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中国は、豪州へ得意の揺さぶり戦術を行っている。AUKUS(オーカス:米英豪)による中国包囲網を緩めさせるべく、対豪貿易で揺さぶっているのだ。これまでは、豪州産の石炭・ワイン・食肉などの輸入規制をしてきたが、一転して輸入規制を解いて「ニーハオ」で輸入を増やすというのだ。これで、豪州を操れると計算しているところに時代離れした「古代中国」の戦法をみる思いがする。

 

『日本経済新聞 電子版』(3月20日付)は、「中国、貿易拡大で豪州に接近 AUKUSへ揺さぶり」と題する記事を掲載した。

 

中国の王毅(ワン・イー)共産党政治局員兼外相は20日、訪問先のオーストラリアで同国のアルバニージー首相らと会談した。貿易拡大をテコに豪州へ接近し、米英豪による中国をにらんだ安全保障の枠組み「AUKUS(オーカス)」を揺さぶる狙いがある。

 

(1)「王氏は20日、7年ぶりに豪州を訪問し、首都キャンベラでアルバニージー氏と会談した。中国外務省によると、王氏は「中豪が遭遇した障害は一つ一つ克服され、懸案も適切に解決されている」と述べた。アルバニージー氏は「豪中関係を相違によって定義するのではなく、双方の共通利益を探すべきだ」と語った。自ら率いる労働党政権について「今後も豪中の建設的な関係発展に努力する」と表明した。王氏は、同日にウォン外相と戦略対話を開き、中豪関係発展の重要性を確認した。中国が豪州産ワインに課す関税の撤廃などを話し合った」

 

中国が、相手国からの輸入を禁止したり、再開する背景は何か、それは、中国古来の「朝貢貿易」という存在が影響している。中華王朝は、周辺諸国が臣下の礼を取り中国へ貢物を送ると、中華王朝がその返礼として物品を与えてきた。中国は、こういう「上下関係の意識」に基づいた貿易において、豪州を下にみているのだ。

 

(2)「中国の習近平(シー・ジンピン)指導部は2020年5月以降、豪州産のワインや石炭、木材などに貿易制裁を科してきた。当時のモリソン豪首相が同年4月、中国に対して新型コロナウイルスの発生源を巡る独立調査を求めたことへの報復だった。中国との対話を重視するアルバニージー現政権が22年5月に発足すると中豪関係は好転し、中国は大麦や木材などの豪州産品への制裁を解除した。外相戦略対話で豪州側は残るワインや食肉、ロブスターへの制裁措置を解くよう求めた」

 

中国が、豪州への輸入禁止措置に出たのは、明らかに「中国上位」意識である。中国に不利な発言をしたから豪州を懲罰に付すという感覚である。著しい時代遅れである。この意識が、世界覇権を握るという妄想に繋がっている。

 

(3)「王氏は訪豪に先立ち、18日にニュージーランド(NZ)の首都ウェリントンを訪れた。ラクソン首相やピーターズ副首相兼外相と会い、両国の協力をインフラ整備やイノベーション、気候変動への対応にも広げると申し合わせた。中国が豪州やNZに近づく背景にはオーカスへの危機感がある。オーカスは米英豪が連携し、インド太平洋で影響力を強める中国の抑止を狙う。核保有国である米英が豪州に原子力潜水艦の配備を支援する計画をもつ。豪州と相互安保条約(アンザス条約)を結ぶNZもオーカスの非核分野への参加に意欲を示す。ラクソン首相は23年12月、人工知能(AI)など先端分野でオーカスと協調する意向を示した」

 

NZも一時期、中国へ大きく傾斜していた。だが、中国の実態が浮き彫りになるとともに、「正常化」してきた。「中国熱」が冷めたのだ。

 

(4)「中国は、貿易や経済面で豪州やNZとの関係を強め、米英などとの分断を探る。日米豪とインドの協力枠組み「Quad(クアッド)」にも照準を定める。クアッドもオーカスと同様、対中抑止の強化を主な目的とする。豪州とNZは、米英カナダを加えた5カ国で機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」の加盟国でもある。米国を中心に通信傍受網を通じて電話やメールといった情報を集めており、中国軍の動向も対象に含む」

 

中国は、豪州やNZとの関係再構築を図ろうとしている。だが、一度壊れた信頼関係は、簡単に修復できるものではない。中国には、そういう長い目での外交でなく、目先の利益で右往左往している。

 

(5)「王氏は今回の訪豪で、同国のキーティング元首相との非公式な会談を予定する。キーティング氏によると、中国外務省側が会談を呼びかけた。同氏は、かねてオーカスに批判的で、原潜配備計画の費用対効果を疑問視してきた。豪州側には中豪関係の改善を対中輸出拡大に結びつけ、有権者に訴えたいとの思惑がある。与党・労働党の支持率は2月の世論調査で33%と、野党の保守連合(36%)を下回った。NZにとっても最大の貿易相手国である中国との関係は重要だ。

 

中国が、今になって豪州接近を図るの「遅すぎる」のだ。稚拙外交の見本である。

 

(6)「米国と同盟国の間にくさびを打ち込もうとする中国の動きに、バイデン米政権は神経をとがらす。ブリンケン米国務長官は19日、フィリピンの首都マニラでマルコス大統領やマナロ外相と会談した。南シナ海でフィリピン船に妨害行為を繰り返す中国を名指しで批判した。日本を交えた日米比は4月、米ホワイトハウスで初めて3カ国の首脳会談を開く。豪州の対中接近をけん制する動きもある。英国のキャメロン外相とシャップス国防相は豪州を訪れ、22日に両国の外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)を開催する。対中抑止などを念頭に、防衛協力を協議する見通しだ」

 

豪州は、「クワッド」(日米豪印)や、「AUKUS」(米英豪)という対中包囲網に組み込まれている。こういう事態を作った張本人は、中国自身の「戦狼外交」にある。自分で原因を作った「罠」に苦しむのは、何とも不可思議なことだ。