勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: イスラエル経済ニュース時評

    a0960_008417_m
       

    イスラエルは、建国の歴史からみても周辺を「敵」に囲まれている。それだけに、治安対策は国是のはずだった。だが、10月ハマスの急襲を受け、大きな人命の損傷を被った。ネタニヤフ首相は、これまで「ミスター治安対策」として評価され、長期政権を担ってきたが、この看板に大きな傷がついたのだ。長年の支持者が離れ始めている。今、総選挙が行われれば「野党勝利」とみられているほどだ。

     

    『フィナンシャル・タイム』(11月3日付)は、「失望招いた『ミスター治安対策』ネタニヤフ氏支持急落」と題する記事を掲載した。

     

    1948年の建国以来最多の死者を出した襲撃を受け、イスラエル人は国旗の下で団結を強めている。イスラエル当局によると死者は1400人に上り、ガザへの地上侵攻やハマス撲滅というネタニヤフ氏の戦闘目的には支持が広がる。

     

    (1)「愛国心の高まりにもかかわらず、右派支持層でさえ首相に反発している。首相として6期目のネタニヤフ氏は、ライバルらを出し抜いて過去14年間、一時期を除いてイスラエル政治の頂点に君臨してきた。自身を「ミスター・セキュリティー」「ミスター・エコノミー」と位置づけ、国の軍事力を維持しつつアラブ諸国と融和を図る一方、急成長するテクノロジー産業を育成して掌握できる指導者だと訴えて支持を獲得してきた。だが、ハマスによる襲撃と経済に打撃を与えたその後の紛争で、イスラエルが攻撃への準備を著しく欠いていたことが露呈し、こうした首相のイメージは大きく揺らいでいる」

     

    ネタニヤフ首相は、長期政権で緩みが出たのかもしれない。イスラエルの最大課題である「安全保障」で、ハマスの急襲を許したことが、国民の支持を失う要因だ。

     

    (2)「ネタニヤフ首相に対する国民の不満の大半は、イスラエルが10月7日の攻撃を予見・阻止できなかった失態への謝罪を首相がかたくなに拒否していることから生じている。同国紙『マーリブ』が10月末発表した世論調査では、イスラエル国民の80%がネタニヤフ氏は攻撃を招いた情報収集と防衛の失敗の責任を取るべきだと回答した。ネタニヤフ氏は断固として責任を取ろうとせず、紛争終結後に「自分を含む」全ての人に厳しい問いが突きつけられるだろうと述べるにとどまっている」

     

    ネタニヤフ首相は、自らの責任について言及しないことも国民の不満を煽っている。安全保障の最高責任者が、これだけの惨事を招いたことについて一言あるべきだ。

     

    (3)「リクード党(中道右派政党)内は今のところ首相支持で結束しているが、かたくなな首相の態度を受け有権者の支持離れが急速に進む。マーリブが10月14日に実施した調査では、今選挙が実施されれば野党が右派連立政権に大勝するとの結果が出た。ネタニヤフ首相を支持する回答者はわずか29%と攻撃前から激減した一方、48%が中道右派「国家団結党」のベニー・ガンツ党首を支持した。同氏は5人から成る戦時内閣の一員だ。イスラエル民主主義研究所(IDI)のシニアリサーチフェロー、タマル・ヘルマン氏は「ネタニヤフ氏がここまで支持率を下げたのは初めてだ」と指摘する。

     

    10月14日に実施した調査では、今選挙が実施されれば野党が右派連立政権に大勝するとの結果が出た。

     

    (4)「リクード党に対する激しい怒りが湧き起こっている。テルアビブにある同党本部は先月下旬、血しぶきを模した塗料で汚され、ハマスに人質に取られた242人のコラージュ写真が貼られた。血の手形を押したネタニヤフ氏の顔写真もあった。ネタニヤフ氏が10月28日にX(旧ツイッター)への投稿でイスラエル軍と治安機関幹部からハマスの奇襲について何ら警告がなかったと批判したことは、人々の怒りに油を注いだ。投稿は猛反発を引き起こし、ガンツ氏は撤回を求めた。同氏が「戦時にあって指導者は責任を示す必要がある」とXに投稿すると、ネタニヤフ氏は29日朝に投稿を削除して謝罪した」

     

    ネタニヤフ氏出身のリクード党は、国民の怒りの対象になっている。さらに、ネタニヤフ氏が、急襲前に情報が上がってこなかったと発言して、さらにひんしゅくを買った。責任をなすりつける発言であるからだ。最高責任者の取るべき態度でないというのである。

