勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: G7経済ニュース時評

    a0960_008532_m
       

    EV伸び率一桁へ低下

    黒字はテスラ含め3社

    自転車操業のEV業界

    G7は中国製品阻止へ

     

    中国は、EV(電気自動車)で世界市場席巻目標を立てている。国内には100社以上とされる新興EVメーカーが、地方政府の支援(補助金)を得て参入している。だが、すでに国内市場は飽和状態で、EV生産工場の稼働率は50%見当まで低下している。最適操業度80%を大幅に下回っているのだ。この指標一つをみただけでも、中国の「EV戦争」は、終戦間近の状態にある。具体的には、EVメーカーの出す手形サイトの長期化が、資金繰りの窮状をさらけ出している。詳細は、後で取り上げる。

     

    習近平国家主席は、経済政策の基本方針として「先立後破(先に確立、後に破壊)」を掲げている。「先立」とは、「三種の神器」(EV・電池・ソーラーパネル)を大々的に輸出して、疲弊している中国経済へテコ入れする目的である。「後破」とは、不動産バブル後遺症の処理であろう。この先立後破は、軍事戦術で有効であっても、経済政策で言えば落第だ。不動産バブル崩壊後の不動産価格下落が日々、不動産担保貸付債権を不良債権化させているのだ。中国指導部は、こうした微妙な点を見落としている。致命傷になるリスクである。

     

    習氏は、三種の神器のなかでもEVに強い期待を賭けている。EVコストのうち約30%が、電池コストとされる。最近では、リチウムイオン電池よりも割安なレアメタルを使わないリン酸鉄リチウム(LFP)電池を使用している。リンや鉄は、レアメタルと比べて自然界に広く存在しており、埋蔵量も豊富な物質である。

     

    中国は、LFP電池によって他国よりも2割程度、電池のコストダウンを実現していると推定されている。こうした中国EVコスト構造からみて分るように、中国EVの価格引き下げには限界があるはず。現実は、この限界点を超えた値引き輸出が行われている。要するに、「ダンピング輸出」だ。この裏には、中国政府の補助金がテコになっているとみなされている。

     

    習氏が、EV輸出急増によって不動産バブル崩壊後の景気停滞を突破しようとしているのは、余りにも理論無視と言わざるをえない。不動産価格下落で毎日、不良債権は増え続けている。この状態を根本的に解決せず、EV輸出増で不況を突破しようというのは、戦時中の日本が「竹槍」で上陸する米軍と戦うような、非現実的対応にみえるのである。

     

    EV伸び率一桁へ低下

    中国のEVは、23年は24.6%の増加であった。それが、24年1~3月は13.3%増となり、4月は11%増へと鈍化している。5月以降は、一桁の増加率になるであろう。こうした事態の中で、100社以上とされるEVメーカーが販売競争を繰り広げている。どうみても「資源の無駄」という印象を否めない。この裏には、地方政府が補助金を出しており、雇用確保の目的が課されている。こうなると、EV生産が「失業対策」の一環のような形になる本末転倒な事態を迎えている。

     

    EVの伸び率が、一桁台へ鈍化しているとみられる理由は、都市部の普及が一巡していることだ。残されたEV市場は地方の農村部である。農村部の地方政府は、めぼしい産業がなく、不動産開発企業に依存する経済構造である。その不動産開発企業は、過剰住宅在庫を抱えて青息吐息の状態だ。地方政府の主要財源である土地売却収入が急減しており、EV普及に不可欠なEV給電施設設置余力などあるはずもない。地方政府は、職員の業務に伴う異動は、自動車を止めて自転車を利用させているほどの窮迫ぶりである。

     

    こうして、EVの普及は都市部の一巡とともに、急速に落込むほかない状況になっている。この状態で、EVはさらなる値下げ競争へ突入している。市場飽和状態の中で、売上が伸びないから値下げするのは、企業として極めて危険な選択である。

     

