イスラエルとイスラム組織ハマスとの紛争は、中国の外交的影響力を高める機会になるとの予想があった。だが、紛争が始まって1ヶ月余り経つ現在、中国は目立った動きを止めている。この裏には、中国がロシアから多くの原油を輸入していることや、中国のアラブ諸国への対外直接投資が減っていることが挙げられる。カネの切れ目は、縁の切れ目になっているのだ。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』(11月14日付)は、「中国の影響力にも限界、中東で陰り」と題する記事を掲載した。
過去10年の大半の期間、中国が中東で描くストーリーは明快だった。それは投資や貿易、影響力を際限なく拡大させることだ。今年、中国の仲介でサウジアラビアとイランが国交正常化に合意したことや、中国とイスラエルが強力な経済関係を持つことから、パレスチナ自治区ガザでの紛争が激化する中で、中国自身も注目を浴びる存在となっている。
(1)「だが、中国が中東で高めつつある影響力の2本柱、すなわちエネルギー購入と対外投資は、今やかなり流動的だからだ。最も顕著なのは、ウクライナで戦争が起きて以降、中国の石油輸入がロシアに決定的に偏り、ロシアが同国への最大供給国になっていることだ。データ会社CEICの集計によると、中国の2023年7~9月期のロシア産原油の輸入量は、21年同期に比べて42%増加。これに対し、イラクからの輸入量は6%増にとどまり、以前は最大供給国だったサウジアラビアからの輸入量は11%減少した。短期的には、ロシアの石油パイプライン容量の不足のせいで、この変化がなお進展するには限界があるかもしれない」
中国は、ロシア経済支援のためにロシアからの原油輸入を増やしている。その分、アラブ諸国からの輸入が減っている。
(2)「長期的には、中東から海上輸送するよりもロシアから陸上輸送する量が増えることの地政学的論理性を無視するのは難しいかもしれない。米国との緊張が高まり続ける限り、中国にはロシアと協力してパイプライン容量をさらに拡大する強い動機が生じるだろう。将来、西側と衝突する事態が起きた場合、シーレーン(海上交通路)は影響を受けやすいからなおさらだ。中国経済の成長減速、特に石油化学のようにエネルギーを大量消費する建設関連の重工業分野の成長鈍化は、この先何年にもわたり同国の石油需要の伸びを圧迫する可能性がある」
中国は、将来的に地政学的な視点からロシアからの原油輸入を増やすであろう。
(3)「中国の中東経済に対する無限の投資資金源としての役割も、2年前に比べて不確実性が増したようだ。中国・復旦大学のグリーン・ファイナンス・アンド・デベロップメント・センター(GFDC)の報告書によると、2021年に中国の巨大インフラ構想「一帯一路(BRI)」の新規資金投資先で、中東・北アフリカ地域は最大を占め、同年の総額590億ドル投資とBRIに基づく契約のうち約29%を受け取った。だがここ数年、「一帯一路」の壮大な目標や規模は総じて大きな打撃を受けている。新型コロナウイルス禍の影響や、中国内外の債務やプロジェクトの質を巡る懸念の高まりなどがその理由だ」
「一帯一路」プロジェクトは、中国の資金難から縮小方向に向っている。中国が、アラブ諸国への対外直接投資を増やす状況ではなくなっているのだ。
(4)「アメリカン・エンタープライズ研究所(AEI)のデータによると、2023年上半期に締結されたBRIの大型契約は計約400億ドルだった。このまま行くと年間総額は2019年以降で最も高水準になる見通しだが、それでもコロナ前に到達していた年間1000億ドル超の水準を大きく下回る。正式なBRIプロジェクト以外の外国投資はさらに先行きが暗いように見える。CEICのデータによると、イスラエルとイランを除く中東の経済規模上位8カ国に対する中国の純直接投資額は2021年には20年の水準から約3分の1減少した。アラブ諸国が出資しクウェートに本部を置くアラブ投資輸出信用保証公社(DHAMAN)のデータによると、中国は2022年のアラブ諸国への投資額(設備投資ベース)で少なくとも2018年以降初めて上位10カ国に入らなかった」
中国は、2022年のアラブ諸国への投資額(設備投資ベース)が少なくとも2018年以降では初めて上位10カ国に入らなかった。中国は、アラブ諸国への対外直接投資を減らしている。
(5)「中国の公式統計によると、今年1~9月の対外直接投資(FDI)総額は、前年同期比6.7%増となった。また非金融分野のBRI投資は50%増加している。だが、中国国内の金融面の負担増大、特に不動産と地方政府の財政破綻が続くことで銀行や国家のバランスシートが巻き添えになる損害を考えると、恐らく今後数年間、外国では倹約せざるを得ないだろう。また西側からの対内投資が消失し続ける中で、多くの中国企業は逆に、資金力豊富な中東の金融家に資金を頼ろうとする傾向を次第に強めるかもしれない」
下線部は、重要な指摘である。中国は、自国への対内直接投資が減っているので、アラブ諸国へ融資を依頼する局面が出てくる可能性のあることだ。こういう変化を頭に入れておくべきである。その時期は近いとみられる。一帯一路プロジェクトは、遠い話になってきた。