勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 台湾経済ニュース時評

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    台湾は、半導体製造基地の世界分散計画を立てている。台湾は、半導体工場増設余地が少なくなっていることもあり、日本・米国・欧州が立地候補である。日本国内では、九州が拠点になる模様だ。脱中国の投資方針を進めているので、日本が、その受け皿の一つとして考えられている。本格的な日本進出でもある。 

    『日本経済新聞 電子版』(10月22日付)は、「台湾、半導体企業の海外進出支援 九州に拠点設置検討」と題する記事を掲載した。 

    台湾当局が域内の半導体関連企業による対外投資を促すために、海外で重点地域を設定する構想を打ち出した。当局主導で現地に拠点を設け、台湾企業の用地確保や税優遇の獲得などを支援する案が挙がる。半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が進出する九州や米国が候補となる。 

    (1)「郭智輝・経済部長(経済相)は9月、九州を重点地域を意味する「工業区」に設定する案に言及し、企業の進出を支援する「サービス会社」を設立する考えを示した。半導体業界出身の郭氏は経済部長に就いた5月以来、構想にたびたび言及してきた。7月には台湾メディアの取材に対し、日本、米国、チェコが設定先の候補と言及。日米にはTSMCが工場を設け、チェコはTSMCが進出するドイツ東部ドレスデンから近い。サービス会社の具体的な内容は未定だが、郭氏の発言や台湾報道によると、台湾企業による用地や電力・用水の確保、人材採用などをワンストップで支援することに主眼を置く。台湾企業が現地で税優遇を受けられるよう後押しする案もある」

     

    台湾企業の海外進出の際、事業に集中できる環境が必要となる。電力や工業用水などの設備を整え、利便性を高めるよう日本政府と交渉を進めている。より多くの台湾企業が進出するきっかけをつくりたいとしている。台湾政府経済部は、半導体関連企業以外の企業にも日本へ投資できるように、日本商社の協力を得たいと積極的である。九州が、進出先とみられている。 

    (2)「台湾には半導体の受託生産で世界最大手のTSMCなどの工場が集まり、材料や資材を供給する中堅・中小企業の集積も厚い。サプライチェーン(供給網)をまとめて迅速に海外展開することで、競争力を高める狙いとみられる。TSMCの熊本第1工場は1012月期の量産開始を予定する。第2工場も2025年13月期に着工し、27年に稼働する見通しだ。九州を工業区とするのを機にサプライヤーなどの集積が進めば、経済波及効果は広がりそうだ」 

    台湾は、九州を「工業区」に検討している。すでに、社員の大旅行団が九州を訪問して、台湾でのムードづくりが始まっている。

     

    (3)「構想の実現には進出先の政府・自治体との交渉が欠かせない。郭氏は7月に「(日本側との)協議や調整に時間がかかる」との見通しも示している。台湾の関係当局間の調整も必要で、実現性やスケジュールに不透明な面も残る。5月に発足した頼清徳(ライ・チンドォー)政権は台湾を「AI(人工知能)の島」にすると掲げ、民主主義国との供給網の協力を深める方針を示している。政権側には重点地域の設定を通じて日米欧との関係を深め、経済の中国依存を緩和する思惑もありそうだ」 

    台湾頼政権は、中国経済への依存度を下げる方針である。日本が、その受け皿になる模様だ。 

    (4)「台湾企業も中国以外への投資シフトを進めており、台湾の対外投資に占める中国向けの比率はピークだった10年の8割超から24年1〜9月は1割未満に低下した。台湾は各地に「科学園区(サイエンスパーク)」と呼ばれる工業区を持ち、海外における構想のモデルの一つになるとみられる。代表的な北部・新竹の科学園区は1400ヘクタールの土地に600超の企業や研究機関が集まる。TSMCの前董事長(会長)で行政院(内閣)の経済発展委員会の共同招集人を務める劉徳音氏は9月、新竹の強みがワンストップの企業支援体制にあると指摘。建設が遅れたTSMC米工場を巡り「(米国側に)単一窓口がないのが厳しい」と話した」 

    台湾の対外投資に占める中国向けの比率は、ピークだった10年の8割超から、現在は1割未満に低下した。台湾は、日本でワンストップの企業支援体制を目指している。こうなると、日本政府や地元との協議が必要だ。

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    半導体を巡って中国と台湾のトップ企業が業績で明暗を分けている。中国SMICは、AI(人工知能)半導体生産を手がけず1~3月期は前年比69%もの減益になった。台湾TSMCの4月売上高は、前年比59%もの増収である。中台の半導体事情は、天と地もの違いを見せる。中国経済の苦境を物語っているのだ。 

