a0001_000268_m
   


英加盟で原則厳守を確認

反スパイ法でTPP放棄

米は中国へ渡航禁止勧告

福島問題で日本と対決へ

 

英国は7月16日、TPP(環太平洋経済連携協定)へ正式加盟が決まった。加盟申請は21年2月である。審査入りが同年6月だから、正式加盟までに2年余の時間を要した。当初は、22年の加盟が見込まれていた。それが、今年にずれ込んだのはTPP加盟条件を厳格に適応した結果である。

 

英国加盟が決まったので、中国はすでに加盟申請(21年10月)しており、「中国審査」を期待している。だが、期待外れに終わるはずだ。加盟審査は、申請順に行うものでなく、加盟条件の満たされていることが審査条件である。中国は、国有企業中心であることやデータ抱え込みという点で、すでに加盟条件を満たしていないのだ。その上、中国に不都合なことが起ればすぐに威嚇する「反社的」行動を取る。TPPの仲間に、こういう國を迎える訳に行かない、という声が出るのも当然だ。日本と豪州がこの立場である。

 

英加盟で原則厳守を確認

自由貿易の「元祖」である英国が、予想外の時間を要したことは極めて示唆的である。TPP加盟に当たっては、一切の「加盟条件緩和」の妥協がなかったことだ。最初にTPPを結成した原加盟国は、各国の事情が勘案されている。日本は、コメの輸入を除外されたのがその例だ。だが、新規加盟国にその恩典はない。その意味で、英国加盟は新規加盟モデルになった。

 

これは、中国についてもそのまま当てはまる。中国は、ベトナムなどに接近して「加盟条件緩和」を狙っていると伝えられている。だが、英国の例を見てもそれは不可能である。ただ、TPP加盟国内にも妥協論はある。中国は、人口14億人と世界のGDP2位の市場であるからだ。この中国が、TPPに加盟し経済ルールを西側諸国と同じ「市場化」へ転換できれば、世界に取ってプラスという「理想論」である。

 

こういう理想論は、ロシアのウクライナ侵攻(2022年2月)後に、中国がロシアを実質的に支持したことから「消失」したと見て間違いない。中国の本質は、権威主義国家であり市場経済に馴染まないことを浮き彫りにしたのだ。だが、こういう認識はなかなか一般化していない。中国のTPP加盟が、あり得るという漠然とした前提の議論も未だにあるからだ。

 

もう一度、時間を追って整理すると、中国のTPP加盟申請は21年10月である。ロシアのウクライナ侵攻は22年2月である。この間のわずか3~4ヶ月が、中国TPP加盟論が取り上げられただけで、もはや現在は「蜃気楼」に終わったと言って良い。

 

中国のロシア支持は、中国を一段と権威主義化させている。米国とその同盟国が、一様に「中ロ」枢軸という見方に立って、中国を警戒している理由だ。今年のG7広島サミットは、中ロへの警戒観を一段と強めることになった。

 

中国は、これに呼応する形で「反スパイ法」を改定強化して、米国と同盟国の企業と個人の動向を探る動きを強めている。日本のビジネスマンが、帰国寸前で逮捕拘留される事態になったほどだ。理由は、開示されていない。開示すれば、中国の不都合な暗い部分が明らかにされると指摘されている。一説では、「臓器売買」に絡んでいるとされる。中国が、それに関わる医薬品の輸入を増やした事実が公になることを極力避けたいというものだ。真偽のほどは不明である。

 

反スパイ法でTPP放棄

中国が、「反スパイ法」(7月から実施)を強化した理由はなにか。それは、習近平・国家主席が中国共産党員の約1億人を完全コントロールしたので、残り国民の13億人を「反スパイ法」で縛り、国家(習近平氏)への忠誠を誓わせる「システム」の役割を果たすことだ。これによって、国民に対して国家のデータを公表させないほかに、ここへアクセスする外国勢力を「スパイ」として断罪する意思を明確にした。情報の鎖国主義である。

 

中国の「反スパイ法」は当初2014年に施行された。それが、今年4月に改正(実施は7月)されたもの。これまでの「国家の秘密や情報」に加えて「国家の安全と利益に関わる文書やデータ、資料や物品」が新たに取締りの対象になった。ここまで、取締り対象が拡大されたことは、中国の「秘密事項」と決められた情報に接すると、誰でも「反スパイ法」に抵触するリスクが高まるのだ。

 

中国が、仮にTPP加盟となれば、開示しなければならないデータや情報は、すべて秘密事項に該当する。こういう縛りを入れて置いて、「TPP加盟」などあり得ないことだ。中国は、「反スパイ法」強化で、TPP加盟申請を放棄したと見て差し支えない。中国は、すでに米国のコンサルタント会社を強制捜査している。コンサル企業は、幅広い情報収集をしてビジネス・チャンスがあるかどうか、答えを出すビジネスである。その調査活動が、「スパイ行為」と見なされるのは、中国経済がいかに衰弱しているかを物語っている。(つづく)

 

この続きは有料メルマガ『勝又壽良の経済時評』に登録するとお読みいただけます。ご登録月は初月無料です。

https://www.mag2.com/m/0001684526