勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ベトナム経済ニュース時評

    a0960_008527_m
       

    ロシアのプーチン大統領が7年ぶりにベトナムを訪問した。ロシアは、ウクライナ侵攻で米欧の経済制裁をうけ、貿易面で中国への依存を強めている。弱体化するロシア経済のイメージを強めているのだ。だが、一転して攻めの外交姿勢を見せ始めた。ロシア大統領として、24年ぶりに北朝鮮を訪問し、続いてベトナム訪問まで行った。これによって、ロシアは中国頼みのイメージ払拭を狙っている。

     

    プーチン氏は、先の中国訪問で経済面での依存度の高さをみせたが、北朝鮮とベトナム訪問によって、ロシアに「別のカード」があることを示唆するしたたかさを見せつけている。

     

    『日本経済新聞 電子版』(6月20日付)は、「プーチン氏『中国依存』払拭狙う ベトナム訪問で友好演出」と題する記事を掲載した。

     

    ベトナムメディアによると、プーチン氏は20日、ベトナムのトー・ラム国家主席との会談で「ロシアはベトナムを含む東南アジア諸国連合(ASEAN)との対話を非常に重視している」と話した。国際社会からの孤立を避けたいプーチン氏の思惑が透ける。ベトナム紙への寄稿では「ウクライナ危機を巡り中立的な立場を示してくれたベトナムの友人たちに感謝する」と記した。

     

    (1)「東南アジア外交の専門家でISEASユソフ・イシャク研究所シニアフェローのイアン・ストレイ氏は、「アジアにおける軸足が中国だけではないと示す狙いもある」と指摘する。ロシア経済は、米欧の制裁で中国依存が高まった。中国税関総署やロシア中央銀行のデータをもとに分析すると、24年13月のロシアの貿易総額に占める対中比率は34%に達した。ウクライナ侵略前の21年は18%だった。ロシアにとってベトナムは中国や北朝鮮、インドと並ぶ外交上の重要国「包括的戦略パートナー」だ。ロシア産石炭や石油の輸出先でもある」

     

    5月の中ロ首脳会談は、ロシアにとって決して満足すべきものでなかった。天然ガスの輸出問題は、中国が足元を見透かして常識外れの安値を主張しただけに、ロシアは醒めた印象を持ったのであろう。そこで、北朝鮮とベトナムを訪問して中国を揺さぶる。計算ずくの外交である。

     

    (2)「ベトナムにもロシアを重視する理由がある。米外交問題評議会シニアフェローのジョシュア・カーランツィック氏は「ベトナムの軍備維持にはロシアが必要だ」と話す。ベトナムが過去30年で調達した兵器の8割以上がロシア製とされる。ロシアからの部品や弾薬の調達は安全保障の重要課題だ。両国関係は深い。1950年に当時のベトナム民主共和国と旧ソ連(ロシア)が外交関係を樹立した。米国とのベトナム戦争に勝てた背景には、ソ連からの大規模な支援があった。50代以上のベトナム共産党の指導者層にはソ連留学組が多い」

     

    ベトナムは、ロシアから武器を購入している。それだけに、ロシアとの縁を大事にしなければならない事情がある。これは、インドも同じだ。ロシアからの武器購入が大きなパイプになっている。

     

    (3)「ベトナム経済界は、政府のロシア接近に気をもむ。海外に顧客を持つ地場IT(情報技術)企業の経営者は「ロシアや北朝鮮の仲間と見られても利点はない」と懸念する。ベトナムへの投資を国別にみると韓国が最も大きい。大韓商工会議所ベトナム代表のキム・ヒョンモ氏は「ロシアとの友好関係は理解する」としつつ「ウクライナ侵略に正当性を与えてはいけない」と警戒する」

     

    ベトナム経済界は、ハッキリと米国へ顔を向けている。対米輸出の依存度が高いからだ。米国に疑いの目で見られないかと気を揉んでいるのだ。

     

    (4)「ベトナムのバランス外交は、外資の投資を誘致するうえで役立ってきた。23年にバイデン米大統領が訪越して以来、半導体大手エヌビディアやアップルといった米大手の経営トップがベトナムを訪れた。米国側は、プーチン氏の受け入れに強く反発している。ロシアへの過度な接近は投資機運を冷やしかねない」

     

    ベトナムは、中国の横暴を嫌っている。中越戦争で被害を被ったからだ。それだけに、「中国外し」に熱心である。ベトナムが、親日国である裏には「中国嫌い」も作用している。

    a0960_008407_m
       

    中国は、日本の福島原発処理水の海洋放出に反対して、日本産海産物の全面禁止措置を取っている。この結果、日本は殻付きホタテ輸出で大きな影響を受けている。中国では、ホタテの殻を剥いて米国へ輸出してきただけに、米国の消費者へも被害が及んでいる。こうして、駐日米国大使のエマニュエル氏までが支援に動いている。同氏は、ベトナムとメキシコを候補地としてあげているが、先ずベトナム政府が皮むき業者の募集に協力するという新展開になった。 

