G20の一員であるアルゼンチンのモンディノ次期外相は11月30日、新興5カ国(BRICS)に加盟しないとX(旧ツイッター)で表明した。BRICSは8月の首脳会議で、アルゼンチンを含む6カ国の新規加盟を決定していた。『ロイター』(12月1日付)が報じた。
これは、中国にとって衝撃である。中国は、BRICSを基盤にして西側諸国へ対抗する遠大な計画を立てていた。BRICS加盟国を増やす計画は、中国の発案であっただけに、アルゼンチンの離脱が中国へ打撃である。
『ロイター』(11月21日付)は、「中国、アルゼンチンが関係断絶すれば『重大な過ち』と指摘」と題する記事を掲載した。
中国外務省は21日、同国やブラジルのような主要国との関係を断ち切ることはアルゼンチン外交の「重大な過ち」になると表明した。
(1)「毛寧報道官は定例記者会見で、中国はアルゼンチンにとって重要な貿易相手国であり、アルゼンチン次期政権は中国との関係を非常に重視していると指摘。「中国は2国間関係の安定と長期的な発展を促進するためにアルゼンチンと協力し続けることに前向きだ」と述べた。リバタリアン(自由至上主義者)で右派のミレイ次期アルゼンチン大統領は中国とブラジルを批判、「共産主義者」とは取引しないとし、米国との関係強化の意向を示している。また、ロシアの通信社RIAノーボスチによると、ミレイ政権下で外相に就任する見込みのエコノミスト、ディアナ・モンディーノ氏は新興5カ国(BRICS)の枠組みに参加しない方針を示した」
中国は、アルゼンチンのBRICS加盟取り止めは痛手だ。BRICS加盟決定国が、脱落することはメンツにも関わる問題である。それゆえ、中国外交部は「重大な過ち」と牽制するほかない。
アルゼンチンのミレイ次期大統領は選挙運動中、自国通貨アルゼンチン・ペソを廃して、米ドルを通貨にすると過激な発言をしてきた。経済は危機的状況にあり、インフレ率は143%に達している。ドル化の魅力は明らかだ。アルゼンチンでは製造業が主要な輸入品を購入するのに十分なドルを持たず、生産を削減し、貿易金融を強化する必要があった。アルゼンチン政府は外国債権者に670億ドル(約10兆円)、国際通貨基金(IMF)に360億ドルの債務を負っている。外貨準備を使い果たして、返済のために中国から人民元を借りなければならなくなっていた。以上は、『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』(11月23日付)が報じた。
中国は、中国圏に入るとみていたアルゼンチンが、土壇場で新政権登場によって米国を頼りにする「大逆転」が起こったのだ。
『ロイター』(11月29日付)は、「アルゼンチン次期大統領、米大統領補佐官と会談」と題する記事を掲載した。
アルゼンチンのミレイ次期大統領は28日、米首都ワシントンでサリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)などと会談した。また同氏の経済担当者らが国際通貨基金(IMF)当局者と会談した。
(2)「ミレイ氏は会談後、ホワイトハウスで記者団に「素晴らしい会談だった」とし、アルゼンチンの経済や社会状況について協議したと述べた。ミレイ氏は国内経済の立て直しに向け通貨ペソの廃止や痛みを伴う緊縮財政など抜本的な改革を訴えて今月の選挙で勝利した。国内のインフレ率は足元150%近くに達し、外貨準備もマイナスを記録、景気後退(リセッション)懸念が高まっている。外交政策では、米国との関係を重視する姿勢を示しており、主要貿易相手国である中国やブラジルには批判的だ。アルゼンチンはIMFとの間で債務問題を抱えている。ミレイ氏の経済アドバイザーは、IMF当局者と会談した」
ミレイ氏は、サリバン米大統領補佐官との会談で「素晴らしい会談だった」と満足の意を示した。アルゼンチンは、G20参加国である。人口46235万人(2022年)の中堅国だ。一人当たり平均GDPは、1万3620ドル(22年)である。典型的な、「中所得国の罠」に落ち込んでいる。主要産業は、農牧業と製造業である。この経済をどのように立て直すかだ。
アルゼンチンは、BRICS加盟を取り止めてまで米国との関係強化を目指している。自国通貨を米ドルに切り替えるというほどの熱の入れ方だ。インフレを治すには、為替相場を安定させる必要がある。ドル化が効果的なのは明白だ。ドルを法定通貨とするエクアドル、エルサルバドル、パナマのインフレは管理可能な水準にある。アルゼンチンが、米ドル化を目指す理由でもある。
しかし、誤った為替レートを選択することは致命傷となり得る。ペソの非公式レートに基づくと、全てのペソを交換するのに必要なドルは90億ドルを超える可能性がある。アルゼンチンは、すでに債務の意返済が滞っているのに、新たに90億ドルもの資金を借りるのは不可能に思えると、前記のWSJは指摘するのだ。