ドイツ経済が、往年の面目を失い苦闘している。24年は、2年連続のマイナス成長が確実視されるほか、大手企業が外資に買収されるなど、かつては考えられなかった事態が起こっている。「どうした、ドイツ!」だ。日本にとってドイツは、明治維新以来、なにかと因縁の深い國である。
『フィナンシャル・タイムズ』(10月18日付)は、「安売りされるドイツ企業、小規模で割安」と題する記事を掲載した。
独投資顧問会社7スクエアのティム・ウィンケル氏によると、今年はこれまでのところ、国際企業によるドイツ企業の買収額は計472億ドル(約7兆円)と、2020年通年の外国企業によるM&Aの総額を70%近く上回っている。
(1)「この中には、アブダビ国営石油会社(ADNOC)による独化学大手コベストロの買収と、デンマークの物流大手DSVによるドイツ鉄道の物流部門買収という計320億ドルに上る注目度が高い大型案件が含まれている。銀行業などよりデリケートな分野でも買収提案が行われる可能性があるため、今後も不安が和らぐことはないだろう。政治家の強い反発を受けている伊金融大手ウニクレディトによる独コメルツ銀行の株式の追加取得はこの数字には含まれていない」
コメルツ銀行は、ドイツで3番目に預金高の多い銀行である。イタリア金融大手ウニクレディトは、すでにコメルツ銀の株式21%を取得している。さらに株式を買い増し買収する可能性すら話題になっているほどだ。コメルツ銀行は、ドイツの中小企業を支えており関心が集まっている。
ショルツ独首相は、ウニクレディトによるコメルツ銀の株式買い増しを「非友好的な攻撃」と断じている。また、最大野党キリスト教民主同盟(CDU)のメルツ党首は、両行が経営統合すれば「ドイツの銀行市場にとって大惨事」になるとの考えを示した。これまでは、ドイツ企業が相手国企業を買収することはあっても、逆バージョンは想像もできなかった。明らかにドイツ経済の弱体化を示している。
(2)「さらなる懸念は、ドイツ企業が買収をあまり行っていないことだ。外国企業を対象にしたM&Aの総額は110億ドルに落ち込み、20年通年の3分の1に減少した。国内のプライベートエクイティ(PE)ファンドが少ないことも理由のひとつだ。一方、24年の海外からのM&Aでは、投資ファンドなどフィナンシャルバイヤー(対象企業の解散価値や株価の安さなどに着目して投資する買い手)による買収が25%以上を占めている。これらの傾向は、ドイツ企業が相対的に小規模で割安になっていることを反映している」
ドイツは、中小企業の割合が多い。家族中心の経営を重視している結果だ。企業規模を大きくするよりも、コツコツと堅実経営を行い、何代も経営を続けることに誇りを持っている。コメルツ銀行は、こうした中小企業をバックアップしている。ドイツ企業が、相対的に小規模で割安であることが、買収の対象にされる背景だ。
(3)「よく知られているドイツ経済の悪化も理由のひとつだ。同国は9日に発表した秋の経済見通しで24年の実質成長率を下方修正し、2年連続のマイナス成長を予想している。高いエネルギーコストと需要の低迷が同国の産業基盤に影響を与え、コベストロのような会社を資金力のある企業による買収に追い込んでいる。独化学大手BASFのような巨大複合企業は、こうした圧力に対応するため事業の売却を進めており、この傾向がさらに続くことを示唆している。ドイツ企業は経済の低迷に苦しんでいるだけでなく、自動車製造などの伝統的な産業では成長の鈍化に直面している。新たな巨大グローバル企業を数多く生み出してきた活気あるテック分野や製薬部門における大規模企業はほとんどない」
ドイツ経済が、2年連続でマイナス成長に陥る事態で、企業経営も圧迫されている。独化学大手BASFのような巨大複合企業ですら、事業売却を進めざるを得ないほどだ。
(4)「その結果、ドイツ企業は今やグローバルな企業間競争において小規模なプレーヤーになってしまった。特に打撃を受けているのが銀行部門だ。ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行は13年には総資産で世界第10位だったが、現在は第26位だ。時価総額ベースでは、代表的な世界株指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」でドイツ企業が占める割合は2%と、10年前に比べて3分の1減少している。確かに、割合が半分以下に落ち込んだ英国ほど悪くはないが、他の欧州諸国と比較するとよくない。デンマークとオランダは、それぞれ製薬大手ノボノルディスクと半導体製造装置大手ASMLホールディングスのおかげで割合が上昇している」
ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行は、13年には総資産で世界第10位だった。現在は第26位へと後退している。ドイツ産業が、成長力を失っていることを反映している。
(5)「別の見方をすれば、新型コロナウイルス禍直前にPER(株価収益率)ベースで米S&P500種株価指数よりも20%割安だったドイツ株価指数(DAKS)は、現在では40%割安になっている。ドイツ経済の停滞感を払拭するのは長期的な取り組みだ。その間、掘り出し物を探している世界中の投資家にとって、ドイツは引き続き魅力的だ」
PERでみたドイツ株価指数は、米S&P500種株価指数よりも4割も安くなっている。ドイツ企業が、買収対象になっている理由である。