勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

    ムシトリナデシコ
       


    中国は、情報戦で台湾総統選へ介入しようと狙っているが、現状では民間の監視団によって未然に防がれている。これが、中国へ接近する国民党候補への支持率の伸び悩みをもたらしているのかも知れない。 

    ニセ情報で目立つのは、「X(旧ツイッター)」に投稿された、人民解放軍の車両など装備品が台湾に近い中国福建省福州市に大規模に輸送されているというのがある。これは、映り込んだ高層ビルの特徴から、実際の撮影場所は台湾から遠く離れた北部の河北省石家荘市だとわかった。この投稿には1000件の「いいね」が集まった。中国派の「サクラ」であろう。 

    現地当局は12月23日、総統選の世論調査を捏造した疑いのある人物を拘束したと発表した。この人物は11月に中国を訪れて接待を受けていたとしている。台湾メディアの自由時報によると21日にも、偽の世論調査8件をオンラインに公開したとして台湾在住の記者が拘束された。当局は、ニセ情報取締りに全力を挙げている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(12月30日付け)は、「台湾総統選まで2週間 対中で対立 無党派取り込みカギ」と題する記事を掲載した。 

    2024年1月13日に迫る台湾総統選を巡り、与野党3候補によるテレビ討論会が30日に開かれた。軍事威嚇を強める中国への対応を巡り、与党・民主進歩党(民進党)と最大野党・国民党の候補が火花を散らした。若者を中心とした無党派をいかにひき付けるかが終盤戦のカギを握る。3候補が直接向き合いやりとりするテレビ討論会は1回限りで、総統選の行方に影響を与える可能性もある。 

    (1)「美麗島電子報の調べによると、12月下旬時点で民進党の頼清徳・副総統の支持率は39.%。国民党の侯友宜・新北市長が28.%で追い上げる。第3政党「台湾民衆党」の柯文哲・党主席は18.%と低迷している。民進党の頼氏は、中国との融和を唱える国民党の侯氏に批判を集中させた。「国民党が政権に戻ったら米国からの武器購入ができなくなってしまう。自前の潜水艦建造も止まってしまう」と指摘した。00〜08年の民進党の陳水扁政権で、野党・国民党は米国から潜水艦などを購入するための国防予算案に69回反対した例を引き合いに出した」 

    野党国民党は、共産党との内戦で敗れた歴史を忘れて中国共産党へ接近している。与党民進党は、台湾出身者が主流だけに中国共産党へは強い対抗心をみせている。ただ、「独立」を口にすると軍事侵攻を引き寄せる口実にされるので、慎重である。台湾の人々は、「中国人」意識が薄れて、「台湾人」という認識が多数を占めている。これが、総統選にどのような結果をもたらすかである。

     

    (2)「民進党の蔡英文(ツァイ・インウェン)政権は米国との関係を深め、米国製の主力戦闘機「F16」の改良型の導入などを進めてきた。頼氏は蔡路線の継承で台湾の防衛力を高める必要性を訴えた。頼氏は国民党が中台間の市場開放を目指す「サービス貿易協定案」の審議再開を公約に掲げている点も問題にした。同協定案の審議は2014年に「中国経済にのみ込まれる」と反発した台湾の若者が立法院(国会)を占拠した「ひまわり運動」で頓挫した経緯がある。頼氏は、「国民党が戻ってくれば若い人の就職やあらゆる業界に打撃となり、台湾の社会不安を引き起こしてしまう」と話した。若い世代の団結と支持を求めた」 

    国民党は、中国との経済交流を深めようとしている。だが、米中対立によって台湾資本は中国を撤退している。こうなると、国民党の主張は現実性を持たないことになろう。米中対立という「大枠」の中で、台湾市民はどういう選択をするかだ。 

    (3)「侯氏は、「蔡路線のせいで台湾は世界で最も危ない場所と言われるようになった。中国との交流と対話が大事だ」と述べた。中台間の緊張が高まったため若者の兵役が24年から1年間に延長になり、若い世代の負担を増やしたと非難した。「蔡政権で国交を結ぶ国が9カ国も減った」と言及し、国際的な孤立を招いたとの見方を示した。頼氏はかつて「台湾独立」を主張しており、総統になれば中国との戦争の危険性が高まると提起した」 

    国民党の侯氏は、中台の対立原因を民進党がつくっているという論法である。中国を批判しないのだ。こういう「親中姿勢」が台湾市民から信頼を得られるかだ。

     

    (4)「侯氏は、「蔡路線のせいで台湾は世界で最も危ない場所と言われるようになった。中国との交流と対話が大事だ」と述べた。中台間の緊張が高まったため若者の兵役が24年から1年間に延長になり、若い世代の負担を増やしたと非難した。「蔡政権で国交を結ぶ国が9カ国も減った」と言及し、国際的な孤立を招いたとの見方を示した。頼氏はかつて「台湾独立」を主張しており、総統になれば中国との戦争の危険性が高まると提起した」 