     

    (5)「ネタニヤフ氏がXの投稿を削除した2日後の31日にIDIが発表した世論調査では、同氏に戦争の指導力があるとみるイスラエル人はわずか7%にとどまり、74%が軍幹部と答えた。右派有権者の間でもネタニヤフ氏への支持は僅かに高いだけで10%にとどまった。ヘルマン氏は「Xへの投稿を巡る不始末を見て、人々はネタニヤフ氏が本当に何かおかしいと感じている。この状況で、ネタニヤフ氏は驚くほど予想外な行動を取っている」と指摘する」

     

    10月31日の世論調査では、ネタニヤフ首相を支持する世論は7%に落ちている。74%は軍幹部を支持しているのだ。こうした国民のネタニヤフ支持離れが、ハマスへの戦いを苛烈にさせている面もあろう。また、米国の一時停戦案も聞き入れないほどにさせているとすれば、困った事態になっている。

     

    (6)「リクード支持者の一部は、この不祥事が起きるもっと前からネタニヤフ氏に愛想を尽かしていた。昨年末に同氏が「宗教シオニズム」などの極右政党と連立を組んだことに多くの有権者が反発した。ネタニヤフ氏が裁判所の力を弱める司法制度改革に着手すると、数カ月にわたり大規模な抗議デモが起こり、支持者が抱く心理的な距離感はさらに広がった」

     

    ネタニヤフ首相は、今回の事件によって確実に政治生命を縮める。米国など西側諸国の「停戦案」を聞き入れぬほど硬直化している背景だ。ネタニヤフ氏が、自らの延命を目指せば目指すほど、民間人の犠牲者は増える。

    a0960_008527_m
       

    米ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は11月2日、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの市民を助けるため、イスラエル軍とハマスの戦闘を一時停止する案を模索していると明らかにした。その上で、こうした戦闘の一時停止はイスラエルの自衛を妨げることにはならないという認識も示した。

     

    カービー氏は、記者団に対し「支援活動と人質の救出に向けた取り組みを継続するために必要となる可能性のある一時停止」について検討することを目指しているとし、「イスラエル当局と協力し、民間人の死亡や巻き添え被害のリスクを最小限に抑えるよう全力を尽くしている」と語った。『ロイター』(11月3日付)が伝えた。

     

    米国は、イスラエルのハマス攻撃は自衛権の範囲という解釈である。ただ、民間人への被害を食止めるべく「戦闘の一時停止案」を出したものだ。

     

    『ハンギョレ新聞』(11月2日付)は、「イスラエル、ガザ地区の南北分断図るか『220万人強制移住』のシナリオまで用意」と題する記事を掲載した。

     

    イスラエル国防軍(IDF)の地上作戦が、ガザ地区を一定期間南北に分断する結果を生むという予測が出ている。海外メディアは、イスラエル軍の最近の動向を、地域をナイフで薄く切り取るように清掃し掌握していくという意味で、「スライス戦法」と呼んでいる。

     

    (1)「イスラエルが「ハマス根絶」のために北部攻略に焦点を合わせており、軍事作戦が終わった後に明確な政治的解決策を提示するのも難しいからだ。こうなると、ガザ地区は「当面の間」イスラエル軍が占領した北部と避難民が集まっている南部に分断される可能性がある。『ワシントン・ポスト』紙は10月30日(現地時間)付で、「イスラエル軍、秘密に包まれたガザで地上攻撃の初期段階へ」という見出しの記事で、イスラエルの軍事専門家の話として、「イスラエル軍は大規模なDデー攻撃(一斉攻撃)の代わりに、慎重に数マイルまたは100ヤード(約90メートル)ずつ前進し、ハマスが隠蔽した爆発物とトンネルを見つけだすことで、(北部の主要都市)ガザシティ周辺に戦車と兵力を迅速に配置できる道を作っているものとみられる」と報じた」

     

    下線部のように、イスラエル軍は一斉攻撃の代わりに、100メートル未満に区切る前進しているという。ハマスを「しらみつぶし」にする戦術であろう。トンネルを狙った攻撃とみられる。

     

