北大西洋条約機構(NATO)のイェンス・ストルテンベルグ事務総長は、この10月に10年の任期を終えて退任する。ストルテンベルグ氏は、欧州に対してウクライナ戦争が10年間は続くものと覚悟する必要があると英国BBCへ述べた。欧州が、長期戦でも戦い抜く覚悟を決めることが、逆説的だが早期に戦争を終結させると指摘。戦費は、接収したロシア資金の年間利息分500億ドルを充当する。
『BBC』(7月19日付け)は、「欧州は10年続くウクライナ戦争を覚悟すべきとNATO事務総長」と題する記事を掲載した。
今年10月に退任するストルテンベルグ事務総長は、ウクライナでの戦争が10年以上続く懸念はあるかという質問に、「ある」と答えた。そのうえで、「しかし大事なのは、ウクライナ支援を強化し、長く支援し続ける意思があれば、その方がこの戦争は早く終わるということだ」との見方を示した。
(1)「ストルテンベルグ氏は、「逆説的だが、(ロシアの)プーチン大統領は、我々がこの戦争から撤退するのを待てると考えている。だから戦争が続いている」。「だからこそ、我々がじっくり腰を据えてウクライナを、強力に忍耐強く支援する用意があると明確に発信すれば、ウクライナが独立した主権国家として永らえるための解決に至る条件が整う」
ストルテンベルグ氏は、ウクライナ支援を強化することで、ロシアへ欧州の決意をみせなければならないと強調する。
(2)「NATOはこの間、ウクライナ支援を調整する指揮部隊を9月からドイツで稼働させると発表している。「これによって事態の予測可能性が高まり、責任も明確になり、支援も増強できる。NATOが今後じっくりウクライナを支えるつもりだと、明示することになる」と事務総長は説明した。「今こそ自由と民主主義のために立ち上がる必要があるし、その場所はウクライナだ」と強調した」
NATOは、ウクライナ支援を調整する指揮部隊を9月からドイツで稼働させると発表している。欧州が、長期戦を覚悟してウクライナを支援する姿勢を明確にする。
(3)「他方でドイツはこの間、ウクライナへの軍事支援を来年度、ほぼ半減させる予算案を承認した。現在の約67億ユーロ(約1兆1457億円)から約34億ユーロ(約5814億円)に減らす見通し。ドイツのクリスティアン・リントナー財務相は、凍結したロシア資産の利子から500億ドル(約7兆8500億円)をウクライナが受け取ることで主要7カ国(G7)が合意していることから、ウクライナの資金繰りは「当面は安泰だ」と述べている」
欧州最大の経済大国ドイツは、ウクライナ支援を半減させるが、凍結したロシア資産の利子から500億ドルで代替させる。これで、財政負担は軽減させる。ロシアは、皮肉な結果になった。ロシア凍結資金の利息で、ロシアが攻められる事態になるからだ。
(4)「ウクライナへの支援をめぐっては、11月の米大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領が勝利すれば、アメリカからの資金が削減または停止されるかもしれないとの懸念が欧州で出ている。副大統領候補に、共和党内でも特に孤立外交主義傾向の強いJ・D・ヴァンス上院議員を選んだことからも、この懸念が高まっている。ヴァンス議員はかつて、「ウクライナがどうなろうと実際かまわない」と発言している。アメリカの対ウクライナ支援を声高に批判してきたヴァンス議員は、今年2月のミュンヘン安全保障会議で、アメリカは東アジアに政策の重心を「転換」しなくてはならず、そのことに欧州は目覚めるべきだとも述べている」
米国は、11月の大統領選しだいで共和党のトランプ氏復帰があり得る。副大統領候補のヴァンス上院議員は、トランプ氏ともどもウクライナ支援に反対している。
(5)「こうした状況でストルテンベルグ事務総長は、「強いNATOはアメリカの国益にかなう」ため、アメリカはNATOに残るはずだと自信を示した。「アメリカでは連邦議会だけでなく世論調査でも、超党派でNATOを強く支持している」と事務総長は述べた。トランプ政権が復活した場合、NATOの資金が減るのかという質問には、「アメリカとNATOの関係についてどう考えるとしても、我々は自分たちの防衛に投資を拡大することが正しい対応だ」と事務総長は言い、「第一に、そうすればアメリカが強力な同盟国であり続ける可能性が高まる」と説明した」
NATOは、防衛費を拡大しており「強いNATO」へと転換している。米国にとっても、強力な同盟国であり続ける可能性を高める。
(6)「ストルテンベルグ氏は、「第二に、何か本当に悪いことが起こった場合に備えて、ヨーロッパとカナダの防衛力を強化しておくべきだ」と指摘。欧州の同盟諸国の防衛支出が不十分でアメリカに依存しすぎているというトランプ前大統領の批判は「全く正しいし妥当」だったと評価した。ただし、「今の状況は当時から変わった」とも説明した。NATO加盟諸国はそれぞれ、2024年までに、自国の対国民総生産(GDP)比で少なくとも2%を防衛費に充てると約束している。32加盟国のうち今年その目標を達成したのは23カ国。防衛費が対GDP比2.3%に達したイギリスも、そこに含まれる」
NATO加盟32ヶ国のうち23ヶ国は、24年までに国防費を対GDP比2%へ引上げる。英国は、2.3%へ達した。