勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 発展途上国経済ニュース時評

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    「一帯一路」真実の姿

    高金利の裏に何がある

    中国は「ベニスの商人」

    G7のIMECが代替

     

    中国は、今年で一帯一路事業を始めて10年になる。10月17~18日、北京で3回目の一帯一路の国際会議を開いた。興味深いのは、過去3回における各国首脳の出席者数である。次のような推移だ。

    1回目 2017年 29人

    2回目 2019年 37人

    3回目 2023年 24人

    中国外交部は、一帯一路参加国152カ国に対して強力に首脳の出席を働きかけたが、今年は24人にとどまった。2回目より3割強の減少である。これだけの減少理由は、一帯一路事業に魅力がなくなったことを意味する。一説によれば、中国招待であったという。ここまでして、出席首脳を増やしてメンツを保ちたかったのであろう。 

    具体的には、一帯一路事業の非効率性である。工事自体の杜撰が問題になった。もう一つは、対中輸出が伸びず、逆に貿易赤字を拡大したことだ。アフリカ諸国の中には、果物の対中輸出を掛け合ったが、「防疫」を理由に断られている。防疫面では、英国からも安全というお墨付きを得たものの、中国が断っているのだ。明らかに、中国は一帯一路事業を利用して自国輸出増だけを目的にした。

     

    G7(先進7カ国)の中で唯一、参加しているイタリアは、一帯一路事業にメリットがないことから中国へ脱会を申入れているほど。イタリアは、対中輸出で万年赤字に陥っている。むろん、イタリア首相は今回の会議を欠席した。 

    「一帯一路」真実の姿

    中国は、一帯一路10年を記念して白書を発表している。白書の内容は、次の通りである。 

    「130か国以上が参加し、4000億ドル(約60兆円)以上の投資と2兆ドル以上の貿易をけん引している」と記されている。これはロシアやカナダの経済に匹敵する規模となる。またパートナー諸国(一帯一路参加国)は、中国輸出入銀行に対し、計3000億ドル(約45兆円)以上の債務を負っている」 

    これに対して、米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」は、一帯一路事業で発生した債務総額は「8000億ドル(約120兆円)に上る」と推計する。実際は、9620億ドル(2022年現在)という推計があるほどだ。 

    中国が、10年間で8000億から1兆ドルもの融資を行った背景を見ておくことが重要である。世界銀行が融資する場合、相手国の政治状況の健全性を重視する。政治腐敗をしていないことが大きな要件なのだ。政治腐敗していれば、融資した資金がそうした政治勢力に利用されるので、返済できず「焦げ付き債権」になるリスクが発生するからだ。

     

    発展途上国の政治状況は、概ね腐敗が横行している。こうなると、世銀融資は難しくなる。中国は、この虚を突いて「政治状況とは無関係に融資する」と売り込んだのである。「魚心あれば水心」で、発展途上国は大挙して一帯一路融資に駆け込むことになった。世界経済が、順調に発展している段階では、焦付け債権もさして発生することもなかった。だが、2020~22年のパンデミックと、インフレを抑え込むための高金利で状況は一変した。 

    中国の甘い融資基準が仇になって、財政破綻国が一帯一路融資を受けた國の中から頻発した。米グローバル開発センター(CGD)によると、今年4月現在、14件の国家デフォルト(債務不履行)のうち、9件がスリランカやアルゼンチン、レバノンをはじめ一帯一路参加国で発生した。一帯一路参加国のうち23ヵ国が破産の危機に直面している。一帯一路参加国は、既述のとおり152カ国。このうち、デフォルト国と財政破綻危機国は合計で22カ国になる。実に15%が、中国の甘言に乗せられて「塗炭の苦しみ」へ追込まれた。 

    高金利の裏に何がある

    中国は、一帯一路事業で世銀よりも高い貸付金利を課している。世銀が、年利2%であるのに、一帯一路事業では4~5%である。これは、商業銀行並みの金利だ。インフラ投資という資金回収までに超長期間を要する事業で、4~5%金利を課すとは非常識そのものだ。これこそ、「国際高利貸」的な行動である。中国は、高金利を徴収する一方で、港湾などインフラ施設を担保にしている。この担保条項を盾に中国は、スリランカのハンバントタ港の租借権99年を獲得した。まんまと、中国にしてやられた格好になった。

     

    中国は、さらに巧妙な条項を融資契約書に忍び込ませている。ウガンダ政府が2015年に結んだ2億ドル(約230億円)の空港建設契約で、ある条項が含まれており、国内で政治的な混乱を引き起こした。その条項とは、中国国有銀行がエンテベ空港の財務に関し多大な支配力を行使できる立場にあることを示唆しているからだ。 

    この国有銀行は、空港に出資しておらず、中国政府が空港の運営に影響を与えている様子もない。それにもかかわらず、外国の金融機関がプロジェクトの財務に対し支配力を持つのは異例だと、アナリストやウガンダの野党政治家は指摘している。ウガンダ航空当局の「予算は今や、中国輸出入銀行が承認しなければならない」と指摘する。『ウォール・ストリート・ジャーナル』(21年12月28日付)が報じた。ウガンダの例を見ると、中国が植民地政策を行っていると言っても差し支えない。(つづく)

     

