EU(欧州連合)は、中国への警戒姿勢を強めている。ロシアのウクライナ侵攻に対する中国の姿勢が「支援」であるからだ。こうした中で、中国は、ハンガリーをEU進出への足がかりにしようとしている。中国警官が、中国人観光客の安全維持名目でハンガリーに常駐することから、EU内で中国人監視役を行うのでないかと警戒されている。この中国とハンガリー蜜月化は、どのような展開をするのか。
『毎日新聞 電子版』(5月10日付)は、「中国とハンガリーの蜜月なぜ続く?『一帯一路』にEUで唯一参加」と題する記事を掲載した。
ブダペストで5月9日行われた、ハンガリーのオルバン首相と中国の習近平国家主席の首脳会談では、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」を前進させるなど、経済連携の強化で一致した。両国にはどんな恩恵とリスクがあるのか。欧州連合(EU)の「問題児」とされるハンガリーと中国の蜜月の背景を追った。
(1)「2015年、EU加盟国として初めて一帯一路に参加したのがハンガリーだった。現在、欧州における基幹事業として、ブダペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道の建設計画が進む。19年に着工し、26年に完成予定だ。24年2月には、ギリシャも計画への参加を発表し、路線はアテネまで延びる見通しだ。ギリシャは債務危機に陥った09年以降、国外からの投資が急減。その際、多額の投資で手を差し伸べたのが中国だった。中国はアテネに近いピレウス港で使用権の大部分を取得しており、高速鉄道の完成で、中国資本による人とモノの流れが、ギリシャ・ハンガリー間に生まれることになる」
中国は、得意のインフラ投資でハンガリー・ブタベスト・ベオグラード・アテネを結ぶ高速鉄道を建設する。この投資を巡って「債務の罠」にならないか、監視の目が強まろう。中国が、全額負担して後から回収するときに高利を貪ることがあれば、大きな批判を浴びよう。試金石となる。
(2)「欧州全体では、中国資本への警戒感は強まっている。22年2月のロシアによるウクライナ侵攻で、ロシア産天然ガスなどに依存してきた欧州各国は、経済安全保障への意識を高めた。G7とEUは経済の中国依存を避ける「デリスキング」戦略を進めており、イタリアの一帯一路離脱の要因となった。メローニ政権は23年6月、中国企業シノケム・ホールディングスによる伊タイヤ大手ピレリの株式買い増し時に介入し、経営への関与拡大を阻止するなど、中国資本への監視の目を強めている」
EUは、中国の人権弾圧を問題視している。さらに、中国がウクライナを侵攻したロシアを支援していることも重なり、根強い「反中国熱」が潜んでいる。イタリアも「一帯一路」を脱退して、反中国の列に加わった。
(3)「ギリシャでも、ピレウス港で21年10月に起きた労働者の死亡事故をきっかけに、港湾を運営する中国企業の劣悪な労働環境が問題になった。ギリシャ国民の対中感情も以前より悪化したとされる。こうした警戒感を反映し、17年の一帯一路国際会議にはEU加盟国ではイタリア、スペイン、ギリシャ、チェコ、ポーランド、ハンガリーの6カ国の首脳が参加したのに対し、23年はハンガリーだけだった。中国はハンガリーを中心とする一帯一路の実績をアピールすることで、他の欧州諸国の関心を呼び戻したい考えだ」
ギリシャでは、労働者の死亡事故をきっかけに反中国気運が強い。
(4)「EUによる中国への警戒感が強まる中、中国にとってEU内の友好国であるハンガリーの重要度は増しており、ハンガリーがより経済協力の恩恵を受ける形になっている。オルバン氏は習氏との会談後の会見で、「昨年のハンガリーへの投資の4分の3が中国からだ」と誇らしげに語り、謝意の言葉を並べた。その投資の象徴が電気自動車(EV)と車載電池だ。中国EV大手の比亜迪(BYD)は23年12月、南部セゲド市で欧州初となるEV組み立て工場を建設すると発表した。ほかにも車載電池世界首位の寧徳時代新能源科技(CATL)などEV、電池メーカーの工場進出が相次いでいる」
ハンガリーで、中国BYDはEV工場を、CATLも電池工場をそれぞれ建設する。ハンガリーは、一手に中国投資の恩恵を受ける。
(5)「ハンガリー政府は24年1月、EVメーカーに向けて1台当たり百数十万円を支給する新たな補助金政策を発表した。これまでトヨタ自動車やスズキなどの牙城だったハンガリーの国内市場で、中国勢のシェア拡大が進みそうだ。またEUは現在、安価な中国製EVの大量流入を警戒し、関税引き上げも視野に、中国政府による中国企業への補助金の調査を進めている。だが、中国企業がハンガリーで生産するEVは、規制の対象外となる可能性がある。
中国EVがEUの輸入規制対象外になる場合、中国政府から補助金を支給されていないかチェックを受けるだろう。経営の自由度は、かなり制約されるとみるべきだろう。
(6)「EU内ではハンガリーへの批判が強まっている。ロシアによるウクライナ侵攻を巡り、親ロシアのハンガリーは中国と同様、事実上「中立」の立場を取る。EUが今年2月に決めた500億ユーロ(約8兆3800億円)のウクライナ支援を巡っては、ハンガリーは一時、承認を拒否。EUは同国向けのEU予算支出の凍結も検討した。今年2月には、ハンガリー国内に中国の警察官を受け入れ、パトロールなどを認めることを発表。ハンガリーに住む中国反体制派や人権団体の抑圧につながるとの懸念が広がる。ハンガリーがロシア、中国との関係を強化すればするほど、EU内での孤立が深まる構図が続く」
ハンガリーは、EUの統一を乱して中国へ接近すれば、EUは同国向けのEU予算支出の凍結という強硬手段を取るであろう。その意味では、ハンガリーと中国は、EUの監視を受けることになる。