    (2)「イスラエル軍はこれと共に、ガザ地区北部の住民に繰り返し「南部への退避」を強く勧告している。これはイスラエル軍が、ひとまずガザ地区の首都に当たるガザシティの位置する北部地域を掌握した後、そこに集まっているハマスの戦力と基盤施設の完全な破壊を目指していることを強く示唆するものだ。軍出身で国防長官などを歴任したナフタリ・ベネット元首相も10月28日、「ガザ封鎖計画」と題したソーシャルメディアへの投稿で、イスラエルはハマスが降伏し、すべての人質を解放する時まで、ガザ地区を半分に分けて北部を掌握すべきだと主張した」

     

    イスラエルの元国防相は、イスラエルはハマスが降伏しすべての人質を解放する時まで、ガザ地区北部を掌握すべきと提案している。これが、イスラエル軍の最終的な目的かも知れない。

     

    (3)「ベネット氏はまた、ガザ地区内部に境界に沿って幅2キロメートルの安全地帯を作ることを提案した。ガザ地区を南北に分断し、北部に住んでいた住民を南部に移住させ、そこを事実上の「無人地帯」にしようという案だ。イスラエルのニュースサイト「シチャ・メコミット」も同日、イスラエルの最終目標が伺える興味深い文書を示した。同サイトの記事によると、イスラエル情報省は13日、ガザ地区の南北を分け、長期的に住民をエジプトのシナイ半島に強制移住させることを提案する報告書を作成した。つまり、ガザ地区北部に大規模な空爆を含む攻撃を浴びせ、住民の大半を南部に移住させた後、次第に南部に対する圧迫を続け、220万人にもなるガザ地区の住民をエジプトのシナイ半島に押し出すという内容だ」

     

    イスラエル情報省は10月13日、ガザ地区の南北を分け、長期的に住民をエジプトのシナイ半島に強制移住させることを提案する報告書を作成したと報じられている。これが事実とすれば、事態を悪化させて戦線が拡大する危険性を秘めている。

     

    (4)「情報省は、「残りの二つの案である(西岸地区を統治する)パレスチナ自治政府のガザ地区の統治と、(ハマスに代わる)新しい地域政権の樹立は、現実性に欠ける」と一蹴した。しかし、イスラエルが実際にこのような対応に乗り出した場合、「ガザ地区の問題はガザ地区で終わらせなければならない」としてパレスチナ難民の流入を強く牽制するエジプトとの摩擦が予想される。この報道に対しイスラエル首相室は、同文書は仮説的な概念を提示したものに過ぎないと説明した。国防省も、ガザ地区問題に対する初期の考えに過ぎず、戦後は考慮されていないと反論した。しかし、文書を暴露した「シチャ・メコミット」は、住民に南部への移動を求めたイスラエル軍の通告や最近の作戦の様子から、この計画が結果的に実行されていることが分かると主張した」

     

    イスラエルでは、ネタニヤフ首相への批判も強まっている。ハマスの急襲を事前にキャッチできず、被害を拡大したことだ。最初に、防衛を堅固にしていれば、こういう事態を招かなかったという理屈づけである。

    a0960_008571_m
       

    イスラエルによるハマスへの空爆は、人的被害を増やしており国際問題となっている。イスラエル国内の最新世論調査でも、45%が停戦案を支持した。ハマスも、人質解放の条件に停戦を打ち出している。イスラエルが、空爆から陸上戦へ移った場合、さらなる被害拡大が避けられない。

     

    イスラエルは、陸上戦によってハマスのテロ組織を100%排除する目的である。だが、全長48キロメートルに過ぎないガザに、最大で地下80メートル・総延長500キロメートル以上に及ぶトンネルが掘られているという。ここを占領することは、極めて難しいことが予想される。

     

    『ロイター』(10月27日付)は、「イスラエル部隊を待ち構えるハマス地下網 総延長500キロ以上か」と題する記事を掲載した。

     

    イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザに侵攻するイスラエルの地上部隊を待ち構えているのは、ハマスが長い年月をかけて地下に作り上げたトンネル網だ。治安関係者や専門家によると、トンネルは総延長が数百キロ、深さが最大80メートルに達し、攻撃、密輸、貯蔵、作戦遂行時の待避所といった目的に応じてさまざまな種類があるという。

     

    (1)「多くの専門家が、長さわずか40キロのガザに数百キロのトンネルが掘られているとの推測を認めている。イスラエルは、ガザの空路と海路を完全に掌握し、陸路についても全長72キロの国境のうちエジプトとの国境を除く59キロを支配している。そのためハマスにとってはトンネルが武器や機材、人を運ぶ数少ない手段のひとつとなっている。ハマスと他のパレスチナ人グループはガザのトンネル網について秘密にしている。しかしハマスに拉致され、最近解放されたイスラエル人のヨシェベド・リフシッツさん(85)は 「クモの巣のようで、たくさんのトンネルがあった。私たちは地下を何キロも歩いた」と証言した」

