習氏の心境「御身大切」
広東省までが経済不振
IMFが示す奈落の底
習氏は4期目続投示唆
中国国家主席の習近平氏には、明らかに自己にかかわる長期戦略で迷いがみられる。習氏の基本戦略は第一に、終身国家主席を務めることにある。これまで行った政敵排除で受ける恨みは、習氏が権力を手放した瞬間に襲ってくる。このリスクを避けるには、毛沢東と同様に生涯、権力を握り続ける「現役」が唯一の条件であろう。
だが、無条件に権力を握り続けることは困難である。そこで、台湾統一を目標にかかげ人心掌握術に出ている。国内で誰も反対できない目標だが、軍事統一となれば異論も出てくる。それを抑えて実行した場合、失敗すれば習氏が「詰め腹」を切らされるのは不可避である。ここで、政敵による過去の恨みが一挙に噴出する。習氏は、引退か亡命かという瀬戸際の選択を迫られよう。
習氏の心境「御身大切」
習氏が、台湾軍事侵攻するチャンスは、時期が遅れれば遅れるほど消える運命だ。不動産バブル崩壊による過剰債務の積み上がりによって、潜在成長率が低下するからだ。国力の衰退が、明白になってから行う台湾侵攻は「笑い話」の類いになる。
習氏は今、台湾軍事侵攻時期を何時にするか苦悩しているであろう。財政赤字拡大に対しての極端な神経の使い方は、国力を一時的に温存し台湾侵攻に備える思惑が絡んでいる。だが、財政赤字拡大を抑える政策は、不動産バブル崩壊後遺症を放置することである。これは、中国経済の自滅を意味する最も危険な策である。こうなると、台湾侵攻のチャンスは永遠に去るのだ。
習氏のベストシナリオは、台湾侵攻と過剰債務処理を同時並行的に行うことだろう。これは、台湾を無傷で占領して最先端半導体工場を手に入れる戦略である。本来、こういう虫の良いシナリオはあり得ない。それこそ、ロシアのプーチン大統領が「三日でウクライナ占領」と同じ失敗に終わる。台湾の最先端半導体工場設備は,中国による台湾占領が不可避という時点で爆破される手はずだ。爆破装置が,すでに組み込まれている。
こういういくつかの状況を精査すると、習氏が台湾侵攻できる時期は極めて限定されている。国力にゆとりがあることを前提とすれば、台湾侵攻の時期は現在かも知れない。だが、肝心の人民解放軍は士気が乱れている。軍上層部の汚職が絶えないからだ。軍の兵士は、勤務時間の4分の1を政治教育に費やしている。共産党への忠誠を誓わせる教育である。謀反を起こさないようにする伏線だ。こういう脆弱な構造を抱える人民解放軍が、中国同胞である台湾を襲い人命を奪う戦争に唯々諾々と従うだろうか。
結局、台湾侵攻は総合的にみて、そのタイミングを選ぶことが非常に難しく、すでにそのチャンスは過ぎつつあることを予感させる。だからと言って、防御体制を緩ませるというのでなく、引き続き警戒強化するとしても、中国の国内事情を冷静に分析することが極めて重要になってきた。
広東省までが経済不振
中国経済は、表面を眺めているだけではその実相をつかめないという複雑な局面に至っている。4~6月期のGDP成長率は、前年同期比では年率4.7%であった。だが、前期比でみると年率2.83%と急減速している。これを裏付ける具体的なデータが出てきた。
中国は、省クラスの行政区が全部で31ある。そのうち23行政区が今年上半期のGDPを発表した。うち16行政区のGDP成長率が政府目標の「5%前後」に達しなかったことが判明した。実に7割が、この厳しい局面にある。この中で目立ったのは、中国最大の行政区である広東省が、上半期GDP成長率が年間3.9%にとどまった。
広東省は、深圳、珠海の経済特区を抱えている。主要経済指標である省内GDP、外資導入額、輸出額、地方税収額では、全国各省市区の首位に立つ象徴的な地域である。その広東省の経済が不振であるのは深刻である。製造業不振が成長率の足を引っ張っているのであろう。
また、中国の「ハワイ」言われる観光地の海南省が、上半期GDP成長率がわずか年間3.1%で、目標の8%を大きく下回った。海南省経済が不振なのは、個人消費の沈滞を裏付けている。観光が喧伝されるほど回復していない証拠だ。海南省が、広東省の不振と並んで経済低迷に陥っているのは、中国経済が、製造業や個人消費の停滞に陥っていることを裏付ける象徴的な動きであろう。
地方経済が、上述のように不振であるのは、地方政府の財政逼迫化を示している。これまで、地方政府の財政を大きく支えてきたのは、土地売却収入である。平均して歳入全体の3割前後は、この土地売却収入に依存する異常な偏りを示してきた。この状態が継続できたのは、不動産バブルが恒常化していたことを示している。ため息の出るような「クレージー」な状態であった。習氏は、これを異常な事態と認識していなかった点に、中国政治最大の「悲劇」がある。習氏の政治生命に関わる事態なのだ。(つづく)
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