勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: メキシコ経済ニュース時評

    あじさいのたまご
       

    トランプ米大統領は、先の施政方針演説で自信に溢れていた。前政権を「最悪の政権」とこき下ろしたのだ。対立する民主党議員に向け、「今夜だけでも米国の素晴らしい勝利を祝ってはどうか。米国のために共に働き、米国を真に再び偉大にしよう」と挑発した。だが、トランプ氏は本当に勝利の「美酒」に酔えるのであろうか。経済面での綻びがあちこちに出てきたのだ。

    トランプ氏をコントロールできるのは、市場だけとされている。その市場ではすでに、景気後退の予兆を見せ始めた。長期金利が短期金利を下回る「逆イールド」の状態である。2024年末に起こったが脱したものの、再び2ヶ月ぶりに起こっている。トランプ氏の関税強化策が、物価高と雇用悪化を同時にもたらさないか、懸念する声が強まっている。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月6日付)は、「米経済に忍び寄るスタグフレーション」と題する記事を掲載した。

    スタグフレーションが話題に上り始めた。輸入品への関税を大幅に引き上げるというドナルド・トランプ米大統領の決定により、米国は成長の鈍化または停滞と物価上昇が同時に起こる不快な状況に直面する恐れがある。いわゆるスタグフレーションだ。


    (1)「米国は、メキシコとカナダからの輸入品に25%の関税を課し、中国に対しては先月の10%引き上げに続いてさらに10%を上乗せした。プルーデンシャルのチーフエコノミスト、レイ・ファリス氏は、関税が企業の投資計画に大きな混乱をもたらすとの見方を示し、「インフレを引き起こすため、雇用と賃金の伸びの鈍化によって家計所得の拡大が減速している中で、実質家計所得にショックを与えることになる」と述べた」

    関税引き上げが、企業の設備投資へ大きな混乱をもたらすと警戒されている。設備投資が伸びなければ、生産性が低下する一方で物価は上がるので「スタッグフレーション」へ落込む。理由は簡単なのだ。

    (2)「トランプ大統領が、どれだけの期間関税を維持するつもりなのかはまだ不透明だ。ハワード・ラトニック商務長官は4日午後にFOXビジネスに出演し、関税引き下げが検討されている可能性を示唆した。一部のエコノミストは、関税が維持されれば景気後退の可能性が大幅に高まるとみている。アクセス/マクロのチーフエコノミスト、ティム・マヘディー氏は、「事態は急速に悪化しかねない。1970年代や80年代ほどの水準ではないが、スタグフレーション、またはミニスタグセッション(小規模なスタグフレーション的景気後退)の兆しがある」と述べた」

    商務長官は、近隣国への25%関税引き上げが米国経済へ混乱をもたらすことに神経を使っている。日常品が、突如の値上がりになるからだ。


    (3)「ここ数週間の景況感指標や企業関係者のコメントは、物価上昇の脅威に対する信頼感の低下を示している。米家電販売大手ベストバイのコリー・バリー最高経営責任者(CEO)は4日、アナリストに対し、中国とメキシコが同社で販売される家電製品の調達先の上位2カ国だと指摘。「全商品ラインアップにわたって、当社のベンダーが関税コストの一部を小売業者に転嫁すると予想している。米国の消費者向け価格が、上昇する可能性が極めて高い」と語った。株式市場が全体的に下落する中、同社の株価は13%急落した」

    家電の値上がりは確実視されている。売上が落ちるはずだ。

    (4)「ニューヨーク州ロチェスターを拠点とする従業員95人のブラザーズ・インターナショナル・フード・ホールディングスは、メキシコからマンゴーとアボカドを輸入し、食品・飲料メーカーにフルーツジュース、ピューレ、凍結濃縮食品を販売している。同社は顧客に関税引き上げ分を転嫁するか、利益率の低下を受け入れざるを得なくなっている。同社の顧客の多くは、関税発動を見越して1月に出荷を前倒しした。「今後数カ月は販売の軟化に備えている」とジャック・ウィティアー最高執行責任者(COO)は述べた」

    メキシコからマンゴーとアボカドを輸入している業者は、今後数ヶ月は販売が軟化するとしている。


    (5)「関税は、米連邦準備制度理事会(FRB)にとって対処するのが特に難しい経済的脅威だ。FRBの使命はインフレを低水準に安定させつつ、健全な労働市場を維持することだ。関税は、「供給ショック」を意味し、インフレ率を上昇させる(これは利上げを促す)一方で、雇用に悪影響を与える(利下げを促す)。FRBはどちらの問題を重視するかを選択しなければならない」

    関税引上げは、FRBにとって難題になる。物価を引上げるので「利上げ」局面だが、雇用に悪影響を与えるので「利下げ」の局面になる。矛盾した局面を迎えるのだ。

    (6)「セントルイス地区連銀のアルベルト・ムサレム総裁は3日、ワシントンで開かれた経済会合で「労働市場の悪化とインフレ上昇が同時に起これば、難しい選択を迫られる可能性がある」と語った。インフレの高止まりや長期的なインフレ期待の上昇は、利下げの正当化を難しくする。セントルイス連銀のムサレム総裁は、「インフレが目標水準かそれ以下で、消費者や企業が最近高インフレを経験していなかった場合に比べて、潜在的なリスクはより高い」と述べた」

