ドイツは、自他共に認める環境先進国である。政府は、環境保全促進のためにEV(電気自動車)とHEV(ハイブリッド車)へ補助金をつけてきた。今年1月から廃止したが、売上は途端にがたんと落ちている。改めて、ドイツ社会の環境先進個の真贋が問われている。補助金が、なければEVやHEVも売れないのかと、ドイツへ皮肉を込めた見方を呈している。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月10日付)は、「イツ国民、EV購入に二の足」と題する社説を掲載した。
ドイツでは、二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロの目標は、信仰の対象のようなものだ。しかし、その信仰心にも限界があったようだ。政府が負担の大きい補助金を削減・廃止した後の、電気自動車(EV)の販売台数の落ち込みを見ればそれが分かる。
(1)「ドイツ連邦自動車局(KBA)によると、完全電動のEVの今年1月の販売台数は、前年同月比13.2%減少した。ハイブリッド車の販売台数は同6.2%減だった。これに対し、ガソリン車の新車販売台数は3.5%増加し、ディーゼル車の販売台数の減少幅は1.2%と小幅にとどまった。こうした状況をもたらした主因は、ドイツ政府が年初にEV・ハイブリッド車の補助金を削減・廃止したことだ」
今年1月、EVとHEVの販売は補助金打ち切りで前年同月比減少したが、補助金なしのガソリン車は逆に増加になった。補助金なしでは、EV・HEVも販売の勢いを失っている。
(2)「昨年12月までは、メーカー希望の純小売価格が4万ユーロ(約560万円)未満のEVには、消費者分とメーカー分を合わせて最大9000ユーロの補助金が支給されていた。同じ価格帯のハイブリッド車への補助金は6750ユーロだった。政府は今回、ハイブリッド車への補助金を全廃し、4万ユーロ未満のEVへの補助金を4500ユーロに削減した。来年にかけて補助金額と支給対象がさらに絞り込まれる予定だ」
純小売価格4万ユーロのEVが、最大9000ユーロの補助金が支給された。補助金率は実に、22.5%にもなる。これでは、EVやHEVへ需要が流れて当然であろう。EVの魅力ではなく、補助金の魅力と言えよう。
(3)「ドイツ政府は補助金を削減するにあたり、妥当な主張をした。EVとハイブリッド車の大衆化が進んでいることは、消費者がこれらを受け入れていることを示しており、成熟が進んだ市場にもはや納税者による支援は必要ないというものだ。しかし、補助金は依然として大きな影響をもたらしているように見える。1月にEVとハイブリッド車の販売が急減した理由の一つには、昨年末に販売が急増していたことがある。補助金が使えるうちに使おうと、車の購入を急いだ人が多かったためだ」
補助金付きでEVを売らなければならないのは、ガソリン車に比べて価格や性能面で劣ることを示している。
(4)「自動車メーカーは、年内に需要が回復するという楽観的な見方をしていない。ドイツ自動車工業会は、今年のEVとハイブリッド車の販売総数が2022年比で8%減少するとみている。減少は、納税者による支援がなくなるハイブリッド車で特に顕著になるとみられている(20%減の予想)。従って今年は、気候変動対策の信仰の中心であるドイツにおけるEV需要が市場で試される年になるだろう。
ドイツでは、自動車メーカーと自動車工業会が、今年のEV売上高に対して異なった見方をしている。ユーザーと接触している自動車工業会の方が慎重なのだ。今年のEVの売行きが、ドイツ社会の「環境信仰」を試す、としている。
ドイツは、いち早く原発廃止を打ち出した、ロシアから天然ガスを輸入することで、原発の穴を埋める方針であった。それが、エネルギーで極端なロシア依存を高めるという失敗に陥った。ドイツは、いささか理想論に走りすぎており、現実を見落としている。これが、ウォール・ストリート・ジャーナルのドイツ批判の原点になっている。
(5)「西側諸国の政治家は、宣伝されているほど環境に配慮したものでないにもかかわらず、EVの販売を促進するために補助金を利用し、制度面で義務付けてきた。EVの環境負荷は、EVにエネルギーを供給する電力網と同程度にすぎない。また、原子力発電の利用を拒否しているドイツは、ロシアからの天然ガス輸入停止分を賄うため、石炭の利用を増やしていることになる。さらに、EVとそのバッテリーを使用する際には、コバルトや銅、リチウムの採掘に伴う環境面のコストが生じる。消費者がEVの購入を望むのであれば、そうすれば良い。しかし、購入に補助金を必要とするのであれば、EVの魅力はいかほどだろうか」
EVを普及させるには、電力システムの三つの主要構成要素(発電・長距離送電・地域配電)に、EVの大量導入がいかなる影響を及ぼすかについて、議論しておくことが不可欠である。家庭や企業に電力を届ける送電網の支線にもっと深刻なボトルネック(障害)が生じる可能性があるとされている。こうした地域配電システムには、コストのかかる機能向上策を施す必要があるのだ。EVは、補助金をつけて売ればそれで済むのでなく、厖大な電力投資が必要になる。