EV(電気自動車)普及が、脱炭素の切り札という単純な見方は消えつつある。EV製造過程(特に電池生産)で多量のCO₂が排出されるためだ。製造段階の脱炭素化が、重視される状況になった。一方、世界の電源構成に占める太陽光や風力発電など再生可能エネルギーの割合が2025年上半期に石炭を初めて逆転し、最大の電力源になった。石炭の生産国である中国やインドで再エネの発電量が急速に伸びている。
カナダのマーク・カーニー首相は、2026年に実施予定だったEV販売義務化を延期した。英国のキア・スターマー首相はEV販売義務を緩和し、より柔軟な目標を達成できるようにした。欧州連合(EU)は先月、2035年に全新車を二酸化炭素排出ゼロの車両に切り替える目標を見直すことにした。
世界の最有力EV市場である中国でさえ、ひずみが現れている。販売台数は伸び続けているものの、すでに飽和状態の市場で顧客を奪い合う中、自動車各社は利益度外視の競争を繰り広げる。コンサルティング会社アリックスパートナーズは、2023年に中国で運営されていた118のEVブランドについて、5年後には大半が存続できないと予測する。EV万能信仰時代は終った。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(10月17日付)は、「EV推進計画が世界で後退、米国の動きに追随」と題する記事を掲載した。
ゼネラル・モーターズ(GM)は10月14日、EV販売不振に伴い、追加費用を16億ドル(約2400億円)計上すると発表した。その原因は、EV購入補助金を廃止し、環境規制を撤回した米政府の最近の動きにあると主張した。GMは今年に入り、EV義務づけの緩和に向けた積極的なロビー活動を行っている。
(1)「自動車メーカーは、予想されたほど消費者がEV購入を急がず、政府によるEV普及の取り組みがメーカーの利益を圧迫していると主張してきた。GMは追加費用を明かした際、EV生産能力を再評価しており、赤字が拡大する可能性もあると警告した。「EVは将来的には良い解決策となるが、顧客に無理強いすべきではない、という現実的な考え方がある」。日産自動車の米州事業を統括するクリスチャン・ムニエ氏は、米国だけでなく西側世界の大部分に言及してこう述べた。「それがプラグマティズム(実用主義)というものだ」と指摘する」
EVは、脱炭素という時流の中で人々の注目を集めたが、ガソリン車を凌駕するほどの決定的なメリットをユーザーに与えられなかった。航続距離や給電時間の長さなどの問題を抱えているからだ。現在のリチウムイオン電池から、次世代電池の全固体電池の時代になれば、EV評価は高まる。それに、全自動運転車というプラスが加われば、一転するのであろう。
(2)「自動車メーカー各社は、電池コストが依然として高く、充電ネットワークが不十分で、政府補助金が縮小傾向にあることを考えると、EVのビジネスモデルは採算が取れないと主張する。欧州・米国・カナダの全域で、EV奨励策は終了または縮小されている。多額の電動化コストに苦しむ独フォルクスワーゲン(VW)は、労働組合と結んだ合意の一環で3万5000人を削減すると発表。欧州でのEV見直し機運に拍車をかけた。この動きは地域の政治既得権層に衝撃を与えた」
VWは、最も安易にEV時代の到来を信じてしまった。それは、トヨタ自動車の「全方位経営」からみれば、信じがたいほどの「単線経営」であった。卵を一つの籠に詰め込んだ失敗である。
(3)「数週間後、EUは自動車業界と「戦略的対話」を開始し、それは2025年の排ガス基準達成スケジュールの柔軟化につながった。9月の協議ラウンドの後、EUの執行機関である欧州委員会のステファン・セジュルネ上級副委員長(繁栄・産業戦略担当)は、2035年までに全新車をCO2排出量ゼロにする(ゼロエミッション化)目標を早急に見直すと述べた。報道官が明らかにした」
EUは、EVへ大きく傾斜して失敗した。いわゆる「環境派」が支配した結果だ。EVが、製造過程でどれだけの二酸化炭素を排出するか。そういう合理的な計算をしなかったのだ。トヨタは、HV(ハイブリッド車)の二酸化炭素排出量とEVのそれを正確に把握していた。その事実を米国市場で周知徹底させたのである。




