韓国の半導体メーカーのサムスンとSKハイニックスは、中国で半導体工場を経営している。米国は、中国にある韓国の半導体工場へ先端半導体の生産をしないように制約を掛けているが、台湾TSMCは中国に半導体工場を持たず身軽だ。こうして韓国は、TSMCと異なり孤立感を深めている。
『朝鮮日報』(3月4日付)は、「台湾TSMC アップル・ソニーと組んでサムスンをけん制」と題する記事を掲載した。
米国、台湾、日本の「半導体同盟」がますます強固になる中で、韓国が居場所を失っているという指摘がある。台湾は2021年、米国、日本と半導体分野で協力をすると宣言し、日米も昨年、半導体技術同盟を結んだ。米国は半導体サプライチェーン再編のために韓国、台湾、日本と共に「チップ4」を掲げたが、その中で韓国は積極的な動きを示せずにいる。
(1)「専門家は、米国、台湾、日本が形成する半導体バリューチェーンで韓国の役割は中途半端だと話す。米国は半導体設計、日本は設備、台湾は最先端の受託生産で強みを持つが、韓国は違うからだ。半導体専門家である成均館大学のクォン·ソクチュン教授は「ファウンドリーよりもメモリー半導体で優位にあるサムスン電子は米国、台湾、日本の半導体サプライチェーンの結び付きに食い込む隙間が見えない」と話した」
韓国半導体は、汎用品のメモリー半導体が主力である。台湾TSMCは、非メモリー半導体がメインである。同じ半導体メーカーでも韓国は、TSMCと異なり技術的蓄積が薄い面があり、それが弱点になっている。TSMCは、日本企業や大学と密接な関係を持っていることも、韓国半導体企業よりも有利な立場だ。
(2)「アップルのクックCEOが訪れた熊本は、TSMCとソニーが手を携え、昨年から半導体工場を建設している地域だ。TSMCとソニーはそれぞれ70億ドル、5億ドルを投資し、熊本工場の運営主体である「JASM」を合弁で設立し、ソニーは合弁会社の株式20%を保有する。 熊本工場では最新鋭工程ではない12~28ナノメートル製造プロセスの半導体製品を生産する。ソニーの主力製品であるカメラ用イメージセンサーや車両制御半導体マイクロコントローラーユニット(MCU)が対象となる見通しだ」
アップルのiPhone高級機種は、画像がきれいという理由でサムスン・スマホを大きく引離している。その画像半導体が、ソニー製であるのだ。サムスンは、映像半導体でソニーに敵わないのだ。
(3)「TSMCは米日との同盟体制強化に総力を挙げている。中国と安全保障面で対立する米国、日本との三角体制構築を通じ、世界シェアと影響力を拡大する狙いだ。アップル、グーグル、エヌビディアなど米国のビッグテック企業と日本の素材・部品・装備企業の競争力にTSMCの半導体生産技術を融合し、韓国との格差をさらに広げようとしている。一方、サムスン電子とSKハイニックスはメモリー半導体の主な生産拠点を中国に置いている上、中国での販売割合が高く、反中同盟に加わることは容易ではない。サムスン電子はNAND型フラッシュメモリーの30~40%を中国・西安で、SKハイニックスはDRAMの半分ほどを中国・無錫で生産している」
TSMCが、日米と密接な関係を結んでいるのは、日米台の外交関係が安定していることの反映である。その点、韓国は中国と密接になっていたので半導体工場まで建設した。TSMCは、中国に工場を作らなかったのだ。政治情勢の変化を睨んでいたのであろう。今になれば、韓国の読みが浅かったのだ。
(4)「TSMCが日本に工場を建設するのは、サムスンをけん制する狙いのほか、電気自動車(EV)の登場で爆発的に成長する車載半導体市場を掌握するという多目的の布石だ。日本には世界最大の自動車メーカー、トヨタ以外にも日産、ホンダなど納入先が十分にあり、車載半導体ではルネサス以外にこれといったライバルがいない。TSMCは日本との同盟を通じ、一気に市場を掌握できる。熊本工場には世界的な自動車部品メーカーであるデンソーも400億円を出資し、10%以上の株式を取得した。日本が誇る素材・設備メーカーとの絆も一層強まりそうだ」
TSMCが、日本に工場を建設するのはサムスンをけん制目的ではない。両社は、半導体生産品目が違うのだから競合しないのだ。TSMCが、日本へ工場や研究所設置で進出したのは、日本の技術をさらに取り入れる目的である。特に半導体の「後工程」では、日本が世界一とされている。素材・製造装置など関連企業が集まっている日本とさらなる関係強化を目指しているのだ。TSMCは、日本で第二工場建設意向を見せている。
(5)「昨年12月、IBMと日本の半導体企業ラピダスが、2027年までに2ナノメートル製造プロセスを開発するために提携した。TSMC工場の日本誘致にも政府がかなりの役割を果たした。日本政府はTSMCが茨城県に半導体研究開発拠点を設置するのに必要な370億円の半分を負担した。また、TSMCとソニーの半導体工場建設費用の40%に当たる4000億円も補助金として支援する。先端半導体工場を主に韓国国内に建設するサムスン電子は、許認可や補助金などの競争で不利な立場に置かれている」
TSMCは、日本の先端半導体企業ラピダスの設置に関わりがない。業種的には「ライバル」関係になるからだ。ラピダスは、「2ナノ」以上の超先端半導体を生産するが、量産化でなく、隙間商法で小回りの効く経営を目指す。上場を予定している。
(6)「専門家はTSMCが米中に挟まれた最悪の状況にあるにもかかわらず、むしろ地政学的危機を利用して実益を得ていると分析する。米国、日本に工場を建て、中国による攻撃リスクを分散させ、安定したサプライチェーンを構築し、日米でさらに顧客も確保している」
TSMCの危機管理能力は、舌を巻くほど高い。その点で韓国は落第だ。TSMCは、ドイツにも工場を作る意向を見せている。韓国半導体は、中国依存できすぎたのである。