     

    ガザの地下には迷路のようにトンネルが建設されている。日本の戦国時代の城郭のように、敵を罠に仕掛ける装置もあるようだ。まさに地下の「迷宮」になっている。

     

    (2)「イスラエルの治安筋によると、同国による激しい空爆はハマスのトンネル網のインフラにほとんど損害を与えておらず、ハマスの海軍司令部は今週、ガザ近郊の沿岸地域を標的とした海上攻撃を仕掛けることができたという。「イスラエル側は何日もかけて大規模な攻撃を続けているが、(ハマスの)指導部はほとんど無傷で、指揮を執ることも反撃を試みることも可能だ」と、イスラエル元准将のアミール・アビビ氏は語る。「ガザの地下には深さ40~50メートルのところに都市が丸ごと存在する。地下壕や司令部、倉庫があり、もちろんそれらは1000カ所余りのロケット発射地点につながっている」と指摘」

     

    ハマスは、地下壕に司令部や倉庫などができあがっているという。米軍が対北朝鮮軍を想定して開発した地下壕貫通爆弾や、トンネル内を爆風で破壊する特殊爆弾を打ち込まない限り、ハマスの一掃は困難だろう。人質も被害を免れない。問題は、その後にアラブと米国・イスラエルの決定的な軍事対決が引き起こされることだ。中国と立ち向かう米国が、アラブで新たな敵を作ることはしないだろう。

     

    (3)「トンネルの深さは最大80メートルとの推定もある。ある西側治安筋はトンネル網について「何マイルも続いている。コンクリート製で、非常によくできている。ベトコン(ベトナム戦争時の南ベトナム解放民族戦線)のトンネルの10倍と考えれば良い。ハマスには建設のための時間も資金もたっぷりあった」と話す」

     

    トンネルの深さは、最大80メートルもあるという。ベトコンの構築したトンネルの10倍はあるという。米国は、このベトコンの手強さを十分に知った。

     

    (4)「イスラエル軍には、地下トンネルへの対応を専門とする「ヤハロム」という特殊部隊が存在する。ネタニヤフ首相も今週、ヤハロムへの期待を表明した。しかしイスラエルの情報筋によると、彼らを待ち受けている相手は手ごわい。ハマスは14年と21年の戦闘を教訓に部隊を再編成しているという。元准将でイスラエルのスパイ機関モサドの情報局長を務めた経験を持つアムノン・ソフリン氏は、数多くのわなが仕掛けられている上、ハマスの兵器は21年当時より高度化していると指摘する。ハマスはイスラエル軍兵士の誘拐も画策しているという

     

    ハマスが、いろいろと罠を仕掛けている。イスラエル軍兵士の誘拐作戦も準備しているという。こうなると、際限ない戦いでイスラエル経済は大きな被害を受ける。

     

    あじさいのたまご
       

    イスラエル軍の空爆によって、パレスチナ自治区ガザの市民の犠牲が増え続け、空爆停止を求める国際社会の声が強まっている。ブリンケン米国務長官は10月24日の国連安全保障理事会で、人道的観点から戦闘の一時停止の検討を求めた。 

    経済的な打撃は、イスラエルも顕著である。予備役招集によって労働力は枯渇している。イスラエル市民が、奇襲攻撃で受けたショックは簡単に消えず、個人消費は低調である。イスラエル経済が、ハマスとの紛争で被る打撃は過去数十年に経験したことのないものになりそうだという。 

    『ロイター』(10月25日付)は、「イスラエル経済への打撃深刻、予備役招集や消費低迷で」と題する記事を掲載した。

     

    高層ビルが増え続ける主要都市テルアビブでは、市が建設現場を閉鎖したため建設用クレーンが数日間動きを止めていた。今週に入ると厳格化された安全指針の下で作業が再開されたが、業界の報告書は建設部門の停滞だけで1日当たり1億5000万シェケル(3700万ドル)の経済損失が発生していると推計している。イスラエル建設業協会のラウル・サルゴ会長は「打撃を受けているのは建設業者や実業家だけではない。イスラエルの全世帯が受けている」と話す。 

