勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: フィリピン経済ニュース時評

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    中国軍は、南シナ海でフィリピン所有の島嶼へ攻撃をかけるなど、日常的な衝突が起こっている。こうした事態のさらなる悪化を防ぐべく、米国からミサイル(迎撃・巡航)を調達する計画を明らかにした。米国は、トランプ政権に代わって同盟国へ「自衛強化」を要求している。フィリピンも、これに応じる必要が出てきたもの。

    『日本経済新聞 電子版』(2月3日付)は、「比軍、中距離ミサイル配備へ米と交渉 防衛力強化を継続」と題する記事を掲載した。

    フィリピン軍は、米国から中距離ミサイルシステムを調達する計画だ。南シナ海や台湾周辺で威嚇を繰り返す中国を念頭に抑止力を高める。バイデン前政権と深めた安全保障分野の協力をトランプ米大統領とも継続する姿勢を示す狙いがある。

    (1)「フィリピンのマナロ外相は1月、「ミサイルシステムの配備を検討している。重要なのは純粋にフィリピンの安全保障と防衛のためだということだ」と、日本経済新聞のインタビューでこう述べた。米軍からミサイルシステムを調達するのは「軍の装備の現代化と防衛力の強化に向けた取り組みの一環だ」と説明した。「フィリピンに限らず地域のすべての国が経済分野を含めて同じアプローチを取っている」と語った」

    フィリピンは、純粋な防衛の観点からミサイルシステムを配備する。中国への抑止力だ。

    (2)「比軍が導入を検討しているのは、地上配備型のミサイル発射装置「タイフォン」だ。陸軍のガリド司令官は、2024年12月下旬に取得計画を明らかにした。南シナ海の排他的経済水域(EEZ)内の離島防衛に貢献するためだと強調した。陸軍報道官によると、2月中に米軍と共同でタイフォンの新たな訓練に取り組む。タイフォンは迎撃ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できる。24年4月に米軍が比軍との合同軍事演習のために一時的にフィリピン国内に持ち込んだ。演習が終わった後も「軍の習熟訓練のため」と説明し、撤去していない経緯がある」

    比軍が導入を検討しているのは、地上配備型のミサイル発射装置「タイフォン」である。タイフォンは、迎撃ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」を搭載できる。

    (3)「ロイター通信などの報道によると、タイフォンはルソン島北部で南シナ海に面するラワグの空港に配備された。台湾の南端まで、およそ400キロに位置する。トマホークを搭載すれば射程は最長1600キロにおよび、中国本土にも届くとの見方がある。比軍は今年に入り、別の場所に移送したと明らかにした」

    トマホークを搭載すれば、射程は最長1600キロにおよび、中国本土にも届くとの見方も。中国にとっては、「火遊び」程度の意識で行っても、北京まで累が及ぶ危険性が出てきた。これぞ、抑止力の典型であろう。

    (4)「フィリピンのマルコス大統領は、南シナ海での中国の威圧に対応するため、米国のバイデン前大統領と安保協力を深めた。米軍が使用できる国内拠点を増やし、米側も比軍の装備の更新を後押しした。バイデン氏は南シナ海への「米国の関与は鉄壁だ」と繰り返し、フィリピンへの防衛義務を果たすと説明してきた。比側は、トランプ政権とも米国との防衛分野での協力を続け、東南アジアへの関心が薄れないよう働きかける。米側にも経済、安保の両面で利益のあるミサイルシステムの配備は交渉材料の一つになる」

    トランプ大統領は、名うての「ディール」(取引)名人である。フィリピンが、タイフォン購入意思を示せば、それなりの評価をせざるを得まい。

    (5)「中国は、フィリピンのミサイル配備に反発している。中国外務省は「地域の平和に実質的な脅威を与えている」と非難し、速やかな撤去を求めた。南シナ海に限らず台湾有事があれば米国の介入を受ける可能性があると警戒しているとみられる。マルコス氏は1月30日、中国の反発について記者団に問われ「コメントが理解できない。彼らは我々の千倍強力なミサイルシステムを持っている」と指摘した。「中国が領土の主張をやめ、攻撃的で威圧的な態度をやめれば、フィリピンはミサイルシステムを(米国に)返還する」と言明した」

