勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ドイツ経済ニュース時評

    a0005_000022_m
       

    ドイツ経済が苦しんでいる。輸出依存経済であるドイツは、中国経済の成長鈍化とともに輸出へブレーキがかかっているのだ。エネルギーコストの急騰と新たな貿易関税の脅威と相まって、将来への見通しは厳しい。ドイツ自動車メーカーと部品製造会社は、数万人の人員削減を発表している。ドイツのGDP世界3位とは名ばかりで、日本の異常円安が生んだ「フロッグ」に過ぎなかった。

    『ウォール・ストリート・ジャーナル』(2月3日付)は、「ドイツの経済モデルは崩壊、代替案『プランB』なし」と題する記事を掲載した。

    ドイツのGDPは、新型コロナ流行前の2019年からほぼ横ばいとなっており、これは第2次世界大戦の終結後で最長の停滞だ。ほとんどのエコノミストは今年もこの状態が続くと予想している。最近はこの窮地を救ってきた米国も、救いの手を差し伸べそうにない。ドナルド・トランプ米大統領は、ドイツ最大の輸出市場・米国で一連の関税を課して障壁を高め、世界貿易を混乱させると脅している。


    (1)「2月に議会選挙を控えたドイツ国民にとって、これは2000年代半ばに失業率が12%に達した時よりも恐ろしい事態だ(現在の失業率はその約2分の1)。当時のドイツ政府は、労働市場と福祉制度に不人気な改革を実施して人々に仕事を見つけるよう促すと同時に、企業コストを抑えて輸出企業の国際競争力を高め、20年間の堅調な成長への道を開いた。エコノミストらは、現在の危機はさらに深刻だと指摘する。ドイツの輸出依存型経済モデルの根幹そのものを問うているためだ。以前の景気後退時には、中国経済は年率10%前後またはそれ以上で成長しており、商品を吸収し、世界貿易と世界経済をけん引していた。今日、中国経済の成長率はその半分で、世界貿易機関(WTO)の統計によれば、世界の貿易量は停滞している」

    ドイツは、輸出依存経済のモデルが根本的に揺らいでいる。代案がないのだ。

    (2)「米ピーターソン国際経済研究所のブリュッセル駐在上級研究員、ジェイコブ・キルケガード氏は、ドイツの経済モデルは急成長する輸出市場がなければ「死ぬ」と述べた。しかし、エコノミストたちが必要だと指摘する大きな転換に焦点を当てる政治家はほとんどいない。独保険会社アリアンツのチーフエコノミスト、ルドビグ・スブラン氏は、「(ドイツ人は)問題と向き合おうとしない。まだ一時的なものだと考えており、いつもの方法で段階的に対処できると考えている」と述べた。「これでは十分ではない」と指摘する」

    ドイツ経済は、輸出が減れば「死ぬ」運命である。この深刻さが分っていないと指摘されている。


    (3)「8300万人の人口を抱えるドイツは、他国が購入したいと望むエンジニアリング製品(自動車、ロボット、列車、工場機械)を製造・輸出することで、世界第3位の経済大国に成長した。今、世界は「メイド・イン・ジャーマニー」に背を向けており、ドイツには代替案である「Bプラン」がない。最近まで、この非常にゆっくりとした経済崩壊の影響は、新聞の社説や経済データの発表に限定され、有権者の生活に目に見える影響はほとんどなかった」

    ドイツ経済は、ゆっくりと崩壊過程に向っている。輸出に代わる「柱」がないからだ。

    (4)「今年、危機は政治問題に発展した。ほとんどの世論調査で、経済は移民・治安・気候変動を抑えて有権者の最大の関心事となっている。退任するオラフ・ショルツ首相の政権は1949年以来で最も不人気だ。ほとんどの政治家は、現在の輸出依存型で製造業中心の経済モデルを調整し改善することに焦点を当てている。投資と消費を促進し、欧州域内の貿易を活性化し、急成長するハイテクやサービス部門に門戸を開くための新しいアイデアはほとんど見られない」

    ドイツには、ハイテク産業がない。ローテク産業であることが、将来性を奪っている。この点で、日本経済は、米国が共同戦略を申し込んでくるほど、半導体を初め技術開発の「種」が豊富である。ドイツは、不動産バブルを引き起さなかった。「堅実さ」の反映であるが、その限界も明らかである。


    (5)「デュッセルドルフにあるハインリヒ・ハイネ大学のイェンス・ズデクム教授(経済学)は、「新しい経済モデルを開発しようとする真剣な取り組みは見られない」と述べた。「短期的には、『トランプ氏が関税を課すなら、そこで製造すればいい』といった戦術的な対応に終始している」と指摘する」

    ドイツには、新しい経済モデルをつくろうとする取組みがない。保守的なのだ。

    (6)「ドイツ経済にとって物品貿易への過度の依存は、数十年にわたりITなどの新分野や国のインフラ投資に障害を設ける一方で、輸出製造業を支援してきた、政府の政策がもたらした結果である。ドイツの雇用の約4分の1は輸出に支えられている。ドイツで生産した自動車の3分の2以上が輸出される。1990年代半ば以降、ドイツGDPに占める輸出割合は2倍になり、GDPの43%(注:正しくは37%)に達し、米国の4倍(注:正しくは5倍)、中国の2倍の水準となっている」