    (1)「約5000億ドル規模のイスラエル経済はハイテク業と観光業に強みを持ち、中東地域で最も発展している。今年は大半の期間にわたり堅調を維持。通年の成長率は3%に達する勢いで、失業率も低かった。しかし、ガザへの地上侵攻が間近に迫り、戦闘が地域紛争へと拡大する恐れがあるため、国民は身を潜め、食料品以外の支出を大幅に減らしている。格付け会社は既にイスラエルを格下げする可能性を警告している。何十万人もの陸軍予備役が召集されて人繰りに穴が開き、港湾からスーパーマーケットにいたるサプライチェーン(供給網)が混乱。小売業者は従業員を一時解雇し、通貨シェケルは下落している。また紛争の影響でガザ地区からイスラエルへのパレスチナ人労働者数千人の移動が止まり、ヨルダン川西岸地区からの流れも細っている」 

    イスラエルの予備役30万人の招集は、イスラエル経済に大きな影響を与えている。ガザ地区からイスラエルへのパレスチナ人労働者数千人の移動が止まっている。影響が出ないはずもない。

     

    (2)「エルサレムの主要なショッピングモールのエスカレーターや通路は紛争勃発から2週間閑散としていた。利用者は徐々に戻っているが、「客足は激減している」と、スポーツウエアを扱う店舗の店長は言う。ホテルは国境地帯から避難してきたイスラエル人で半分ほどが埋まっているが、残りはほとんど空室だ。工場は、ガザ近郊の拠点でさえ操業を続けてはいるが、定期配送を担うトラック運転手の数は必ずしも十分ではない」 

    イスラエルへの外国人観光客は止まっているので、客足が激減している。観光が、メイン産業だけに打撃は大きい。 

    (3)「先週のクレジットカードによる買い物は前年同期比で12%減少。スーパーマーケットでの買い物が急増した以外、ほぼすべてのカテゴリーで激減した。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大期に隆盛を極めたハイテク産業は苦戦を強いられている。イスラエルは国内総生産(GDP)の18%、輸出の半分をハイテク業が占める。「生産性が著しく低下している。生きるか死ぬかが問題になっているときに日々の仕事には集中できない」と、フィンテック企業シータレイのバラク・クライン最高財務責任者(CFO)は語る。同社は国内の従業員80人のうち12人が予備役に招集された」 

    輸出の半分は、ハイテク業が占める。だが、戦争状態にあるので仕事に集中できず、予備役招集の穴も大きい。

     

    (4)「イノベーション庁のドロール・ビン最高責任者によると、ハイテク業界では労働力の推計1015%が予備役として招集された。同庁が多数のハイテク企業、特に初期段階のベンチャー企業と接触したところ、その多くが資金調達ラウンドの最中で、資金不足に陥っている。こうした企業を支援するためにイノベーション庁は1億シェケル(2500万ドル)の基金を設立し、ハイテク新興企業100社が苦境を乗り切るのを支えている」 

    ハイテク業界は、労働力の推計10~15%が予備役として招集されている。この結果、業務が滞って苦境にある。イノベーション庁は支援に乗り出している。 

    (5)「イスラエル政府は紛争のための資金と被害を受けた家計や企業への補償に「無制限の」支出を約束しており、これは財政赤字と債務の拡大を意味する。今後のイスラエル経済を占う上で過去の紛争は参考にはならないかもしれない。今回は、過去の例とは異なると当局者は指摘する。国民の間に「情緒的な危機」があり、それがすでに打撃を及ぼしていると指摘するのは、大手ハポアリム銀行のチーフ経済アドバイザー、レオ・レイダーマン氏。「人々は先行きの不透明さと不安な気持ちから消費支出を最小限に抑える」と見ている。個人消費は経済活動の半分以上を占めるだけに、経済への影響は重大かもしれない。 

    イスラエルは、ハマスの奇襲攻撃で多大の人命を失い人質までとられている。これは、過去にない被害であるだけに、国民の受けた衝撃は簡単に癒やせないであろう。ここで、イスラエルが、ハマスへ地上戦を行って「溜飲を下げる」ことよりも、恒久的な平和を構築することにエネルギーを割くべきかも知れない。報復は、新たな報復をまねくことになるからだ。イスラエルは、重大な選択を迫られている。その意味では、米国が停戦を求めていることは、イスラエルをより冷静にさせるチャンスとなろう。

    テイカカズラ
       

    ガザのハマスによるイスラエル急襲によって、中国の一帯一路をはるかに凌ぐ「インド・中東・欧州貿易回廊(IMEC)」の行方が懸念されている。

     

