勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: フィリピン経済ニュース時評

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    日本は戦後、太平洋戦争開戦の贖罪から外交面で一歩も二歩も引き下がる姿勢をとり続けてきた。それが、逆に中国の領土拡張的な動きを押し上げる逆効果をもたらした。中国が、二言目には日本の太平洋戦争責任に言及することにあらわれている。その日本が、西側陣営の核の一つとして中国への抑止力として立ち上がる。日本は、太平洋戦争で甚大な被害を与えたフィリピンの「僚友」として、ともに中国抑止へ動き出した。

     

    『日本経済新聞』(4月12日付)は、「日米比、原発・半導体で供給網 初の首脳会談 中国に『深刻な懸念』」と題する記事を掲載した。

     

    日米フィリピン3カ国の首脳は4月11日(日本時間12日午前)、ホワイトハウスで会談した。エネルギーや半導体など重要物資について中国に依存しすぎないサプライチェーン(供給網)をつくる。南シナ海における「中国の危険で攻撃的な行動に深刻な懸念」を共同文書に盛り込んだ。


    (1)「岸田文雄首相、バイデン米大統領、フィリピンのマルコス大統領が参加した。日米比3カ国による首脳会談は初めて。首相は会談の冒頭で「国際秩序の維持・強化に向けて同盟国・同志国との重層的な協力が重要だ」と指摘した。「インド太平洋地域の平和と繁栄のために日米比の協力のさらなる強化を確認したい」と期待を示した。日米はオーストラリアや韓国、インドといった同志国との3カ国や4カ国の枠組みを活用して国際秩序を維持する戦略を描く。フィリピンは南シナ海で中国の覇権主義と向き合う。11日の3ヶ国会談はこれまで日米比の協力の柱だった安全保障に限らず、経済面での結びつきを強めた」

     

    中国は、みすみすフィリピンを西側陣営へ追いやる結果になった。中国が約束したフィリピンへの経済援助を空手形にしたからだ。中国は、フィリピンを属国のように扱い、外交的に大きな損害を被っている。「一寸の虫にも五分の魂」を忘れた中国の振舞が、フィリピンの逆襲を招くことになった。中国は、防衛面で大きなしくじりになったのだ。

     

    (2)「中国が、経済力を背景に影響力を行使する威圧に「強い反対」を表明し、日米でフィリピンを支援しながら「強靱(きょうじん)で信頼性のある多様な供給網」をつくるとした。半導体の供給網確保へ人材を育成する。フィリピンの学生が日米の主要大学で高い水準の研修を受けられるようにする。電気自動車(EV)の電池に欠かせないニッケルを念頭にフィリピンを含めた重要鉱物の安定した供給網づくりを進める」

     

    フィリピンの工業化には、日本の広範な支援が不可欠である。人材教育のために、日米はフィリピン留学生を受入れる。工業化促進には、先ず人材養成が必要だ。フィリピンはニッケル資源保有で世界2位である。日米にとっては、貴重な資源国である。

     

    (3)「民生用の原子力に関する知識を持つ人材育成で協調する。フィリピンではIHIや日揮ホールディングスなどが出資する米新興企業のニュースケール・パワーが次世代原発「小型モジュール原子炉(SMR)」の建設を計画する。日米でフィリピンの港湾や鉄道などのインフラ整備を後押しする。首都マニラを含む地域に「ルソン経済回廊」を立ち上げる」

     

    「ルソン経済回廊」とは、ルソン島にあるスービック湾、クラーク、マニラ、バタンガスを結ぶ地域で、港湾、鉄道、クリーンエネルギー、半導体の供給網(サプライチェーン)関連のインフラを整備する。また、フィリピンの情報インフラを整備するため、オープン無線アクセス・ネットワークの技術普及支援にも乗り出す。

     

    (4)「海洋安全保障をめぐっては南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島のアユンギン礁近くで中国船がフィリピンの船舶に衝突したり、放水銃を使ったりして緊張が高まっている。

    日米がフィリピン沿岸警備隊の能力向上を支援する。今後1年以内に3カ国の海上保安機関がインド太平洋地域で共同訓練を実施する。中国が民兵や民間船を使って南シナ海の実効支配を進める「グレーゾーン戦術」に結束して対処し、抑止力を高める」

     

    中国船が、フィリピン船に向って放水するなど、無謀行為を行っている。中国の主張する南シナ海領有権は、国際仲裁裁判所から100%否定されている。中国が、南シナ海で居座っているのだ。

     

    (5)「海上防衛の協力も深める。オーストラリアを含めた日米豪比4カ国で7日に南シナ海で海上自衛隊と各国海軍による本格的な訓練を初めて実施している。共同文書では台湾海峡の平和と安定の重要性を共有した。海洋をめぐる協力を促進する協議の枠組みをつくる。沖縄県・尖閣諸島を含む東シナ海での力による一方的な現状変更の試みに反対した」

     

    マルコス政権による中国への厳しい対応は、国内世論が好意的に受け止めている。民間調査会社が23年末にまとめた全国世論調査で、南シナ海への対応を評価すると答えた人は58%にも上った。「外交を通じて領有権をさらに主張すべきだ」との意見は、7割を占めている。

     

     

     

     

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    中国の習近平国家主席は4月14日、北京でブラジルのルラ大統領と会談した。ブラジルへの投資拡大を表明し蜜月を誇示した形だ。中国は、米中対立の長期化をみすえ、南半球を中心とした「グローバルサウス」の取り込みへ野心を見ている。