    台湾が、世界で最も危ない場所になったのは、習近平氏の武力統合論が理由である。習氏を批判すべきである。 

    (5)「民衆党の柯氏は、「中台統一はできないし、台湾の独立もできない。9割のひとが現状維持を望んでいる」と唱えた。米中のはざまでバランスを取る必要を強調した。台湾の有権者は1950万人ほどで、おおむね2割前後が投票先を決めていない無党派とみられている。有権者は総統・副総統候補、立法委員(国会議員)の選挙区もしくは原住民区、比例区にそれぞれ1票を投じる。無党派の動向は選挙戦の趨勢を左右しうる」 

    「中台統一はできないし、台湾の独立もできない。9割のひとが現状維持を望んでいる」という主張はその通りである。これを、いかに現実化させるかだ。台湾市民は、これを民進党か国民党に託するのである。

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    中国は、これまで台湾企業の進出によって発展の基礎がつくられた。だが、習氏が国家主席に就任するとともに、台湾企業を圧迫する姿勢に転じたことから、台湾や他国へ引き揚げる動きが始まった。その結果が、今や明瞭になっている。中台経済圏として、中国と台湾をひとくくりにして見ることは不可能である。台湾の脱中国依存がトレンドになった。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月27日付)は、「脱・中国依存で変わる台湾経済」と題する記事を掲載した。 

    中国政府は何年もの間、台湾経済の将来は中国と切っても切れない関係にあると台湾の人々を納得させることで台湾の支配権を握ろうとしてきた。だが、台湾企業の間で米国などの市場に軸足を移す動きが強まるなど台湾の中国依存は低下しており、台湾に対する経済的影響力の低下に直面した中国はいら立ちを募らせている

     

    (1)「昨年、台湾産農産物の輸入国1位の座を米国が中国から初めて奪ったことも、そうした変化を映すものだ。また、台湾の半導体ファウンドリー(受託生産)最大手、台湾積体電路製造(TSMC)などの電子機器企業も、米国など中国以外の国への製品販売を増やしている。これは米政府の半導体規制や米アップルの台湾製半導体への賭けなどが追い風となっている。台湾の政府統計によると、2023年1~10月の対米輸出は2018年同期比で80%余り増加した。一方、対中輸出は同1%減で、中台経済の統合が急速に進んでいた約10年前とは一変している 

    中国経済が、不振であることも台湾の対中輸出を減らしている。23年に入って対米輸出は急増しているのは、米国経済の好調を反映する。
     

    (2)「台湾の対外投資にも変化が見られる。2000年代初頭は中国向けが中心だったが、現在は東南アジア・インド・米国といった中国以外に投資を振り向ける動きが鮮明になっている。中国で「iPhone(アイフォーン)」の製造を請け負う台湾の電子機器受託製造大手、鴻海精密工業(フォックスコン)は、アップルがサプライヤーの多様化に取り組み始めたことを受け、インドとベトナムでの事業を拡大した。中国国務院台湾事務弁公室の報道官は9月、「中国本土経済を『軽視』したり『デカップリング』を目指したりする試みは、下心に駆られたものであり無駄に終わる」と述べた。「台湾の同胞や企業にとって中国本土は常に最良の選択である」と指摘する」 

    台湾企業の対外直接投資は、中国中心から東南アジア・インド・米国などへと広がっている。これも、対中依存度を下げる理由である。

     

    (3)「台湾に中国との経済関係の見直しを迫る要因がいくつもある。米国のトランプ政権下で導入された関税とバイデン政権の輸出規制により、中国から部品などを調達するコストは上昇し、調達自体が禁じられたものもある。米企業が台湾のサプライヤーに調達先の多様化を促している上、中国内の賃金上昇を背景に同国の魅力も以前より薄れている。台湾の対中感情が長期的に変化していることや、中国がその経済的影響力を利用して台湾を懲らしめようとしていることも、経済関係の見直しを促す要因となっている」 

    台湾の人々は、「台湾人」と称する比率が高まっている。本土との一体感は落ちているのだ。その上、中国が台湾へ科す制裁が逆効果になっており、台湾の関心は「脱中国」に向わせている。習氏の政策的失敗である。 

    (4)「中国は、パイナップルなどの台湾産農産物の輸入を禁じ、2022年には高級魚ハタも禁止対象に加えたほか、観光目的の台湾渡航を制限している。こうした規制は若干裏目に出ており、台湾企業は中国以外に目を向けるようになっている。米国と台湾は5月、関係深化のための多くの貿易・投資措置で合意した。ただ関税の引き下げには至らなかった。S&Pグローバルのデータによると、4~6月期(第2四半期)にはTSMCの売上高全体に占める米国での売上高の割合は63%となり、2018年同期の54%から上昇した。中国が占める割合はわずか12%で、2018年同期の22%から下がった」 

    中国が、台湾パイナップルの輸入を禁止したことで、日本などが同情して輸入を増やしたこともあり、結果は無傷であった。これにより、台湾パイナップルは逆に市場を拡大するきっかけになった。中国の対応は、感情的過ぎて反感を買うのだ。

     

