勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 香港経済ニュース時評

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    香港と言えば、華やかな金融国際都市として脚光を浴びてきた。だが、2020年に中国管理下に入ってから、国際的な金融機関は相次いで撤退した。もはや、かつてのきらびやかさは消えたと言われている。それどころか、「金融犯罪都市の中心地」とまでレッテルを貼られる始末だ。

     

    『CNN』(11月26日付)は、「香港が『金融犯罪の中心地』に、米議員が警鐘 ビジネス関係の再評価求める」と題する記事を掲載した。

     

    超党派の米議員が、香港についてマネーロンダリング(資金洗浄)と制裁回避の中心地となっていると警告していることが分かった。議員は、香港と米国の緊密なビジネス関係の再評価を求めている。香港では、中国政府による締め付けが強まっている。

     

    (1)「下院の中国特別委員会の超党派指導者は25日、イエレン財務長官に宛てた書簡で、米政府による香港の金融分野への監視強化を要求した。米大手銀行の多くが拠点を置く香港にとって金融分野は国内総生産(GDP)の5分の1を稼ぐ、経済の柱だ。書簡は、香港が違法な慣行の「世界的リーダー」になっていると指摘。これには輸出規制の対象となっている西側技術のロシアへの輸出、イラン原油購入のためのフロント企業の設立、北朝鮮との違法貿易に従事する「幽霊船」の管理などが含まれるという

     

    下線部のようないかがわしいビジネスが、香港を舞台に繰り広げられていという。無法地帯化している様子である。

     

    (2)「議員は、2020年に中国政府が国家安全維持法(国安法)を制定して以来、「香港は信頼される世界の金融センターから、中国やイラン、ロシア、北朝鮮の深化する権威主義枢軸における重要なプレーヤーへと移行した」と述べた。議員は、長年にわたる米国の香港での特に金融・銀行分野に対する政策が適切かどうかを問う必要があるとしている」

     

    香港は2020年以来、中国政府の国家安全維持法に包括されて、中国、イラン、ロシア、北朝鮮ビジネスの舞台になっている、としている。

     

    (3)「トランプ大統領(当時)は20年、国安法を成立させた中国政府に制裁を科すため、1992年から続いた米国法の下で香港が長年享受してきた優遇措置を取り消した。この大統領令は、香港に対する中国本土とは個別の関税措置を事実上終了させた。それ以来、香港を拠点とする数十社の企業は米国の制裁を受けてきた。半導体など軍民両用(デュアルユース)製品の供給など、ロシアのウクライナ侵攻に応じて課せられた広範な措置を回避したという理由からだ」

     

    現在、香港を拠点とする数十社の企業は米国の制裁を受けている。

     

    (4)「香港当局はこれまで、他国が課した一方的な制裁を履行する義務はないと述べてきた。例えば、米国や欧州連合(EU)、英国による制裁の対象となったロシアの新興財閥(オリガルヒ)とつながりのある巨大ヨットが22年10月に香港に寄港したときなどだ。委員会の書簡は今年発表された調査結果を引用している。この調査によると、23年8月から12月の間に香港からロシアに輸送された商品の40%近くが優先度の高い品目、つまりロシアのミサイルや航空機などの軍需製品の生産を後押しする可能性が高いものに該当する

     

    香港からロシアに輸送された商品の40%近くが、ミサイルや航空機などの軍需製品の生産を後押しする可能性が高いという。

     

    (5)「議員は財務省当局者に対し、米国の銀行と香港の銀行との関係の現状、香港の地位と姿勢の変化を考慮して米国の政策がどのように変化したか、そして財務省がこうしたリスクに対処するために実施予定の措置について委員会に説明するよう求めている。この動きは、トランプ氏が、国務長官に指名したマルコ・ルビオ上院議員を含む対中強硬派の閣僚を率いてホワイトハウスに復帰する準備を整えている中で起きている」

     

    米財務省は、米国の銀行と香港の銀行との関係など広範囲な調査をすべきとしている。何らかの制裁が加えられそうな雰囲気である。

     

     

     

     

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    香港の73階建て高層ビル「中環中心(ザ・センター)」は、2017年に香港のオフィスタワーとして過去最高額で売却された。売却額は、約52億ドル相当(当時のレートで約5870億円)と超高値で話題を呼んだ。それが現在は、見る影もない凋落ぶりだ。原因は,本土の不動産バブル崩壊の余波である。習近平国家主席には、ぜひ見て欲しい現場の零落ぶりだ。

     

    『ブルームバーグ』(7月23日付け)は、「最高額で売れた香港高層ビル、価値急落ー中国信用バブル崩壊の象徴に」と題する記事を掲載した。

     