     

    ブラジルのボルソナロ前大統領は、「祖国が中国に買われる」と警戒し、米欧との関係を優先した。これとは逆に1月、大統領に就任したルラ氏は「国際社会のガバナンス(統治)に変化が必要だ」と主張し、冷え込んだ中国との関係改善をめざす。背景にあるのは経済の低迷だ。インフレ抑制の高金利政策で商業や製造業が打撃を受け、22年10〜12月期のGDPは前期比0.%のマイナス成長である。

     

    両政府は環境や農業、科学技術などおよそ20の分野で2国間協定を結ぶとみられる。ルラ氏は13日、上海で通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)や電気自動車(EV)大手の比亜迪(BYD)を訪ねた。ブラジルでの投資や事業拡大を求めたもようだ。ルラ氏が、米国の規制対象となっているファーウェイをあえて訪れたのも、経済協力を引き出す狙いからとされる。『日本経済新聞』が伝えた。

     

    中国は、経済協力でブラジルを引き寄せて悦に入っている。だが、中国の「台所事情」は火の車である。一帯一路で途上国へ大量融資したが、多くが焦げ付き債権になり、債権切り捨てを迫られている。この貸付資金は、海外で借入れた資金の「又貸し」である。現に、中国の貸付金利は7%を超える(世銀首脳)非常識なものだ。日本のODA(政府開発援助)では0%台である。

     

    中国はこういう状況だけに、ブラジルへ資金援助の約束をしても不履行となろう。実は、フィリピンもこの手を食わされた国である。南シナ海の島嶼を占領されたフィリピンは、中国から資金援助の「あめ玉」をなめさせられたが、不履行に終わった。これに怒ったフィリピンは一転して、米国の中国包囲網に参加する事態を招いたのだ。ブラジルも、第二のフィリピンになろう。

     

    『日本経済新聞』(4月13日付)は、米・フィリピン 対中警戒鮮明 2プラス2 米拠点4カ所増 台湾有事対応が焦点」と題する記事を掲載した。

     

    米国とフィリピンが安全保障協力をいっそう深める。中国による南シナ海や台湾周辺での威圧行為が両国の接近を後押しした。米国は台湾有事に懸念を強めており、フィリピンからどれだけ協力を得られるかが焦点になる。

     

    (1)「米国とフィリピンは4月11日、ワシントンで外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を7年ぶりに開いた。オースティン国防長官は共同記者会見で「きょう交わした約束を通じて協力を深化させ、現代の重大な挑戦に対処する態勢を整える」と断言した。フィリピンのマナロ外相も「会談を通じて我々のパートナーシップが国際法に基づく国際秩序の維持に向けてもっと強力な役割を果たす必要があると認識した」と話し、協力強化に意欲を示した。2プラス2では米軍の活動拠点をフィリピンで5カ所から9カ所に増やす方針を確認した。有事を念頭に両国軍の役割や任務を定める防衛協力指針の策定を早期に完了すると申し合わせた。軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を年内に締結し、リアルタイムの情報交換を充実させる」

     

    フィリピンが、米軍に新たに認める4つの活動拠点は、ルソン島北部カガヤン州の2拠点を含む。ルソン島北端から台湾最南端の距離は約350キロメートルと近いのだ。米軍は即応力の向上を狙っている。これら活動拠点は、米軍が武器弾薬庫として利用可能だ。米軍が、台湾有事の際にルソン島の備蓄で即応戦ができるメリットは大きい。米比両軍は、GSOMIAを締結する。フィリピンは、軍事情報面で日韓並みの待遇になる。米比両軍が一体化することでもあろう。

     

    (2)「米国とフィリピンの安保協力の土台をつくったのはフィリピンのドゥテルテ前大統領だ。任期の大半で中国から経済援助の取り込みを期待したが空転し、政権末期の2021年11月に米国と安全保障や経済の包括協力を明記した共同ビジョンをまとめた。米ランド研究所のデレク・グロスマン上級防衛アナリストは、「ドゥテルテ氏はフィリピンの歴史で最も親中国・反米国の大統領であり、中国は絶好の機会を失った」とみる。中国が約束したフィリピンへの経済援助は滞り、南シナ海の領有権問題も進展は乏しかった。対米外交を重視するマルコス氏が22年6月に大統領に就任すると、両国の連携が加速する。推進力となったのが台湾情勢の緊迫だ」

     

    ドゥテルテ前大統領は、大変な「感情屋」である。喜怒哀楽の激しいタイプだけに、中国が約束した経済支援を怠ったことで激怒し、「反中姿勢」を明確にした。これが、マルコス氏へ引き継がれたもの。

     

    (3)「今回、米国との共同声明に「世界の安全保障と繁栄に不可欠な要素として台湾海峡の平和と安定の維持が重要だ」と明記した。フィリピンが台湾情勢について主要7カ国(G7)やオーストラリア、韓国と共通の認識を示し、マルコス政権が掲げる対米重視を象徴した」

     

    マルコス政権は、完全に西側諸国と同じ歩調をとることになった。習氏のフィリピン軽視が招いた事態だ。中国にとって、ブラジルを仲間へ入れるよりも、フィリピン離反の方が外交的にはるかに大きな失敗だ。

     

     

     

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