    中国EVの最大手であるBYDは5月10日、新発売の多目的スポーツ車(SUV)「海獅07」の価格を18万9800(約409万円)〜23万9800元(約518万円)とした。23年11月には、販売予定価格を20万(約432万円)~26万元(約562万円)としていた。実際は、当初と比べわずかだが引下げたのだ。BYDは、徹底的な価格競争で後発EVメーカーをふるい落とす戦略である。

     

    中国EV市場では、これまで米国テスラが価格決定権を持っていた。テスラは4月、中国本土で販売するEV全4車種の価格を引き下げている。セダン「モデル3」の最廉価モデルは6%引き下げ、SUV「モデルY」も5%引下げていた。テスラは、中国メーカーの安値攻勢に押されたことなどから、24年1〜3月期決算の最終利益は約4年ぶりに減収減益となっている。こうなると、テスラといえどもさらなる値下げは困難になろう。

     

    黒字はテスラ含め3社

    中国EVで、黒字経営はBYD・理想汽車・テスラの3社とされている。BYDは、幅広い車種で販売を伸している。理想汽車は、高級EV路線を堅持してきた。テスラは、カリスマ経営者マスク氏の弁舌で、全自動運転車の夢に惹かれたファンを引きつけている。

    (つづく)

     

    この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

    https://www.mag2.com/m/0001684526

     

     

     

    a0960_008572_m
       

    イタリア北部で今週、開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議で、G7は中国との貿易関係の均衡を取り戻すよう呼びかけることになった。中国の過剰生産能力問題を前に、G7は団結して対応することで中国の報復を避ける目的であろう。

     

    『ロイター』(5月23日付)は、「中国は過剰生産能力を認識すべき、G7で対応協議へー米財務長官」と題する記事を掲載した。

     

    イエレン米財務長官は23日、今週イタリアのストレーザで開く主要7カ国(G7)財務相会合で中国の過剰生産能力に対する懸念とG7の対応について協議すると述べた。中国の政策が変わらなければ、G7が安価な中国製品の大量流入で打撃を受けるとの認識を示した。

     

    1)「イエレン氏は、財務相会合を前に会見し「今週は、中国のマクロ経済の不均衡と過剰生産能力がわれわれの経済にどのような悪影響を及ぼし得るかを議論する重要な機会になるだろう」と発言。「こうした懸念を中国に直接提起するためのアプローチや対応についても議論する」と述べた。G7およびその他の国が、過剰生産能力問題で「反対の壁」が立ちはだかっていると中国に認識させることが重要だと指摘。電気自動車、太陽光発電設備、半導体、その他戦略分野への中国の過剰投資に関する米欧の懸念はメキシコ、インド、南アフリカといった新興国とも共有していると述べた。イエレン氏は今週、欧米が製造業を守るため「戦略的かつ連携して」中国の産業政策に対応する必要があるとの考えを示した」

     

    イエレン氏は、昨秋から今年4月まで2度も訪中して、中国の過剰生産能力問題を話し合ったが、何らの成果も得られなかった。そこで、G7の場で、中国の過剰生産能力問題を議論することになった。

     

    フランクフルトを訪れているイエレン米財務長官は21日、欧米は製造業を守るため、「戦略的かつ連携して」中国の産業政策に対応する必要があるとの考えを示した。記者団に対し、主要7カ国(G7)財務相はクリーンエネルギー産業を支配しようとする中国の取り組みに対する米国の懸念を共有していると指摘。「グループとして中国に伝える方がより強力だ」と述べ、中国の過剰な工業生産能力にG7が共同で対応する必要があるとの認識を示した。イタリア・ストレーザで今週開かれるG7財務相会議で中国の生産能力が焦点になると付け加えた。

     

    『ロイター』(5月23日付)は、「G7、中国の過剰生産能力問題で団結する必要―仏財務相」と題する記事を掲載した。

     

    フランスのルメール経済・財務相は22日、主要7カ国(G7)は電気自動車(EV)用バッテリーなど主要産業における中国の過剰生産能力に対抗するため、団結する必要があると述べた。