    ベトナムのボー・バン・トゥオン国家主席は、11月27日~30日にかけて訪日した。岸田首相と首脳会談で両首脳は、2国間関係を「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」から、「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げすると発表した。ベトナムは、海外留学生の1位が日本である。また、日本が受け入れている海外労働者の4分の1がベトナム人であり、日本との関係が密接になっている。 

    こういう動きを見てきた中国外交部は、習近平国家主席が12月12~13日の予定でベトナムを訪問すると発表した。首脳会談で両国関係の格上げを話し合うとしている。中国は、日本海産物輸入禁止措置が、自国の外交で不利になってきたことを認識し始めている。

     

    『レコードチャイナ』(12月8日付)は、「中国による日本産水産物の全面禁止、ベトナムが日本に救いの手ー仏メディア」と題する記事を掲載した。 

    仏国際放送局「RFI中国語版サイト」(12月6日付け)は、中国が日本産水産物の輸入全面禁止を継続する中、ベトナムが救いの手を差し伸べる動きを見せていると報じた。 

    (1)「今年8月に日本で福島第一原発の汚染処理水海洋放出が始まって以降、中国が日本の水産物輸入を全面的に禁止しており、日本の財務省が11月29日に発表した統計では10月に日本から中国に輸出された加工品を除く魚介類の総額が前年同月比94%減の4億204万円となり、中国税関総署も10月の日本からの水産物輸入額が同99.3%減少した発表したことを紹介した」 

    日中首脳会談では、日本海産物輸入禁止問題が話合われた。両国の専門家会議に委ねることになったが、中国は福島処理水について独自の検証を要求した。これに対して、日本は既にIAEA(国際原子力機関)による査察を受けて承認されている以上、中国独自の検証を認めないという原則論で押し返した。これは正論であって、中国の要求が度を外れた非常識なものである。

     

    (2)「海洋放出以前は、中国本土が日本の水産物にとって最大の輸出先であったほか、中国国内での消費に加えて、ホタテなどは殻むきなどの加工を経て欧米などに再輸出され、日本から中国への一連の産業チェーンが形成されていた。このため、中国による輸入禁止措置は日本の水産業界に大きな打撃を与えたと紹介。日本国内では市場の飽和や高い人件費などにより販路の早期開拓や新たな産業チェーンの構築が困難であるため、政府が東南アジア諸国などに水産物輸入の増加や新たな産業チェーン構築を働きかけているとした」 

    中国の殻むき業者は、ベトナムへ工場移転したい意向をみせていた。今回の日本による工場募集に対しては、両手を挙げて参加するであろう。 

    (3)「このような状況の中、社会主義国でありながら中国や北朝鮮とは異なり国際原子力機関(IAEA)による日本の処理水海洋放出評価作業に参加したベトナムが日本に救いの手を差し伸べていると紹介。日本貿易振興機構(ジェトロ)が11月3日にベトナムの首都ハノイで北海道産ホタテなど日本の水産物をPRするイベントを開催した際、ベトナムのグエン・チー・ズン計画投資相が「応援」に駆けつけ、日本産ホタテのバター焼きを頬張り「日本食が好きだ。ホタテもとてもおいしい」と自らPRを買って出る一幕があったことを伝えた」 

    ベトナムは、大の親日国である。TPP(環太平洋経済連携協定)でも、日本を後押しして成功へ持ち込んだ國である。この裏には、ベトナムの「中国嫌い」がある。ベトナムのグエン・チー・ズン計画投資相が、日本産ホタテの普及に一役買って出ているのも「日本びいき」を反映している。

     

    (4)「11月21日〜23日、ハノイで開催された食品展示会でもジェトロが「ジャパンパビリオン」を設置し、各地の水産物や加工食品など150種類以上の商品を来場者に紹介したと紹介するとともに日本政府が12月1日、日本の水産物に対するベトナムの好意や消費市場、労働市場の状況を考慮し、新たな輸出ルートを構築するため、ベトナムでホタテの殻むき業者を募集すると発表し、農林水産省も今月上旬から現地視察や商談のためにベトナムに渡航する日本からの事業者の募集を開始したとしている」 

    日本政府は、ベトナムの親日ぶりに応えてホタテの殻むき業者を募集する。中国にとっては、複雑な思いがあろう。 

    (5)「ジェトロのハノイ事務所によると、ベトナムには日本食レストランが2500店あり、8年間で3倍に増えたと紹介。同事務所の中島丈雄所長が、「ベトナムは日本食品にとって非常に重要な市場の一つ」と述べ、販路開拓のための官民連携の重要性を強調したことを伝えた」 

    日本食レストランが、8年間で3倍の増え方という。日本への親近感が、日本食への普及を早めているのだ。

    このページのトップヘ