EV伸び率一桁へ低下
黒字はテスラ含め3社
自転車操業のEV業界
G7は中国製品阻止へ
中国は、EV(電気自動車)で世界市場席巻目標を立てている。国内には100社以上とされる新興EVメーカーが、地方政府の支援(補助金)を得て参入している。だが、すでに国内市場は飽和状態で、EV生産工場の稼働率は50%見当まで低下している。最適操業度80%を大幅に下回っているのだ。この指標一つをみただけでも、中国の「EV戦争」は、終戦間近の状態にある。具体的には、EVメーカーの出す手形サイトの長期化が、資金繰りの窮状をさらけ出している。詳細は、後で取り上げる。
習近平国家主席は、経済政策の基本方針として「先立後破(先に確立、後に破壊)」を掲げている。「先立」とは、「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)を大々的に輸出して、疲弊している中国経済へテコ入れする目的である。「後破」とは、不動産バブル後遺症の処理であろう。この先立後破は、軍事戦術で有効であっても、経済政策で言えば落第だ。不動産バブル崩壊後の不動産価格下落が日々、不動産担保貸付債権を不良債権化させているのだ。中国指導部は、こうした微妙な点を見落としている。致命傷になるリスクである。
習氏は、三種の神器のなかでもEVに強い期待を賭けている。EVコストのうち約30%が、電池コストとされる。最近では、リチウムイオン電池よりも割安なレアメタルを使わないリン酸鉄リチウム(LFP)電池を使用している。リンや鉄は、レアメタルと比べて自然界に広く存在しており、埋蔵量も豊富な物質である。
中国は、LFP電池によって他国よりも2割程度、電池のコストダウンを実現していると推定されている。こうした中国EVコスト構造からみて分るように、中国EVの価格引き下げには限界があるはず。現実は、この限界点を超えた値引き輸出が行われている。要するに、「ダンピング輸出」だ。この裏には、中国政府の補助金がテコになっているとみなされている。
習氏が、EV輸出急増によって不動産バブル崩壊後の景気停滞を突破しようとしているのは、余りにも理論無視と言わざるをえない。不動産価格下落で毎日、不良債権は増え続けている。この状態を根本的に解決せず、EV輸出増で不況を突破しようというのは、戦時中の日本が「竹槍」で上陸する米軍と戦うような、非現実的対応にみえるのである。
EV伸び率一桁へ低下
中国のEVは、23年は24.6%の増加であった。それが、24年1~3月は13.3%増となり、4月は11%増へと鈍化している。5月以降は、一桁の増加率になるであろう。こうした事態の中で、100社以上とされるEVメーカーが販売競争を繰り広げている。どうみても「資源の無駄」という印象を否めない。この裏には、地方政府が補助金を出しており、雇用確保の目的が課されている。こうなると、EV生産が「失業対策」の一環のような形になる本末転倒な事態を迎えている。
EVの伸び率が、一桁台へ鈍化しているとみられる理由は、都市部の普及が一巡していることだ。残されたEV市場は地方の農村部である。農村部の地方政府は、めぼしい産業がなく、不動産開発企業に依存する経済構造である。その不動産開発企業は、過剰住宅在庫を抱えて青息吐息の状態だ。地方政府の主要財源である土地売却収入が急減しており、EV普及に不可欠なEV給電施設設置余力などあるはずもない。地方政府は、職員の業務に伴う異動は、自動車を止めて自転車を利用させているほどの窮迫ぶりである。
こうして、EVの普及は都市部の一巡とともに、急速に落込むほかない状況になっている。この状態で、EVはさらなる値下げ競争へ突入している。市場飽和状態の中で、売上が伸びないから値下げするのは、企業として極めて危険な選択である。
中国EVの最大手であるBYDは5月10日、新発売の多目的スポーツ車(SUV)「海獅07」の価格を18万9800(約409万円)〜23万9800元(約518万円)とした。23年11月には、販売予定価格を20万(約432万円)~26万元(約562万円)としていた。実際は、当初と比べわずかだが引下げたのだ。BYDは、徹底的な価格競争で後発EVメーカーをふるい落とす戦略である。
中国EV市場では、これまで米国テスラが価格決定権を持っていた。テスラは4月、中国本土で販売するEV全4車種の価格を引き下げている。セダン「モデル3」の最廉価モデルは6%引き下げ、SUV「モデルY」も5%引下げていた。テスラは、中国メーカーの安値攻勢に押されたことなどから、24年1〜3月期決算の最終利益は約4年ぶりに減収減益となっている。こうなると、テスラといえどもさらなる値下げは困難になろう。
黒字はテスラ含め3社
中国EVで、黒字経営はBYD・理想汽車・テスラの3社とされている。BYDは、幅広い車種で販売を伸している。理想汽車は、高級EV路線を堅持してきた。テスラは、カリスマ経営者マスク氏の弁舌で、全自動運転車の夢に惹かれたファンを引きつけている。
(つづく)
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