高市首相は目下、ベトナム訪問を終えて豪州で首脳会談に臨んでいる。安倍元首相が提言した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想は、発表から今年で10年になる。高市氏は、このFOIPを実りあるものにすべく、100億ドル(1兆6000億円)の予算によって実効あるシステムへと実装化を急いでいる。
ベトナムで高市氏は、TPP(環太平洋経済連携協定)への新規加盟国として、フィリピン・インドネシア・UAE(アラブ首長国連邦)の名前を挙げた。これら三カ国は、日本の経済安全保障にとって極めて有益な国々であり、対中国外交では重要な布石を打つことになった。TPPとFOIPは、ここに見事な連携が実現した。日本の外交的地位を固める上で大きな役割を果すことになろう。
『読売新聞』(5月4日付)は、「安倍内閣の外交・安保支えた谷内正太郎氏『高市首相はトランプ氏に最も信頼されている』『戦略的にリーダーシップ発揮』」と題する記事を掲載した。元外務次官谷内正太郎氏へのインタビューである。
高市首相は、「責任ある日本外交」を打ち出し、日米同盟を基軸にインド太平洋や中東、欧州、グローバル・サウス(新興・途上国)の国々とも電話会談を含め、首脳外交を積極的に進めている。安倍政権時代にできた国家安全保障会議(NSC)も頻繁に開かれており、高市首相は外交・安全保障分野で戦略的にリーダーシップを発揮していると思う。国会もあって首相が海外を飛び回るのは容易ではないが、首脳外交の重要性は増しており、首脳同士の信頼関係を深めるためにも、対面での会談をさらに増やしてほしい。
(1)「安倍晋三・元首相とトランプ氏は他国がうらやむほどの関係を築いたが、高市首相もうまく対応し、海外の首脳の中でも最も信頼されているのではないか。首相は米国で勤務した経験があり、米国人に好意的に受け入れられる言動をよく理解していることがトランプ氏に良い印象を与えていると思う。米国の国力が相対的に低下する中、米国内では、自助努力を何よりも重視し、同盟国であっても、自国を守るための努力を怠る国は助ける必要がないとの考えが広がっている。日本の防衛力や継戦能力、防衛産業基盤を抜本的に強化することは我が国にとって極めて重要だが、日米関係を強固なものにするためにも不可欠な努力である」
日本が、FOIPの中心国として演じなければならぬ役割は、過去10において最も高まっている。日本が、FOIPの核になって米国の負担を軽くするという意味合いも含まれている。
FOIP宣言の場をベトナムにした意味は重要だ。ベトナムは、南シナ海の要衝であること。日本の製造業サプライチェーンの中核になること。将来のエネルギー需要が急増する国であることだ。ベトナムはこの3点から、日本の「静かなインド太平洋戦略」の中心に位置している。ここでFOIPを再宣言し、同時にTPP拡大の方向性を示したのは、安全保障・経済・エネルギーを一体化した「包括戦略」
として極めて注目すべきことだ。
(2)「FOIPは、多くの国から賛同を得ることができたが、具体的な行動で実装化していくことが重要である。中東情勢の緊迫化を受け、日本政府がアジア各国に総額約100億ドル(約1・6兆円)の金融支援を行うと決めたことは、FOIPを実装化する一例だ」
今回の高市首相によるベトナムでの「FOIP宣言+TPP新規加盟国」として、インドネシア・フィリピン・UAEを推薦した動きは、エネルギー安全保障・サプライチェーン戦略と完全に整合している。特に、UAEの選定は「アジア向け原油輸出の新基盤づくり」という日本の長期戦略と噛み合っている
点で、高い評価が与えられる。
(3)「首相は、ホルムズ海峡の安全な航行確保に「貢献する用意がある」とうたった共同声明に加わる決断をした。戦時下で日本が果たせる役割には限界があり、現時点では停戦やホルムズ海峡の封鎖解除を含め、平和的解決の重要性を外交的に強くアピールすることが大切になる。ホルムズ海峡に機雷が敷設されているとの情報もある。日本経済にとって深刻な事態だ。停戦後に米国とイランが機雷の掃海を望み、国際社会としても協力して取り組む機運が生じるなら、日本として協力を拒む理由はないのではないか」
イラン停戦が実現した後は、日本も国際社会と協力して機雷掃海に参加すべきであろう。
(4)「首相の(台湾に関わる国会)答弁は従来の安保体制の枠を外れた考え方ではなく、中国は過剰に反応して政治利用している面がある。とはいえ、今は情報戦や認知戦が盛んに行われており、国会での質疑応答を政治利用する勢力が内外にあることを前提とする配慮が必要だ。台湾は日本にとって地政学的に極めて重要であり、台湾海峡で武力衝突の危険性が高まると、先島諸島を始めとした南西諸島では住民が避難を強いられる可能性もある。日本にとっても、台湾は非常に敏感な問題であることを国際社会に理解してもらえるよう、しっかりとした戦略的コミュニケーションを行うべきだ」
台湾海峡で武力衝突の危険性が高まると、先島諸島を始めとした南西諸島では住民が避難を強いられる。日本は、こういう事態を国際社会に訴え、「台湾有事は日本有事」という事態を理解して貰う必要があろう。


