勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 豪州経済ニュース時評

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    日本政府は英国、イタリアと共同で開発する次期戦闘機を豪州へ輸出する検討に入った。インドとカナダも関心を持っているという。武器取引は、部品やアフターサービスなどで超長期の取引関係が生まれる。これは、安全保障面での「協力体制」確立に役立つもの。日本が、初めて本格的な武器輸出によって周辺国との協力関係強化へ動き出す。

    『日本経済新聞 電子版』(5月9日付)は、「次期戦闘機の輸出、豪インドと交渉へ 共通装備で『準同盟』強化狙う」と題する記事を掲載した。

    日本政府は英国、イタリアと共同で開発する次期戦闘機をオーストラリアに輸出する検討に入った。インドとカナダも関心を持つ。共通の装備品を導入すれば訓練や機材の購入などで協力が密になり、安全保障面の関係が深まる。世界が不安定になるなか「準同盟」の枠組みを広げる狙いもある。


    (1)「次期戦闘機は、航空自衛隊の「F2」や英国とイタリア両軍が運用する「ユーロファイター・タイフーン」の後継にあたる。2022年12月から日英伊3カ国の計画が動き出した。日本の三菱重工業、英国のBAEシステムズ、イタリアのレオナルドなどと官民で開発し、35年までの配備をめざす」

    次期戦闘機は、日英伊の三カ国による共同開発である。これによって、各国の経済的な負担の軽減と輸出先の多様化をはかる。

    (2)「日英伊の政府や防衛産業は最近、豪州など輸出検討先との協議を始めた。豪州の国防省は日本経済新聞の取材に「豪空軍関係者が日英伊から次期戦闘機に関する説明を受けた」と認めた。豪州は、米英と安保協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」を設けているため、日英伊と協力しやすい。さらにAUKUSは次期戦闘機と連携する無人機について共同研究を日本に打診している。協業の余地が大きい。日本にとって豪州は「準同盟」国だ。自衛隊が他国の艦艇などを警護する「武器等防護」の対象となっている。海洋進出を強める中国を念頭に、より強固で長期的な防衛協力をめざしている」

    日英伊にとっては、先ず豪州が有力な輸出先候補である。日豪関係は、「準同盟」国と言える密接な関係にある。英豪は、同盟国である。AUKUS(米英豪)は、無人機について共同研究を日本に打診している関係にある。「持ちつ持たれつ」の関係なのだ。


    (3)「豪州以外の国からも次期戦闘機への関心が寄せられている。日本政府は2月、「友好国」のインドに次期戦闘機の導入を打診した。友好国は準同盟国に近い位置づけで、インドとは物品役務相互提供協定(ACSA)などを結ぶ。インドは、これまでロシア製の戦闘機を主に運用してきた。日欧と共通する装備品の取得によって、従来よりも対中国・ロシアの陣営へ接近する可能性もでてくる。インドとの関係は、主に日米豪印の協力の枠組み「Quad(クアッド)」が中心だった。防衛省幹部は「外交的側面が強かったクアッドを安保でも進めなくてはいけない」と話す。カナダも候補に浮上する。英国のイーグル国防調達・産業担当閣外相は4月1日、「カナダを開発計画に迎え入れる考えがあるか」との議会での書面質問に「日英伊は他国との協力に前向きだ」と回答した」

    インドも有力な売り込み先である。インドは、これまでロシア製の戦闘機や武器などを運用してきたが、米印両国は共同で武器生産へ踏み切るなど状況が大きく変化している。この流れのなかで、日本がインドへ次期戦闘機の売り込みを図っても当然であろう。


    (4)「サウジアラビアも、「パートナー」国の立場で機材の購入や開発資金の拠出を検討している。サウジは、できるだけ開発計画へ関与することを求めていたが、4月に開いた日英伊とサウジの協議で形態にこだわらない姿勢を示した。共同製造や整備などを担うことを探る。各国が興味を持つ背景には、トランプ米政権の発足がある。今後も米国が世界の安保体制に関与し続けるかどうかに懸念があるためだ。万が一の代替策として米国以外を模索する」

    「金満国」サウジアラビアは、機材の購入や開発資金の拠出を検討している。サウジは当初、開発計画への関与も希望したがこれは取下げた。

    (5)「日英伊からみれば、戦闘機の輸出先の拡大は共通の装備基盤を持つ同志国の増加につながる。部品などの融通もしやすくなり、地域を超えた防衛力や抑止力の向上が期待できる。製造機数が増えると1機あたりの製造単価も抑えられる。次期戦闘機の製造の採算ラインは500機ほどとされる。日英伊は他国への輸出分を足し合わせて超える計画だ。米国の防衛産業の混乱も日英伊には追い風となる。ボーイングは開発遅延で損失計上が相次ぐ。ロッキード・マーチンが製造する「F35」も生産が遅れ、24年度中に航空自衛隊向けに届くはずだった9機が期限内に納入されなかった」

    次期戦闘機の製造の採算ラインは500機ほどとされる。日英伊は、他国への輸出分を足し合わせて超える計画だという。これで、赤字を免れる。世界に広がる日英伊の次期戦闘機は、安全保障の輪を広げる副次的効果が期待される。



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    中国の外交戦術は、きわめて感情的である。相手国と摩擦が起これば、すぐに報復する「戦狼外交」を展開する。これによって、相手国を屈服させようとするので、中国と真に友好関係を結ぶ先進国は存在しない。豪州もその一つだ。かつての豪州と中国の関係は密接であった。それが、2020年のコロナの発生源調査を巡って中豪関係が悪化し、中国の豪州への経済制裁になった。 

