中国の外交戦術は、きわめて感情的である。相手国と摩擦が起これば、すぐに報復する「戦狼外交」を展開する。これによって、相手国を屈服させようとするので、中国と真に友好関係を結ぶ先進国は存在しない。豪州もその一つだ。かつての豪州と中国の関係は密接であった。それが、2020年のコロナの発生源調査を巡って中豪関係が悪化し、中国の豪州への経済制裁になった。
米経済誌『forbes・com』(12月11日付)は、「中国を襲う『因果応報』、対オーストラリア高関税で代償払う」と題する記事を掲載した。
話は2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に至るまでの数年間から始まる。当時、中豪の貿易関係はかつてないほど緊密だった。これは自然な流れで構築されたものだ。豪州は農業と鉱業が盛んで、かたや中国は豪州が提供できるものを必要としていた。豪州産の石炭と鉄鉱石は活況の中国の鉄鋼産業に、綿花は中国で急成長中の繊維産業に供給された。そしてワインは、中国で急増していた富裕層の食卓を飾った。そうした輸出と引き換えに、豪州は玩具からコンピューターに至るまで、中国で製造されたさまざまな物品を輸入。豪統計局によると、2020年には豪州輸出のほぼ半分は中国向けだった。豪州経済は中国の購買力に依存していると言っても過言ではなかった。
(1)「この関係が2020年に突然崩れた。当時の豪首相スコット・モリソンが新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査の実施を求めたところ、中国の指導部が反発。中国は豪州に圧力をかけることを決めた。中国が自国の経済と国民を統制する際の常とう手段である指揮統制方式に従い、100〜200%、あるいはそれ以上の厳しい関税を豪州産の製品に課すことで、豪州を窮地に追い込むよう命令が下った」
中国は、秦の始皇帝が統一事業を成し遂げた手法である「威嚇」と「戦争」という強硬手段を現代もなお使っている。2300年前と時代背景が異なることへの理解がないのだ。こうして、豪州へも同じ手を使い失敗した。
(2)「豪企業は困難な状況に陥り、新たな市場を早急に見つける必要に迫られた。豪企業は損失に苦しんだが、中国の高圧的な行動から数カ月後には中国に代わる輸出先を見つけた。石炭と鉄鉱石はインドで成長中の鉄鋼産業に、綿花は進歩が著しいベトナムの衣料・繊維産業に供給された。穀物生産者はさらに遠くへ製品を輸出し、サウジアラビアで利益の上がる契約も獲得した。ワイン業界は北米と日本に活路を見出した。その結果、中国へのワイン輸出額は過去最多となった2020年の7億7000万ドル(約1115億円)から昨年は500万ドル(約7億円)にまで落ち込んだ」
中国へ反感を持っている国々は、一斉に豪州の苦境乗り切り策へ協力した。世界は広いのだ。捨てる神あれば拾う神ありである。
(3)「中国経済は今、3年前に中国が豪州を酷い目に合わせようとしたときに考えられていたほど影響力があるわけでもなければ、傑出した存在でもない。北米や欧州、日本への輸出が減少するなか、中国の指導部は新しい貿易関係を開拓し、昔からの貿易関係を回復させることに積極的になっている。このため中国は、モリソンの後任であるアンソニー・アルバニージーが先月行った豪首相としては7年ぶりの中国訪問を前に、3年ほど前に課した関税を緩和する考えを示した。アルバニージーは喜んでいるが、豪企業がこれを受け入れるとは思えず、政府関係者、特に中国の政府関係者は失望するだろう」
中国は今、輸出停滞で悩んでいる。そこで、豪州貿易再開へ動き出している。ただ、中国には「恥をしのんで」という認識がないことが問題だ。経済制裁という同じ誤りを繰返している。豪州企業は、中国に代わる輸出市場を開拓しており、中国の「ニーハオ」に簡単に応じる気配話さそうだという
(4)「豪企業の経営者らは、中国がオーストラリアとの関係を切り捨てたときのことを覚えている。すぐに脅迫的な手段に出た国との貿易に戻るために、新しい貿易関係を損なってもいいとは全く思っていない。豪中貿易が今後拡大することは確実で、特に中国が3年前に課した関税を緩和すればそうなるだろう。中国の経済力には、同国に最も大きく反発している豪ビジネス関係者でさえ抗えない。だが、豪州の経営者全員が重度の記憶喪失にならない限り、中国のマーケットに戻るには時間を要し、2020年のように中国に依存することはないだろう」
豪州は、もはや2020年当時のように中国経済への依存度ではない。「覆水盆に返らず」である。
(5)「中国の高圧的な振る舞いは、過去に何度も不利益となって自国に跳ね返ってきた。南シナ海でフィリピンをいじめ抜いたことで、フィリピン政府はそれまで消極的だった態度を一変させて、安全保障面での米国との協力関係を強めた。2020年に中国が関税を引き上げたことで、豪州が防衛面で米国や英国との協力を強化するようになったのは間違いない。中国が貿易条件で妥協しようとしなかったため、米国や欧州各国の中国に対する姿勢は、ほぼ同調的で相互協力するというものから、現在では敵対的としか言いようのないものへと変化した。こうしたことは通常、アプローチの見直しにつながるが、中国の習近平国家主席と指導部はこのやり方から脱却ができないようだ」
習近平氏の感覚は、始皇帝と同一であろう。「飴と鞭」を用いて他国を従わせようとしているが、これは反発を買うだけだ。中国に真の友好国が存在しない理由である。全て、うわべだけの利益で結ばれた仮の「友好国」に過ぎない。