勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: イラン経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    イラン議会は6月22日、ホルムズ海峡封鎖を承認した。実行には、国家安全保障最高評議会の決定が必要である。イランのプレスTVが22日伝えた。ホルムズ海峡は、世界の石油・ガス輸送の2割が行き交う大動脈だ。それだけに、世界の原油相場は一挙に暴騰する。一説では、1バレル100ドル突破説が囁かれている。米国は、こうした事態を放置するのか。それが焦点になる。

     

    米海軍は、ペルシャ湾周辺に第5艦隊を配備している。航行の自由を確保するため、過去にもイランによる妨害行為に対抗してきた。封鎖が実際に行われた場合、経済的および地政学的な影響を最小限に抑えるため、米国を含む関係国が、迅速な対応に動く可能性が強いとみるべきだろう。

     

    『ロイター』(6月22日付)は、「イラン核施設攻撃、 原油高騰の可能性 安全資産への資金逃避も」と題する記事を掲載した

     

    米国がイランの核施設を攻撃したことを受けて、週明けの世界市場ではまず原油価格が上昇し、安全資産への資金逃避が強まるとみられている。投資家は中東情勢の悪化が世界経済にどう波及するか見極める構えだ。

     

    (1)「投資家は、株式が売られドルなどの安全資産が買われる可能性が高いと予想した。ただ、紛争の行方には依然として多くの不確実性が残るとの指摘も出ている。トランプ米大統領は攻撃が「成功した」と述べたが、詳細はほとんど明らかにされていない。ポトマック・リバー・キャピタルのマーク・スピンデル最高投資責任者(CIO)は「市場は当初警戒感を示し、原油価格は上昇して始まるだろう」と予想した。同氏は、核施設の被害状況の調査は行われておらず、時間がかかるとの見方を示した。また、トランプ氏が作戦完了を宣言したにもかかわらず、米国はもはや戦闘に関与しており、今後どうなるかが問題だと指摘した」

     

    米国のイスラエル・イラン紛争介入によって、事態は新局面を迎えている。米国の介入効果を、どのように評価するかがポイントだ。重視すれば、事態は沈静化するだろう。そうでなければ、拡大するとみるであろう。

     

    (2)「さらに、「今や米国全土の人々が影響を受けることになるため、不確実性が市場を覆うだろう。特に原油市場で不確実性と変動性が高まる」との見方を示した。市場の主な懸念は中東情勢の展開が原油価格、さらにインフレに与える影響だ。インフレ率が上昇すれば消費者心理は冷え込み、短期的な利下げの可能性も低下する可能性がある。クレセット・キャピタルのジャック・アブリンCIOは、「これは新たな複雑なリスク要因となる。間違いなくエネルギー価格に影響を与える上、インフレにも波及する可能性がある」と述べた」

     

    トランプ大統領は、これまで原油相場の下落を望んできた。それが、逆の動きをするとなればどう反応するかだ。

     

    (3)「北海ブレント先物は10日以降最大18%上昇しており、19日には約5カ月ぶり高値の1バレル=79.04ドルを記録した。一方、イスラエルが13日にイラン攻撃を開始した際にS&P500種株価指数は一時下落したものの、その後は小動きとなっている。今回の米国の攻撃に先立ち公表されたオックスフォード・エコノミクスのメモによると、1)紛争の鎮静化、2)イランの石油生産の全面停止、3)ホルムズ海峡の封鎖――という3つのシナリオを想定していた。それぞれが原油価格に影響を及ぼすが、シナリオが進むごとに影響が大きくなると分析した」

     

    上記のケースのうち、2)と3)は最悪事態を想定したもの。この場合、イラン経済は破綻するので、現実化しないと言えそうだ。

     

    (4)「最も深刻なケースでは、世界の原油価格が1バレル=130ドルに急上昇し、年末までに米国のインフレ率が6%近くまで上昇すると予測した。「原油価格ショックは実質所得を圧迫し、必然的に消費者支出を冷え込ませるだろう。しかし、インフレ上昇やそれに続く2次的インフレの影響懸念から、年内の米利下げの可能性は完全になくなる公算が大きい」との見方を示した」

