中国の4~6月期GDP成長率は、極端に低調であった。しかし、総花方的な経済対策へ動く気配を見せようとしていない。資金的なゆとりがないことも事実だが、習国家主席の強い信念が働いているとする指摘が出てきた。習氏とトップの政策立案者は、「戦略的焦点の維持」という姿勢に固執していると言うのだ。不動産業界の過剰債務を削減し続けながら、先端技術およびグリーンエネルギーへの転換など、戦略分野で世界的なリーダーシップを追求すれば、事態は自然に解決すると信じているようである。
この考えは、ゼロコロナ政策を3年続けてついに放棄せざるを得なかった背景に酷似している。中国経済はすでに過剰債務で活力を失い、低成長路線への転落が危惧されている。そうなれば、若者の高失業率を放置する結果になろう。社会騒動を引き起こすリスクも高まろう。中国は、危険な「独善的政策」へ迷い込んできた。一段と危険なコースだ。
『日本経済新聞 電子版』(7月19日付)は、「中国『産業鎖』の夢とワナ、極まる自己完結への過信」と題するコラムを掲載した。筆者は、日経本社コメンテーター西村博之氏である。
6月末、中国・天津で世界経済フォーラム主催の「夏季ダボス会議」が開かれた。この席で、李強(リー・チャン)首相が演説した。米欧は最近、中国とのデカップリング(経済分断)を、分散でリスクを減らす「デリスキング」と言い換えている。李首相は、これを「まやかし」と呼び非難した。
(1)「中国はこの直後、半導体に使うガリウムやゲルマニウムの禁輸をちらつかせ世界を威嚇した。半導体輸出を絞る米国へのけん制だろうが言動のずれをどう理解すべきか。「中国はなんら矛盾を感じていない」と同国を熟知する日本政府関係者は言う。中国が思い描くのはあくまで自らが核となり、世界を依存させる秩序。これに資する依存の深まりなら歓迎なのだ」
中国は、欧米のデリスキングを非難しながら、一方では半導体に使うガリウムやゲルマニウムの輸出規制を8月から行うと予告した。こうした矛盾したことを平気で行うのは、自己過信に外ならない。
(2)「中国は、「供給網」(供応鎖)と「産業網」(産業鎖)の言葉を使い分ける。前者は商売上の調達先という程度の意味で、大事なのは後者。中国がめざす外資排除、純中国の異質のサプライチェーンを指す。その根底には「国家安全」の発想があるが、この言葉も注意が要る。日本では脅威から身を守る受け身の語感が強いが、中国では他国を自らに依存させ、必要なら威嚇・反撃する能力も含む。生殺与奪の力を握ってこその安全だ。そのために原材料から技術まで生産の一切を自前で賄い、上流から下流まで他国に頼らず自己完結をめざす。この動きを米専門家らはindigenization(土着化、現地化)と呼ぶ」
中国は、「産業網」(産業鎖)の独占を目指している。外資を排除する。これによって、他国を中国に従わせ安全保障の中核的産業に押し上げる狙いだ。これが、レアメタルやレアアースであろう。だが、資源独占に成功した國はない。資源である以上、世界各地に賦存する。西側諸国が協力して融通し合えば、中国の独占へ対抗可能である。さらに、科学技術の発展によって、代替製品の開発も可能だ。資源で「一人勝ち」はあり得ない。
(3)「中国の政府活動報告は、国を挙げ必要な技術を開発するとうたい、弱い分野は商務省の「目録」にて外資進出を促す。合弁先のノウハウ吸収、人材引き抜き、買収……。「戦略的な技術の獲得へ手段も巧妙化してきた」(日本政府関係者)。中国の自信は確実に深まっている。米国と西側諸国を「見下す」若者の割合は55%――。共産党系の英字紙グローバル・タイムズのアンケート調査だ。「対等」は39%、「憧れる」は4%弱だ。中国は自らの求心力を過大に、遠心力を過小に評価している。その姿勢は、巨大市場の磁力と腕力で技術や供給網をたぐり寄せられるとの過信にも通じる」
中国が、単独で先進国を相手に競争を挑むと決意したとすれば、大変な誤算である。破綻は目に見えている。先進国が、中国製品を輸入しなければ、中国は干しあがるからだ。中国が、ここまで意地を張って西側へ対抗しようとする目的は、台湾への軍事侵攻であろう。経済的には、全く割の合わないことをしようとしている。中国経済の衰退を早めるだけであろう。現に、総花的な経済対策を行う余力すら失っている國だ。
新華社通信が19日報じた中国共産党と政府の共同声明によると、中国は民間企業に対し、国有企業と同じように扱うと約束した。あらゆる所有形態の企業が平等に扱われるとともに、全レベルの政府機関に対し、政策を立案・評価する前に優れた起業家を招いて協議することが奨励された、としている。これは、言葉の上で民間企業に「頑張れ」と激励しているだけの話だ。この共同声明が、早急に中国経済を復活させる力になるか疑問だ。