初の開催となった11日の日米比首脳会談では、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。中国は、東シナ海や南シナ海での海洋進出に拍車をかけ、経済的な威圧も強めている、日米比三カ国は、結束してこれを抑止しようとするものだ。
昨年11月、岸田首相はフィリピンのマルコス大統領と会談した。日本政府による装備品提供などの新たな枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」や、自衛隊とフィリピン軍の相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」など安全保障分野での連携が中心テーマとなった。こうして日比両国は、すでに安全保障で固く結び合っている。
『毎日新聞』(4月12日付)は、「日米比首脳会談、バイデン政権が熱望『格子状の同盟』で中国に対抗」と題する記事を掲載した。
初の開催となった11日の日米比首脳会談は、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。
(1)「バイデン米大統領は11日の会談冒頭で、「フィリピンの航空機、艦船、軍が南シナ海で攻撃されれば、相互防衛条約(の防衛義務)を発動する」と、フィリピンが実効支配する南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)で威圧を強める中国に警告した。左右に座る日比首脳に視線を送りながら「米国の防衛義務は強固だ」とも強調した。
中国は、フィリピン船へ放水するなど、嫌がらせを続けている。米国が、こういう形で中国へ警告すれば、少しは自粛するであろう。フィリピンは、米国の強い後ろ盾を得て安堵しているに違いない。
(2)「今回の会談は、米国の強い意向で実現した。本来なら国賓待遇の首脳の訪問中に他国の首脳を招くことはない。米国は、2022年に発足したマルコス比政権がドゥテルテ前政権の中国寄りの姿勢を一転させ、米比の安保協力を進めたことを評価。11月の大統領選が近づくと外交に割ける余力が減ることから、岸田首相の訪米に合わせた「歴史的な3カ国首脳会談」(バイデン氏)にこぎ着けた」
フィリピンは、岸田首相が国賓で招待されている中で、あえて三カ国首脳会談へ臨んだのは、それなりの決意を秘めている結果であろう。体裁に拘らず、日本との関係強化を選んだに違いない。メンツよりも国益選択である。
(3)「バイデン政権は、米国を中心に同盟国がつながる「ハブ・アンド・スポーク」の2国間型の同盟関係から、同盟国同士が関係を強化してネットワーク化する「格子状」の同盟関係に進化させようとしている。会談直前の7日には「海上協同活動(MCA)」と称し、南シナ海で自衛隊と米、比、オーストラリア海軍による共同訓練を実施。中国の威圧に対抗するために米比が23年に再開した合同パトロールの拡大版となった。南シナ海で中国の攻撃的な行動が強まる中、フィリピンは日豪などとそれぞれ安保協力を強化してきた。近年はより大きな枠組みに昇華すべきだとの声が出ており、シンクタンク「ストラトベースADR研究所」のビクター・マンヒット代表は「バイデン政権の『格子状』の同盟関係は、比側が求める未来図とも一致した」と説明する」
フィリピンは、中国に裏切られた関係にある。中国から甘くみられたのだ。それだけに、多国間との協定を縦横無尽に結んで、フィリピンの安全保障を維持する戦術に転じている。中国は、周辺国がこのように「格子状」で重層的な安保体制を取っていることをどのように捉えているのか。寡聞にして聞かないのだ。
(4)「フィリピンでは、中国との経済関係が弱まるとの見方が強まっている。このため、マルコス氏は今回の会談について「経済安全保障の促進にとっても重要だ」と強調し、インフラなど安保以外の分野での連携も確認した。首脳会談で合意したフィリピンの首都マニラの南北を結ぶ「ルソン経済回廊」の整備は、米軍撤退(1992年)前に基地があったスービックやクラークをつなぐインフラの建設が目玉だ。マルコス政権は、スービックとクラークを結ぶ鉄道建設で中国の支援を断った経緯があり、日米が中国の「穴」を埋めることで存在感を高める狙いもあるとみられる」
フィリピンは、安保体制の強化だけでなく、経済面での日米比の関係強化を求めている。フィリピンの「ルソン経済回廊」の整備で日米が協力する。また、その見返りにフィリピンからニッケルの提供を受ける。EV(電気自動車)生産には、不可欠なレアメタルである。
(5)「電気自動車の電池に欠かせない希少金属のニッケルについても、インドネシアに次ぐ世界2位の生産国であるフィリピンをつなぐサプライチェーン(供給網)を構築する。中国が東南アジアでニッケル獲得の動きを強める中、3ヶ国の連携で安定供給の強化を図る考えだ」
フィリピンが、世界2位のニッケル埋蔵量であることは強みである。これは、日米比をつなぐ貴重な素材だ。