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「常夏の避暑地」と言えば、誰でもハワイを思いつくが、昨今の異常気象の中でタイが人気を集めている。タイは、海洋大循環から離れている。こういう立地上の問題で、タイが避暑地として脚光を集めているのであろう。異常気象のもたらした「悪戯」とも言えるのだ。

 

『日本経済新聞 電子版』(8月6日付)は、「涼を求めて熱帯タイへ、『常夏の避暑地』は熱波の副産物」と題する記事を掲載した。

 

世界有数の観光大国タイが新たな観光客をひき付けている。年間を通じて気温30度前後の熱帯のリゾート地が取り込んでいるのが避暑需要だ。世界中が熱波に見舞われ、タイが相対的に涼しく感じられるようになったからだ。

 

(1)「タイの湿度は高いけれども、地元に比べればはるかに涼しい。ビールがあれば天国だよ」。7月23日にバンコク中心部の繁華街スクンビットのバーで米カリフォルニア州出身のジョセフさん(33)はこう話した。カリフォルニア州は連日高温に見舞われている。米メディアによると、熱波が到来している米南部だけでなく、カリフォルニア州の一部でも体温を上回るような異常な暑さが続いているという。7月16日には同州デスバレーで気温が53度まで上昇した」

 

タイは熱帯モンスーン気候である。年間の平均気温は約29℃で、高温多湿で蒸し暑く、日本の真夏の気候と考えれば良いとされる。季節は3つに分けられる。現在は、グリーンシーズン/雨期(6月~10月)に当たる。一年で最も雨が降る季節だ。日本の梅雨のように一日中雨が降り続くことは少ないが、毎日1~2時間程度の激しいスコールが降る。暑い日が続いても、雨の後は涼しくなるという「恩典」があるのだ。熱波が到来している米国から比べれば、タイは「天国」に違いない。

 

(2)「『せっかくだから安全で陽気な国で遊びたかった』。英国人のベンさん(28)は夏休みの行き先をスペインからタイに切り替えた。イタリアやスペインなど南欧の一部で気温が40度超に上昇し、体調不良による救急受診も相次いでいるからだ。高温に見舞われた地域では当局が外出を控えるよう呼びかけていて観光は難しい事情もある」

 

海洋大循環から見れば、欧州や米国は異常気象の頻度が上がっている。これは、避けられないことで即刻、二酸化炭素排出量をゼロにするくらいの取組みでないと「危機回避」は難しい。タイが、避暑地としてますます脚光を浴びるであろう。

 

タイの避暑地で有名なのは、カオヤイ(山岳地帯)とホアヒン(海浜地帯)が上げられる。いずれもバンコクから車で約3時間の距離という。カオヤイは、世界自然遺産に指定されており、「タイの軽井沢」とも言われる。平均気温は23度。ホアヒンは、タイ王室の避暑地でもある。

 

(3)「気候変動の思わぬ副産物として生まれた避暑需要は、新型コロナウイルス感染拡大で打撃を受けたタイの観光業にとって恵みの雨となり得る。欧米や日本などが夏休みシーズンの6〜10月は雨期にあたり、これまであまり観光に適さない時期とみられていたからだ。この時期に観光客を呼び込めれば、新たな成長の可能性が見えてくる。雨期は夜間の気温が25度程度まで下がる日も多く、すでに一部の外国人観光客はタイに涼しさを求めて集まり始めている」

 

6~10月の雨期シーズンは、これまで観光客が減る季節であった。それが、世界的な異常気象によって「避暑地」として脚光をあびることになった。

 

(4)「7月下旬、タイ東部のリゾート地パタヤでは、離島ラーン島に向かう250人乗りのフェリーがほぼ満席の状態だった。ロシアやインド、ドイツなど多様な国籍の観光客が同島を訪れ、海水浴やビーチ沿いでの飲食を楽しんでいた。フィンランド人のイライアスさん(25)は「想像よりも涼しくて過ごしやすい。できれば23カ月は滞在したい」と話す。ビーチを散策していたオーストラリア人の40代女性は「日差しが雲で遮られて日焼けの心配が少なくてすむ」と笑う」

 

パタヤは、ベトナム戦争時の米軍将兵の保養地として開発が進んできた経緯がある。バンコクから車で約2時間半という距離だ。米軍保養地であったことから想像できるように、高級リゾート地とは言いがたい問題をはらんでいる。年間平均気温は28度。6~10月の雨期シーズンでも、平均最高気温は31.3度である。過ごしやすいことは確かである。