    中国は、相手国に「丸腰」を要求する。それに応じるような、「お人好し」の国は存在しない。

    (6)「南シナ海での中国による威圧的な行動は、25年に入ってからも強まっている。全長165メートルで「モンスター船」とよばれる中国海警局の最大級の巡視船がスカボロー礁周辺を航行し、EEZ内への侵入を繰り返した。フィリピン沿岸警備隊が退去を求めると、海軍のヘリコプターが挑発する場面もあった。トランプ氏が大統領に復帰したいま、中国がトランプ政権の出方を探るため挑発行為をエスカレートさせるのではないかとの懸念がくすぶる。フィリピン政府は、「中国の行動は国際法を無視している」と指摘し、国際世論を喚起する戦略をとる。同じ領有権の問題を抱える東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国との協力を重視する。1月にマレーシアで開いた今年最初のASEANの非公式外相会合で、フィリピンは「中国の動きに深刻な懸念を持っている」と訴えた」

    フィリピンは、ASEANを巻き込んで中国へ共同歩調を取るように訴えている。ここら当たりに、自衛パターンがみられる。

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    初の開催となった11日の日米比首脳会談では、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。中国は、東シナ海や南シナ海での海洋進出に拍車をかけ、経済的な威圧も強めている、日米比三カ国は、結束してこれを抑止しようとするものだ。

     

    昨年11月、岸田首相はフィリピンのマルコス大統領と会談した。日本政府による装備品提供などの新たな枠組み「政府安全保障能力強化支援(OSA)」や、自衛隊とフィリピン軍の相互往来をスムーズにする「円滑化協定(RAA)」など安全保障分野での連携が中心テーマとなった。こうして日比両国は、すでに安全保障で固く結び合っている。

     

    『毎日新聞』(4月12日付)は、「日米比首脳会談、バイデン政権が熱望『格子状の同盟』で中国に対抗」と題する記事を掲載した。

     

    初の開催となった11日の日米比首脳会談は、海洋安全保障や経済面での協力が前面に打ち出された。

     

    (1)「バイデン米大統領は11日の会談冒頭で、「フィリピンの航空機、艦船、軍が南シナ海で攻撃されれば、相互防衛条約(の防衛義務)を発動する」と、フィリピンが実効支配する南シナ海のアユンギン礁(英語名セカンドトーマス礁)で威圧を強める中国に警告した。左右に座る日比首脳に視線を送りながら「米国の防衛義務は強固だ」とも強調した。

     

    中国は、フィリピン船へ放水するなど、嫌がらせを続けている。米国が、こういう形で中国へ警告すれば、少しは自粛するであろう。フィリピンは、米国の強い後ろ盾を得て安堵しているに違いない。

     

    (2)「今回の会談は、米国の強い意向で実現した。本来なら国賓待遇の首脳の訪問中に他国の首脳を招くことはない。米国は、2022年に発足したマルコス比政権がドゥテルテ前政権の中国寄りの姿勢を一転させ、米比の安保協力を進めたことを評価。11月の大統領選が近づくと外交に割ける余力が減ることから、岸田首相の訪米に合わせた「歴史的な3カ国首脳会談」(バイデン氏)にこぎ着けた」

     

    フィリピンは、岸田首相が国賓で招待されている中で、あえて三カ国首脳会談へ臨んだのは、それなりの決意を秘めている結果であろう。体裁に拘らず、日本との関係強化を選んだに違いない。メンツよりも国益選択である。

     

