日本のEV(電気自動車)をめぐる未来戦略が動き出している。リチウムイオン電池に代るものとして、全固体電池の開発が急がれている。先鞭を切るトヨタ自動車は、量産化体制を確立するために出光と協業する。一方、リチウムの供給では、世界一の埋蔵量を誇るチリが、日本企業との長期契約を働きかけるなど、一挙に動きが加速してきた。
『産経新聞』(10月12日付)は、「トヨタ、全固体電池の量産へ出光と協業 自動車業界の競争図塗り替えるか」と題する記事を掲載した。
トヨタ自動車と出光興産は12日、電気自動車(EV)用の次世代電池である「全固体電池」の量産化に向けた協業で合意したと発表した。固体電解質の量産技術開発や生産性向上、サプライチェーン(供給網)の構築に両社で取り組む。
(1)「全固体電池は、電池を構成する正極材、負極材、電解質のうち、通常は液体の電解質に固体材料を使うため、液漏れなどの心配がなく、安全性や形状の自由度が高まる。繰り返し充電しても劣化が少なく、高容量・小型化など電池の基本性能を劇的に高められることから、実用化すれば自動車業界の競争図を塗り替える「ゲームチェンジャー」になる技術とされており、トヨタは令和9~10年に実用化する方針を明らかにしている」
全固体電池は、リチウムイオン電池と同様にリチウムを原料にするが、使用量が少ないほかに高容量・小型化や充電時間の短縮化・劣化しにくいなど多くの利点を持っている。トヨタは量産化へのメドをつけているが、出光興産との協業でさらなる成果を確実にする。
(2)「今回の協業は、高容量・高出力を発揮しやすいとされている硫化物系の固体電解質が対象。硫化物固体電解質は、柔らかく他の材料と密着しやすいため、電池の量産がしやすいという特徴があるという。両社は今後、数十人規模の作業チームを立ち上げ、双方の知見を合わせて硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた素材の作り込みを進め、出光の生産設備を使って実証を行い、その結果も踏まえて本格的な量産と事業化を検討する。全固体電池については、出光が平成13年から、トヨタが18年からそれぞれ要素技術の研究・開発に取り組んでおり、両社の豊富な技術的蓄積を共有することでEV用次世代電池の実用化に向けた競争をリードする狙いとみられる」
トヨタと出光興産との協業は、次のような内容だ。
第1フェーズ 「硫化物固体電解質の開発と量産化に向けた量産実証(パイロット)装置の準備」:両社の技術領域へのフィードバックと開発支援を通じ、品質・コスト・納期の観点で、硫化物固体電解質をつくり込み、出光の量産実証装置を用いた量産実証につなげる。
第2フェーズ:「量産実証装置を用いた量産化」
出光による量産実証装置の製作・着工・立ち上げを通じて、硫化物固体電解質の製造と量産化を推進。トヨタによる硫化物固体電解質を用いた全固体電池とそれを搭載した電動車の開発を進め、2027年~2028年としている全固体電池搭載車の市場導入を、より確実なものとする。
第3フェーズ:「将来の本格量産の検討」
以上の3過程を経て、全固体電池の量産化へこぎ着けるとしている。世界の企業でここまで計画が明らかになったのは初めてだ。
日本にとっては、リチウムの長期的確保が不可欠となる。世界第一の埋蔵量を誇るチリが、日本へ積極的な売り込みを図っている。
『ブルームバーグ』(10月12日付)は、「リチウム大国チリ、地場産業発展のため日本企業に働きかけ」と題する記事を掲載した。
世界最大のリチウム埋蔵量を誇るチリでは、日本の電池メーカーや金属会社が、リチウム原料の付加価値向上や技術移転と引き換えに、長期的な優先的アクセスを得ることに関心を示しているという。
(3)「鉱業大国のチリは、加工・製造能力の発展を支援してくれる企業の誘致に注力している。ニコラス・グラウ経済相は、SQMの生産契約が2030年までであるのに対し、アルベマールの契約は2043年まであるため、入札者にとっては優遇価格で取得する可能性が増し、より競争的な手続きになるだろうと述べた。グラウ氏は、「電池メーカーはリチウム産出に関与したがっており、その理由はただひとつ。確実な供給を得るためだ」と、中国に向かう前に立ち寄った東京でのインタビューで述べた。そして「この方がずっとシンプルだ。リチウムを手に入れるために3年も5年も待つ必要はない」と指摘した」
チリ経済相は、なかなかの商売人である。中国では、リチウム先物相場が暴落しており、チリもその影響を受けているはず。そこで、日本へ長期契約で売り込もうという狙いだ。リチウムを手当するには良い時期であろう。
(4)「グラウ氏は、住友商事、三井物産、双日など電池やEVのサプライチェーンに関わる企業との会合を終え、「日本企業が投資にかなり興味を持っている」と述べた。日本の大手電池メーカーや自動車メーカーは、イーロン・マスク氏が率いる米テスラやBYDに対抗するため、次世代電池の開発に多大な投資を行っている。パナソニック・ホールディングスは、カナダ初となる北米製EV用リチウムイオン電池のサプライチェーン構築に向けて前進していると発表した。日本とカナダの当局者は先週オタワで会談し、EVサプライチェーンに関する協定に署名した」
チリ経済相は、日本の総合商社と接触している。それなりの手応えを感じたのであろう。トヨタの全固体電池の量産化が始まれば、リチウム需要も増えるので、日本側も積極的になっている。