中国のEV(電気自動車)輸出急増対策を巡って、EUと米国の対応に緩急の差が現れている。これは、それぞれ対中輸出の依存度が異なる結果だ。EUは、対中輸出が多いだけにEVのみに焦点を絞り関税率を既存の10%に加え最高48.1%に止めた。米国は、100%の関税率である。中国EVを「拒絶」する姿勢だ。
『ロイター』(6月14日付)は、「EUの対中関税、米よりマイルド 切れない経済関係」と題する記事を掲載した。
欧州連合(EU)が中国製の電気自動車(EV)の関税引き上げを決めたのは、EUの対中姿勢が強硬化していることを反映している。しかし、中国からの完全なデカップリング(切り離し)を目指す米国の厳しい姿勢には及ばない。
(1)「EUの今回の措置自体は、一部の中国メーカーに対する関税を5倍近くに引き上げるもので、中国製EVの輸入関税を4倍に引き上げた米国の上を行く。しかし、バイデン米大統領の計画はさまざまな中国製品に及び、EVの税率は100%に設定される。これに対してEUの措置はEVに限定されており、関税率は最高48.1%、加重平均すると31%だ。米国に比べて控えめな措置にとどめた背景には、貿易は国際ルールに基づいて行われるべきだというEUの強い信念と、中国との貿易戦争では失うものの方が大きいという認識がある」
EUの中国製EVへの関税率は、加重平均すれば31%である。米国の関税率引上げに比べて緩やかだ。
(2)「ベルギーのブリュッセルに本拠を置くシンクタンク、ブリューゲルのニクラス・ポワティエ研究員は「米国の措置は中国のEVを排除することを狙っている。EUの意図は、中国企業の優位性を奪うことにある」と指摘。EUは「(中国の)補助金による効果を無効にするのが狙い」であり、米国とは違うと話した。中国は米国の関税を「典型的ないじめ」だと非難したが、EUについては「典型的な保護主義」という少し穏やかな文言にとどめた」
米国とEUの間に相違があるのは、貿易依存度の違いである。米国は政治的であり、EUが経済的な側面を重視した結果である。
(3)「EUは過去1年間、中国のビジネスに対する監視の目を強めてきた。EUは、10年前の中国製ソーラーパネルに関する調査から教訓を得たようだ。当時は関税を課さず、EU域内の産業は崩壊してしまった。中国のEV補助金に関する調査は、EUによる対中措置として、ここ数年で最も注目を集めたケースだ。欧州委員会が産業界からの訴えを受けてではなく、独自の判断で調査に乗り出した最初の事例でもある」
EUは、中国製ソーラーパネルで大きな痛手を受けた。EVでは、その二の舞にならないという決意表明である。
(4)「EUは、中国を戦略的ライバルとみなすようになっている。EUの外交部門は2023年末、中国が国内ではますます抑圧を、国外ではますます自己主張を強め、経済的強制や重要鉱物の輸出規制を行うようになっていると指摘した。ウクライナ侵攻後のロシアを中国が支援したことで、EUは一層懸念を募らせた。EUは、今や「デリスク(リスク低減)」を呪文のように唱えている。つまり中国への依存度を下げるということだ」
EUは、最近の中国の振舞に危機感を募らせている。自制が効かなくなり、「モンスター」となったからだ。戦前の日本軍に似た構図でもある。
(5)「EUの措置は、もっぱら補助金に関するものだが、バイデン大統領は中国の技術移転やサイバースパイ活動の脅威も強調している。EUはルールに基づいた国際貿易を堅持しており、自らの調査と関税は世界貿易機関(WTO)のルールに適合していると主張している。かたや米国は、WTOのルールでは中国の「非市場的」慣行に対処できないとの立場だ。英シンクタンク、欧州改革センター(CER)のアスラック・ベルグ研究員は、「EUはまだトランプ前米大統領以前の枠組みで行動している。米国は中国に関しては、WTOの制約から飛び出し、国内政策に従って行動している」と説明した」
EUは、WTOのルールに適した行動を取っている。米国は、WTOの制約から飛び出ている。つまり、中国への政治的危機感を滲ませている。
(6)「米国に比べて慎重なEUの姿勢は、中国との経済的結びつきを反映している。昨年、米中間の物品貿易総額は5730億ドルで、米国の輸出額は1480億ドルだった。これに対し、EUと中国の物品貿易は7390億ユーロ(7980億ドル)で、EUの輸出は2230億ユーロ(2410億ドル)だ。ドイツの自動車メーカーは自社モデルの約30%を中国に輸出しており、関税を最も声高に批判してきた。「EUにとって、米国のやり方を真似るのは合理的ではない」とポワティエ氏は言う。
米国の対中輸出額は1480億ドルだが、EUは2410億ドルである。この差が、対中ビヘイビアを変えている。
(7)「CERのベルグ氏によると、米国とEUは異なる観点から中国との対抗関係をとらえている。米国は、自国の世界的覇権に中国が挑むのを抑えたいと考え、EUは、中国がさらに強大化した場合どう振る舞うかに、より大きな懸念を抱いているという」
このパラグラフは、実に言い得て妙である。米国は、自国の世界的覇権に中国が挑むのを抑えたい。EUは、中国の強大化に大きな懸念を持っている。