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ドイツ憲法裁判所は11月15日、ドイツ政府が新型コロナ対策で未利用になった600億ユーロ(約9.8兆円)を気候変動対策の基金に転用した21年分の補正予算が、基本法(憲法)に違反するとの判断を下した。憲法裁が問題視したのは、緊急だったはずのコロナ対策の資金を数年かけて使える気候変動対策に組み入れた点にある。 

この気候変動対策には、米国や台湾の半導体企業を誘致する補助金が含まれている。この予算が憲法裁によって違憲とされたので、新たに資金手当をしなければならない。だが、そのメドが立たないことから半導体企業誘致計画に赤信号が灯っている。 

『フィナンシャル・タイム』(12月5日付)は、「ドイツの予算危機、半導体戦略にも影を落とす」と題する記事を掲載した。 

欧州最大の経済大国であるドイツでは、国内に投資する国際的な半導体メーカーに対し政府が巨額の補助金の交付を約束してきた。ドイツ東部マグデブルクに300億ユーロ(約4兆8000億円)を投じて新工場を設立する米インテルは99億ユーロの補助金を受け取ることになっていた。海外からドイツへの投資プロジェクトとしては戦後最大の規模となる。だが、ドイツ憲法裁判所が下した衝撃的な判断によって、2024年度の予算編成が大混乱に陥り、半導体メーカーへの補助金も実際に支給されるかが危ぶまれている。

 

(1)「政治家や業界の専門家、企業幹部らはこの判断が半導体プロジェクトに深刻な影響を与えかねないと憂慮し、その場合にはドイツ全体の評判を大きく損ねかねないと警鐘を鳴らす。インテルが工場設立の計画を進めているザクセン・アンハルト州政府のシュルツェ経済相は「(もし補助金が支給されない事態になれば)投資先としてのドイツのイメージにとってとんでもない悲劇だ。この国はもはや信用できないと世に示すことになる」と嘆く。さらに同氏は、『フィナンシャル・タイムズ』(FT)に対し「戦後ドイツでは前代未聞の、壊滅的な打撃を受けることになるだろう」と述べた」 

ドイツは、半導体企業誘致計画で補助金支給を前提にして話合いを進めてきた。だが、ドイツ憲法裁による当該予算への流用が憲法違反とされ、大混乱に陥っている。24年に補助金支給予定の予算が「消えた」からだ。 

(2)「米インテルや台湾積体電路製造(TSMC)など他の半導体メーカーへの補助金も、気候変動対策基金から拠出されるはずだった。憲法裁の判断で危機感を募らせたのは半導体メーカーだけではない。温暖化ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)の生産体制を目指して巨額の投資をしている鉄鋼メーカーなど、補助金を受け取る予定だった他の大企業にも広がっている。財政をめぐる今回の問題はドイツの最も重要な政策の一つである世界的な半導体生産国になるという構想を直撃した。この構想は、サプライチェーン(供給網)を強化し、経済のレジリエンス(回復力)を高め、台湾の半導体メーカーへの依存度を減らすという欧州連合(EU)のより広範な戦略の一部でもある。とりわけ台湾に半導体製造を依存する体質は中国と台湾の対立の行方によっては深刻な脆弱性をはらむ」 

ドイツでの半導体供給体制の確立は、EUの広範な戦略の一部であることから、EU自身も困惑している。半導体の自給体制は、EUにとっても不可欠であるからだ。

 

(3)「ドイツのショルツ首相は11月、国際会議の席で半導体工場の建設を予定通り「進めたいことに間違いはない」と断言した。「欧州で半導体が生産されること、とりわけドイツ、特にドイツ東部で生産されることが未来とすべての人々への重要なシグナルだ」と強調。だが、ハベック副首相兼経済・気候保護相は先週、イベントの席上で補助金の問題が持ち上がった際、「カーボンニュートラルや経済安全保障の極めて厳密な基準を満たしていない一部のプロジェクトは優先順位を下げる」ことも考えられるとし、政府の構想を縮小せざるを得ない可能性を示唆した」 

ショルツ首相は、強気の姿勢を貫き予定通りに進めるとしている。だが、予算上の制約を無視できない。ドイツの基本法(憲法)は、財政赤字をGDPの0.35%までに抑える「債務ブレーキ」を定めている。予算の流用が不可能になった以上、前記の財政赤字の制限が掛ってくるので、半導体プロジェクトの一部延期も持ち上がっている。

 

(4)「TSMCと独政府とのやり取りについて知る複数の人物によると、ドイツ側が約束した補助金の額を引き下げればTSMCはドイツの合弁パートナー企業との契約を含むドレスデン新工場建設の契約条件を見直さざるを得なくなる可能性もあるという。そのうちの一人は「今から9ヶ月後になって補助金が一切出ないということになればプロジェクト自体を中止しなければならなくなる。これが最悪のケースだ」と指摘する」 

台湾のTSMCは、予定通りの補助金支給が不可能になれば、計画見直しを迫られるとしている。TSMCの場合、ドイツ進出に消極的であったいう事情もある。TSMCは、日本進出によって素材や研究面でのメリットを受けられる。ドイツには、それがないのだ。 

 

(5)「補助金問題に詳しいある企業幹部は、「ドイツでプロジェクトを抱えながら補助金交付の法的拘束力のある契約をまだ締結できていない半導体メーカーの人々は誰もが困り果てている」と言う。半導体メーカーの別の幹部の物言いはさらに率直だ。「ドイツは(東西ドイツ統一後の1990〜2000年代にかけて景気低迷が続いた) 『欧州の病人』に逆戻りしたのみならず、『欧州の愚人』になってしまったことが明らかになった。完全な失敗だ」と指摘する」 

ドイツは、今回の半導体補助金問題を巡って評価を落としている。だが、ドイツ政府にも気の毒な面があるのだ。