中国の地方政府は、膨大な債務を抱えているが中央政府から支援を受けられず、資金調達行脚を続けている。その格好の焦点になったのが中東ファンドだ。石油販売で貯めた中東資金を中国へ引き込もうという狙いである。
中国の地方政府は、これまで不動産バブルで値上がりする土地の売却で財政が潤ってきた。その打ち出の小槌が消えただけに、深刻な資金難に直面している。バブル崩壊後の資金穴埋め役として、アラブ諸国へ白羽の矢を立てた形である。
『フィナンシャル・タイムズ』(5月9日付)は、「資金難の中国の地方政府、中東ファンドに熱視線」と題する記事を掲載した。
中国の地方政府が中東やアジアの政府系ファンドの誘致に取り組んでいる。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)後、経済成長を後押しするための資金を国内で調達するのが難しくなっているためだ。中国の地方政府関係者らはカタール投資庁(QIA)や、サウジアラビア政府系ファンドのパブリック・インベストメント・ファンド(PIF)の子会社、それにアブダビ投資庁(ADIA)と高官協議をした。
(1)「中東地域はこれまで米国の勢力圏にあったが、こうした協議は中国と中東の経済・外交関係の深まりを浮き彫りにしている。世界の投資家が、2022年の石油ブームで潤った中東産油国から資金を調達しようとしているのとも無関係ではない。中国南部の地方政府の幹部は「彼ら(政府系ファンド)は中国への投資拡大に熱心で、我々はより多くの投資家を呼び込む必要がある」と話す。「自然な組み合わせだ」と指摘する」
中国政府が、イランとサウジアラビアの関係改善に動いている裏には、アラブ・マネーの引き込みという隠れた狙いがあった。中国もここまで資金難に直面してきたのだろう。
(2)「深圳市、広州市、成都市や四川省などの地方政府は今年、中央政府が重視する分野への投資資金を調達するためファンドを設立した。半導体、バイオテクノロジー、新エネルギー、ハイテク製造業、インフラといった分野だ。多くの地方政府は海外から投資を誘致するのが今回初めてとはいえ、野心的な目標を掲げている。広州市は2000億元(約3兆9000億円)の資金調達を目指す。深圳市は1月、サウジのPIFと共同で10億ドル(約1350億円)規模の初の中東・中国協力ファンドを立ち上げた。前出の地方政府幹部は、深圳市や広州市など地方政府の複数の担当者がこの数カ月間、バイオテクノロジー、新エネルギー、インフラや建設業界への投資を拡大しようと中東のファンドに打診してきたと話した」
中国は、資金不足の穴を一挙にアラブ・マネーでカバーしようとしているが、アラブでは成熟技術を求めており最先端技術ではない。この辺に食い違いがある。
(3)「地方政府は新型コロナを封じ込めるためのゼロコロナ政策で打撃を被り、不動産業界の流動性逼迫のあおりも受けている。ところが中央政府はもはや救済しない方針を示している。別の政府関係者は「コロナの規制と景気低迷で地方政府の財政状況は非常に悪化し、公務員の給料も払えない状況だ」とこぼす。「地元産業に投資するための資金の調達は容易ではない。でも政府が投資しなければ景気の減速は止まらない。それでわれわれは海外の政府系ファンドの投資意欲をかつてないほど真剣に受け止めている」と指摘する」
下線部は、中国の置かれている経済状況がいかに深刻であるかを示している。国内で資金調達できず、アラブまで出かけているのだ。
(4)「西部地域にある省政府の関係者は、企業とともにサウジやカタール、シンガポールを訪問し、中国のテック企業に関心を持つ政府系ファンドの代表と協議したと明かす。QIAはアジアでの投資拡大を目的に21年、シンガポールに事務所を設立した。22年にはシンガポールを拠点とする中国担当者を任命している。四川省の政府関係者は「政府系ファンドは以前、リミテッド・パートナーとして主に大手PEファンドに投資していたが、現在は中国の国内案件に直接投資しようとしている」と話した。多くはまだ協議が続いているという。「そうしたファンドがテック分野で目を向けているのはまだ成熟した技術だ。我々は地元のテック系スタートアップが新たな資金を調達できるように支援したい」と話す」
アラブ・マネーが、最先端技術を理解できる目利きがいない以上、安全策として成熟技術への資金投下を希望するのは当然だ。スタートアップへの投資誘導は、飛躍しすぎている。これは米国ファンドの分野だが、米国は融資に「ノー」となっている。米中対立がもたらした結果だ。