勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    サムスンは、メモリー半導体で世界一だが、市況変動の激しいことが悩みの種だ。一方、市況が安定している非メモリー半導体(ファウンドリー)では、台湾TSMCという強敵が控えており、この面を強化しない限り、とても「世界一」へはほど遠い。

     

    『中央日報』(3月14日付)は、「台湾TSMC、堅固なファウンドリー世界1位 2位サムスンとの格差さらに広がる」と題する記事を掲載した。

     

    世界的ファウンドリー(半導体委託生産)1位の台湾TSMCと2位のサムスン電子のシェア格差が昨年10-12月期にさらに広がったことがわかった。

    (1)「台湾の市場調査会社トレンドフォースが13日に明らかにしたところによると、昨年10-12月期のサムスン電子のファウンドリー売り上げは前四半期より3.5%減少した53億9100万ドルと集計された。シェアは4-6月期の16.4%から7-9月期に15.5%に下落して10-12月期に15.8%で再び小幅の反騰を見せた」

     

    非メモリー半導体は受注生産であるので、受注契約時に価格が決定する。正常利潤を確保できるので、ビジネスとしては恵まれている。メモリー半導体は、汎用品ゆえに市況変動は当たり前の世界だ。日本が参入する「2ナノ」非メモリー半導体企業「ラピダス」は、25年に試作品、27年から量産化へ着手する。北海道で工場新設が決った。いずれ、日本が、TSMCとサムスンを追いかける立場になる。

     

    (2)「一方、TSMCの10-12月期売り上げは199億6200万ドルで、前四半期比で売り上げが1.0%減りサムスン電子より減少幅は小さかった。シェアは7-9月期の56.1%から10-12月期に58.5%に上がった。これに伴い業界2位であるサムスンとの格差は40.6ポイントから42.7ポイントに拡大した。トレンドフォースは「10-12月期にファウンドリー業界は低調な繁忙期実績と顧客在庫調整の影響を受けたが、TSMCの競合会社の実績不振でシェアを確保できた。サムスン電子は顧客が在庫縮小に集中したため先端工程受注減少と全般的な需要萎縮を経験した」と説明した」

     

    TSMCは、日本企業との関係を密接にしている。TSMCの研究所を筑波に設置し、多くの日本企業が参加している。TSMCは、半導体素材を日本から供給されており、製品歩留まり率は、サムスンをはるかに抜いている。この結果、収益面でもサムスンを上回る。世界の半導体は、日米台が大きな協力チームをつくる可能性が高まっている。

     

    『中央日報』(2月21日付)は、「韓国半導体、先端技術競争力を立証してこそ1位の夢が開かれる」と題する記事を掲載した。

     

    現在ファウンドリー産業の最強者はTSMCだ。7ナノ以下の先端工程の売上高比重が上昇するに伴い、昨年7-9月期に世界1位(売上高基準)半導体会社に君臨し、10-12月期には売上高においてサムスン電子と格差を広げた。サムスン電子とインテルの今年上半期実績不振を考慮すると今年も売上高1位はTSMCが占める可能性が高い。

    (3)「サムスンファウンドリーは大規模な設備投資と研究開発(R&D)にもかかわらず、TSMCに追いつけずにいる。その格差がむしろ拡大しているため短期間に追い越すのは難しいとみられる。だが、サムスンはTSMCの市場占有率を威嚇する潜在力も十分に備えている。それを現実化するためにはいくつかの実行が必要だ」

     

    サムスンは、TSMCに追いつけず逆に、差を広げられている。その理由は、次のパラグラフにある。

    (4)「第一に重要なのは技術と収率だ。今後先端工程で持続して性能向上と安定した収率を確保するなら大規模な取引先の受注が可能だ。第二に顧客との共生だ。ファウンドリー産業は顧客であるファブレスがいなければ存在できない産業だ。顧客のオーダーメード需要を十分に満たす繊細なアプローチが必要だ。このような相手に合わせたアプローチを通じて小さなファブレス企業が大きな企業に成長する時、サムスンファウンドリーも共に成長できることになる。第三に協力会社との連帯強化による生態系の拡張だ。ファウンドリー産業はデザインハウス、設計自動化会社、後工程パッケージング会社などが共に生態系を形成する。必要なら株式投資を通じても持続可能な連帯を強化して協力レベルを高めていくことが必要だ」

     

    ここでは、3つの理由をあげている。

    1)技術と収率(歩留まり率)

    2)顧客との共生

    3)協力会社との連携強化

    メインは、1)であろう。TSMCは、日本企業との関係強化に務めている。その点で、サムスンは長い間の日韓不和に翻弄されてきた。TSMCは、日本の素材を使い素材メーカーと密接な関係を筑波の研究所で構築している。この関係は、日本の「ラピダス」が引継ぐ。

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    習近平氏にとっては、台湾統一が最大の政治課題である。最終的には武力統一の方針を示して、台湾へ揺さぶりを掛けている。中国の武力行使は、米国シンクタンクによる机上演習によると中国海軍の全滅という結果になった。こうなると、ますます台湾との話し合い路線が必要になろう。 

    当面のカギは、来年1月の台湾総統選である。ぜひとも中国との話し合い路線を主張する国民党を勝たせねばならない。その布石に、先に中国と国民党の間で会談が行なわれた。 

    『毎日新聞』(2月18日付)は、「中国、台湾分断工作か 国民党を優遇 来年1月の総統選にらみ」と題する記事を掲載した。 

    来年1月に見込まれる台湾総統選を見据え、中国の習近平指導部が働き掛けを強めている。中国と協調すれば平和と利益が得られるとのメッセージを積極的に発信しつつ、「台湾独立勢力」とみなす民進党の蔡英文政権への強硬姿勢は緩めていない。台湾社会の分断を図りつつ、有権者を対中融和路線の野党・国民党の側に引き寄せる狙いがあるとみられる。