    労働市場の悪化とインフレ上昇が同時に起これば、これは「スタッグフレーション」である。政策としては、金融緩和と財政刺激である。トランプ関税は、こういう厄介な問題を米国経済へ持ち込む。財政赤字を増やせば、財政赤字削減目的の「財政効率省」は吹飛ぶのだ。




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    中国の習近平国家主席は先頃、米経済界に対して中国への直接投資を要請した。現実は、アマゾンやグーグルなで米国ビックテックは、生産委託先の台湾企業に対してメキシコへの移転要請を出していることが判明した。米中対立と地政学リスクが、こうした動きを加速させている。

     

    『中央日報』(4月2日付)は、「中国の代わりに浮上するメキシコ、フォックスコン AIハードウエア工場敷地取得」と題する記事を掲載した。

     

    アップル最大の協力会社であるフォックスコンをはじめとする台湾の部品メーカーなどが、生産工場を相次いでメキシコに移している。協力関係にある米国のビッグテックが中国への依存度を減らそうとこれら台湾企業に「中国外生産」を要求するためだ。台湾企業は中国に代わる生産基地として米国と自由貿易協定を結んだメキシコを選択している。

     

    (1)「『ウォール・ストリート・ジャーナル』(3月31日付)によると、フォックスコンは2月に「メキシコのシリコンバレー」と呼ばれる西部ハリスコ州の土地を2700万ドル(約41億円)で取得した。人工知能(AI)ハードウエア生産工場を作るためだ。フォックスコンは2009年に米サンディエゴと国境を接するメキシコのティファナにあるソニーの工場を買収し半導体部品を生産してきた。続けて2020年から現在まで6億900万ドルを投じて追加の工場設立に乗り出している」

     

    米中対立によって、米国企業の「脱中国」の勢いが強くなっている。米企業の製造委託先である台湾企業に対して、メキシコへの生産拠点の移転を要請しているからだ。

     

    (2)「同紙は、関連業界専門家らの話として「この工場ではアマゾンとグーグル、マイクロソフト、エヌビディアなど米国主要企業に向けたAIハードウエア生産が主になるだろう」と伝えた。サーバーやストレージシステム、冷却・連結装置などAIハードウエアはデータセンター構築に必須の要素だ。フォックスコンをはじめと、インベンテック、ペガトロンなどの台湾企業が生産で世界シェア90%を占めている

     

    デルやヒューレット・パッカードのような米国の主要サーバーメーカーが、アマゾン、グーグル、マイクロソフト、エヌビディアなど米国主要企業に向けたAIハードウエア生産を、脱中国でメキシコ移転を要請している。

     

    (3)「台湾を代表するこれら部品メーカーがメキシコに向かう理由は、デルとヒューレット・パッカードのような米国の主要サーバーメーカーが、中国に対する依存度を減らすよう要請したためだ。これら企業は協力企業に一部サーバーとクラウドコンピューティング装備生産を東南アジアとメキシコに移転するなど供給網多様化を要求している。同紙は、「AI装備生産が拡大するにつれ米国企業は約15年前にスマートフォンが発売された時の歴史を繰り返さないために努力しているもの」と分析した。現在、スマートフォンと部品の大部分は中国で生産されている。フォックスコンの場合、中国鄭州にiPhone生産基地を置いている」

     

    米国の主要サーバーメーカーは、米中対立が長期に及ぶと判断をしている。アップルの場合、中国でスマートフォンと部品の大部分を生産しているが今や、工場移転を迫られている。主要サーバーメーカーは、こういう「失敗」を繰返さぬように「脱中国」を前提にしているのだ。

     

    (4)「メキシコは、台湾企業にさまざまな面で魅力的だ。世界最大の輸出市場である米国と地理的に近いながらも人件費負担は低い方だ。2020年に米国・メキシコ・カナダ間自由貿易協定(USMCA)発効後に低い関税が課されている。メキシコは50カ国と自由貿易協定(FTA)が締結された状態だ。同紙は、2020年のUSMCA発効後に中国からメキシコに生産基地を移転した企業が数十億ドルをメキシコに投資したと伝えた。メディアは「AIは米中緊張が高まってメキシコがますます多くの役割を受け持っている先端製造分野のひとつ」と伝えた」

     

    メキシコは、米国・メキシコ・カナダ間自由貿易協定(USMCA)により無関税で米国へ輸出できる。この利点を生かすべく、中国からメキシコへの生産基地移転が活発だ。中国企業も、この恩典に浴すべく進出を目指して米国から警戒されている。


    (5)「メキシコの産業界も鼓舞されている。メキシコ経済人連帯会議のフランチスコ・セルバンテス会長は「こうした流れは今後10年間メキシコの産業構造を劇的に変化させるだろう」と話した。台湾メーカーの脱中国とメキシコ行きが加速化し、現在までメキシコに進出した台湾企業は300社に達する。雇用人数も7万人を超える。台湾とメキシコの貿易規模は150億ドル水準だ

     

    台湾企業の300社は、脱中国でメキシコへ移転している。中国にとって痛手だ。

     

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