    米経済誌『forbes・com』(12月11日付)は、「中国を襲う『因果応報』、対オーストラリア高関税で代償払う」と題する記事を掲載した。 

    話は2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)に至るまでの数年間から始まる。当時、中豪の貿易関係はかつてないほど緊密だった。これは自然な流れで構築されたものだ。豪州は農業と鉱業が盛んで、かたや中国は豪州が提供できるものを必要としていた。豪州産の石炭と鉄鉱石は活況の中国の鉄鋼産業に、綿花は中国で急成長中の繊維産業に供給された。そしてワインは、中国で急増していた富裕層の食卓を飾った。そうした輸出と引き換えに、豪州は玩具からコンピューターに至るまで、中国で製造されたさまざまな物品を輸入。豪統計局によると、2020年には豪州輸出のほぼ半分は中国向けだった。豪州経済は中国の購買力に依存していると言っても過言ではなかった。

     

    (1)「この関係が2020年に突然崩れた。当時の豪首相スコット・モリソンが新型コロナウイルスの発生源について国際的な調査の実施を求めたところ、中国の指導部が反発。中国は豪州に圧力をかけることを決めた。中国が自国の経済と国民を統制する際の常とう手段である指揮統制方式に従い、100〜200%、あるいはそれ以上の厳しい関税を豪州産の製品に課すことで、豪州を窮地に追い込むよう命令が下った」 

    中国は、秦の始皇帝が統一事業を成し遂げた手法である「威嚇」と「戦争」という強硬手段を現代もなお使っている。2300年前と時代背景が異なることへの理解がないのだ。こうして、豪州へも同じ手を使い失敗した。 

    (2)「豪企業は困難な状況に陥り、新たな市場を早急に見つける必要に迫られた。豪企業は損失に苦しんだが、中国の高圧的な行動から数カ月後には中国に代わる輸出先を見つけた。石炭と鉄鉱石はインドで成長中の鉄鋼産業に、綿花は進歩が著しいベトナムの衣料・繊維産業に供給された。穀物生産者はさらに遠くへ製品を輸出し、サウジアラビアで利益の上がる契約も獲得した。ワイン業界は北米と日本に活路を見出した。その結果、中国へのワイン輸出額は過去最多となった2020年の7億7000万ドル(約1115億円)から昨年は500万ドル(約7億円)にまで落ち込んだ」 

    中国へ反感を持っている国々は、一斉に豪州の苦境乗り切り策へ協力した。世界は広いのだ。捨てる神あれば拾う神ありである。

     

    (3)「中国経済は今、3年前に中国が豪州を酷い目に合わせようとしたときに考えられていたほど影響力があるわけでもなければ、傑出した存在でもない。北米や欧州、日本への輸出が減少するなか、中国の指導部は新しい貿易関係を開拓し、昔からの貿易関係を回復させることに積極的になっている。このため中国は、モリソンの後任であるアンソニー・アルバニージーが先月行った豪首相としては7年ぶりの中国訪問を前に、3年ほど前に課した関税を緩和する考えを示した。アルバニージーは喜んでいるが、豪企業がこれを受け入れるとは思えず、政府関係者、特に中国の政府関係者は失望するだろう」 

    中国は今、輸出停滞で悩んでいる。そこで、豪州貿易再開へ動き出している。ただ、中国には「恥をしのんで」という認識がないことが問題だ。経済制裁という同じ誤りを繰返している。豪州企業は、中国に代わる輸出市場を開拓しており、中国の「ニーハオ」に簡単に応じる気配話さそうだという

     

    (4)「豪企業の経営者らは、中国がオーストラリアとの関係を切り捨てたときのことを覚えている。すぐに脅迫的な手段に出た国との貿易に戻るために、新しい貿易関係を損なってもいいとは全く思っていない。豪中貿易が今後拡大することは確実で、特に中国が3年前に課した関税を緩和すればそうなるだろう。中国の経済力には、同国に最も大きく反発している豪ビジネス関係者でさえ抗えない。だが、豪州の経営者全員が重度の記憶喪失にならない限り、中国のマーケットに戻るには時間を要し、2020年のように中国に依存することはないだろう」 

    豪州は、もはや2020年当時のように中国経済への依存度ではない。「覆水盆に返らず」である。
     

    (5)「中国の高圧的な振る舞いは、過去に何度も不利益となって自国に跳ね返ってきた。南シナ海でフィリピンをいじめ抜いたことで、フィリピン政府はそれまで消極的だった態度を一変させて、安全保障面での米国との協力関係を強めた。2020年に中国が関税を引き上げたことで、豪州が防衛面で米国や英国との協力を強化するようになったのは間違いない。中国が貿易条件で妥協しようとしなかったため、米国や欧州各国の中国に対する姿勢は、ほぼ同調的で相互協力するというものから、現在では敵対的としか言いようのないものへと変化した。こうしたことは通常、アプローチの見直しにつながるが、中国の習近平国家主席と指導部はこのやり方から脱却ができないようだ」 

    習近平氏の感覚は、始皇帝と同一であろう。「飴と鞭」を用いて他国を従わせようとしているが、これは反発を買うだけだ。中国に真の友好国が存在しない理由である。全て、うわべだけの利益で結ばれた仮の「友好国」に過ぎない。

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