     

    (1)「国民党の夏立言(かりつげん)副主席が17日までの日程で訪中。中国側は10日、共産党政治局常務委員の王滬寧(おうこねい)氏(党序列4位)が会談に応じる形で夏氏を厚遇した。王氏は「台湾同胞の平和と安寧を我々ほど重視している者はいない。できる限り早く両岸(中台)交流を正常化させたい」と強調し、融和ムードを演出。夏氏は「交流と対話によって相互信頼を積み重ね、台湾海峡の平和を促したい」と応じた」 

    国民党は、中国との融和路線を取っている。だが、台湾市民の感情を逆なでするような中国接近は反発を呼ぶ難しい立場だ。台湾市民は、「中国人」意識よりも、「台湾人」というアイデンティティを重視している。 

    (2)「その3日後、早くも動きがあった。中国で対台湾政策を管轄する国務院台湾事務弁公室(国台弁)の朱鳳蓮報道官が13日に、台湾の農水産物の禁輸措置について解除を示唆したのだ。中国は2021年以降、安全性などを理由にパイナップルや特産果実「釈迦頭」、高級魚ハタなど台湾産の農水産物を相次いで禁輸し、蔡政権に対する事実上の制裁措置とみられてきた。15日には国台弁トップの宋濤(そうとう)主任が台湾の農漁業団体幹部と面会し、禁輸問題について「関係部門と調整し、積極的に解決する」と解除の意向を表明した。国台弁は「台湾の農漁民は国民党などのルートを通じて輸入再開を望む声を表明した」(朱報道官)とも述べており、解禁表明は、国民党に花を持たせた形だ」 

    中国得意の経済制裁で相手を屈服させる戦術は古い。国民党は、中国へ膝を屈したイメージを与えると反発を受けるだろう。

     

    (3)「習指導部は武力行使による台湾統一の選択肢を放棄していないが、基本路線は平和統一だ。中国と台湾の窓口機関が「一つの中国」で合意したとされる「1992年コンセンサス」を認めることを台湾との交流の前提条件にする。これを認めない民進党が16年から政権を握っており、容認の立場の国民党が政権に返り咲くことは習指導部としても歓迎だ」 

    中国にとって、平和統一が最もコストの安い手法である。だが、「一国二制度」は香港で馬脚を現している。中国は、新しい「手法」をつくり出さねばならない。妙案はあるか。 

    (4)「中国の融和姿勢の背景には、20年総統選での「失敗」がある。習氏は19年、台湾政策についての演説で「12制度」による統一を目指すと強調し、香港では民主派を弾圧した。こうした強硬な対応が台湾の幅広い層に「反中」の世論を生み、蔡総統の再選につながった。再び強硬な発言や不用意な圧力の強化で台湾の民衆を刺激すれば、民進党の支持拡大につながりかねない」 

    中国は、ロシアのウクライナ侵攻を支持しているだけに、「次は台湾」というイメージをまき散らした。これが、台湾を必要以上に刺激している。

     

    (5)「政権奪還を目指す国民党は、台湾海峡の現状を踏まえ「戦争のリスクを減らす」(朱立倫主席)などと有権者に対し「平和」を訴える戦略を取る。夏氏も王氏との10日の会談で、国民党が共産党との交流によって「平和と安定、繁栄と発展の黄金時代」をもたらしたと強調。対話を通じて台湾海峡の緊張緩和につなげる姿勢をアピールした」 

    現実問題は、米中対立の激化で台湾が翻弄されていることだ。中国は、台湾を足がかりにして米国へ軍事対決するという構想を西側諸国へ植え付けてしまった。こうして、台湾問題は、米中覇権争いのコマになっている。先ず、中国が変わらなければ、台湾問題の平和解決はないであろう。カギは、中国の変化である。 

    (6)「中国と国民党の動きに、民進党は神経をとがらせる。党主席の頼清徳副総統は15日、党の幹部会合で「(中国軍が台湾周辺に)侵入して騒ぎを起こしている今の情勢下で(中国との)対話は慎重にすべきだ。中国や国際社会に誤ったメッセージを伝えることになる」と国民党を批判。「台湾海峡の平和と安定を守ることは我々の主張だ。台湾人が子々孫々にわたり自由と民主主義の中で暮らせるよう、全力を尽くす」と訴えた」 

    民進党は、中国従属ではなく台湾人の独立意識を重視している。国民党は、中国へ傾けば台湾人から見捨てられるという危うい立場だ。

     

    (7)「総統選の行く末に影響を及ぼすのは中国の出方だけではない。中国と対立する米国の動きも重要だ。マッカーシー米下院議長が春に台湾を訪問するとの観測も出ており、仮に実現すれば反発した中国が台湾周辺での軍事活動をさらに強める恐れもある。連続2期目の蔡氏は憲法の規定で24年台湾総統選に出馬できず、民進党からは頼氏の立候補が有力視されている。国民党では侯友宜・新北市長や朱主席らの名が挙がっている」 

    米下院のマッカーシー議長は、訪台へ強い意向を見せている。中国が、今回も大軍事演習を行なえば、来年の総統選は民進党候補に有利となろう。

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