     

    (2)「イタリア北部で今週開催されるG7財務相・中央銀行総裁会議で、中国との貿易関係の均衡を取り戻すよう呼びかけると指摘。記者団に対し「(中国の)過剰生産能力を前に、G7と欧州が団結することが極めて重要だ」とした。さらに、米欧の経済格差が拡大する中、欧州は「経済の停滞から目覚め」、今後数年間で成長率を倍増させる必要があるとした」

     

    フランスは、5月に習近平中国国家主席を国賓として招いたが、外交と経済は別という対応である。周氏は、マクロン・フランス大統領との会談で、中国製品の輸入関税等の引上げ措置を強く牽制した。だが、フランスはG7の場で共同歩調を取ることで、中国製品の輸入阻止を図る方針である。G7は、こうして一致した行動で中国の過剰生産能力に対抗する方針を固めた。

     

     

    a0070_000030_m
       

    日本国内は、「灯台下暗し」で日本経済が欧米からどのような評価を受けているか分らないが、確実に変わってきた。BofA(バンク・オブ・アメリカ)証券が、9月初旬に都内で開いた日本株セミナーでは、米国や欧州アジアからの参加者が増加したという。担当責任者は「日本のマーケットは思っていたよりもかなり変わった」と指摘し、「日本経済が本当に変わったという実感がする」と述べた。『ブルームバーグ』(9月26日付)が伝えた。 

    『ブルームバーグ』(9月25日付)は、「長期停滞を克服した日本、G7諸国の羨望の的に変身」と題する記事を掲載した。 

    (1)「日本の一人当たりGDPの伸びは、2013年から22年の間に現地通貨ベースで最も大きかった。ブルームバーグがまとめたデータによると、日本では同期間に人口が2%減少する一方、一人当たりGDPは62%増の472万円(約3万2000ドル)となった。米国の16%増(人口6%増)、カナダの45%増(同12%増)、英国の48%増(同5%増)、ドイツの32%増(同5%増)、フランスの33%増(同3%増)、イタリアの30%増(同1%減)を優に上回った」 

    2013~22年までの10年間で、日本は人口減(2%)にもかかわらず、円ベースで一人当たりGDPが、G7中でトップの62%増になったと指摘している。人口減=労働力減であるので、生産性は低下するがそれをカバーしたという評価であろう。

     

    (2)「日本社会の長寿を重んじる傾向と、前世紀末の時点ではほとんど予想されていなかった繁栄は、人口動態の課題に直面する他のG7諸国にとり、富の創造を管理する上での教訓となり、一部の最も精通した投資家に大きな利益をもたらしている。アクティブ運用の上場投資信託(ETF)から日本に流入した資金は15億ドル(約2220億円)と、18年に13兆ドル規模のETF業界のデータが集計されるようになって以来最高となった」 

    日本社会は硬直的にみえるが、内実は柔軟であると指摘している。派手さがないことで、変化への認識は乏しくなるのであろう。 

    (3)「人口減少や慣行にとらわれがちに見える企業、移民や労働参加の拡大に対する抵抗などで日本は絶望的な機能不全に陥っているとの認識は、ノーベル経済学賞受賞者ポール・クルーグマン氏やコロンビア大学歴史学教授のアダム・トゥーズ氏など、最も影響力のある識者の一部によってますます否定されるようになっている。クルーグマン氏は7月25日付のニューヨーク・タイムズ紙のコラムで、「人口動態の調整を加えると、日本は著しい成長を達成した」と指摘。「日本は訓戒的なストーリーというよりも、むしろロールモデル(規範)のようなものだ。繁栄と社会的安定を保ちながら、困難な人口動態の中をやりくりする方法の手本だ」と評価した」 

    海外の識者は、日本の変化を確実に読んでいたという。日本が、人口減を乗り越えて繁栄と社会的安定を保ってきた点で、世界の規範になるとしている。ここまで褒められると、日本人としていささか恥ずかしくもある。ただ、外部の評価がそうであるなら、拝聴することにしよう。