    香港の73階建て高層ビル「中環中心(ザ・センター)」は、2017年に香港のオフィスタワーとして過去最高額で売れた。あまりにも高かったため、投資家はコンソーシアムを結成して過半数の権益を取得し、フロアを分割しなければならなかった。この決断は、7年経った今、急速に重荷となりつつある。

     

    (1)「現在、資金繰りが苦しいオーナーらは、中国本土の住宅販売急減を受け、同ビルのテナントや区分購入者から収入を確保しようと競い合っている。これらオーナーの多くは中国の住宅建設業者だ。その結果、価値は下落し、現在では購入価格を50%近く下回る価格で提供されているスペースもある。一方、不動産仲介業者ナイト・フランク集計のデータによると、18年6月以降、中環(セントラル)地区のオフィス全体の価値は約30%下落している」

     

    ザ・センターは、香港島北部の上環地区に建設され、1998年に完成。尖塔を含めた高さは346m、地上73階建てで、香港で4番目に高く世界でも14番目の高さを持つ超高層ビルである。それが今、内部は見るも無惨な姿になっている。

     

    (2)「ブルームバーグ・ニュースの記者が今年4月にザ・センターを訪れた際、天井のパネルがところどころ欠けているほか、フロアによっては隙間から長い電線が垂れ下がっていた。当時、ある空きオフィスの入り口には、以前のテナントが家賃を払っていないことを示唆する張り紙があった。同じフロアでは、幸運と繁栄の象徴であるパキラ(発財樹)の木の下に枯れ葉が散らばっていた」

     

    このパラグラフは、余りの変わりように胸が潰されるような思いがする。「ザ・センター」がここまで落ちぶれるとは,想像を絶する。

     

    (3)「同ビルの苦境は、中国政府による過剰レバレッジの取り締まりによって不動産を巡る熱狂に終止符が打たれた後、香港を襲った幅広い信用バブル崩壊を象徴している。デフォルト(債務不履行)の増加に伴い、海外投資家は住宅建設業者の債券を敬遠しており、好況時に多くの不動産開発業者が行っていた債券投資家説明会は、清算を回避するための法廷審理に取って代わられている」

     

    中国バブルの崩壊が、香港を襲った構図である。震源地は、習近平氏へ行き着く。

     

    (4)「アドミラルティー・ハーバー・キャピタルの最高経営責任者(CEO)で元投資銀行バンカーの劉北(パトリック・リウ)氏は、「資本市場はある程度、中国の不動産バブルに拍車をかけた。当時はデベロッバーが借り入れに熱心である一方で、資金をつぎ込む用意がある裕福な投資家もいた」と話し、「誰もがレバレッジをかけ続けたほか、不動産は中国経済の柱だとして、崩壊しないと踏んでいた」と振り返る」

     

    不動産が、中国経済の柱だと信じ込み、決して崩壊しないとみていた。その裏には、中国政府が控えているという「信頼感」であった。典型的なバブル心理である。

     

    (5)「家主にとっては、テナント探しも難題だ。コリアーズ・インターナショナルのデータによると、ザ・タワーのオフィススペースの4分の1余りが空室となっており、中環地区の空室率の2倍となっている。不動産仲介業者ナイト・フランクによれば、テナントは現在、より快適な設備を備えた新築ビルに集中しており、新しいオフィスビルが完成すれば、競争はさらに激化する。ミッドランド・コマーシャルの仲介業者ジェームズ・マック氏は、今のところザ・センターの賃貸と販売が「不気味なほど静かだ」との見方を示している」

     

    ザ・センターのオフィススペースは、4分の1余りが空室となっている。あの瀟洒なビルが、中に入ってみるとオフィスが空室だらけとは不気味である。

     

    (6)「オックスフォード大学中国センターのリサーチアソシエート、ジョージ・マグナス氏は「中国本土が香港の金融機関や勤務者にもたらした不動産ブームは、明らかに終焉(しゅうえん)を迎えた」と指摘。中国の不動産不況は、「金融センターとしての香港に永続的な悪影響を及ぼすだろう」と述べた」

      

    中国の不動産不況が、金融センターとしての香港に永続的な悪影響を及ぼすだろうと指摘している。中国の金融機能が麻痺するという意味だ。「3中全会」の掲げる「産業の近代化」とほど遠い事態である。

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    香港の街から「繁栄」の二字が消えた。多くの映画の舞台にもなった華やかな香港は、観光シーズンを迎えた今、商店が店じまいしてシャッター通りになりかねない不況色を強めている。政治が、経済を変えてしまったのだ。

     