     

    1バレル=130ドルになれば、米国はインフレ再燃である。トランプ氏は、こういう事態を回避すべく、米海軍の力でリスクを防ぐであろう。

     

    (5)「ハリス・ファイナンシャル・グループのマネジングパートナー、ジェイミー・コックス氏は、攻撃発表後のコメントで、原油価格は一時的に急騰する可能性が高いとしながらも、米軍が力を見せつけイランの核開発能力が完全に失われたことにより、イランは交渉上の優位性を全て失ったと指摘。イランが和平交渉を模索する可能性が高いとして、原油価格は数日中に安定すると予想した。エコノミストらは、すでにトランプ大統領の関税政策で圧迫されている世界経済に原油価格の急騰がさらなる打撃を与える恐れがあると懸念している」

     

    米軍が軍事力を見せつけたので、イランの核開発能力が完全に失われと判断すれば、イランの交渉面における優位性を全て失ったであろう。この前提に立てば、事態は沈静化する。そうでなければ、米軍が再び軍事力を使うほかないであろう。

     

    (6)「ドルは今年に入って下落しているが、紛争の激化は複雑な影響をもたらす可能性がある。アナリストらは、米国によるイラン・イスラエル紛争への直接介入により、ドルは当初安全資産として買われる可能性があると指摘する。IBKRのチーフ市場ストラテジスト、スティーブ・ソスニック氏は、安全資産への逃避が見られれば、米国債利回りは低下しドルは上昇することになるだろうと述べた。「株価がマイナスに反応しないのは想像し難いが、問題はどの程度マイナスに反応するかだ。それはイランの反応と原油価格が急騰するかどうかにかかっている」と語った」

     

    今回に事態では、ドル高局面という見方だ。米国のイラン攻撃が、成功したという前提に立てば、こうした結論になるのだろう。

     

     

     

    テイカカズラ
       

    トランプ米大統領がイラン攻撃を巡り「2週間」の猶予を示したことで、イランは米軍の参戦回避にわずかな望みをつないだ。ただ、イスラエルの激しい攻撃でかつてない打撃を受ける中、対米交渉で従来の強気の姿勢を貫くのは難しく、核開発の事実上放棄という重大な決断を迫られる可能性が高い。

     

    米国は、イスラエルの防衛力を強化するため急ピッチで動いている。イランの攻撃によりイスラエルが保有する迎撃ミサイルの在庫が減少する中、弾道ミサイルを迎撃可能な軍艦を同地域へ追加派遣した。米海軍の駆逐艦が20日に地中海東部に到着し、同地域にすでに展開している3隻および紅海上の2隻に合流した。これらの艦船は、イスラエルに十分近い位置で活動しており、イランが発射したミサイルを迎撃できる。イランは、こうして米艦船の迎撃ミサイルでイスラエル反撃が無力化され、一段と不利な状況になった。

     

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月21日付)は、「米国、イスラエルの防衛強化急ぐ 迎撃ミサイル不足に備え」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「米国のアーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦の多くは、「SM-2」「SM-3」「SM-6」として知られる各種の迎撃ミサイルを搭載し、弾道ミサイルなど空中の脅威を撃墜できる。SM-3は昨年初めて実戦で使用され、イランからの攻撃に対応した。これはミサイルが飛行経路の中間段階で、大気圏外にいる間に迎撃するよう設計されている」

     

    SM-3は、イランからの攻撃に対応して開発された迎撃ミサイルである。敵ミサイルが、大気圏外にいる間に迎撃するよう設計されている。いきなり本番で、その性能を試す局面になった。

     