     

    (4)「22年7月に銃撃され死亡した故安倍晋三元首相の政権時代、「日本の女性はかつてないほど労働市場に参入した」とトゥーズ教授はサブスタックの22年7月の「チャートブック」ブログで書き、「日本女性の有給雇用の割合が米国よりかなり多いという事実は驚くべき歴史的転換だ」と指摘した。「アベノミクス」の着想の多くは、東京を拠点とするMPower Partnersの創業ゼネラルパートナーであるキャシー松井氏から得たものだ。松井氏は、ゴールドマン・サックス・ジャパンで初の女性パートナーとなった。1999年に発表したリポート「ウーマノミクス」で、女性の労働参加を増やすことが日本のGDPの大幅な押し上げにつながると訴えた」 

    アベノミクスの功罪が議論されるが、女性の労働参加率が高まったのは事実だ。女性就業率の「M字型」が解消に向っている。つまり、結婚・出産で退職する例が減っているのだ。

     

    (5)「文化的ダイナミズムを理由に「東京は新しいパリだ」と論じるエコノミストのノア・スミス氏は、2019年のブルームバーグ・オピニオンのコラムで、東京の多様性は「移民に対する日本のますますオープンな姿勢の結果である部分が大きい」と分析。「日本は人種的に純粋な島ではない。むしろ、ごく普通の豊かな国であり、移民、多様性、マイノリティーの権利、人種差別、国民性といった、ごく普通の問題に対処している」と指摘した」 

    東京は新しいパリ、と褒めるエコノミストまで現れている。根本的には、治安の良さが日本の潜在的な長所を引き立てているのであろう。日本は、まだまだ多くの改善点を抱えている。

     

    (6)「これは、「日本の経済見通しがそれなりに良好」で投資対象としても「魅力的」なことを意味すると、Tロウ・プライスのマックイーン氏は言う。労働年齢人口が減少する中で、「特に女性の労働力参加の大幅増加」が「株主の利益につながる企業改革のトレンド」と合致しているとした。この変革に減速の兆しはない。サントリーホールディングス(HD)の社長で、経済同友会の代表幹事も務める新浪剛史氏は、日本経済がデフレからインフレへの転換点にあると指摘。インフレ局面では貨幣価値が目減りするため民間企業の投資が重要な役割を担うと、9月7日の都内でのインタビューで語った」 

    下線部の指摘は、その通りであろう。物価上昇が軌道に乗れば、企業は設備投資へ向けてさらにプッシュする。それが、景気への起爆剤になるからだ。 

    次の記事もご参考に。

    2023-09-25

    メルマガ501号 「高賃金・高配当」、日本経済再生のカギ 23年度決算は実現できるか

     

    あじさいのたまご
       


    中国が、G7広島サミットへの並々ならぬ対抗心を見せている。広島サミット開催と同じ5月19日に中央アジア5カ国との会議をぶつけてきたからだ。世界の関心がG7だけに向かわないように工夫したのだろう。 

    『ロイター』(5月19日付)は、「中国主席、中央アジア発展へ野心的計画 インフラ構築や貿易促進」と題する記事を掲載した。 

    中国の習近平国家主席は19日、西安で開催されている「中国・中央アジアサミット」で基調講演を行い、中央アジアのインフラ構築や貿易促進に向けた野心的な計画を明らかにした。同時に「外部干渉」に対抗するよう呼びかけた。 

    (1)「習氏はカザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンの5カ国と発展戦略で協力し相乗効果を生み出し、6カ国全ての近代化促進に向け共同で取り組む用意があると表明。「安定、繁栄、調和し、密接につながった中央アジア」を世界が必要としていると語った」 

