中国は5月21日、米国マイクロン社の半導体輸入禁止を発表した。中国インターネット規制当局はマイクロンの製品について、ネットワークセキュリティー審査で不合格になったというもの。重要インフラ事業者に対して、同社からの調達を禁止すると発表した。
これは、中国がG7広島サミットの決めた対中「デリスク(リスク削減)政策」に対する報復措置である。G7では、中国からの報復には「共同報復」することになっている。早速、中国への対抗措置が検討されよう。米商務省報道官は声明で、「事実に基づかない制限に断固反対する」とし、「今回の措置や他の米企業に対する家宅捜査などは、市場を開放し規制の枠組みを透明化するという(中国の)主張と矛盾している」と指摘した。以上、『ロイター』(5月21日付)が報じた。
『ロイター』(5月22日付)は、「G7広島サミット、多くのリスクはらむ対中「デリスク」と題するコラムを掲載した。
主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)は、対中政策で「デカップル(切り離し)」ではなく「デリスク(リスク低減)」を目指す方針を示した。だが、中国から見れば、G7は中国の戦略産業を妨害し、自国の防衛予算を増額していると映る。
(1)「G7にはサプライチェーン(供給網)や市場アクセスを脅威にさらさずに、習近平国家主席の野望を封じ込めたいという思惑があるのかもしれない。ドイツのショルツ首相は、G7の対中投資は今後も続くと説明したが、中国政府が警戒を緩めるとは思えない。「リスク低減」は一見穏当な言葉に聞こえるが、要は中国経済が脆弱な局面にある中で中国製品の輸入を強制的に減らすということだ」
習氏は、G7の投げた「罠」にまんまと嵌まった形である。中国による経済制裁には、G7がまとまって報復する決まりだ。今回の件は、その第1号になる。
(2)「G7には、中国を外交的に孤立させたいという思惑もある。日本の招待で来日したウクライナのゼレンスキー大統領は、サミットの合間にインドのモディ首相らと会談し、ロシアとの関係にくさびを打ち込もうとした。インドやブラジルがウクライナに接近すれば、プーチン大統領を支持する習主席の孤立感が一段と強まることになる。G7は、途上国へのインフラ投資や債務免除を拡大する方針も示しており、アフリカや中南米などに対する金融支援を巡り中国の影響力が低下することも考えられる。軍事面では、米国を軸とする同盟国が台湾問題を巡る動きを強めている。日英豪は最近、そろって防衛費の大幅な増額を発表。岸田首相は2027年度に防衛費をGDP比2%程度に拡大する意向を示した」
中国外交は、習近平氏の信念・感情のままに動いている。習氏は、名うての民族主義者=激高型である。彼は、時代がかった「中華再興論」を持ち出していることからも分るように、国民の手前こうした「米国なにするもの」という威勢の良いところを見せているのだろう。同盟国を持たない中国が、感情丸出しの決定をすることは危険である。
(3)「G7声明に憤慨した習近平政権は、日本の駐中国大使を呼び出し抗議。21日には中国国家インターネット情報弁公室(CAC)が、3月から調査を進めていた米半導体大手マイクロン・テクノロジーの製品について購入を一部禁止した。このタイミングは露骨だ。マイクロンは数日前、日本政府の支援を前提に最大5000億円の対日投資を発表したばかり。ハイテク製品の供給網を強化するG7の取り組みの一環だ。マイクロンの財務への影響は甚大ではないとみられるが、強大な権限を持つCACが外国企業に対する処分を発表したのは今回が初めて。恐らくこれが最後ではないだろう」
米国のエマニュエル駐日大使は5月19日、半導体大手マイクロン・テクノロジーが次世代メモリーチップを広島工場で製造するため、日本政府から補助金を受けることに関して、中国による「威圧」に対処する上で先例になると述べた。エマニュエル氏はまた、中国が国家ではなく企業を脅かそうとしている例として、マイクロンや米コンサルティング大手ベイン・アンド・カンパニー、米信用調査会社ミンツ・グループに対する中国当局の調査を挙げた。『ブルームバーグ』(5月19日付)が報じた。米国は、すでに中国の報復を前提に対応を練っているのだ。
(4)「確かに、月間ベースで過去最高近い900億ドルの貿易黒字を稼いでいる中国が、敵対国に報復するのは容易ではない。「グローバルサウス」(南半球を中心とする新興・途上国)への影響力も、中国の銀行がリスクの高い開発融資から手を引いており弱まりつつある。だが、習主席にしても中国企業にしても、G7の「リスク低減」を座視するのは得策ではない。この婉曲的な表現は一見するよりも多くのリスクをはらんでいる」
中国は、「デカップリング」でなく、「デリスク」だからリスクは少ないと勘違いしている。その分、発生する中国からの制裁に対して、G7は共同で報復するのだ。中国の主要輸出先から共同制裁を受けるマイナスを計算に入れていないようだ。