    (3)「バイデン政権は、米国を中心に同盟国がつながる「ハブ・アンド・スポーク」の2国間型の同盟関係から、同盟国同士が関係を強化してネットワーク化する「格子状」の同盟関係に進化させようとしている。会談直前の7日には「海上協同活動(MCA)」と称し、南シナ海で自衛隊と米、比、オーストラリア海軍による共同訓練を実施。中国の威圧に対抗するために米比が23年に再開した合同パトロールの拡大版となった。南シナ海で中国の攻撃的な行動が強まる中、フィリピンは日豪などとそれぞれ安保協力を強化してきた。近年はより大きな枠組みに昇華すべきだとの声が出ており、シンクタンク「ストラトベースADR研究所」のビクター・マンヒット代表は「バイデン政権の『格子状』の同盟関係は、比側が求める未来図とも一致した」と説明する」

     

    フィリピンは、中国に裏切られた関係にある。中国から甘くみられたのだ。それだけに、多国間との協定を縦横無尽に結んで、フィリピンの安全保障を維持する戦術に転じている。中国は、周辺国がこのように「格子状」で重層的な安保体制を取っていることをどのように捉えているのか。寡聞にして聞かないのだ。

     

    (4)「フィリピンでは、中国との経済関係が弱まるとの見方が強まっている。このため、マルコス氏は今回の会談について「経済安全保障の促進にとっても重要だ」と強調し、インフラなど安保以外の分野での連携も確認した。首脳会談で合意したフィリピンの首都マニラの南北を結ぶ「ルソン経済回廊」の整備は、米軍撤退(1992年)前に基地があったスービックやクラークをつなぐインフラの建設が目玉だ。マルコス政権は、スービックとクラークを結ぶ鉄道建設で中国の支援を断った経緯があり、日米が中国の「穴」を埋めることで存在感を高める狙いもあるとみられる」

     

    フィリピンは、安保体制の強化だけでなく、経済面での日米比の関係強化を求めている。フィリピンの「ルソン経済回廊」の整備で日米が協力する。また、その見返りにフィリピンからニッケルの提供を受ける。EV(電気自動車)生産には、不可欠なレアメタルである。

     

    (5)「電気自動車の電池に欠かせない希少金属のニッケルについても、インドネシアに次ぐ世界2位の生産国であるフィリピンをつなぐサプライチェーン(供給網)を構築する。中国が東南アジアでニッケル獲得の動きを強める中、3ヶ国の連携で安定供給の強化を図る考えだ」

     

    フィリピンが、世界2位のニッケル埋蔵量であることは強みである。これは、日米比をつなぐ貴重な素材だ。

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    このところ、中国外交は失点続きである。過去3年にわたって、新型コロナの「震源地」隠しで戦狼外交に力を入れてきたが、各国から完全にソッポを向かれる事態を迎えている。 

    フィリピンが、米軍に対して新たに4箇所の軍事拠点を提供する。現有の5基地に加え9箇所もの足場を築く。これは、台湾有事の際に武器弾薬の貯蔵施設を置けるので大きな戦力になる。また、欧州ではチェコの次期大統領が、「反中姿勢」を明確に打ち出し、台湾への接近意思を明確にしている。中国には、「難儀」続きである。 

    中国と国境紛争で対立するインドは、米国と協力して先端兵器の開発を行なうほか、半導体、次世代移動通信、月探査などの宇宙協力も強化する方針だ。こうなると、中国は米印の強力な「反中連合」が隣国に生まれることになる。インドは、「クアッド」(日米豪印)に参加しているが、これまで「お客さん」扱いであった。だが、今回の米印の関係強化で、名実共に「クアッド」の一員になるであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(2月3日付)は、「米軍、フィリピン拠点倍増『両国防相が合意』 台湾有事の備え強化 日豪とも連携探る」と題する記事を掲載した。 

    米国とフィリピン両政府は2日、米軍がフィリピンで使える拠点を4カ所増やし計9カ所にすると発表した。台湾に近いフィリピン北部などが候補とされる。米国は台湾有事への即応態勢を強化しようとしており、日本やオーストラリアを交えた多国間連携も探る。 

