オランダ政府は、安全保障上の問題を理由にネクスペリアを管理下に置くと決めた。同社は中国の電子機器大手、聞泰科技(ウィングテック)の傘下にある。これに対抗して、中国政府は中国で生産するネクスペリア製品へ輸出規制をかけた。ネクスペリアは、最終製品の8割を中国で生産しており、日本などの顧客企業に一部製品の出荷制限・停止を通告した。
オランダ政府は、経済安全保障を理由にして同国のネクスペリアを管理下に置くと決めたが、これに反発する中国が中国で生産するネクスペリア製品へ輸出規制をかけたもの。これにオランダ政府が反発して、ネクスペリアが中国工場向けのウエハー供給を停止したことで、事態がエスカレートしている。
『ブルームバーグ』(10月31日付)は、「ネクスペリア、中国工場へのウエハー供給停止-生産への影響深刻化」と題する記事を掲載した。
オランダの半導体メーカーのネクスペリアは、中国工場の経営陣との対立を受け、同工場へのウエハー供給を停止した。対立は、欧州をはじめとする自動車生産に影響を与えており、さらに深刻化しそうだ。
(1)「ネクスペリアは今週、中国・東莞工場へのウエハー供給を停止すると顧客に通知した。同工場は、世界最大級の半導体製造拠点で、これまではネクスペリアの生産量の約半分を担っていた。同社広報は「現地管理部門が合意した契約条件を順守していないため」、顧客に問題を通知したとして、「全ての契約上の義務が再び完全に履行され次第、出荷を再開する」とコメントした。オランダ政府は10月、中国の電子通信機器メーカー、聞泰科技(ウィングテック・テクノロジー)がネクスペリアの経営を妨害し、主要部品の供給を脅かす恐れがあるとして、同社を接収した」
ネクスペリアは、自動車・家電向けの旧世代半導体である。だが、電子制御ユニットなどに使用される重要部品であり、供給停止が長期化すれば、世界的な自動車生産の不安定化が避けられなくなった。
中国政府は、ネクスペリアの製品を輸出規制の対象に指定したので、 欧州との対立が半導体供給網の地政学的分断を加速させている。この問題は、中国が進める「半導体自立」戦略にとって技術・資材・信頼の三重苦となり、
EV・IoT・AIの各分野の成長に影響すると懸念されている。オランダ政府と中国政府の対立は、中国の半導体自立戦略の再設計を迫る問題を孕んでいる。
(2)「ウィングテック創業者で、ネクスペリア最高経営責任者(CEO)を務めていた張学政氏も、ネクスペリアから職務停止処分を受けた。中国政府は反発し、同社の中国国内施設からの輸出を禁じた。ウィングテックは、中国からの供給再開には、張学政氏のCEOに復職が条件と主張している。これに対し、オランダ経済省報道官は、声明で「張氏の行動は、ネクスペリアにおける生産能力と知識、知的財産の継続性に差し迫った脅威をもたらした」と反論した。また、張氏は「私的な利益や自分が中国に保有する他の企業の利益のために、ネクスペリアの金融資源を不正に流用した」動きも取っていたとしている」
この問題は、オランダと中国の地政学的対立の表れである。ネクスペリア製品は、代替が難しく、短期的な調達先の確保が困難とされている。
(3)「対立による供給混乱は、既に欧州に影響を及ぼしており、主要サプライヤーがフォルクスワーゲンやBMWなどの大手自動車メーカー向け部品の生産を抑制している。匿名を希望する関係者によると、自動車部品メーカーのZFフリードリヒスハーフェンは、主力の電気駆動装置工場でシフトを削減した。重要な部品の供給がひっ迫しているためだ。ZFはメルセデス・ベンツ、ステランティス、フォードなど主要自動車メーカーの大半に部品を供給している。ZFの広報は、質問への回答として「顧客やサプライヤーと連携し、ネクスペリア製品に依存するサプライチェーン(供給網)の安定維持と代替調達先の評価に取り組んでいる」とだけコメントした」
ドイツの自動車部品メーカーに大きな影響が出ている。自動車部品メーカーのZFフリードリヒスハーフェンは、メルセデス・ベンツ、ステランティス、フォードなど主要自動車メーカーの大半に部品を供給している。
(4)「ドイツ南部シュヴァインフルトにあるZFの工場は約8000人を雇用し、同社にとって世界で最も重要な拠点の一つだ。電気モーターや、内燃機関車と電気自動車(EV)の両方に使用されるシャシーや駆動系システムも生産している。別の独自動車部品メーカー、ロバート・ボッシュもザルツギッター工場での労働時間短縮を準備している。同工場は電子制御ユニットを製造しており、操業を維持するには部品の継続的な供給が必要だ」
今回の問題は、米中技術摩擦の延長線上にある地政学的断裂ととらえられている。 日本企業も、サプライチェーンの再構築と調達先の多様化を迫られている。こうした事態の発生によって事実上、中国と西側諸国との間には「デカップリング」(分断)が始まるであろう。中国が,市場を失うという意味である。