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    世界の低所得国は、パンデミック下で国家財政が火の車になっている。ここ10年、中国は「一帯一路」プロジェクトで低所得国へ過剰融資を行い、財政破綻の原因を作ってきた。当然、貸付国の責任も問われる。中国は、他の債権国へ協力して債権整理に臨むことを極力避けている。貸付金が、「又貸し」であることも影響しているのだ。 

    『フィナンシャル・タイムズ』(4月13日付)は、「中国が変えた『破産国家』の債務再編」と題する記事を掲載した。 

    財政が脆弱な貧困国は長い間、債権者と話をつけて危機から抜け出すことができずにいる状況は、国家破産の処理の複雑さを物語る。もはや完全な破綻だとみる専門家もいる。最近、政府債務のデフォルトに陥った一連の国は重大な事態を迎える恐れがあり、この問題は、米ワシントンでの国際通貨基金(IMF)・世界銀行の春季会合で重要議題に取り上げられた。IMFのゲオルギエバ専務理事は会合開幕前の講演で、低所得国の約15%がすでに「債務危機」状態にあり、ほぼ半数の国がその瀬戸際にあると指摘した」

     

     

    (1)「今、国家の債務に関して、混乱を引き起こす不透明で強大な力が新たに出現し、これまでのもろいパッチワーク(継ぎはぎ)状態が完全に崩れる恐れが生じている。その力とは中国だ。一部の専門家は、中国政府の発展途上国への積極融資と西側の標準的ルールに従うことを拒む姿勢について、債務整理を妨げる最大の要因であり、一部諸国を長く借金地獄に閉じ込める恐れがあると捉えている」 

    中国が台頭する以前は、債務破綻国について主要債権国が話し合い、債権減免で経済再建を手助けしてきた。それが、今では通じなくなっている。中国の貸出が急増しており、債権減免が中国の国際収支に影響を及ぼすためである。つまり、債務の「又貸し」であるからだ。貸出金利7%以上という「高利」がそれを裏付けている。

     

    (2)「英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で中国を専門とするユ・ジエ上級研究員は、中国政府の姿勢は「経済的合理性よりも地政学的競争に関わる部分のほうが大きい」と指摘する。「国際金融機関はおおむね米国と欧州の人たちによって運営されている。中国は、西側の指図を受けずに債務減免の問題を提起できるようになりたいと考えていた」と指摘。中国が重要な存在として台頭したことでシステム全体が未知の領域に入ったと指摘する。「条件を指図する力を持ち、不本意な取引には応じずに待ちの姿勢をとれる一つの債権大国が現れた。その存在が状況を一変させた」と指摘される」 

    中国が、下線部のように硬直姿勢になっているのは、中国が資金的ゆとりを持って融資したのでない結果である。「投資」と同じ感覚で行った。そうであれば、債権の減免が中国経済の屋台骨を揺るがすのだ。

     

    (3)「IMFが2月末に公表した最新統計によると、モザンビーク、ザンビア、グレナダなど9つの貧困国がすでに「債務危機」の状態にあり、27カ国がそれに至る「高いリスク」を抱えている。さらに26カ国が監視対象国に指定されている。元IMF高官でパキスタン中央銀行総裁を務めたレザ・バキル氏は、これらの国々には経営難で助けが必要となる国有企業も数多く存在すると指摘する」 

    実に、62カ国が債務リスクを抱えている。これらの多くは、中国が融資に関わっている。一帯一路で中国の勢力圏を拡大しようという狙いであった。 

    (4)「2001年にアルゼンチンが800億ドルの債務でデフォルトを起こして以来、米国が過半数の債権者が合意すれば、再編に同意しない債権者に受け入れを強制できる「集団行動条項(CAC)」を提唱した。12年のギリシャの債務再編後、CACはさらに強化された。しかし、それが役立つのは債務再編の合意が成立してからだ。多くの専門家が、最大の根本的問題の解決には全くつながらないと指摘する。その問題とは、経済危機を悪化させる恐れを伴う複雑なプロセスに警戒の目を向け、デフォルトの政治的恥辱を恐れて、債務国が再編を求めるのがあまりに遅くなってしまうことだ」 

    CACは、スリランカの債務再編に適用されよとしている。スリランカは、債務の50%強が中国である。その中国が消極的であるので、日本・フランス・インドが音頭を取って整理案を出し、中国へ協力を求めている。主貸出国が逃げ腰で、他の少額貸出国が債務整理の主役になっている。主客転倒である。

     

    (5)「この10年間にわたり中国が世界中の途上国に巨額の融資を提供したことで問題がさらに膨らみ、破綻したとする声さえ出ている。そうした融資の多くは規模や条件、性質ばかりか、時にはその存在さえ不透明になっている。中国は、融資の大半についてIMFや経済協力開発機構(OECD)、国際決済銀行(BIS)に報告しておらず、その総額はつかみ難い。だが、米ウィリアム・アンド・メアリー大学の研究機関であるシンクタンク、エイドデータは融資総額を約8430億ドルと推計している。中国はパリクラブのメンバーではなく、大半の場合、融資は無数の国有銀行または政府系金融機関によって行われ、実態をさらに見えにくくしている」 

    下線部のように、中国は極秘条件で途上国へ貸し出している。契約条項に外部に漏らさないという「秘密条項」がついているのだ。万一違反すれば即刻、契約解除という文言まである。これこそ、中国が後ろめたい融資であることを自ら認めた形だ。担保の取り上げを策していたことを裏付ける。

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