    『ロイター』(5月5日付)は、「閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への顧客流出深刻」と題する記事を掲載した。

     

    ジャッキー・ユーさん(48)は10年以上前、香港で日本製品のギフトショップを開いた。当時、観光・ショッピングで名高い旺角地区は、売店や飲食の屋台、そして観光客の熱気で溢れていた。時は流れて12年後。旺角のあちこちで生き残りのための苦闘が続く。顧客の海外移住、中国本土でのショッピングや円安を利した日本への旅行を選ぶ地元住民、観光客の激減といった悪条件が重なったためだ」

     

    (1)「ユーさんは、実店舗を閉めてオンライン販売に移行するという「胸が張り裂けるような」決断を余儀なくされたと語る。売れ残った文具や玩具を収納ボックスに詰めながら、ユーさんは「話をしようにも泣きたくなってしまう」と言う。「観光客の姿は少ない。中国本土からもほとんど来ていない」。香港では、コロナ禍終息後の回復が遅々として進まない。コロナ禍による3年におよぶロックダウンを経て、他国出身者の多くはこの地を離れ、観光客の数はコロナ前の水準とは比較にならないほど減少した。ここに来て、家賃の高騰と人手不足も追い討ちをかけている」

     

    香港は、繁栄から不振へとドンデン返しとなっている。他国出身者は香港を離れ、観光客も減っている。これでは、商売継続を難しくさせる。店舗の閉鎖は、やむを得ない措置であろう。

     

    (2)「経営者らは、ショッピングモールについて「死んだも同然」と表現する。人通りは少なく、店舗には「入居募集中」や「近日開店」という掲示が目立つ。会計士部門から選出された立法会議員である黄俊碩氏は4月26日、立法会での報告で、2024年の第1四半期の登記抹消件数が昨年同期比で70%以上多い2万社以上に達したと述べた。香港飲食関連産業協会の黄傑龍会長は、公共放送の香港電台(RTHK)で、ここ1カ月で推定200-300軒の飲食店が廃業したと述べ、この傾向が続くとの見方を示した」

     

    下線部は、「死んだも同然」と言われる香港の現状を伝えている。2024年の第1四半期で、法人登記抹消件数が昨年同期比で70%以上多い2万社以上になった。ここ1カ月、推定200~300軒の飲食店が廃業したという。この傾向は、今後も続くとされる。

     

    (3)「5月1日からのゴールデンウィーク休暇は、これまで物販・娯楽産業にとっては書き入れ時だったが、楽観的になれない企業は多い。「ゴールデンウィークにはあまり期待していない」と語るのは、旺角・女人街の麺料理店で働くウェンディさん(54)。「この通りにも観光客が大勢いたが、今はどこかに消えてしまった」。香港住民も地元の店から離れつつある。外食やエンターテインメントを求めて中国本土に行き、中国南部の都市、深センに足を運ぶ。その方が価格も安いしサービスもいいという」

     

    5月に入ってのゴールデンウィークも期待はできないという。地元民が、外食やエンターテインメントを求めて深センへ行くからだ。中国の不況で物価が安いからだ。

     

    (4)「野村の中国担当チーフエコノミストとして香港に拠点を置く陸挺氏は、「香港住民の消費行動が北に向かうというのは、明確なトレンドになっている。週末には多くの香港人が深センに行って消費する」と語る。「理由は、深セン、広州、そして長沙でさえ、この5年間で物価がほとんど変化していないからだ。だが香港は違う。本土との価格差は拡大しており、香港の人々は消費のために北に向かおうという気になっている」と指摘」

     

    かつては、中国本土から香港へショッピングに来た。この流れが逆転して今は、香港から本土へ出かけている。香港経済が疲弊するのは当然であろう。マーケットが縮小するからだ。

     

    (5)「本土との境界線に近い上水地区で化粧品店を経営するリーさん(30)は、地元の消費者は今では深センで買物をする風潮があり、「閑散期」の到来が早くなったと語る。旺角地区でハンバーガー店を営むリーさん(35)は、行き来が再開して以来、業績が悪化していると語った。「夜8時を回れば誰もいない。休日になれば、さらにひどい。観光客は1人もいない。先のイースター休暇の時など、店で3時間うとうとしても問題ないくらいだった」と言う」

     

    本土との境界線に近い香港の上水地区でハンバーガー店を営む商店主は、「夜8時を回れば誰もいない。休日になれば、さらにひどい。観光客は1人もいない」という。寂れ行く香港の姿を伝えている。


