往年の名優が、騒がれているような錯覚を覚えるかもしれない。日本が、33年ぶりが株価高騰していることで、面映ゆさを感じる向きもいるだろう。現在の日本が、昔取った杵柄(きねづか)の半導体技術で世界最前線へ飛び出すことが、大きな話題になっているのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(5月20日付)は、「威勢取り戻した日本、株高・G7で存在感」と題する記事を掲載した。
5月18日の午後遅く、世界中の投資家たちが「日本の日の出」と題した調査リポートを受け取った。リポートは、富裕層向け金融を手がけるバンク・オブ・シンガポールのチーフエコノミストによって書かれた。投資家によると、多くの要因が重なった結果、日本は久しぶりに非常に面白い場所になっている。
(1)「少なくとも今のところ、(日本の)勢いは強い。日本の日の出についてのリポートが受信ボックスに届く数時間前、外国人投資家による異例の6週連続の買い越しを原動力とした相場上昇に乗り、幅広い銘柄で構成される東証株価指数(TOPIX)が33年ぶりの高値を更新した。この資金の大部分は、日本経済における過去数十年間でほぼ間違いなく最大の実際的、心理的な変化が理由だった。丸一世代の消費者、企業、銀行、政界リーダーが物価の停滞か下落しか知らない国が今、持続的なインフレに見舞われている」
33年ぶりの株価の高値は、内外を驚かせている。33年といえば、「一世代」に相当する。休火山と思われていた山が噴火したようなもの。合理的な理由がある。それに気づかなかっただけの話である。
(2)「米バンク・オブ・アメリカのアナリストは顧客に対し、より長期的な時間枠では、TOPIXが今後さらに33%上昇し、大半のブローカーや投資家にとってはとても達成可能に思えないレベルを突破する可能性があると説明し始めた。そのレベルとは、1980年代の日本の資産バブルの末期につけた史上最高値のことだ」
米バンク・オブ・アメリカのアナリストは、大々的に日本株を推奨しているという。それは、日本経済の見直し論である。
(3)「日本を取り巻く話題は、間違いなく大きくなる。18日夜、運用資産が合計で推定20兆ドル(約2750兆円)に上り、株式市場改革の約束と企業行動の変化に誘われた数百人のファンドマネジャーたちが、「CITIC・CLSAジャパン・フォーラム」に出席するために続々と日本に到着し始めたからだ。この種の大規模会議が東京で開かれるのは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)以来、初めてとなる」
18日夜、運用資産合計で20兆ドル(約2750兆円)に上る数百人のファンドマネジャーが、東京へ集まったという。日本の株式市場改革の約束と企業行動の変化に誘われたというのだ。
(4)「米ワシントンや世界各地で反中コンセンサスが根を張るなか、日本の現在の日の出は地政学的な現象でもある。岸田氏は日本を、米国と中国のデカップリング(分断)と軍事的緊張、新たな冷戦に向けたブロック形成によって定義されるようになった地域における安定的で強固、かつサプライチェーンに優しい西側のパートナーとして位置付けた。ウクライナのゼレンスキー大統領が広島をじかに訪問するという発表は、このイメージを固めることに一役買った。バンク・オブ・シンガポールのリポートが裏付けたように、G7の首脳は今回、岸田氏が、来日した一部の政府首脳が羨ましい好調ぶりと思うかもしれないような経済のかじ取りをしていることに気づいた」
海外では、広島サミットが大成功という評価である。8カ国の招待国のほかに、ウクライナのゼレンスキー大統領の訪日も実現させた。この幅広い外交が、日本経済の安定に大いに貢献するという見方だ。日本国内にはない見解である。日本の地政学的利益であるという。
(5)「全体的な日本の経済活動は、2023年初めから力強く回復している。今年の第1四半期(1〜3月期)の統計は、国内総生産(GDP)が前期比年率1.6%増(速報値)と予想を上回るペースで伸びたことを示していた。長年停滞が続いた後、賃金もようやく小幅とはいえ決定的に上昇している。数十年間に及ぶデフレの末に、4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI、2020年=100)は前年同月比3.4%上昇し、今や13カ月連続で日銀の2%のインフレ目標を上回っている。日本の基準に照らすと高いが、まだ十分制御できている水準だ」
日本経済のウイークポイントである消費者物価も、2%上昇ラインを大きく超えている。この基調が続けば、ゼロ金利廃止も近い。文字通り、日本経済の正常化である。こう見ると、海外投資家が日本を高く評価する「材料」はあるのだ。
(6)「米調査会社ムーディーズ・アナリティクスのシニアエコノミスト、シュテファン・アングリック氏は、日本経済の強さは過小評価されることが多いが、その強さは常に経済の安定性に根差していたと指摘する。ますます混乱する世界にあって、日本の低めの成長と安定の組み合わせは「特徴であってバグ(不具合)ではない」と言う。多くのエコノミストが、世界的な景気後退を懸念する時に、(日本の)国内企業は世界的な成長に向けて動いている」
下線は、亀が兎よりも評価されていると同じだ。世界全体が、落ち込んでいるなかで、日本が「脱中国」という地政学的メリットを享受している。これも、巡り合わせである。