    中央アジア5カ国は、中国が「一帯一路」の玄関口にしているところから重要な拠点である。だが、ここは旧ソ連領である。中国が、この微妙な場所でロシア抜きの会合を持ったことは、ロシアへの「裏切り」にも映る。中国の外交的な得失は、にわかに判断できまい。

     

    (2)「6カ国は、内政に対する「外部干渉」と「色の革命」を扇動する試みに反対し、テロリズム、分離主義、過激主義に対する不寛容の姿勢を維持するべきだと訴えた。「中国は、中央アジア諸国の法執行、治安、防衛能力構築の強化を支援する用意がある」と述べた。5カ国の首脳は中国への支持を表明し、それぞれの二国間協力を深化させる方針を示した。中央アジア諸国による中国との団結誇示は、週末に広島で開催される主要7カ国(G7)首脳会議で示される中国のネガティブなイメージとは対照的なものとなろう」 

    下線部は、ロシアに対して要求していることだ。ロシア副首相が急遽、訪中予定を発表したのは、中国が中央アジア5カ国をロシアから引離す意図と疑っている証拠だろう。中国は、ウクライナ侵攻でロシアを見限っており、次の外交戦術に出たとも読める。つまり、ロシア「敗北後」に起こるロシア国内の混乱に手を突っ込む前兆である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月20日付)は、「欧州、対中国政策で結束演出 経済関係維持で温度差も」と題する記事を掲載した。 

    欧州各国の首脳は主要7カ国首脳会議(G7サミット)で権威主義陣営に対抗する姿勢でG7内の結束を演出した。ただ、フランス、ドイツ両国と日本の首脳会談では、対中国政策を巡る温度差も目立った。経済的な利益をちらつかせて欧州との関係改善を探る同国への配慮が働いたようだ。 

    (3)「日本政府の発表によると、フランスのマクロン大統領は19日、サミット議長を務める岸田首相との会談で、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く」と権威主義陣営の挑戦に対抗することを申し合わせた。フランス大統領府の発表でも、マクロン氏が「台湾海峡におけるフランスのフリゲート艦の通航を追求することにより、航行の自由のために引き続き努力する決意を表明した」と明らかにした。 

    マクロン氏は、先の訪中では中国寄り発言をして欧州各国から批判を浴びた。G7では、持論を封印して、対中国政策で共同歩調を取っている。

     

    (4)「マクロン氏は、19日の岸田首相との会談でも中ロの武力による現状変更の試みを念頭に「法の支配」の必要性を幾度も確認。あえて中国が重視する台湾問題に触れることで、権威主義陣営に対抗するG7の結束を印象づけた。メルケル政権時には、中国偏重が目立ったドイツも結束の演出に腐心した。ショルツ首相も19日の岸田首相との首脳会談で法の支配の重要性についての認識で一致し、中ロなどに毅然とした姿勢で臨む姿勢をみせた。 

    フランスやドイツは、日本の対中警戒論に歩調を合わせている。この裏には、日本が積極的にウクライナ支援をしていることへの高い評価があるという。

    (5)「欧州は、アジア地域の問題を地理的な遠さから「人ごと」としていたら、日本や同地域における新興国との溝が深まり、欧州内の切実な問題であるロシアのウクライナ侵攻への対応にも悪影響が及ぶ恐れがある。欧州外交筋によると、独仏やイタリア、英国の首脳は今回のG7でそろって日本のウクライナ支援への取り組みを称賛した。サミットの準備にあたった欧州の外交筋は、「日本が遠いウクライナの戦争を人ごとにしない分、欧州も中国の安保上の脅威を切実にとらえる機運が生まれると期待したい」と語る」 

    下線部は、岸田外交の成果と言える。岸田氏のウクライナ訪問は、安全リスクと背中合わせであったが、あえて実行した。その気概が、独仏を日本へ引き寄せる背景だろう。ウクライナのゼレンスキー大統領もフランス政府機で訪日する。岸田氏のウクライナ訪問への「答礼」もかねているのだろう。ゼレンスキー氏は、広島サミットという原爆投下地を背景に、ロシアへ核不使用という大きな圧力を掛ける絶好の機会を得ようとしている。

    a1320_000159_m
       


    『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(2月5日付)は、「中国が軍用品でロシア支援、貿易データで発覚」と題する記事を掲載した。