    (2)「米国はまた、昨年イスラエルに配備した地上配備型迎撃システム「THAAD」のミサイル在庫も補充した。正式名称を「ターミナル段階高高度地域防衛」と呼ぶこのシステムは米陸軍が運用しており、ミサイルが飛行の最終段階(ターミナルフェーズ)にある間に、大気圏内外で迎撃するよう設計されている。海上および地上配備のミサイル防衛力を急拡大させていることは、イスラエルの迎撃ミサイル在庫が減少していることへの懸念を浮き彫りにしている。米当局者によると、イラン政府との紛争が解決せず、イラン政府がミサイル攻撃を続ければ、イスラエルは今後数週間で高性能迎撃ミサイル「アロー3」の在庫を使い果たすリスクがあるという」

     

    米軍によって、イスラエルの迎撃ミサイルシステムが強化された。これで、イランの劣勢はいよいよ決定的になる。イランが、ミサイルを撃ち尽くせばもはや「裸も同然」になる。核開発中止は不可避となろう。

     

    (3)「イスラエルは、複数の異なるシステムを用いて多層的な防衛体制を構築している。よく知られた「アイアンドーム」は、短距離ロケットやドローンに対応し、「ダビデ・スリング」はより長い距離のミサイルや航空機、ドローンを迎撃する。アロー3はその中でも最も重要なシステムで、地球の大気圏外でミサイルを迎撃するよう設計されている。これにより脅威がイスラエル領空に入る前に無力化でき、最初の迎撃が失敗した場合でも他のシステムが対応する時間を稼ぐことができる」

     

    イスラエルは、多層的な防衛体制を構築している。日本も、大いに参考にすべきだろう。

     

    (4)「アロー・システムを研究してきたハンブルク大学の研究者、ティムール・カディシェフ氏は、「アロー3がなければ問題だ」と、述べた。「迎撃がターミナルフェーズのみとなるため、飛来するミサイルを撃墜する時間が短くなる」という。イスラエル軍は、迎撃ミサイルの在庫についてコメントを控えたが、あらゆるシナリオに対応する準備ができていると述べた」

     

    アロー3は、地球の大気圏外でミサイルを迎撃するよう設計されている。これにより、脅威がイスラエル領空に入る前に無力化できるという「すぐれもの」である。日本の防衛システムで参考になる。

     

    『時事通信』(6月21日付)は。「イラン最高指導者、後継候補指名か=暗殺リスク、動揺回避狙い米紙」と題する記事を掲載した。

     

    米紙『ニューヨーク・タイムズ』(電子版)は21日、イスラエルの攻撃を受けるイランの最高指導者ハメネイ師が、後継者候補3人を既に選出したと伝えた。イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの体制転換を排除せず、ハメネイ師の殺害計画を持っているとされ、暗殺による国内の動揺を防ぐ狙いとみられる。

     

    (5)「同紙によれば、ハメネイ師は地下壕に避難し、最側近を通じて軍司令官らと意思を疎通。トランプ米大統領は17日、「どこに隠れているか正確に把握している。少なくとも今は殺害しない」と主張した。ハメネイ師は、1979年のイスラム革命を率いた故ホメイニ師に次ぐ2代目の最高指導者。国政全般を統括する絶対的権力を持つ。最高指導者は、直接選挙で選ばれたイスラム法学者でつくる「専門家会議」が選出・罷免する」

     

    ハメネイ師が、後継候補者決定したという。問題は、核開発を止めるかどうかの最終決定である。この問題を決定せずに先送りすれば、事態はますます混乱する。ハメネイ師は、政体維持のために核開発を放棄しないであろう。政権転覆という悲劇的終末を迎えるのか。痛ましい限りである。ハメネイ師が、決着を付けて、悲劇を終らせるべきであろう。

     

    a0960_008527_m
       

    ロシアは、イランが設計したドローンの新たな生産工場を国内に設ける計画で、イラン政府と協議を進めている。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月5日付)が報じた。米同盟国の当局者らが明らかにしたもの。工場では、ウクライナ戦争向けに少なくとも6000機のドローンが生産される可能性がある。ロシアとイランの協力関係の深まりを示す新たな兆候だ。

