ドイツに追われる日本の立場
頂門の一針になれば最高の薬
可能な潜在成長率1%引上げ
九州・北海道・東北から狼煙
IMF(国際通貨基金)が10月、日本の23年名目GDPがドイツを下回り、世界4位になるとの予想を発表した。このニュースは、「日本没落」というニュアンスで受け止められている。だが、悲観はご無用。米高金利が、もたらした異常円安の一時的「悪戯」である。
当のドイツ経済は、金利高・エネルギー高に加えて、中国依存ゆえにもたらされた輸出減に見舞われている。IMF予測では、23年実質GDP成長率がマイナス0.5%である。一方の日本は、実質GDP成長率が2.0%である。日独では、実質GDP成長率で差し引き「2.5%」もの差がつきそうだ。それにもかかわらず、日本は異常円安が災いして、名目GDPでドイツを下回るとは「奇っ怪」である。繰り返して言えば、「心配ご無用」なのだ。
ドイツに追われる日本の立場
IMFは「世界経済見通し」で、今年の日本の名目GDPがドルベースでドイツに追い抜かれて世界3位から4位になるとの見通しを示した。今年の日本の名目GDPは、約4兆2300億ドル(約634兆円)で前年比0.2%減へ。一方ドイツは、同8.4%増の約4兆4300億ドルになるというのだ。この差はわずか2000億ドル、日本にとっては4.7%である。いわば、「タッチの差」である。円相場しだいでは、日独GDPの順序が入れ替わる微妙な位置にあるのだ。
日本が、ここまでドイツに差を縮められたことは反省しなければならない。長期にわたり超円安相場が続いてきたが、企業は為替差益で利益を押し上げられるので、円安によるマイナスを直視しなかった。また、円安にもかかわらず、「物価の超安定」が長期にわたり続いたので、賃上げに伴うコスト高を極度に嫌うムードを形成した。こうして、円安に慣れきってしまったのである。
岸田首相は、過去の日本経済を「コストカッター」と表現したがその通りである。この「悪弊」を断ち切るには、日本人の意識改革が不可欠である。正常な範囲内のコストアップ分は、販売価格に転嫁して当然という認識を共有できれば、日本経済全体が好循環できるのだ。「コストカッター」は、この好循環を断ち切る役割を果していた。コスト切り下げ競争が、実は日本全体を貧乏にさせる逆作用を招いたのだ。
まさに、「合成の誤謬」に当たる。日本は、個々の分野(ミクロ)で正しいコスト切り下げが、日本経済全体(マクロ)で間違いであることを、なんと10年以上も続けてきた。この間違いを必死に説いたのが「アベノミクス」である。「合成の誤謬」で最大の事例は、企業が賃上げを極限まで抑えて、内部留保を貯め込んできたことにある。
個々の企業は、賃上げを抑えてコストを切り詰め、それ相応の利益を確保する。それが、回り回って日本全体の需要を抑制して、企業の売上減へとブーメランになって戻っていた。この悪循環が、10年間も続いたのだから、ドイツに名目GDPで追いつかれるのは当然であろう。ここで日本は、目を覚まして、「合成の誤謬」という鎖を断ち切ることだ。企業が必要な賃上げを行えば、日本経済が成長できる。こんな簡単な「日本経済再生」があるだろうか。意識の変革がポイントである。
日本経済に比べたドイツ経済は、はるかに厳しい構造的な危機状況に置かれている。それは、次の3つの点に表れている。
1)高すぎる中国依存度
2)エネルギー政策の失敗
3)後れを取っている主力産業の競争力
以下に、簡単なコメントつけたい。
1)ドイツの輸出先1位は中国である。乗用車と同部品が輸出品の1位、2位を占めている。現在の中国は、EV(電気自動車)へ特化している。もはや、ドイツからの乗用車(ガソリン車)の輸入は必要でないのだ。
2)エネルギー政策では、ロシアへの依存度がきわめて高かった。ロシアのウクライナ侵攻で、EU(欧州連合)全体が、エネルギーでの「脱ロシア」へ踏み切った。ドイツも、この割安なロシア産エネルギーの輸入を断ち切り、他国からの割高なエネルギーに切り替えた。
3)主力産業の自動車では、EV化が遅れている。次世代電池の「全固体電池」研究では、蚊帳の外で、日本の足下にも及ばないのだ。半導体も同様である。ドイツは産業革命以降、機械工業で他国を圧倒したが、電子を組み合わせた機械工業で、日本に圧倒されている。
以上の3点をみても、ドイツ経済が日本経済を恒常的に抜くのは不可能である。
頂門の一針になれば最高の薬
日本経済が、一時的にせよドイツ経済に抜かれることは、日本社会へ覚醒を迫る意味で良い刺激になろう。日本は、過去30年にわたる平成バブル崩壊後遺症で、自らの立ち位置を見失ってきた。ハッキリ言えば、明日への展望を描けずにその日暮らしの経済であった。だが、バブル崩壊から30年余の歳月を経て初めて、周囲の情景をしっかりと見つめる経済的な余裕が生まれている。世界の投資マネーが、日本へ流れ込んできて初めて、「世界の中の日本」の定位置に気づかされたのだ。(つづく)
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