イタリアは、G7では唯一の「一帯一路」参加国である。だが、2024年に期限が来ることから、それを機に脱退する方針を固めている。イタリアが参加する際は、G7まで中国の手が伸びてきたかと騒がれたものだが、イタリアにとっては「実益ゼロ」。ついに、脱退することになった。
イタリアは2019年、経済活性化を期待して一帯一路へ加わったが、19年に130億ユーロだった中国への輸出額は、昨年は164億ユーロ(181億ドル)にとどまり、期待した効果は出なかった。一方、イタリアのデータによると、中国のイタリアへの輸出は同じ期間に317億ユーロから575億ユーロに増加した。ただ、フランスとドイツは一帯一路に参加していないが、昨年は中国への輸出が大幅に増えたのだ。
『フィナンシャル・タイムズ』(5月11日付)は、「イタリア、『一帯一路」』離脱巡り中国と協議へ」と題する記事を掲載した。
イタリアが中国の広域経済圏構想「一帯一路」からの離脱について、中国側と協議する方針だ。友好関係と経済面での強いつながりは維持したい考えだ。イタリアは2019年に一帯一路に参加した際、米国と欧州連合(EU)から強い非難を浴びた。主要7カ国(G7)からの参加はイタリアだけだ。メローニ伊首相は22年の総選挙に際し、参加は「大きな間違い」だったと公言した。
(1)「イタリアの当局者らは、メローニ政権にとって理想的なのは、懲罰的な報復措置のような中国側の怒りを招くことなく、一帯一路から離脱する道筋を見つけ出すことだと語る。「中国とは良好な関係を維持したいので、問題をエスカレートさせないよう取り組んでいる」とある当局者は話し、イタリア政府は中国を「敵に回す」ことは望んでいないと付け加えた。メローニ氏には期限が差し迫っている。イタリアが中国と結んだ一帯一路の参加協定は24年3月に4年間の期限を迎えるが、イタリア側がその3カ月前までに離脱の意向を正式に伝えない限り、自動更新されるという異例の条項が盛り込まれている」
イタリアは、一帯一路から脱退すれば、中国が何か報復するのではないかと懸念している。だが、広島でのG7サミットでは、中国の制裁に共同で対処することに決まりそうだ。中国がイタリアへ報復すれば、G7共同で「逆制裁」されるはず。心配はご無用だ。
(2)「メローニ氏は、この外交政策上の最大級の難題を12月までに解決し、外交と経済に与える影響を最小限に抑えなければならない。「米中関係の現状を考えると、一帯一路に残留して米国の同盟国であり続けることはできない」とイタリアの元駐北大西洋条約機構(NATO)大使、ステファノ・ステファニーニ氏は言う。「平和的な、もしくはダメージを最小限にとどめる離脱について、中国側と交渉しなければならない」
米中対立が激しくなっている現在、イタリアが一帯一路に参加しているのは不都合というもの。イタリアは、「二枚舌」外交になりかねないのだ。
(3)「中国を警戒するメローニ氏の態度はイタリア政界の主流派の多くも共有している。一般市民の対中観も特にコロナ下で悪化した。「公的債務と投資不足というイタリアが長年抱えている問題に関して、ポピュリスト政権は中国が解決策になると考えた」と語るのは中道系野党「イタリア・ビバ」のエンリコ・ボルギ上院議員だ。「この5年の間に一帯一路のリスクに対する認識が大きく高まった」。ほぼすべての政党が「中国はイタリアの問題の解決策になりうるという考え方を捨てた」という」
イタリアは、他力本願で中国マネーに頼ることの不自然さを感じるようになってきた。中国経済が、一時の力を失ってきたにも関わらず、中国から「おこぼれ頂戴」では恥ずかしいということに気づいたのだろう。
(4)「米中間の緊張が高まる世界の中で、メローニ氏は明確なシグナルを発信する必要があるとする声もある。元駐NATO大使のステファニーニ氏は「政治とは選択だ」と言う。「ワシントンでは、中国はウクライナと同等かそれ以上の優先事項だ。難しい問題ではあるが、中国と米国のどちらもというわけにはいかない」
イタリアは、G7の一員である。G7では中国批判をしながら、中国との個別関係では「受益国」のような立場になることに矛盾を感じ始めたのだろう。イタリアは、中国へ期待したことが何も実現しなかったのだ。