     

    『中央日報』(2月6日付)は、「『ロシアでイランが開発のドローン6000機作る』…ドローン工場設立に合意」と題する記事を掲載した。

     

    ロシアとイランが、イランが開発した無人攻撃機(ドローン)をロシアで直接生産することで合意したことがわかった。米国やドイツなど西側諸国がウクライナに戦車などを支援することにし、最近ドローン攻撃を増やしてきたロシアが非対称戦力強化にさらに力を入れる様相だ。

    (1)「『ウォール・ストリート・ジャーナル』が5日に伝えたところによると、ロシアとイランはロシアに工場を設立しイランの技術力でドローンを生産することで最近合意した。同紙は「イランのハイレベル代表団が先月初めにロシアを訪問して工場建設予定地を訪問し細部事項を調整した。自爆ドローンを最小6000機以上生産してウクライナの戦場に投じる方針」と伝えた。イラン代表団が視察した工場用地は、モスクワから東に1000キロメートルほど離れた人口6万~7万人の工業都市エラブガという」

     

    ロシアは、大量の武器をイラク侵攻で失っている。経済制裁で、武器の生産も出来ないことから、ドローン生産でウクライナ軍の意表を突くという苦肉に策に出ざるを得なくなっている。

     

    (2)「ロシアは、これまでイランから自爆ドローンの提供を受けウクライナの電力網などを空襲するのに活用してきた。新年初日から自爆ドローンで猛爆を加えるなど、戦争長期化で兵力が不足すると攻撃用ドローンに対する依存度が高まっている状況だ。しかし、イラン製ドローン「シャヘド136」はプロペラエンジンで動くため速度が遅く騒音が激しく小銃射撃にも撃墜されるほど防御が弱かった。ウクライナ空軍が昨年秋以降これまでに撃墜したと明らかにした自爆ドローンだけで540機に達する」

     

    これまでのイラン製ドローンは、速度が遅くウクライナ軍の攻撃対象になってきた。映像では、ウクライナ軍の電波で強制着陸させられているケースも出ていた。こういう弱点を抱えていたのだ。

     

    (3)「このためロシアに新しく設立される工場では、さらに速いスピードを出すことができ、さらに遠くまで飛べる改良型ドローンを作るのに集中するものとみられる。同紙は「新たに製作されるドローンはウクライナだけでなく他の国にも新たな挑戦を抱かせることになりかねない」と指摘した。これに先立ち、1月末にウクライナは西側からM1エイブラムス(米国)とレオパルト2(ドイツ)など主力戦車の支援を引き出している。現在はF16など戦闘機まで要請している状況だ。これに対し「現代版ナチズム」としながら猛非難してきたロシアの危機感が大きくなっているだけに、ドローンへの依存度は今後さらに高まるだろうという専門家らの見方が出ている」

     

    ロシアは、持ち駒の武器の大半を失っている。ドローンの大量生産で、ウクライナ軍を混乱させる計画であろう。

     

    (4)「一方、西側の制裁を受けているロシアは、イランだけでなく中国などからも軍需装備を調達している。4日には中国国営防衛産業事業者が戦闘機部品などをロシアに輸出してきた事実が確認された。イランとの協力はますます強化する傾向だ。ドローンを提供する見返りとして戦場で捕獲した西側の兵器をイランに渡して複製品を作らせるよう助ける一方、1月末には両国の銀行間通信網連結にも合意した。両国とも西側の金融網から事実上締め出された状況だ」

     

    ロシアは、イランとの関係強化で「生き延びる道」を模索している。プーチン氏は、ウクライナ侵攻長引かせて、中国の台湾侵攻と「合流」させる戦略を立てているのであろう。これが、プーチン氏の唯一の「戦略」かも知れない。

     

    次の記事もご参考に。

    2023-02-02

    メルマガ434号 中ロ枢軸、「ウクライナ・台湾」同時侵攻の危険性 第三次世界大戦を防げるか

     

     

     

    このページのトップヘ