一国二制度とは、中国政府が香港や台湾を統治する仕組みとして考案した制度だ。香港では1997年の返還より、一国二制度による広範囲な自治が認められてきた。しかし、2020年、中国全人代が香港立法府の頭越しに「香港版国家安全法」の策定方針を示し、一国二制度の「崩壊」した。ここに、香港の中国化が始まったのだ。
従来の香港は、自由経済圏として中国の西側窓口になって来た。現在の香港は、中国の分身となって完全な「中国化」である。これでは香港の経済的な魅力は落ちて「中国香港省」に成り下がってしまった。
『Forbes』(11月10日付)は、「企業の『香港撤退』が加速、中国政府の失策のさらなる証拠」と題する記事を掲載した。
中国政府による香港での手荒い戦術ほど大がかりなものはない。恣意的な力の誇示が、香港を中国の経済・金融資産にしてきた外国企業を追い払うことになった。外国企業が続々と香港から撤退しているのだ。これは、中国が敗者であることを示すものだ。
(1)「英国が1997年、植民地だった香港を中国に返還した際、中国政府は香港をそれまで通りに維持すると約束。中国の指導部は「一国二制度」を口にした。それから10年ほど経ったとき、中国政府は香港の人々と世界に対して約束していたことを反故にしようと強硬な動きに出た。香港市民が長い間享受してきた市民的自由を奪い始めたのだ。2019年には大規模な抗議デモが発生。中国政府はそれを力づくで鎮圧した。中国に近い自由な都市という香港の地位は、中国の単なる延長部分に成り下がった。それにともない、外国人にとっても、本土に本社を置く中国企業にとっても、ビジネスをする場所として香港がかつて持っていた特別な魅力は失われた」
香港は、「一国二制度」の破綻によって中国本土企業と海外企業の双方から見捨てられることになった。
(2)「欧米や日本の企業は、中国政府が腹の中を見せた直後から香港を離れ始めた。香港の国勢調査統計局によると、外資企業が香港に置き続けている地域本部の数は、同局の公開データの直近期間である2019年から2022年にかけて約9%減少した。撤退が最も多かったのは米企業だった。2022年までに、香港に地域本部を置く米企業はピーク時から約30%減少した。米国の経営者は、優秀な従業員に香港に移るよう説得するのに苦労していると報告している」
米企業は、ピーク時から約30%が香港から撤退した。撤退が最も多かったのは米企業だ。それだけ、香港の世界経済に占める地位が低下したことになる。
(3)「米企業だけではない。豪銀ウェストパック銀行とナショナルオーストラリア銀行がつい最近、香港から撤退する意向を表明した。この2行は香港と中国の他の地域との間の資金の流れを促進するための抗議の後も香港に留まると約束していた。明らかに2行はもはや香港の価値を認めていない。カナダや欧州の多くの企業も撤退の意向を示している。そのリストはこのような記事でスペースを割けないほど長く、残念なことに総数はわからない」
オーストラリアの2銀行が撤退する。カナダや欧州の多くの企業も撤退の意向を示している。こうなると、香港は「もぬけの殻」になる。
(4)「そこには、金融やテクノロジー関連の企業も含まれている。また、2022年の集計には入っていなかった米企業も含まれている。リストを見る限り、撤退のペースは加速している。香港を訪れる外国のビジネスパーソンがいま「消去ツール」のみを持参するか、データやアプリを電子機器から消去するよう勧められているというのは、確かにそうした動きを物語っている」
香港の中国化は、海外企業の経済活動に大きな抑制要因になっている。
(5)「中国企業の香港への流入は当初、外資企業の撤退の影響を相殺していた。だが、今では中国企業の流入すらなくなっている。香港は、もはや中国本土と世界をつなぐ窓口としての役割を果たさず、単に中国の一部となったため、中国本土に拠点を置く企業は香港に地域本部や事務所を置くメリットを見いだせなくなった。上海や北京など本土のビジネス拠点にとどまった方がいいのかもしれない」
中国本土に拠点を置く企業は、香港の「中国化」によって拠点を香港に置く必要がなくなり撤退している。
(6)「香港の株式市場の動向は、企業撤退の影響を浮き彫りにしている。トレーディング・エコノミクスのウェブサイトで入手可能なデータによると、現在の香港市場の総資本は約4兆ドル(約603兆円)相当で、2019年の水準を40%ほど下回っている。新規株式公開による調達額は2020年に520億ドル(約7兆8500億円)相当だったのが、23年はこれまでのところわずか35億ドル(約5300億円)だ。取引所を運営する香港証券取引所によると、1日の取引高は現在140億ドル(約2兆1130億円)前後で推移しており、こちらも2年前から40%減少している。世界有数の金融センターとビジネス拠点という香港の地位が急速に失われている」
香港の証券取引所は、急速に取引規模が縮小しており4割減にまで落ち込んでいる。香港の占めた往年の面影は消えた。