げている。ドイツのTSMCによる半導体工場建設問題は、どのようになっているのか。

     

    『日本経済新聞』(22年12月23日付け)は、「台湾TSMC、欧州初の半導体工場 ドイツに建設検討」と題する記事を掲載した。

     

    半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が、欧州初となる工場をドイツに建設する方向で最終調整に入ったことが、12月23日分かった。年明けに経営幹部が現地入りし、地元政府による支援内容などについて最終協議する。早ければ2024年に工場建設を始める。投資額は数十億ドルに達する見通しだ。

     

    (3)「計画は、複数のサプライヤーの経営幹部が明らかにした。ドイツ東部のザクセン州ドレスデン市に工場を建設する予定だという。TSMCの広報担当者は日本経済新聞の取材に対し、「(工場建設について)いかなる可能性も排除しない」と述べた。工場建設が正式に決まれば、欧州連合(EU)にとって大きな追い風となる。欧州は、これまで半導体の多くを台湾などアジアから調達してきた。危機感を持つ欧州は域内での半導体生産の拡大に向け、「欧州半導体法」で官民が30年までに430億ユーロ(約6兆円)を投じる計画などを持つ。TSMCが予定する生産品目は、主にスマートフォンなどに搭載される「先端品」ではなく、「成熟品」といわれる「22~28ナノ品」になる見通し。自動車や家電製品などへの採用が想定される」

     

    ドイツのドレスデン市が、工場建設候補地という。生産品種は、中級品の「22~28ナノ品」でスマホなどに搭載されるという。

     

    (4)「関係者によると、TSMCは21年、顧客から欧州進出の要請を受けたが、ロシアのウクライナ侵攻を受けて検討を中止した。その後、欧州の大手自動車メーカーの間で、現地での半導体製造への需要が高まり、改めて工場建設を検討することになったという。あるサプライヤーの経営幹部は、新工場建設について「我々は顧客(TSMC)をサポートしたい」とした上で、「(実現には補助金などの)公的支援が必要になる」との見方を示した。欧州への進出にあたっては、人材の確保も課題となりそうだ。TSMCは米アリゾナ州に先端品の新工場を建設中で、数百人規模の技術者を派遣している。日本の熊本県にも500~600人の技術者を派遣する必要があるという」

     

    TSMCは、熊本で第二工場建設計画を発表している。これとの兼ね合いもあり、ドイツ工場建設計画は未だ発表されていない。中国にとっては、正式発表を受けてショックとなろう。

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    米空軍で輸送や給油を担当するマイク・ミニハン司令官が内部メモで、2025年に台湾有事が起こると予測、準備を急ぐよう指示したことが1月27日に分かった。こうした、台湾侵攻を巡る情報が飛び交う中で、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)は冷静に対応。台湾での先端半導体設備投資を積極化させているのだ。この冷静な対応姿勢の裏には、どのような経営哲学があるのか。 

    英誌『エコノミスト』(1月21日付)は、「TSMCの周到な長期戦略」と題する記事を掲載した。 

    半導体受託製造(ファウンドリー)世界最大手で、時価総額4300億ドル(約55兆円)を誇る台湾積体電路製造(TSMC)は、世界で最も危険な地政学的火種を抱える国や地域をまたにかけて事業を展開している。そうした大変な状況にもかかわらず、冷静さを失うことがない同社には好感さえ覚える。

     

    (1)「TSMCが誇る比類なき先端半導体の製造能力は、米国と中国双方の垂涎の的だ。同社による半導体の供給量は、米国向けが中国向けを大きく上回るが、米中のいずれかが経済的圧力か軍事力によってその独立性を完全に奪えば、世界に与えるその影響は甚大なものになるだろう。同社の工場の多くは台湾西岸にあるため、中国が台湾海峡を経て侵略してくる危険に常にさらされている。だが同社がうろたえることはない。「もし戦争が勃発したら半導体のことを心配していればいいなどという事態ではなくなる」と91歳のTSMC創業者、張忠謀(モリス・チャン)氏は2022年、ある音声番組ポッドキャストでこう述べた。彼の後継者で同社董事長の劉徳音(マーク・リュウ)氏は、誰にとっても平和が一番だと強調する」 

