子育て支援の先進例とされる国の多い欧州で、少子化が再加速している。2023年は、フィンランドやフランスで出生率が過去最低水準となった。価値観の多様化や社会・経済の先行き不透明感が広がっている。日本も過去最低だった22年の1.26をさらに下回るとの予測が出ている。
フィンランドは、国連などの世界幸福度ランキングで、いつも1位へランクされている国である。手厚い子育て支援や、男女平等の取り組みで高い評価を得ている国だ。その子どもを産み育てやすいはずの国フィンランドが、なぜ子が生まれにくくなっているのか。
『日本経済新聞 電子版』(5月19日付)は、「幸福度1位フィンランドで出生率低下なぜ、背景を聞く」と題するインタビュー記事を掲載した。フィンランドのトゥルク大学マリカ・ヤロバーラ教授がインタビューに答えた。ヤロバーラ氏は、2007年にヘルシンキ大で博士号取得。2014〜23年フィンランド人口学会会長を務めた。
(1)「(質問)フィンランドで合計特殊出生率(ひとりの女性が生涯に産む子どもの数の推計)が2023年に1.26(速報値)と過去最低になりました。日本と同じ水準です。(答え)多くの変化が同時に起こっている。気候変動やインフレ、戦争などによる不確実性は、確かなデータはないが、若年層に影響を及ぼしているのかもしれない。出生率が1.87あっ2010年から18年までの低下分の75%は初産の減少によるものだ。つまり、子どもを持たない人が増えている。そしてほとんどすべての年齢層で出生率が低下している。都市部、地方に関係なく少子化が進んでいる。「少子化は低学歴の人の間で起きていると考えられてきた。だが、私たちのチームが最近発表した論考では、35歳時点で子どもがいない高学歴の人が非常に増えていることを指摘した。児童手当を拡充しても、少子化は緩和しないだろう。単純な解決策がないことを理解すべきだ」
フィンランドの例のように、児童手当を増やしても出生率は上がらないことが分った。ロシアのイラク侵攻で、平和が乱されていることが根本問題にあるだろう。社会不安である。
(2)「(質問)フィンランドは2004〜12年は出生率1.8台を維持していました。(答え)「北欧諸国は1970年代から2010年までの間、他の欧州の国々に比べて出生率が高いままだった。背景のひとつに男女平等の取り組みがある。保育所や育児休業などの仕事と家庭の両立を促す環境整備により出生率低下はおさえられた。すでに女性の就業率が高く、今はその伸び代はないが、仕事と家庭生活を融和させることは今も重要なポイントだ」
フィンランドは、男女平等の取り組みや育所や育児休業など仕事と家庭の両立を促す環境整備も行われている。それでも、出生率低下が起こっている。こういう状況での出生率低下は、ウクライナ侵攻が原因とみるほかない。
(3)「(質問)フィンランドの首相官邸府が、2021年に出した人口政策のガイドラインは、出生率1.8を長期的な目標と記しました。(答え)「理想的な子どもの数を調査すると、フィンランドも平均2人程度となる。人々の願いがかなって1.8程度の出生率が実現するならそれは理想的だ」。「一方で出産はとても個人的なことでもある。子どもがほしくない人、ほしいのに妊娠が難しい人もいる。出産を先延ばしにして手遅れになる人も多く、子どもを持たない人の事情は多様だ。私が講演でこうした話題に触れると『そう言ってくれてありがとう』と声をかけられる。子どもを持ちたい人の希望がかなうように社会がサポートすると同時に、ほしくない人の価値観を尊重する姿勢も大事にしたい」
子どもを産むかどうかは、最終的に個人の価値観の問題になる。それだけに、価値観は尊重されなければならない。
(4)「ここ2年で、さらに出生率が低下する状況になった。政府は現在、人口政策に関する報告書をつくろうとしている。子どもがいる家庭の幸福度や収入、仕事と私生活の調和を調査する。不本意ながら子どもがいない人の状況も対象だ。少子化の問題を真剣に受けとめている、というシグナルだと思う」
不本意ながら、子どもがいない人の状況も調査する必要がある。なぜ、子どもが生まれにくくなっているのか、医学的な調査も必要であろう。
(5)「(質問)出生率1.8は実現可能でしょうか。(答え)「またその水準に戻ったらとても驚くだろう。私の認識と違う結果になったらうれしいのだが。出生率1.3未満は脱少子化が困難になる『超少子化』と呼ばれる領域だ。フィンランドではある時点で出生率は回復するかもしれないが、少子化にまつわる問題がなくなるわけではない。この現実にどのように適応するかがより重要になってくる」
出生率1.3未満は、脱少子化が困難になる分岐点という。日本もこの状況に入っている。フィンランドとともども合同研究する必要があろう。