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    5年前の香港では、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルが、UBSグループシティグループなどの金融機関から引っ張りだこであった。それが現在は、失職したバンカーが職を求めて苦しい日々を送っている。短時間に、「天国と地獄」を経験させられている。原因は、言わずと知れた香港の中国化と米中対立が背景にある。こうした構造問題が横たわっている以上、香港金融界へ再び陽がさすことは期待薄であろう。

     

    『ブルームバーグ』(3月26日付)は、「金融のプロ 香港で再就職困難ー5年前の引く手あまたから一転」と題する記事を掲載した。

     

    わずか5年前は、中国の専門知識を持つ金融プロフェッショナルはUBSグループシティグループなどの金融機関から引っ張りだこだった。小米や美団などの新規株式公開(IPO)により、金融の中心地としての香港の地位はニューヨークと張り合うレベルまで高まった。こうした金融プロフェッショナルの努力が寄与し、香港と米国に上場する中国本土企業の時価総額は計6兆米ドル(約908兆円)を超えた。

     

    (1)「米中の地政学的緊張が資本市場に大きな打撃を与えている現在、株価低迷と経済の見通し悪化で香港のIPOは干上がっている。また、中国共産党の習近平総書記(国家主席)が推し進めるデータセキュリティーと金融市場規制の強化により、中国企業による資産取得や海外上場は難しくなっている。かつて、シティでも働いていた元バンカーは、「中国の上昇軌道や国内外の金融市場緊密化を当然のことと思っていたが、今は一時的な現象に過ぎなかったと理解している。恐ろしい」と述べた」

     

    香港金融市場は、米中対立と中国による金融市場規制が重なって、5年前までみせた繁栄がウソのように消え去った。

     

    (2)「金融ディール仲介の中心地だった香港は、最大級のダメージを受けた。さらに米国の大手銀行で相次いだレイオフやグローバル資本の対中投資引き揚げが、国際金融センターとしての香港の役割低下に追い打ちをかけた。人材あっせん会社ロバート・ウォルターズのマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏によると香港で求職中のエントリーレベルより上の金融専門家は同氏が扱う求職者数に基づくと「数百人」に達する。同氏は「香港は非常に脆弱(ぜいじゃく)な市場であり、人員削減はまだ続くだろう」と語った」

     

    香港は、数百人の金融プロが失業する異常事態に追込まれている。さらに今後、失業者が増えそうである。

     

    (3)「ゴールドマン・サックス・グループJPモルガン・チェース、シティはここ1年半の間にアジアで数度にわたり人員削減を行ってきた。ゴールドマンの元従業員は、解雇をきっかけに自分と同僚は香港にとどまるべきかだけでなく、業界にとどまるかどうかについても考え始めたと話した。中国・香港市場のIPO減少は、膨れ上がった従業員数を正当化できなくなり、各行がアジア全域でリストラを検討せざるを得なくなることを意味する」

     

    ゴールドマン・サックス・グループJPモルガン・チェース、シティといった投資銀行は、ここ1年半の間に矢継ぎ早に人員整理をしている。事態の急変を告げている。

     

    (4)「実際に業界を離れたバンカーもいる。昨年、グローバル投資銀行のアナリストの職を失ったヤンさん(24)は求職活動を数カ月続け、コンサルティング会社やベンチャーキャピタル、プライベートエクイティー(PE、未公開株)投資会社の面接を10社ほど受けたが採用には至らなかった。ヤンさんは結局、中国本土の実家に戻り、従来型金融以外のキャリアを目指すと決めた。「競争は以前よりはるかに激しくなっている。PEの求人が1件あれば、数百人の元銀行員から履歴書が殺到する」とヤンさんは語った。ヤンさんら取材に応じた一部の人々は重要なキャリアに関する問題だとの理由で、フルネームを明かさない条件で話してくれた」

     

    金融専門家1人の求人に対して、数百人が応募する就職難だ。採用される確率は、宝くじを買うようなものだ。

     

    (5)「昨年12月、香港の金融専門家数を反映する香港証券先物委員会(SFC)の免許取得者数は4万4722人と、2021年末から600人余り減った。金融業界が22年域内総生産(GDP)の約23%、雇用の7.5%を占めていたことを考えると、金融サービス活動の鈍化は香港経済を圧迫しそうだ」

     

    香港GDPは、金融サービスが23%も占めている。香港経済が、大きな打撃を受けるのは不可避である。 

     

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    台湾が、中国に統一されたらどういう姿になるか。それを如実に示すのは、現在の香港であろう。かつて、アジアの真珠とさえ呼ばれた香港が、「淀んだ姿」に変わったのだ。政治体制が代われば、ここまで活気を失う。香港は、歴史博物館になったようである。 

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月22日付)は、「香港を包む沈黙、書店は閉まりショーもキャンセル」と題する記事を掲載した。 