    日本の輸出割合は、対GDP比17.05%(2023年)。ドイツは、同37.31%である。ドイツは、EU(欧州連合)諸国へ無関税で輸出できることで、内需よりも輸出へウエイトがかかった。この咎めが現在、ドイツ経済を襲っている。「堅実な」ドイツ経済の限界を露呈している。





    a0005_000022_m
       

    中国と北朝鮮は、ハッカーが大活躍している。中国は、技術情報の盗み出し。北朝鮮は、外貨の獲得である。ドイツのVW(フォルクスワーゲン)は、2010年から同社システムの脆弱なところから侵入を試み、2011年と2012年には一部のデータが盗まれていた。2013年には管理者権限が盗られ、多くのデータがコピーされていたという。 

    ハッカーの正体は不明だが、アドレスは北京となっている。盗まれた技術は、ガソリンエンジン、ギアボックス(変速機)などという。中国は、精密技術が不得手である。未だにまともなエンジンを製造できないと指摘されている。こうした弱点を解決すべく、エンジンが要らないEV(電気自動車)へ特化した理由である。 

    『COURRiER Japon』(4月25日付)は、「中国ハッカーに『極秘技術』をごっそり盗まれていた独フォルクスワーゲン」と題する記事を掲載した。 

    独メディア『ZDF』によると、販売台数で世界第2位の自動車メーカーである独フォルクスワーゲン(VW)が、大規模なハッキング被害に遭っていたことが明らかになった。

     

    (1)「VWは、2010〜2015年にかけて同一のハッカーから何度もサイバー攻撃を受けていた。犯人の正体はわかっていないが、専門家によると、中国のハッカーである可能性が高いという。そのIPアドレスが北京につながっており、中国の人民解放軍の近くにまで辿ることができたからだ。決定的な証拠はないが、ハッキングに使われたスパイソフトは、中国のハッカーが利用する「プラグX」や「チャイナ・チョッパー」であった」 

    ハッカーのIPアドレスは、北京の人民解放軍近くでたどれたが、その先は不明という。これだけの情報で、犯行の主は推測できる。 

    (2)「ハッカーは、2010年から同社システムの脆弱なところから侵入を試み、2011年と2012年には一部のデータが盗まれていた。2013年には管理者権限が盗られ、多くのデータがコピーされていたという。VWグループのアウディとベントレーも標的になり、合計で19000点ほどのファイルが流出した。標的になったのは、ガソリンエンジン、ギアボックス(変速機)、デュアル・クラッチ・トランスミッション(オートマ車の変速機構)などの主要な技術に関するデータだ。エレクトロモビリティ、燃料電池などの代替駆動システムに関する技術情報も流出した」 

    エンジン・EV・燃料電池などの基礎技術が、中国へ渡っている。こういう犯罪に対して、何の痛痒も感じないのだろう。

     

    (3)「独誌『シュピーゲル』によると、2014年6月に侵入された際、VWのIT担当者がハッキングに気付いた。同社はそれから対策をとり、一連の攻撃は防ぐことができるようになった。2015年に巨大なITシステムを再構築してITセキュリティのレベルを向上させたという。システムの刷新には数百億円規模のコストがかかった。盗まれたデータがどのように使われたのかはわからない。しかし、自動車産業を専門とする、独オストファリア応用科学大学のヘレナ・ウィスバート教授は、盗まれた「ガソリンエンジンとトランスミッション、そしてEVと水素自動車に関する特定のノウハウに関する情報は、国際競争においてまだ非常に重要な意味を持ちます」とZDFに述べている」 

    盗まれた技術であるガソリンエンジン、トランスミッション、EV、水素自動車に関する特定のノウハウに関する情報は、中国の自動車競争力を大いに引上げたと判断されている。 

    (4)「中国の自動車メーカーは近年急成長し、電気自動車(EV)分野で圧倒的な競争力を持つ。一方、20年ほど中国の自動車市場でシェア1位を誇ったVWは、2023年にその座を中国EVメーカーのBYDに奪われた。独紙『フランクフルター・アルゲマイネ』によると、VWグループは、中国のガソリン車市場においては20%程度と、いまだ高いシェアを誇る。しかし、EV市場でのシェアは5%程度だ。中国ではEVの販売割合が急激に増えていることを考えると、今後のVWの立場は危うい」 

    VWは、中国に基幹技術を盗まれても相変わらずの「親中派」である。度量が大きいのか、市場の大きさに免じて赦したのか。それ以降も、一切の警戒姿勢をみせていないのは不思議である。脱中国を試みなかったからだ。

     

    (5)「そんななか、VWは2030年までに中国で30以上のEVモデルを販売することを目指している。同社のオリバー・ブルーメCEOは「ドイツ国内の何十万もの雇用も中国との協力関係に依存しています」と強調し、中国での大規模な投資を発表した。一方、VWの中国事業にかかる政治的リスクも高まっている」 

    VWは、ますます中国市場へ執着する姿勢を強めている。中国市場を失ったら、VWの世界的な地位は下落する。トヨタに次ぐ世界2位の座は維持できまい。

     

    このページのトップヘ