カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールは11月26日、セブン&アイ買収の実現を引き続き目指していく考えを改めて示した。セブン&アイ・ホールディングス(HD)の創業家らは、クシュタールに対抗して総額9兆円規模のMBO(経営者が参加する買収)を提案している。クシュタールは、バランスシート上の余力が約100億ドル(約1兆5000億円)未満との分析もあるほど。事実上、クシュタールの合併は困難との見方が出てきた。
『ブルームバーグ』(11月27日付)は、「クシュタール、セブン買収あきらめずーCEO『粘り強く』臨む」と題する記事を掲載した。
カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールは26日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)の買収実現を引き続き目指していく考えを改めて示した。
(1)「クシュタールのアレックス・ミラー最高経営責任者(CEO)は、アナリストとの電話会議で「当社は粘り強く臨み、両社の全ての株主や従業員、主要関係者にとって最も魅力的な結果をもたらすよう友好的なアプローチを継続していく」と述べた。同社は9月、セブン&アイへの買収案を約470億ドル(現在のレートで約7兆2200億円)に引き上げた。一方、創業家と伊藤忠、日本の大手3メガバンクは、出資と銀行融資合わせて総額9兆円規模に上るMBOの具体策に向けた検討に入っている。セブン&アイはこれらの提案に対してまだ回答していない」
クシュタールにとって不利なのは、日本側が「オール日本」体制でセブン&アイ創業家のMBO支援に回っていることだ。あとで詳述するが、米ファンドまで資金調達に協力する姿勢をみせている。これを機会に、日本のM&A市場で足がかりをつける絶好のチャンスとみているのだろう。こうなると、クシュタールにはカナダの年金が協力するとしても、劣勢が明らかである。
(2)「ミラーCEOはまた、「われわれは買収の原資を確保し、取引を完了できると依然確信している」と発言。「共に成長し、世界の数百万人の顧客に提供する商品やサービスを向上させる大きな機会があるとの考えを変えていない」と続けた」
クシュタールは、敵対的買収をしないとしている。これは、最初から「勝ち目がない」という前提であろう。
(3)「クシュタールの業績にはここ1年、逆風が吹いている。厳しい経済状況を背景に、低所得層によるコンビニ店舗や給油所での支出が減っていることが重石だ。第2四半期(10月13日終了)決算は、調整後1株当たり利益が74セントと、市場予想を若干下回った。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)の金融アナリスト、ダイアナ・ロセロペーニャ氏はブルームバーグテレビジョンで、クシュタールが「さらなる買収を行うためのバランスシート上の余力は約100億ドル未満」だと指摘。セブン&アイの買収はおそらく実現しないだろうと述べた」
ブルームバーグの金融アナリストによれば、クシュタールのさらなる買収資金上乗せ余力は約100億ドル(1兆5400億円)未満である。現在、約470億ドルの提案であるから総合計は570億ドルになる。これは、クシュタールの財務へ大きな圧力を及ぼすとみているのだ。
『日本経済新聞 電子版』(11月26日付)は、「米ファンド、セブン買収関与は『収益以上の意味』 部分参加『検討』 M&A急増の日本重視」と題する記事を掲載した。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)への買収提案を巡り、創業家が米国の大手投資ファンドに資金拠出を打診した。全株式取得が原則のファンド勢にとって、創業家や伊藤忠商事、3メガバンクなどと並ぶ部分的な参加を前提とした検討は異例だ。M&A(合併・買収)が急増する日本市場を重視していることが背景にある。
(4)「セブン創業家側は、米KKRや米ベインキャピタル、米アポロ・グローバル・マネジメント、米ブラックストーンなどに買収への参加意向を聞き取った。創業家側は、カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)への対抗策として、株式の非公開化に向けたTOB(株式公開買い付け)資金の出し手を探している。全株式の取得費用は総額7兆円以上となる公算が大きく、3メガバンクなどからの投融資だけでは足りない可能性がある」
ここでは、買収金額が「7兆円以上」となっている。3メガバンクは、揃い踏みでの支援体制だ。米ファンドは、こういう日本側の体制をみれば、これに協力して後々のビジネスチャンスへつなげる思惑が働いて当然であろう。
(5)「セブン創業家による買収参加の打診について、米ファンドによって濃淡はあるものの現実的な可能性を前向きに探っているとみられる。打診を受けたある米ファンドの幹部は、セブン買収への関与について「今後の日本での活動を考えれば単なる収益以上の意味がある」と話す。日本での存在感を高めて、M&A案件のさらなる獲得をめざす上での意味を見いだしているようだ」
クシュタールは、日本側の完璧な「防衛体制」に手も足もでない感じを持ったとしても不思議はない。資金量豊富な米ファンドが、セブン創業家側に回ればもはや「決着」というイメージになろう。