    米国、インド、中東、欧州連合(EU)の指導者らは9月、ニューデリーで開催された20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせ、欧州・中東・南アジアを結ぶ多国間鉄道・港湾構想を発表した。

     

    「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」に関する覚書は、EU、インド、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、その他G20パートナーによって署名された。米国は世界的なインフラ整備で中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗しようというもの。バイデン米大統領は今回の覚書について、2つの大陸の港を結ぶ「真のビッグディール(大きなこと)」であり、「より安定・繁栄し、統合された中東」につながると述べたのである。

     

    『ロイター』(10月11日付)は、「中東経由で印・欧州結ぶ貿易回廊構想 情勢緊迫でもろさ露呈」と題する記事を掲載した。

     

    イスラエルとパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスの新たな衝突は、インドと中東、欧州を結ぶ野心的な貿易回廊構想の実現性に影を落としている。米国が支持する同構想は9月にインドで開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせて公表され、中国主導の巨大経済圏構想「一帯一路」に対抗する狙いがある。ただ、イスラエルとハマスの戦闘激化で中東を巻き込むグランドビジョンはどれも一時停止を余儀なくされた。

     

    (1)「『ンド・中東・欧州経済回廊(IMEC)』の支持者らは鉄道や航路で結ぶ貿易回廊の高い潜在性を強調してきた。バイデン米大統領は「画期的出来事」と称賛し、欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は「大陸と文明をまたぐグリーンでデジタルな架け橋」と強調。インドのモディ首相も「今後数百年にわたる世界貿易の基盤」と評した。IMECは、2027年までに6000億ドルを世界のインフラに投融資するという主要7カ国(G7)の計画の一部を成す」

     

     

    主要7カ国(G7)は、2027年までに6000億ドルを世界のインフラに投融資する計画である。IMECは、この計画の一部である。中国の一帯一路と異なるのは、IMECがG7という後ろ盾を持っていることだ。

     

    (2)「IMECが貿易回廊として潜在性が極めて高いのは、輸送時間を40%も短縮できる点が大きい。また、インドとサウジアラビアの貿易総額が過去2年間で2倍以上に膨れ、23年度に約530億ドルに達するなど、需要も大きい。しかし、インドにとって本当の収穫は、第3の貿易相手国である欧州との関係を強化できることだろう。インドと湾岸諸国の関係はかなり温まっているが、サウジアラビア・イスラエル間に信頼できる輸送路を確保できなければ回廊は機能せず、インドの新興財閥アダニ・グループが今年運営権を獲得したイスラエル北部ハイファ港から将来的に欧州に製品を輸送することもできない」

     

    IMECは、インドと欧州の輸送時間を40%も短縮できることである。この計画は、サウジアラビア・イスラエル間に信頼できる輸送路を確保できなければ回廊が機能しないという側面がある。こうした背景もあって、サウジアラビアとイスラエルは外交的に接近しつつあったが、この重要な局面でハマスがイスラエルを急襲した。サウジとイスラエルの融和が、IMEC成功の鍵を握っている以上、ハマスの問題をどうするかという根本的な解決が求められている。この際、ハマスが納得するようなアラブ世界の解決策を打ち出せるのか。

     

    軍事紛争がエスカレートする事態になると、IMEC自体の成功はおぼつかなくなろう。何としても、さらなる犠牲を出さずに解決できるのか。この如何にかっている。

     

    (3)IMECは長期ビジョンで、米資本の撤退に見舞われている中国が中東を重視するのも長期的な政策だ。ただ、現状下ではこれらの計画は先送りされることになるだろう。短期的にスエズ運河がインドから欧州への物流の要所にとどまり、トルコが自国の対抗ルートを推すとみられる。戦争のせいで、世界の貿易・金融ルートを再構築する困難さが思い起こされる形になった」

     

    IMECが、吹き飛ぶような事態にならないように祈るほかない。それは、イスラエル自身が恒久的な解決策を探る動きをするかどうかにも関わってくる。イスラエルは、ハマスに急襲されただけにその怒りは強い。それは当然であろう。ただ、「忍び難きを忍ぶ」という高次元から新たな解決策を求めるかどうかも重要だ。IMEC実現が、イスラエルとアラブの経済的共存に道を開くことも事実であろう。関係国が冷静に対応すれば、新たな平和の道が生まれる可能性も出てくるのだ。

    このページのトップヘ