勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 英国経済ニュース時評

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    ウクライナ侵略戦争は、英国がウクライナを交渉面で支えている。その黒子役が、英国スターマー首相特別補佐官を務めるパウエル氏だ。ブレア元首相の首席補佐官を10年にわたり務め、北アイルランドの和平交渉において果たした役割で政界の敬意を集めている。北アイルランドの強硬派との水面下での協議は、1998年のベルファスト合意につながった。英国と北アイルランドとは、30年間にもわたる紛争であったが、パウエル氏は北アイルランドとの交渉をまとめたもの。

    この和平交渉のノウハウが、ウクライナ和平交渉で生かされると期待されている。トランプ米大統領は12日、ウクライナが受け入れた米国提案の一時停戦について、「今はロシア次第だ」と述べた。「ロシアにとって経済的に非常に悪いこともできる」とも語り、一時停戦に応じない場合は追加の経済制裁も排除しない姿勢を示している。

    『フィナンシャル・タイムズ』(3月13日付)は、「米ウクライナ協議、陰に北アイルランド和平の立役者」と題する記事を掲載した。

    英国のスターマー首相が米国とウクライナによる協議の「素晴らしい進展」を称賛すると、首相周辺はすぐさまジョナサン・パウエル氏が舞台裏で果たした重要な役割を強調した。同氏は、北アイルランド紛争の和平合意の立役者として知られるブレア政権時代のベテランだ。


    (1)「スターマー政権で首相補佐官(国家安全保障担当)を務める米ウクライナ協議の完全な決裂から数日後、橋渡しの任務を託された。ブレア元首相の首席補佐官を10年にわたり務めたパウエル氏は、北アイルランドの和平交渉において果たした役割で政界の敬意を集めている。北アイルランドの強硬派との水面下での協議は、1998年のベルファスト合意(聖金曜日合意)につながった」

    パウエル氏は、30年も続いた英国と北アイルランドとの紛争をまとめた手腕が高く評価されている。この手腕が、ウクライナ和平交渉で生かされようとしている。

    (2)「スターマー氏は、3月15日に約20カ国の首脳が参加して開かれる「有志国連合」のオンライン会議を主催するが、(停戦後に派遣する)英仏主導のウクライナ平和維持部隊に対する米国の軍事支援を取り付けようとパウエル氏の力に頼った。これもまた気の遠くなるような任務だ。既にパウエル氏は海外を飛び回り、必要な根回しの多くを終えていた。ここ数カ月の間に何度も大西洋を越え、米国のウォルツ大統領補佐官(国家安全保障担当)をはじめとするトランプ政権の高官と面会していた」

    パウエル氏は、謙虚でユーモアがある人柄を生かして、難解な外交交渉を解決に導いている。名仲裁役なのだろう。


    (3)「パウエル氏は3月上旬に、ウクライナの首都キーウ(キエフ)を訪問した。同国のゼレンスキー大統領とイェルマーク大統領府長官と会談し、ウクライナと米国の溝を埋める提案の文書作成に取り組んだ。英政府関係者によると、協議では停戦と信頼醸成措置が重点的に話し合われた。これには捕虜の交換や拘束された民間人の解放、子どもたちの帰還が含まれていた。ウクライナ側は、鉱物資源を巡る米国との協定に署名することにも同意した。ゼレンスキー氏が、トランプ氏に頭を下げて米国の支援に感謝し、英当局者らが「これ以外にない」と認める米国の和平案を受け入れることになった」

    ウクライナが受け入れた和平案は、「これ以外にない」とされる。詳細は不明だが、ウクライナの要求も盛られているのであろう。

    (4)「パウエル氏は、14日に再び米ワシントンに飛び、ウォルツ氏と会談する。ウクライナの恒久的な平和を確かなものにするために、トランプ政権が安全保障上の「バックストップ(安全装置)」の役割を果たさなければならないと説得を試みる。目指すのは、停戦を段階的な交渉につなげ、最終的には英仏などの国際部隊が係争地から離れた戦略的要衝で平和の保証に協力することだ。パウエル氏は14日、欧州諸国の政府高官とともにウォルツ氏と計画について協議する」

    30日間の停戦を段階的な交渉につなげる。最終的には、英仏などの国際部隊が係争地から離れた戦略的要衝で、ウクライナ平和の保証に協力するとしている。これを、14日に米国と協議する。


    (5)「スターマー氏は、米国の情報と監視、航空支援がなければ(平和維持活動に当たる)欧州部隊はロシアのプーチン大統領がウクライナを「再び」侵略することを抑止できないと警告している。だが、現時点でトランプ氏は応じる構えを見せていない。ただ、ここまでたどり着いただけでも外交上の成果だ。2月末の米ホワイトハウス大統領執務室でのゼレンスキー、トランプ両氏の会談が決裂に終わった後、英政府内では和平の展望について絶望感が漂っていた。「彼は愚かにも罠(わな)に落ちた」とある英政府関係者は話す。ゼレンスキー氏は、感謝と甘言でトランプ氏を抱き込むべきだという英仏の助言に従わなかったという。協議の決裂以降、パウエル氏はダメージの修復に向けてゼレンスキー氏に助言してきた」

    パウエル氏は、ゼレンスキー氏に対して米国との関係復活について助言をしてきた。トランプ氏は、上機嫌でこれを受入れた。パウエル氏は、四方八方を丸く収める人物のようである。

