中国の補助金政策が限界
ITからEVへの乗換え
魅力的クルマづくりが鍵
EU不退転の決意で抑制
中国とEU(欧州連合)の関係に、大きな問題が起りそうな気配になってきた。EU委員会(行政執行機関)は9月13日、輸入急増の中国製EV(電気自動車)が、政府補助金を受けていることを理由に関税導入の是非を調査することを決めたからだ。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長は、中国EVが「巨額の国家補助金によって価格が人為的に低く抑えられており、われわれの市場をゆがめている」と欧州議会で述べて、調査開始を発表した。「EU域内に起因するこうした歪みをわれわれが受け入れることはない」と指摘した。フォンデアライエン委員長の発言は、EUが断固として中国EVの「歪んだ価格」を受け入れないという意味である。
調査は、最長9カ月を要する可能性があるという。米国が、中国EVにすでに課している27.5%水準に近い高い関税率が適用され可能性も指摘されている。これが現実化すれば、中国EVは主要輸出先を失うことになりかねない重大事態だ。
中国商務省がウェブサイトに14日掲載した声明で、中国はEUに対しEV産業のために公平で差別のない予測可能な市場環境を生み出すため対話を行うよう求めた。同時に、EUによる今後の行動を注視し、中国企業の権利と利益を断固として守ると警告する事態になった。一触即発の雰囲気である。
中国の補助金政策が限界
中国は、EVに対して國を挙げての育成方針をとってきた。ガソリン車では、精巧なエンジン製造が難しくとうてい先進国に対抗できない。だが、EVであれば製造部品は大幅に減少できるので、輸出で主導権を握れるとの計算が働いてきた。このため、地方政府はEVと聞けば内容を精査することもなく、工場建設段階から補助金を出す大盤振る舞いをしてきた。
中国政府は、他の製造業についても同様に生産過程から補助金を出している。米国上場の中国企業への監査でも、長いこと「原簿調査」を拒んできた。それは、「補助金」が計上されているからだ。あのファーウェイですら「補助金」が記載されているほどである。この問題は、米国の強い態度で監査を3年拒否すれば上場廃止という決定に折れ、中国が「原簿監査」を認めることになった。
以上のように、中国企業と補助金問題は切っても切れない関係にある。欧州委によると、欧州で販売されるEVに占める中国のシェアは、2019年の0.5%が21年には3.9%へ急伸。23年1〜7月には8.2%まで伸ばしている。2025年には15%に達すると予想されているほどだ。これほどまでに急増する裏には、政府補助金がテコになっているとみられている。
さらに、欧州で実際に販売される中国車のうち9割近くが、上海汽車集団が買収した英国車の老舗ブランド「MG」など欧州企業名を冠している。欧州名門ブランド名を利用することで、実態以上に欧州市場で影響力を及ぼしているのだ。こうなると、EUとしても危機感を持って当然であろう。
中国から輸入されるEVは、EU域内で製造された車種よりも価格が約20%低く設定されているという。これは、中国がEV電池に使われるリチウムの世界精製シェアで65%を占めていることも影響している。この結果、EV電池は他国での製造コストよりも10%は安いと計算されているのだ。米国のEVメーカーのテスラが、上海工場から輸出しているのは「安いリチウム電池」のメリットを享受するためだ。
コンサルティング会社アリックスパートナーズによると、EVとハイブリッド車に対する中国政府の補助金は、16~22年で570億ドルに達した。その結果、中国は世界最大のEV生産国となり、今年第1・四半期には日本を抜いて最大の自動車輸出国になったと報じられている。
補助金の乱発は、1台のEVも市販することなく消滅しようとしている企業を生んでいる。4〜5年前、中国の新興EVメーカーの先頭集団にいた奇点汽車(会社名は智車優行科技)が先頃、破産の判決を受けたからだ。6月30日、江蘇省蘇州市相城区の裁判所は、奇点汽車研発中心に対する債権者の破産申し立てを受理した。こういう信じがたい例も出てくるほど、中国はEVを救世主として扱っている。
ITからEVへの乗換え
中国のインターネット大手は過去10年間、ハイテク経済の大部分をけん引した。今はEVや車載電池のメーカーが主役を引き継ぎつつある。EVが、インターネット大手から技術者を受け入れており、中国を代表する産業へと成長している。
中国の自動車メーカーは、ドイツ自動車大手フォルクスワーゲン(VW)や米半導体大手インテルから出資を受け入れて事業を急速に拡大している。中国EV最大手の比亜迪(BYD)は、今年6月までの1年間に従業員数を50%以上増やし、63万人超とするほどの急成長ぶりをみせている。(つづく)
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