    (5)「台湾政府はまた、東南アジア・南アジア・オーストラリア・ニュージーランドとの緊密な経済連携を奨励している。政府が2016年に打ち出した「新南向政策」を巡っては台湾で激しい議論が交わされており、国民党は奨学金支給のような関係強化策はコストに見合わないと批判している。台湾の王美花経済部長(経済相)は「率直に言って(貿易相手国の多様化を進める必要性に)受動的に対応している」と述べた。「台湾は自力でリスクを管理しなければならないが、同盟国にもこうしたリスクの軽減にもっと協力してもらう必要がある」と指摘。データ会社CEICによると、2023年7~9月期の台湾の輸出のうち米国および東南アジア6大経済国向けは36%を占め、中国本土・香港向けを上回った。四半期ベースでは2002年以来のことだった 

    下線部のように、今年7~9月期の輸出では中国本土や香港向けが、米国やASEAN(東南アジア諸国連合)などを下回る事態になった。ASEANは、中国企業が進出していることも影響している。事態は、大きく変わってきた。

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    韓国は、半導体ファンドリー(受託生産)市場で日本の進出に警戒感を強めている。日本は、半導体装置や半導体素材で高いシェアを占めるだけに、総合力で韓国へ迫るという警戒感だ。特に、日本は台湾半導体と強い関係を持つだけに、急速にキャッチアップするものと見ている。韓国の産業研究院は最近発行した「未来戦略産業ブリーフ」で、「25年には、台湾、韓国、米国、27年には日本を含むファウンドリー4強体制になるだろう」と予想しているほどだ。

     

    『朝鮮日報』(3月5日付)は、「半導体素材大国の日本、台湾と手を組み復活する」と題する記事を掲載した。

     

    1月末に東京で取材に応じた英系調査会社オムディアの南川明シニアコンサルティング ディレクターは、「日の丸半導体は単独では復活できないほど台湾、韓国、米国に後れを取っている」とし、「日本は台湾との半導体同盟を通じ、再び世界のサプライチェーンで重要なポジションを占めることになる」と述べた。

     

    (1)「1980年代に世界最大の半導体生産国だった日本が、台湾積体電路製造(TSMC)との協力をきっかけとして、過去の栄光の再現に取り組むというのだ。南川氏は30年余りにわたり、東京、香港、台湾のガートナー、IDCジャパン、HIS、オムディアなどの市場調査会社で一貫して半導体を研究してきた日本の代表的なアナリストだ。南川氏は「TSMCは現在熊本に日本で初の工場を建てており、近いうちに第2工場の検討に入る」とし、「長期的には日本と次世代半導体技術を共同開発する段階まで行くだろうし、真の同盟はそこからだ」と話した」

     

    日本が、先端半導体生産目的で「ラピダス」を設立した。将来は、TSMCと共同開発して日台半導体同盟を作る、としている。

     

    (2)「南川氏は、「日本は半導体設備では世界シェア35%で、米国(40%)に次ぐ2位であり、半導体素材は55%を占める世界首位だ」とし、「日本の設備・素材企業が(サムスン電子より)TSMCを優先して技術開発に協力すればウィンウィンになる」と話した。また、「日本の弱点は半導体工程エンジニアが非常に少ないことだが、TSMCの半導体工場で日本の半導体人材が育成されるだろう」と指摘した」

     

    日本は半導体設備で世界シェア35%の2位、半導体素材は55%で世界首位である。これらを基盤にして、先端半導体へ頭角を現せば、半導体総合力で世界トップになれる。

     

    (3)「半導体が、世界の安全保障で重要要素として浮上したことも、日本の半導体復活にはチャンスだという。南川氏は「米国は長い間アジアの安保戦略で日本を最も重要な戦略的パートナーと考えてきた。半導体サプライチェーン戦略でも同じだ」とし、「米国のそうした政策を背景に、日本と台湾は強い協力関係を深めている」と述べた。南川氏は、「台湾のTSMCと米国のIBMが日本で日本企業と共同プロジェクトを行うのもそうした理由からだ」と話した。米IBMは日本で新たに設立されたラピダスと次世代の2ナメートル製造プロセスの共同研究を推進する

     

    日米台の「半導体三角同盟」は、世界最強の実力を備える。ラピダスは27年には次世代半導体「2ナノ」の量産化に着手する。そのときは、日本の産業構造を大きく前へ進める原動力になるはずだ。日本人が、再び自信を持つであろう。

     

    (4)「TSMCとサムスン電子のファウンドリー競争については「格差が大きい」とした。南川氏は「最先端半導体分野ではTSMCが90%のシェアを確保しており、TSMCは規模の経済を利用して生産ライン1本当たり12種類の半導体を集中生産するのに対し、サムスン電子はライン1本当たり数十個の半導体をローテーションで生産している」とした上で、「競争力の核心である収率はTSMCが80%であるのに対し、サムスン、インテルは50~60%水準だ」と指摘した」

     

    TSMCの収率が80%と高い裏には、日本製の半導体素材が使われているという「隠れた事情」がある。TSMCが、日本で研究所を開設した理由は、さらに日本企業と密接になろうという狙いだ。日台半導体同盟が結成される背景には、こういう協力関係が存在する。 

     

     

     

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