    (6)「パウエル氏は、14日のワシントンでのウォルツ氏との会談に独仏も参加する。パウエル氏の経験が極めて重要と目されている。パウエル氏の控えめな姿勢が、その外交において強みとなっている。ブレア政権時代、首席補佐官だったパウエル氏と仕事をした元政策秘書官のジョン・マクターナン氏は、北アイルランド和平プロセスでパウエル氏が果たした極めて重要な役割について振り返り、「彼は有能であるのと同じくらい控えめだった」と語る。パウエル氏の「政治的な頭の良さ、ユーモア、謙虚な人柄に外交の経験が加わった。それがこんなに素早く、これほど大きな影響を生み出せた理由だ」とマクターナン氏は付け加えた」

    パウエル氏が、ウクライナの全権を担う形で米国と交渉している。独仏も米国のウォルツ氏との会談に出席するが、介添え役に止まる。パウエル氏への信頼感が100%滲み出ている。




       

    昨年12月末、秋田県の能代港(能代市)で大規模な洋上風力発電所が稼働した。風車の数は20基。大型の風車を複数基束ねて動かす大型施設として国内初だ。発電量は、一般家庭約13万世帯分にあたる約14万キロワットになる。日本でもいよいよ洋上風力発電時代を迎えた。

     

    洋上風力発電は、経済的な連携効果が大きい。発電は当然として、発電装置での部品需要が地元企業に生まれること。これは、新規雇用を生むほか、発電装置を支える海中のコンクリートブロックが、魚礁になることで漁業者にもメリットになるなど、地元経済を潤す。まさに地域経済活性の切り札として期待されるビジネスとして登場した。

     

    こういう環境下で英国政府が、日本へ洋上風力発電所事業の連携打診を行なった。日英連携によりアジア地域で展開しようという大掛かりな構想である。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月20日付)は、「『アジア太平洋で洋上風力発電』日英連携に意欲、英特使」と題する記事を掲載した。

     

    英国のグレッグ・クラーク対日貿易担当特命大使は17日までに都内で日本経済新聞の取材に応じ、英国が輸出に力を入れる洋上風力発電で「日本と連携すればアジア太平洋地域でリーダーシップを発揮できる」と語った。日本と水深が深い海でも使える「浮体式」の開発や運営・管理で協力することで、同地域への普及を加速できるとの考えを示した。

     

    (1)「英国は世界最大級の洋上風力発電国で、2021年には発電量全体の約1割を洋上風力発電が占めた。日本は周辺に浅い海が少ないため、世界で主流の「着床式」ではなくより高度とされる浮体式の技術に強みを持つとされる。クラーク氏は「日英にとって自動車に次ぐ新たな産業協力の分野になりうる」と主張した。英国は欧州連合(EU)を離脱してからアジア地域への関与を強める「インド太平洋への傾斜」を中核戦略として据えており、クラーク氏はフィリピンや台湾でも「ビジネスチャンスが大きい」と述べた」

    英国が、日本へ積極的なアプローチをしている。米同盟国の中で日英が二大同盟国とされており、英国の日本への期待が一段と高まる。第6世代戦闘機の「グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)」は、日英伊三カ国の共同開発だ。24年までに基本設計を固め、35年の実戦配備を見込んでいる。戦闘機の共同開発は、40~50年間もの長期にわたるビジネスになるので、日英関係は強固なものになる。

     

    (2)「新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻を機に、各国でサプライチェーン(供給網)の見直しが進むなど経済安全保障への関心が高まっている。クラーク氏は「日本は供給網の多様性の観点で非常に重要」と強調した。日英がイタリアと共同で開発に取り組む次期戦闘機のような「高度な国と国とのハイレベルな防衛産業」から小規模な産業分野まで幅広い分野での協力に期待を寄せた」

     

    日本の製造業は裾野が広いことから、洋上風力発電のようなビジネスに好適である。地域に根ざすビジネスだけに、地域経済活性化に大きく寄与する。これをアジア全体へ拡大すれば、日本にとってはまたとないチャンスであろう。

     

    (3)「米国は人工知能(AI)や半導体の分野で中国を規制する動きを強めている。英国では21年に安全保障上の重要なインフラや防衛などの産業で、外国からの投資を規制する法律が成立している。クラーク氏は「必要であれば特定の投資を除外する権利を行使する」と述べるにとどめ、特定の国への言及を避けた。年内にも加盟するとみられる環太平洋経済連携協定(TPP)の加盟交渉については「非常にスムーズに進んでいる」と早期加盟に自信を示した」

     

    英国は、今年中にTPP加盟が実現する。TPPの盟主格の日本にとっては、英国との協業は効果を生む。

     

    『日本経済新聞 電子版』(3月10日付)は、「大和、英洋上風力発電に出資 数百億円規模」と題する記事を掲載した。

     

    大和証券グループ本社は10日、英国の洋上風力発電所ホーンシー・ワンに出資すると発表した。英インフラファンドから持ち分の一部を数百億円で取得する。大和として洋上風力発電への出資は初めて。再生エネルギー関連での投資では同社で過去最大規模になる。大和は大規模太陽光発電所に出資するなど再エネ事業への取り組みを強化している。

     

    (4)「ホーンシー・ワンは、デンマークのオーステッドが英国の海域で開発を進める洋上風力発電プロジェクト。174本の風力発電タービンで原子力発電所1基分に相当する1.2ギガワットの発電容量がある。大和の担当者によると、設備は既に稼働しており「売電により安定的な収益が見込める」という」

     

    大和証券が、英国の洋上風力発電所ホーンシー・ワンに出資する。数百億円規模という。証券会社が、出資したことで日本での洋上風力発電への関心は高まることは確実だ。海洋国家日本が、新たなエネルギー開発と雇用増加に向けて動き出している。

     

     

     

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