南太平洋に浮かぶミクロネシアが、中国へ「三下り半」をつきつけた。中国が約束した財政支援を実行しないので、代わりに台湾から5000万ドルの支援を受けるというもの。
中国は、「一帯一路事業」で世界中に援助の看板を立ててきたが、多くは「空手形」に終わっている。東欧諸国でも、「反中国」の動きが強まり、台湾を外交相手に選ぶという事態を招いている。中国の財政事情が急迫しているので、他国まで資金の面倒を見ることができないという「台所事情」によるものと見られる。
ミクロネシアは、1986年から2001年までの15年間、米国から財政支援を受ける一方で、国防と安全保障の権限を米国に委ねている。2004年から2023年までの20年間、引き続き米国が財政支援を行うこととなっている。このように、米国と密接な関係を持っている間柄である。中国が、ここへ「財政援助」を振りかざして接近したが、肝心の「資金不足」で実行できず、ミクロネシアから「縁切り宣言」をされたと見られる。
『ロイター』(3月10日付)は、「ミクロネシア、台湾との外交樹立を協議 中国に不満―大統領」と題する記事を掲載した。
太平洋の島国であるミクロネシア連邦(FSM)は、中国への不満から、中国の代わりに台湾と国交を結び、5000万ドルの援助を受けることについて2月に台湾側と協議した。退任するパニュエロ大統領が書簡で明らかにした。
(1)「太平洋の島々における安全保障上の影響力を巡る米中の緊張は高まっており、パニュエロ大統領は太平洋の島嶼国10カ国との安全保障・貿易協定を締結しようとする中国への批判の急先鋒だった。大統領はロイターが確認した州知事宛の書簡で、2月に台湾の呉釗燮(ジョセフ・ウー)外交部長(外相)と会い、中国から台湾への外交シフトについて議論したと説明。「われわれの将来のニーズを満たすには約5000万ドルの注入が必要だと見込んでいる。台湾と国交を樹立すれば3年間でこの資金を得ることが可能で、そうするつもりだ」と記した。また、「台湾側は、中国が現在進めているあらゆるプロジェクトを引き継ぐと保証している」とも書いた」
ミクロネシアの主要産業は、水産業、観光業、農業(ココナッツ、タロイモ、バナナ等)。GDPは、4億1000万ドル(2020年:世界銀行)、1人当たり国民所得は3950ドル(同)というこじんまりした国である。日本とも密接な関係を持っている。このミクロネシアにとって、5000万ドルの資金援助は貴重な金額である。
(2)「大統領は、台湾の支援により、「われわれの主権を損ない、価値観を否定し、わが国の選挙で選ばれた高官を自らの目的に利用する中国から距離を置くことになり、安全保障が大幅に強化される」と付け加えた。台湾からは暫定的に年間1500万ドルの支援策が提示されたという。ミクロネシア連邦大統領府の広報担当者はコメントを控えた。台湾外交部は、他国との接触についてコメントできないとしながらも、中国の「口先の約束」に比べ、台湾は常に「実務外交、相互利益、『台湾は支援可能』」の精神を堅持してきたと表明。将来的に、台湾モデルを用いてミクロネシアの発展を支援する考えを示した」
下線部は、中国への痛烈な批判である。中国がミクロネシア高官に対して、侮辱的な振舞があったのだろう。資金援助の約束も果たさず、上から目線の中国に愛想を尽かして、台湾と外交関係を結ぶという主旨である。
(3)「一方、中国外務省の毛寧報道官は、パニュエロ氏の書簡に関する報道について「中国に対する中傷や非難は事実とまったく矛盾している」と発言。誰が政権を握ろうとも、中国は「一つの中国」の原則に基づき、相互尊重、平等、互恵の原則を堅持すると述べた」
中国は、ミクロネシア側の言分を否定している。昨年まで、中国は外交部長官を南太平洋諸国へ派遣して、「親中色」に変る思惑を見せていた。それが、こうしたミクロネシアの反論がでてきたことで、試みは失敗したのかも知れない。