    (1)「フィリピン憲法は海外の軍隊が駐留することを認めていないが、2014年に両国が結んだ防衛協力強化協定はフィリピンの軍事拠点5カ所について米軍の「巡回駐留」を認めた。米軍はフィリピン軍と共同訓練を実施したり、弾薬や燃料を備蓄したりできる。新たに加える4カ所の具体的な場所については明言を避けた。拠点がある地方自治体と協議する必要があるという」 

    米軍は、すでにフィリピンで5箇所の基地を設置している。今回の取り決めでさらに4箇所の軍事拠点を設置することになった。武器弾薬の貯蔵施設になる。

     

    (2)「新たな拠点として想定されるのが、ルソン島北部や南シナ海に面する場所だ。ルソン島北部に拠点を置くことは台湾有事に備えることになる。過去に合同軍事演習を実施したルソン島北端から台湾最南端は約350キロメートルしか離れていない。フィリピンの軍事拠点が有事にも燃料補給などで活用できればインド太平洋地域における米国の作戦の柔軟性が増すことを意味する」 

    台湾有事へ備えた武器弾薬は、新たに設置する軍事拠点に備蓄できるメリット大きい。ルソン島北端から台湾最南端は、約350キロメートルの距離である。 

    英紙『フィナンシャル・タイムズ』(2月1日付)は、「チェコ次期大統領は対中国強硬派 『友好国でない』」と題する記事を掲載した。 

    チェコ次期大統領のペトル・パベル氏が、欧州連合(EU)諸国は中国へのいかなる幻想も捨てるべきだと呼びかけた。そのうえで、チェコは中国との利害の不一致から目を背けるような振る舞いを改めると表明した。

     

    (3)「元北大西洋条約機構(NATO)高官のパベル氏は、1月下旬の大統領選で、欧州と北米の協調を重視する大西洋主義的な政策やEUの深化などを提唱して、ポピュリスト(大衆迎合主義)の候補者を大差で破り、勝利した。選挙に勝利したパベル氏が最初に対応したことの一つは、同氏が中国への危うい誤解とみなす状況に立ち向かうことだった。中国政府がロシアによるウクライナ侵攻を非難しようとしないことで、それが明らかになったという。「明確にしなければならない。現在、中国とその体制は友好的な国ではない。中国の戦略的な目標や原則は、西側の民主主義とは相いれない」とパベル氏は、フィナンシャル・タイムズとのインタビューで語った。「これは、我々が認識しなければならない単純な事実だ」と指摘」 

    チェコの次期大統領パベル氏は、元NATO高官である。それだけに、中国がロシアのウクライナ侵攻を非難しないことから、中国を危険な存在と位置づけている。

     

    (4)「パベル氏は1月30日、中国による政治的報復の警告を無視して、台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統と電話で協議した。選挙で選ばれた欧州の国家元首が蔡氏と協議するのは初めてのことだ。パベル氏は、チェコにとって中国との関係よりも台湾との関係のほうが経済的な利益が大きいと述べ、「我々はこの現実から目をそむけることはしない」と断言した」 

    パベル氏は、チェコにとって中国との関係よりも台湾との関係のほうが経済的な利益が大きいと明確にしている。台湾の半導体への魅力を語っているのだろう。 

    (5)「パベル氏によると、蔡氏との電話協議は台湾側の要請によるものだった。しかし、いずれ蔡氏との会談も持ちたいと考えており、台湾との関係強化に意欲を示す。「現在の台湾は疑いもなく半導体のスーパーパワーだ」と述べた。チェコの下院議長が3月に台湾を訪問する予定になっており、パベル氏は同訪問で「両者の協力関係を拡大する新しい案」が出てくると期待していると語った」 

    チェコ下院議長が3月、台湾を訪問する予定である。この訪問で、チェコにとって具体的な成果が得られれば、パベル氏自身が訪台することになるのか。大統領を2期務めたゼマン氏は、チェコを「中国にとって欧州への玄関口」にする外交を推進してきた。しかし、中国がチェコへ約束した投資のほとんどが実現されなかった。こういう中国の「約束不履行」が、パベル氏を台湾へ接近させるのであろう。

     

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