     

    中国は、国際的な制裁と輸出規制をよそに、ロシア軍がウクライナで戦争を行うのに必要な技術を提供している。WSJが、ロシアの税関データを確認したところ明らかになった。税関の記録には、中国国有の防衛企業が航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品を制裁対象のロシア国有防衛企業に出荷していることが示されている。

     

    G7(主要7ヶ国)は、この動かぬ証拠を握られた中国企業に対して、制裁を科す検討を進めている。今年のG7議長国は日本だ。中国外交部は、駐中国日本大使館へ「日中友好の確認」と働きかけている。

     

    『ブルームバーグ』(2月9日付)は、「G7が中国企業への制裁検討、ロシア軍支援で-関係者」と題する記事を掲載した。

     

    主要7カ国(G7)はロシアに軍事目的で部品やテクノロジーを供給しているとして、中国とイラン、北朝鮮の企業への制裁を協議している。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。

     

    (1)「機微に触れる問題だとして関係者が匿名で語ったところでは、G7はロシアのウクライナ侵攻開始から1年となる2月24日までに包括的措置を調整することを目指している。関係者の一人は制裁の議論はまだ初期段階であり、G7が一律の措置を講じない可能性があると述べた。対象となる企業もなお検討中だとした」

     

    バイデン米政権は、ロシアによるウクライナ侵攻を一部の中国国有企業が支援している可能性を示唆する証拠を中国政府に提示した。事情に詳しい複数の関係者が明らかにした。米国は中国政府がこうした活動を認識していたかどうか突き止めようとしている。同関係者はこのような支援に関し、殺傷力のない軍事的・経済的なもので、米国やその同盟国による対ロ制裁にあからさまに違反するには至らない内容だと説明した。以上は、『ブルームバーグ』(1月25日付)が報じた。ただ、ロシアへの制裁対象である航法装置や電波妨害技術、戦闘機部品が輸出されている。これを見過ごせば、ロシア軍の戦力強化に繋がるだろう。

     

    (2)「G7は、ウクライナへの侵攻を巡り対ロ制裁に加わっていない第三国経由で軍事目的の物品がロシアに供給されるのを断とうと取り組んできた。関係者によると、一部企業がロシアの制裁逃れを助けているのではないかと懸念されている。米国は、ロシアへの非致死性機器提供について中国側に懸念を表明してきた。ブリンケン国務長官は気球問題を巡り延期した訪中でこの問題を取り上げる予定だった」

     

    米非営利団体C4ADSが『ウォール・ストリート・ジャーナル』(WSJ)に提供した税関記録によれば、ロシアは軍民両用品のほとんどを中国から輸入している。C4ADSは、国家安全保障上の脅威の分析を専門としている。中国が、ロシアのウクライナ侵攻を支援していることを巡っては、アントニー・ブリンケン米国務長官の北京訪問で議題となるはずだったという。

     

    ロシアは基本的な軍需品の多くを国内で生産する能力を持つ一方で、現代戦に不可欠な半導体などの軍民両用技術については輸入に大きく依存している。欧米当局は、昨年2月に開始した経済的圧力は、コンピューターチップや赤外線カメラ、レーダー装置などのロシアへの輸出をターゲットにすることで、モスクワの軍事機構をまひさせるだろうと述べている。税関や企業の記録文書によると、ロシアは依然として、米国主導の制裁に参加していない国を通じてこれらの技術を輸入することが可能となっている。輸出規制されている製品の多くは、トルコやアラブ首長国連邦(UAE)などの国々を経由している。以上は、WSJの報道による。

     

    G7としては、中国企業への制裁を見送る訳には行くまい。中国にとっては、大きな汚点になる。


    このページのトップヘ