    中国は、TSMCから半導体供給を受けなければ、自動車などの産業がストップするほどの高い依存度である。中国が、そのTSMCのある台湾へ軍事侵攻するか、という「信念」を持っているのだ。 

    (2)「TSMCは、米国からのラブコールに応じて米陣営(注:米国での工場建設)に加わったかにみえる。バイデン米大統領は昨年12月、同社が米国アリゾナ州フェニックスに建設中の巨大な半導体製造工場の前に立ち、同社が総額400億ドルを投資すると発表したことに歓迎の意を表した。ただ、同社をよくみると地政学的にやっかいな事態にどう対処すべきか教訓を与えてくれる。TSMCは一部の見方とは異なり、米中新冷戦によって台湾との決別を強いられているわけではない。同社の台湾の工場は、今も世界で使われる最先端半導体の75%以上を生産している」 

    TSMCが、米国へ工場進出したのは外交的な意味もある。米国民へ台湾の存在を深く認識させて、中国の台湾侵攻の際は防衛に立ち上がるような期待感を持っているであろう。

     

    (3)「同社は、ビジネスの利益を最優先するために極めて高度な外交も展開しているのだ。米国以外でもソニーグループのために日本で初の半導体工場を建設する。こうした動きは生産拠点を顧客企業近くに移す戦略のようにみえるが、台湾に住む人からはTSMCが台湾を見捨てるのではないかとの疑念を招く。米調査会社ニュー・ストリート・リサーチのアナリスト、ピエール・フェラグ氏は、「まったくの見当違いだ」と反論する。TSMCはアリゾナとほぼ同時期に台湾でも新工場の建設を進めており、しかもそれらの生産能力はアリゾナで建設中の2つの新工場の4倍に達するうえ、より先端の半導体を生産することになるからだ」 

    TSMCが、日本へ工場を建設するだけでなく、筑波へ研究所も開設した。オールジャパン(政府・産業界・学界)の参加を得た半導体研究所である。TSMCは、さらに日本でも二番目の工場建設計画を示唆しているほど。これも、日本に対して台湾防衛での協力を求めるという意味合いがあろう。TSMCが、米国へ工場進出している背景と同様なものがあっても不自然ではないのだ。

     

    (4)「米国への大規模投資は、急な戦略転換をしたというより長期的な保険という意味合いが強い。米国に生産拠点を持つことで、人材と各種サプライヤーを確保するという難しい課題に着手することが可能になる。これで「中国が台湾爆撃という信じがたい行動に出た場合」に備えた拠点拡大への準備になる。ただ、当面は研究開発の大部分と生産能力の少なくとも8割は台湾にとどまることになりそうだ」 

    TSMCが、米国で大規模投資をするのは長期的なリスク分散を図る意味もある。仮に、中国が台湾侵攻すれば、半導体生産機能も止る事態になる。TSMCの世界供給責任を果たすためにも、米国進出は不可欠である。人材確保という面もあるのだ。

     

    (5)「ある意味、TSMCはバイデン政権にうまく取り入っている。アリゾナ工場は米国の半導体安全保障問題を解決できないかもしれない。少なくとも、バイデン氏が重視する製造業の良質な雇用(組合はつくらないなど)をある程度提供することにはなるからだ。つまり同社は自社の将来にとり長期的に保険となる体制を築きつつあるのだ。同社は最先端の半導体は一層複雑になり、生産コストは上昇していくし、世界経済のデジタル化が進むほどその利用は増えていくとみている。そうなればTSMCはいずれ、人口が減少している台湾では対応しきれなくなるかもしれない。その場合、米国を筆頭に世界の優秀な頭脳を集めることが死活問題となる」 

    TSMCは、長期的な視点から米国への進出を行なっている。一つは自社のために、もう一つは、米国による台湾防衛への協力要請である。

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