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IMF(国際通貨基金)のゲオルギエバ専務理事は4月6日、世界経済がこれから数年にわたる低成長期に陥るとの警告を発した。ソ連が、崩壊した1991年以来の「平和の配当」時代は終わり、米中対立と地政学リスクが世界経済を覆うという暗い見通しだ。

 

ロシアのウクライナ侵攻は、これまで忘れていた他の地政学リスクを呼び覚ます形となった。中国の台湾侵攻リスクである。これが、サプライチェーン中国の位置づけをにわかに揺さぶっている。外資企業の「脱中国」である。従来の「グローバル経済」を否定する動きが、一気に吹き出した格好だ。これに、米中対立の重圧が加わってくる。世界経済は今後数年間、低成長期に入る。これが、中国経済に大きな負荷を与えるのは決定的である。

 

『フィナンシャル・タイムズ』(4月7日付)は、「世界経済、数年間は低成長に直面 IMF専務理事が警鐘」と題する記事を掲載した。

 

国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は6日、世界経済が数年にわたる低成長に直面し、中期的な経済見通しとしては30年以上の中で最も弱いと警鐘を鳴らした。

 

(1)「ゲオルギエバ氏は来週開催されるIMFと世界銀行の春季総会を前に米ワシントンで講演し、世界経済は今後5年間にわたって年平均3%前後で成長するとの見解を示した。この水準は、過去20年間の3.%という平均予測を大幅に下回り、1990年以降で最も低い中期的な成長予測となった。過去数十年間、グローバリゼーションは成長率を高め、何億人もの人々を貧困から抜け出させるのに貢献した。しかし貿易の保護主義が拡大し、中国のような大きな新興国が発展を遂げた中で、世界経済の拡大ペースは鈍化するとみられている」

 

IMFは、世界経済が今後5年間で年平均3%前後の成長率にとどまるという見通しである。過去20年間の平均成長率は3.%であった。これと比べると、今後5年間の成長率は低くなるのは明白だ。これは、ゼロコロナ政策からの病み上がり中国経済にとって、暗いニュースであることは間違いない。

 

(2)「ゲオルギエバ氏は、来週開催される会合で予想される議題を示しつつ、成長を阻害する主な要因として、世界経済の分断と地政学上の緊張を挙げた。ロシアのウクライナ侵攻について、ゲオルギエバ氏は罪のない人々を苦しめるだけでなく、生活費の危機を一段と深刻化させ、世界中にさらなる飢えをもたらすと指摘した。過去30年間享受してきた平和の配当を消し去り、貿易と金融の摩擦を増大させるリスクもある。同氏は「力強い成長への道に回帰するのは難しく、不透明だ。私たちを結びつけるロープは、ほんの数年前よりも弱くなっているかもしれない」と付け加えた」

 

ロシアのウクライナ侵攻は、世界が過去30年間享受してきた平和の配当を消し去った。いつになれば平和になるのか。その見通しもつかない状況である。これが、さらにアジアへ飛び火する事態となったら地獄同然となろう。

 

(3)「IMFとして、経済協力開発機構(OECD)やその他の国際機関が中央銀行に今後数四半期にわたって高い政策金利を維持するよう求めていることを支持した。ゲオルギエバ氏は、インフレの克服は、中期的な景気動向を改善させるために欠かせない基盤だと強調した。同氏は米銀シリコンバレーバンクの経営破綻とクレディ・スイスの救済について「特定の銀行におけるリスク管理の失敗と、監督当局の過失を露呈した」と述べた。そのうえで「政策立案者はここ数週間、驚くほど迅速かつ包括的に行動を取った」と付け加えた」

 

世界経済は、難しいハンドルさばきを要求されている。インフレを抑え込まなければならないからだ。同時に、金融引き締めによる金融不安は、一波が万波を呼ぶという形で拡大する危険性を抱える。

 

(4)「同氏は、さらなる金融市場の不安な動きに対しては、中央銀行が資金繰りに苦しむ銀行に潤沢な流動性を提供することで対処すべきだと指摘した。しかし、混乱が深まった場合、金融当局がこのような政策方針を諦め、利下げをしなければならないかもしれないとの認識を示した。もしそうなれば、中央銀行は「インフレと金融の安定という目標と、それぞれの政策措置の活用という難しいトレードオフ(二律背反)」に直面することになるとした。ゲオルギエバ氏は、来週発表のIMFによる最新の成長率見通しは、1月の予測からほとんど変更がないだろうと指摘した」

 

世界は、インフレ抑制と金融の安定という二つの目標を達成しなければならない。要するに、「安全運転」だ。景気が抑制的になるのは、当然の結果であろう。これから数年、世界経済が低成長を余儀なくされれば、中国経済には皮肉な巡り合わせと言うほかない。