カンボジア東部のモンドルキリ州には、数年前から空港建設計画がある。この州は、ベトナムと国境を接する国土の広い地域だが、カンボジアで最も人口が少ないところだ。州都でさえも人口は約1万3000人で、観光地も滝を除けばほとんどない地域である。
中国電力建設は、モンドルキリ空港開発を8000万ドルで進める契約を2019年に結んだが、22年までに破棄し撤退した。現地は、滑走路のために住民の農地が破壊され、コンクリートの支柱が建っているだけだ、と報じられている。中国の「一帯一路」プロジェクトのなれの果てだ。中国経済が危機を迎えている状況が、こういう面に表れている。
カンボジア政府は、「中国がダメなら」インドへと接近している。カンボジアとインドの企業関係者らは、2月末に両国が加盟する経済団体を発足させた。民間企業による対話と協力を通し、両国間の貿易・投資の拡大を図る狙いとしている。カンボジア各紙が伝えた。新たに発足したのは、「インド・カンボジア共同ビジネス協議会(ICJBC)」だ。
『日本経済新聞』(3月3日付)は、「カンボジア、滞る空港建設 中国マネー枯渇で東部経済特区構想が暗礁」と題する記事を掲載した。
カンボジア東部のモンドルキリ州では、数年前から始まった空港建設計画が頓挫している。ここは中国の投資家が近年撤退したことで、カンボジアに複数みられる開発が中断された空港の一つだ。これらプロジェクトは、すでに進行している。地域住民は、建設のために土地を追い出されたと主張している。
(1)「カンボジアのシンクタンク、フューチャー・フォーラムの創設者ウー・ビラク氏はモンドルキリ州の空港プロジェクトについて「経済的な根拠があるとは思えない」と語る。そのうえで「観光客が飛行機で突然来るという需要はないだろう」との見方を示す。そもそも新空港の立地として、へき地の同州は適切でなかったとみている。中国の広域経済圏構想「一帯一路」に関する投資が減速するなか、カンボジアのフン・マネット首相は2月、同国の他の主要インフラプロジェクトへの投資を中国企業に呼びかけた」
モンドルキリ州の空港プロジェクトは、観光地としての条件がないところへ空港建設するという突飛なものだ。この種の話は、中国が一帯一路プロジェクトと使う手と共通している。スリランカが、過剰債務で財政破綻した理由は、中国から強いられた無駄な空港と港湾の建設によるものだ。カンボジアは、中国資本が撤退したことで新たな財政負担を負わず、「幸運」であったと言うべきかも知れない。
(2)「カンボジアでは中国の資金による高額のインフラ整備を進める際に、政治的な利益が経済効果を上回ることが多いとの見方がある。カンボジアはこれまでに一帯一路に関するインフラ整備のため、数十億ドルを手にしている。「政治と安全保障が経済的な利益よりも大きな役割を果たしていると疑問に思う人もいるだろう」。アリゾナ州立大学の政治学教授ソファル・イア氏は語る。そして「中国投資の冷え込みがすべてかもしれない。資金が枯渇しつつあり、政治や安全保障の観点だけでは意思決定が進まない状況だ」と指摘する」
中国の一帯一路プロジェクトは、中国の政治的影響拡大を狙って行うケースが圧倒的である。その証拠は、多くの国々が過剰債務を背負わされていることに現れている。だが、中国の経済力衰退は、新たな犠牲国を生まないためにも歓迎されるべきかも知れない。
(3)「中国の投資家にとっても最終的に得られる見返りは不透明だ。中国企業は11億ドル(約1650億円)を投じて、シエムレアプ・アンコール国際新空港を昨年に旧空港の約3倍に拡張した。観光名所として知られる世界遺産の「アンコール遺跡群」があるにもかかわらず、観光客数はコロナ禍前の19年に戻っていない。経済調査会社CEICによれば、シエムレアプ旧空港の19年の到着客数は約166万人だった。足元で国内線と国際線の就航便数は増加基調にある。ところが首都プノンペン、沿岸部シアヌークビルを含む主要3空港合計でも、23年の外国人観光客の到着数は186万人にとどまった」
シエムレアプ・アンコール国際新空港は、中国資本の手で建設された。だが、外国人観光客は旧空港時と比べ増えていないのだ。新空港効果がなかったことを示しているもので、中国資本の口車に乗せられた気配が濃厚である。
(4)「プノンペンの新しい空港を巡っても、中国の国営企業が15億ドルの資金の大半を拠出することを取りやめた。カンボジア側の事業パートナーであるオーバーシーズ・カンボジア・インベストメント・コーポレーション(OCIC)によると、同社が債券発行と自己資金によって代替資金を負担した」
中国国営企業は、プノンペン新空港建設で15億ドルの大半を拠出する計画を取りやめた。資金難に襲われている結果だ。中国経済の危機が、カンボジアで顕著に表れている。