ロシアのプーチン大統領が7年ぶりにベトナムを訪問した。ロシアは、ウクライナ侵攻で米欧の経済制裁をうけ、貿易面で中国への依存を強めている。弱体化するロシア経済のイメージを強めているのだ。だが、一転して攻めの外交姿勢を見せ始めた。ロシア大統領として、24年ぶりに北朝鮮を訪問し、続いてベトナム訪問まで行った。これによって、ロシアは中国頼みのイメージ払拭を狙っている。
プーチン氏は、先の中国訪問で経済面での依存度の高さをみせたが、北朝鮮とベトナム訪問によって、ロシアに「別のカード」があることを示唆するしたたかさを見せつけている。
『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「プーチン氏『中国依存』払拭狙う ベトナム訪問で友好演出」と題する記事を掲載した。
ベトナムメディアによると、プーチン氏は20日、ベトナムのトー・ラム国家主席との会談で「ロシアはベトナムを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)との対話を非常に重視している」と話した。国際社会からの孤立を避けたいプーチン氏の思惑が透ける。ベトナム紙への寄稿では「ウクライナ危機を巡り中立的な立場を示してくれたベトナムの友人たちに感謝する」と記した。
(1)「東南アジア外交の専門家でISEASユソフ・イシャク研究所シニアフェローのイアン・ストレイ氏は、「アジアにおける軸足が中国だけではないと示す狙いもある」と指摘する。ロシア経済は、米欧の制裁で中国依存が高まった。中国税関総署やロシア中央銀行のデータをもとに分析すると、24年1〜3月のロシアの貿易総額に占める対中比率は34%に達した。ウクライナ侵略前の21年は18%だった。ロシアにとってベトナムは中国や北朝鮮、インドと並ぶ外交上の重要国「包括的戦略パートナー」だ。ロシア産石炭や石油の輸出先でもある」
5月の中ロ首脳会談は、ロシアにとって決して満足すべきものでなかった。天然ガスの輸出問題は、中国が足元を見透かして常識外れの安値を主張しただけに、ロシアは醒めた印象を持ったのであろう。そこで、北朝鮮とベトナムを訪問して中国を揺さぶる。計算ずくの外交である。
(2)「ベトナムにもロシアを重視する理由がある。米外交問題評議会シニアフェローのジョシュア・カーランツィック氏は「ベトナムの軍備維持にはロシアが必要だ」と話す。ベトナムが過去30年で調達した兵器の8割以上がロシア製とされる。ロシアからの部品や弾薬の調達は安全保障の重要課題だ。両国関係は深い。1950年に当時のベトナム民主共和国と旧ソ連(ロシア)が外交関係を樹立した。米国とのベトナム戦争に勝てた背景には、ソ連からの大規模な支援があった。50代以上のベトナム共産党の指導者層にはソ連留学組が多い」
ベトナムは、ロシアから武器を購入している。それだけに、ロシアとの縁を大事にしなければならない事情がある。これは、インドも同じだ。ロシアからの武器購入が大きなパイプになっている。
(3)「ベトナム経済界は、政府のロシア接近に気をもむ。海外に顧客を持つ地場IT(情報技術)企業の経営者は「ロシアや北朝鮮の仲間と見られても利点はない」と懸念する。ベトナムへの投資を国別にみると韓国が最も大きい。大韓商工会議所ベトナム代表のキム・ヒョンモ氏は「ロシアとの友好関係は理解する」としつつ「ウクライナ侵略に正当性を与えてはいけない」と警戒する」
ベトナム経済界は、ハッキリと米国へ顔を向けている。対米輸出の依存度が高いからだ。米国に疑いの目で見られないかと気を揉んでいるのだ。
(4)「ベトナムのバランス外交は、外資の投資を誘致するうえで役立ってきた。23年にバイデン米大統領が訪越して以来、半導体大手エヌビディアやアップルといった米大手の経営トップがベトナムを訪れた。米国側は、プーチン氏の受け入れに強く反発している。ロシアへの過度な接近は投資機運を冷やしかねない」
ベトナムは、中国の横暴を嫌っている。中越戦争で被害を被ったからだ。それだけに、「中国外し」に熱心である。ベトナムが、親日国である裏には「中国嫌い」も作用している。