    『日本経済新聞』(5月11日付)は、「中国SMIC、1~3月の純利益69%減 製造コスト上昇」と題する記事を掲載した。 

    中国の半導体受託生産最大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)が9日発表した2024年13月期決算は、純利益が前年同期比69%減の7179万ドル(約110億円)だった。新工場の建設などで生産能力が拡大したことで製造コストが上がり、研究開発支出の増加も収益を圧迫した。 

    (1)「売上高は20%増の17億ドルだった。地域別でみると中国向けの比率は82%まで高まり、米国向けは15%に低下した。3年前の同期は中国向けが56%、北米向けは28%で、ハイテク分野の米中対立の影響が浮き彫りとなった格好だ。用途別ではスマートフォン向けが31%で最も多かった。前年同期の24%から大幅に増えた。米国が警戒する中国通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)向けが増えているとの見方も出ている。自動車など向けは7%にとどまった」 

    中国は、先端半導体が米国の規制で生産できないので旧世代半導体生産に特化している。この製品が、米国へも輸出されている。ただ、3年前は米国向けが28%だったが、今年1~3月期は15%に低下している。米国が、米中デリスキング(リスク低減)で中国製を忌避している結果だ。

     

    (2)「減益はコスト増が原因とみられる。生産能力の拡大に伴って減価償却費や製造コストは前年同期比で3割程度増えた。研究開発支出も1割強増えた。投資額は22億ドルで前年同期より8割近く増えた」 

    SMICは、1~3月期の減益理由として減価償却費と製造コスト増を挙げている。この製造コスト増が、何を意味するかだ。その答えは、次のパラグラフにある。 

    (3)「米国は2020年、先端技術を使った製造設備の輸出規制の対象にSMICを加えた。SMICはオランダの半導体製造装置大手ASMLホールディングの最先端の「極端紫外線(EUV)」露光装置を調達できず、従来の主流だった「深紫外線(DUV)」露光装置を調達して半導体を製造している。SMICはファーウェイが23年から販売するスマホ向けに回路線幅が7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体の製造を請け負っているとされる。ただ、従来型の露光装置で7ナノの半導体を製造するのは技術的に難しく、歩留まりが悪いとの見方がある。7ナノの半導体の製造が利益を押し下げた可能性を指摘する声も出ている」 

    中国は、「7ナノ」半導体生産では、「マルチパターニング技術」という面倒な過程を導入している。これは、先端のEUV露光装置を輸入できないので、古い設備のDUV露光装置を使っているからだ。本来なら1回で済む露光を複数のパターンに分割し、あとでそのパターンを重ね合わせるものである。手間暇かかって、ズレを生じやすい難点があるという。この方法は広く知られたもので、中国は名人芸で「生産」に挑んでいる。手間暇がかかるだけ生産コストはあがる。 

    古い露光設備を使っても、7ナノチップは製造可能である。「マルチパターニング技術」という面倒な過程が導入されるからだ。「マルチパターニング技術」は、まさに「手作り」同様の製作過程となる。とても量産化は不可能とされている。

     

    (4)「台湾積体電路製造(TSMC)や韓国サムスン電子の半導体事業の業績が改善するなか、SMICの業績が伸び悩むことなどについて、趙海軍・共同最高経営責任者(CEO)は10日の説明会で、「(TSMCは)人工知能(AI)向けが伸びており、SMICは手掛けていない」などと説明した。 

    SMICは、AI半導体を生産する能力がない。TSMCは、すでに「お家芸」にまでなっている。この差が業績に大きく出ているのだ。 

    『日本経済新聞』(5月11日付)は、「TSMC、59%増収 4月AI向け好調続く」と題する記事を掲載した。 

    半導体世界大手TSMCが10日発表した4月の売上高(速報値)は、前年同月比59.6%増の2360億台湾ドル(約1兆1300億円)だった。生成AI(人工知能)サーバー向けなどの先端半導体の販売が好調で、4月としての過去最高を更新した。前年同月比でプラスは4カ月連続。3月比でみると20.%の増収で、単月ベースでは23年10月に続く過去2番目の高水準だった。

     

    (5)「TSMCは、半導体の受託生産で世界シェア6割を占める最大手。米アップルや米半導体大手エヌビディアを主要取引先とする。エヌビディアからはAI向けのサーバーなどに搭載する高性能品の生産を独占的に請け負う。14月の売上高は前年同期比26.%増の8286億台湾ドルで、同期としての過去最高を更新した。TSMCは4月中旬、24年12月期の売上高が前期比で「20%台前半から半ばの増収になる」との見通しを示している」 

    TSMCは、業績絶好調である。世界でAI半導体を独占的に供給しているからだ。4月の売上高(速報値)は、前年同月比59.%増と「突風」が吹いている。24年通年では、売上高20%台半ばの増収を見込んでいる。

     

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