    中国が権威主義的な支配を強めるにつれ、かつて喧騒(けんそう)に包まれていた大都市・香港から、その支配の及ばない場所が消えつつある。書店は閉鎖され、ショーはキャンセルされている。かつて人々を団結させていた政府への抗議の声は、人目を忍ぶささやき声に取って代わられた。

     

    (1)「2019年、民主化を求めて街頭を埋め尽くした群衆はとうの昔に姿を消したが、国家安全保障の名の下に反対派を封じ込めようとする政府の取り組みは今も続く。23日に施行される国家安全条例は、扇動などの犯罪を厳罰化し、国家機密の窃取や外国勢力による干渉を犯罪行為として禁じるものだ。香港立法会(議会)が極めて短期間で可決した同条例は、何が違法行為に当たるのかを巡って議論を巻き起こしている。古い日付の民主派の新聞が家に放置されているだけで違反に当たるのか心配する声もある。神聖で個人の空間と考えられていた教会の告解室のような場所さえ安全なのか懸念する人もいる」 

    香港の自由と民主主義は、死滅の危機を迎えている。中国当局にとって、邪魔な存在なのだろう。 

    (2)「取り締まりを強化する一方、香港は近年、厳格な新型コロナウイルス対策が引き金となった観光客の減少に加え、人口流出や中国経済の軟化に打撃を受けており、衰退に歯止めをかけようとしている。国家安全保障に固執する政府の姿勢は、ビジネスより政治を優先している表れだと指摘する外国企業の幹部もいる。国際的な信用を高めるために政府関係者が世界中を飛び回っても、世界のハブとしての香港の地位回復は難しくなると言う。コロナ後の香港の景気回復に勢いはなく、株価は低迷し、企業は中国から資金を引き揚げている」 

    かつて繁栄した香港は、人口流出と経済停滞で不動産相場が下落を続けている。世界のハブとしての香港の地位回復は、もはや難しくなっていると指摘されている。

     

    (3)「中国が、20年に香港国家安全維持法(国安法)を施行して以降、約20万人の香港市民が英国への移住を申請し、すでに多くの人が去った。教育からIT(情報技術)まで幅広い職種で頭脳流出が起きている。人材紹介会社ロバート・ウォルターズ(香港)が昨年9月に発表したリポートによると、調査した香港の専門職従事者の半数以上が、5年以内に香港を離れることを検討または計画していた。同社のマネジングディレクター、ジョン・ムラリー氏は当時、「海外で働いて国際経験を積みたいと思うのは、特に若者では目新しいことではないが、これほど多くの専門職従事者が香港を離れることを検討しているのは気がかりだ」と指摘していた」 

    香港の専門職の半数以上が、5年以内に香港を離れる計画という調査結果が出ている。香港に将来性がないという判断であろう。 

    (4)「中国政府が香港の民主化運動を抑えるため20年に国安法を施行してから、公の場やソーシャルメディアからは反対意見がほぼ消えた。少なくとも290人が同法に基づいて逮捕され、その中には野党議員やジャーナリスト、活動家も多数含まれる。その多くが有罪判決を受けることなく拘束されたままだ。警察はタクシー運転手に対し、暴力やテロ行為など犯罪に関与しているとみられる人物を通報するよう呼びかけている。市民から国家安全保障に関わる情報提供を受け付けるホットラインがあり、これまでに数十万件の通報があった。表現の自由を支持することで知られるいくつかの独立系書店は、土地規制や営業許可証の掲示など政府から頻繁にチェックされ、標的にされていると話す」 

    警察は、タクシー運転手に対して密告を呼び掛けている。外部からの「侵入者」を警戒している証だ。これでは、かつての「国際都市」も形無しである。

     

    (5)「中心部のビジネス街に近い、閑静だが流行に敏感なエリアにある小さな書店「マウントゼロ」は今月で閉店する。店のオーナーは、政府から毎週のようにささいな違反をとがめる手紙が届き、匿名の苦情も寄せられているとソーシャルメディアで明かした。店の入り口の上には「Ideas are bulletproof(信念は弾を通さず)」と書かれ、屋外で詩の朗読会やブックトーク、週末にはマーケットを開催していた。店を訪れていた人によると、時にカメラを持った警官の姿もあった。民主化運動に賛同していたメンバーのいるグループのダンスや演劇の公演が主催者や会場運営者によって相次いでキャンセルされ、理由を告げられないこともあった」 

    香港の民主化運動に賛成派とみられる書店や演劇サークルは、当局の妨害に合っている。現在の香港には、こういう「異物」は邪魔なのだろう。

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