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中国の秦剛国務委員兼外相は4月22日、フィリピンでマナロ外相と会い、両国が領有権をめぐり対立する南シナ海問題などを協議した。フィリピンは、マルコス大統領が昨年6月に就任して以降、南シナ海における中国漁船の活動や中国の「攻撃的行動」について外交的抗議を繰り返し行ってきた経緯がある。秦外相は冒頭、両国が協力して友好の伝統を継続し、連携を深め、立場の違いを適切に解消する必要があると指摘した。

 

中国は台湾有事になった際に、米国とフィリピンが軍事協力することを警戒している。米比両国の接近を阻もうと巻き返しに動いている。すでに米比両国は、対中戦略で動き出しているのだ。中国は、約束した支援をフィリピンに行わなかったことで、信頼関係にひび割れを起こしたのが米比接近の原因である。

 

『日本経済新聞 電子版』(4月22日付)は、「中国、米フィリピン接近を警戒 台湾有事にらみ巻き返し」と題する記事を掲載した。

 

中国は南シナ海のほぼ全域を囲む「九段線」の内部で管轄権(事実上の主権)があると主張してきた。国連海洋法条約に基づくオランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に九段線に国際法上の根拠がないと認定した後も、域内の軍事拠点化を止めていない。

 

(1)「南シナ海を巡る対立を抱えつつも、中国は経済協力などでフィリピンとの関係改善に動いてきた。1月に習近平国家主席がマルコス氏を北京に招き、天然ガス開発の協力などで一致した。フィリピンは中国から228億ドル(約3兆円)の投資を誘致した。背景にはフィリピンが米国に接近していることへの危機感がある。習氏の事実上の公約である台湾統一の実現に向けて武力侵攻が必要と判断した場合、米比の軍事協力が大きな障害になり得るからだ」

 

フィリピンは、中国から228億ドル(約3兆円)の投資を誘致するが、実行されるかどうかがポイントだ。中国は大風呂敷を広げても、実行しないで信頼を裏切ってきたケースが多々あるのだ。

 

(2)「米比は軍事同盟を結んでおり、14年の防衛協力強化協定(EDCA)によって米軍の巡回駐留が可能になった。23年4月の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では米軍がフィリピン国内で使える拠点を5カ所から9カ所に増やすと確認した。このうち2カ所はルソン島北部のカガヤン州にある海軍基地と空港だ。同島北端と台湾の最南端はおよそ350キロメートルしか離れていない。台湾有事になれば米軍の艦艇や戦闘機への燃料補給などに活用する可能性がある」

 

米比は、外務・防衛の「2+2会議」を行っている。米比両国は、中国の強引な行動に警戒を強めている。フィリピンは、日本とも「2+2会議」を行った。台湾問題をめぐって、密接な関係を構築している。

 

(3)「4月11日に始まった米比の定例軍事演習「バリカタン」は、台湾有事や南シナ海での中国の海洋進出を見すえ、過去最大規模の1万7600人以上が参加している。マルコス氏は51日、ワシントンでバイデン大統領と会談する見通しだ。中国は、米比首脳会談を前に巻き返しに出るが、両国の分断は容易ではない。22年6月に大統領に就任したマルコス氏は、中国に融和的だったドゥテルテ前大統領の路線を修正し、米国との安全保障協力を加速してきた。マルコス政権も南シナ海の領有権問題を抱え、中国を過度に刺激するのは避けたいのが実情だ。フィリピンにとって中国は最大の輸出先国で経済面の結びつきも強い。同盟関係にある米国を重視しつつ、中国にも配慮するバランス外交を余儀なくされている」

 

中国は、豪州やフィリピンに対して高圧姿勢をとり、南米やアフリカという中国の安全保障と関係の薄い地域へ肩入れしてきた。これは、外交的にも大失敗であり、対中包囲網を作らせる結果になった。何を考えていたのか、常識では理解不能な面がある。中国の世界網づくりに躍起になり、足元を固めなかったのだ。

 

ジャンピエール米大統領報道官は4月20日の声明で、バイデン大統領が5月1日にホワイトハウスでフィリピンのマルコス大統領と会談すると発表した。南シナ海の実効支配を進める中国への対応を協議し、経済協力も深める。

 

中国が南シナ海に加え、フィリピンに近い台湾周辺でも威圧的な行動を続けており、中国を念頭に防衛協力を深める目的だ。ジャンピエール氏は、「地域の課題を話し合って国際法を支えたり、自由で開かれたインド太平洋を推進したりする取り組みで連携する」と強調した。中国が米比会談の共通話題であることを示唆している。中国のフィリピン接近は、時すでに遅しという印象だ。