ドイツの主要な経済研究所は9月、共同景気予測で24年に1.3%、25年に1.5%まで戻ると試算した。このメインシナリオが狂う懸念が出てきて、ドイツ政府は慌てている。
それは、ドイツ憲法裁判所が11月15日、新型コロナウイルス対策で使わなかった600億ユーロ規模の資金を、気候変動対策の基金へ転用した21年度の補正予算について、ドイツ基本法(憲法に相当)に違反すると判断したのだ。憲法違反の予算編成では、事態が深刻になっている。独財務省は、新規の財政支出を全面的に凍結した。予算を確保するため、リントナー財務相は23日、23年度の補正予算を組むと表明した。
『ロイター』(11月24日付)は、「ドイツの財政問題で欧州経済減速の恐れ OECDが指摘」と題する記事を掲載した。
OECD(経済協力開発機構)は11月23日、ドイツの財政問題が今後数年の欧州経済に悪影響を及ぼす可能性を指摘した。
(1)「ドイツデスクの責任者、Robert Grundke氏がロイターに「今後数年間、ドイツで使用可能な財政資金が減り投資や支出が減れば、EU経済への影響は避けられない。EUから輸入する中間財や最終財・サービスは減るだろう」と述べた。ドイツの憲法裁判所は15日、新型コロナウイルス対策予算の未使用金600億ユーロ(654億4000万ドル=9兆8000億円)を他の用途に転用することを認めない判決を下した。政権は代替財源の確保を迫られている。Grundke氏は、「将来の財政政策に対する不安は、すでにドイツの企業の投資活動や家計の消費行動に悪影響を及ぼしている」と指摘した」
ドイツ基本法は、財政赤字をGDPの0.35%に抑える債務ブレーキを定めている。巨額の財政出動が必要になったコロナ禍で、ドイツ政府は緊急措置としてこれを棚上げした。混乱の引き金は、ドイツ憲法裁判所が下した「違憲判決」だ。新型コロナ対策で未利用になった600億ユーロを気候変動対策の基金に転用した21年分の補正予算が基本法(憲法に相当)に違反すると判断。当時の予算は、連邦議会で可決されたものだが、野党の提訴を経て15日に無効を言い渡しされたものだ。
ショルツ政権は、気候変動基金の違憲判決を受け、一連の経済対策に使ってきた他の基金も使えなくなる恐れがあるため、債務ブレーキの停止で安定した財政支出を続けたい考えだ。憲法裁が問題視したのは、緊急だったはずのコロナ対策の資金を、数年かけて使える気候変動対策に組み入れた点だ。
独財務省は、基金の利用が不透明になったことを受け、新規の財政支出を全面的に凍結した。予算を確保するため、リントナー財務相は23日、23年度の補正予算を組むと表明した。財政赤字を抑える「債務ブレーキ」を棚上げして緊急で予算を確保する方針とされる。来週にも予算案を閣議に提出するとしている。
パラグラフでは、Grundke氏が「将来の財政政策に対する不安は、すでにドイツの企業の投資活動や家計の消費行動に悪影響を及ぼしている」と指摘している。ドイツは、第一次世界大戦後の天文学的インフレによって、国民生活が破壊された。これが、ナチスを産んだという深刻な反省を迫られた。この結果が、ドイツ基本法で財政赤字を「GDPの0.35%」に抑えるという、画期的項目を入れることになった背景だ。ドイツが、インフレに対して敏感である理由がこれだ。
憲法裁判所は、コロナ対策資金の流用を憲法違反と定めた以上、9兆8000億円の財源を他から捻出しなければならない。ドイツ政府は、財政赤字を抑える「債務ブレーキ」を棚上げして緊急で予算を確保するとしている。それが、再び憲法違反に問われかねないという危惧がつきまとっている。これが、今後数年間ドイツで使用可能な財政資金が減って投資や支出が減れば、EU経済への影響は避けられない、という悲観論になっている。
IMF(国際通貨基金)は、23年のドイツ名目GDPが日本を抜くかも知れないと予測した。だが、ドイツ憲法裁判所による思わぬ「待った」がかかった形だ。円高しだいで、24年の日本が名目GDP3位に復帰できる可能性を残している。