台湾の頼清徳総統が5月20日の就任演説で、主力産業である半導体を掲げ、「世界は台湾を必要としており、台湾も世界を必要としている」と述べ、中国の軍事的脅威などに立ち向かうよう支持を訴えた。頼氏は就任式で、「台湾は単に世界に門戸を開くだけでなく、すでに世界の中心だ」と強調した。世界経済における台湾の半導体産業の比重のためにも、米中対立の最前線に位置する台湾への支援が必要だというメッセージだ。
台湾は、防衛の楯として最先端半導体を掲げている。中国が台湾侵攻すれば、台湾の最先端半導体装置は、オランダのASMLが遠隔操作で操業を止めるシステムになっているという。台湾は、貴重な財産を中国へ渡さない決意を明確にして侵攻抑止を図る。
『ブルームバーグ』(5月21日付)は、「ASMLとTSMC半導体製造の無力化可能ー中国が侵攻なら」と題する記事を掲載した。
オランダの半導体製造装置メーカー、ASMLホールディングスと台湾積体電路製造(TSMC)には、中国が台湾に侵攻した場合に世界で最も高度な半導体製造装置を停止させる手段がある。事情に詳しい関係者が明らかにした。
(1)「米政府の当局者はオランダ、台湾両政府に対し、世界の先端半導体の大半を生産している台湾に対する中国の圧力が侵攻にエスカレートした場合にどうなるかについて、内々に懸念を表明している。関係者2人が匿名を条件に語った。オランダ政府がこの脅威についてASMLと協議した際、同社は製造装置を遠隔操作で無力化することができると、当局側に説明したと別の2人の関係者が述べた。関係者によると、オランダはよりきめ細かいリスク評価をするため、想定される侵略についてシミュレーションを行った」
かねてから、中国の台湾侵攻目的は最先端半導体装置の奪取にあると指摘する向きもあった。だが、ASMLはオランダからの遠隔操作で操業を止められることになっているということから、最先端半導体装置の奪取は不可能になる。
(2)「遠隔操作での停止は、ASMLの極端紫外線(EUV)露光装置に適用される。同装置はTSMCが最大の顧客。EUV露光装置は高周波の光波を利用し、人工知能(AI)用途やより繊細な軍事用途の半導体製造に用いられる。市バスほどの大きさのEUV露光装置は、定期的なメンテナンスとアップデートが必要で、その一環として、ASMLは同装置を遠隔操作で強制的にシャットオフすることが可能。ASMLは、1台2億ユーロ(約340億円)以上で販売されるこの装置を製造する世界唯一のメーカー」
ASMLは、自社製品を遠隔でチェックしているのであろう。この機能を使えば、簡単に機械を止められる。
(3)「ASMLの技術は長い間、望ましくない利用者の手に渡るのを防ぐ目的で政府の介入を受けてきた。例えば、オランダ政府はASMLがEUV露光装置を中国に販売することを禁じている。世界的な半導体競争で中国が優位に立つことを米国が恐れているためだ。オランダが今年、ASMLの2番目に高性能な半導体製造装置の輸出を停止し始めたのも、米国の要請によるものだった。ブルームバーグ・ニュースが報じたところによると、この禁止措置が発動される以前から、米当局はASMLに対し、中国の顧客向けに予定されていた出荷の一部をキャンセルするよう要請していた。同社は、今年の中国向け売り上げの15%程度が、直近の輸出規制措置の影響を受けると予想している」
ASMLは、米国の基本特許を使っている関係上、米国政府の要請を無視できないという立場にある。
(4)「台湾を自国領土の一部だと主張し続けている中国の習近平国家主席は、中台統一の実現に向けて武力行使の可能性を否定していない。世界2位の経済大国となった中国は、第2次世界大戦以後見られなかった規模で軍備と核兵器を増強しており、米インド太平洋軍のアキリーノ司令官は今年3月の議会証言で、中国が2027年までに台湾を侵略できるよう準備しているとの見方を示した。米議会は先月、台湾の防衛力強化に向けた80億ドル(約1兆2500億円)規模の支援を承認した。バイデン政権はまた、将来的なサプライチェーン分断の可能性に備え、半導体メーカーに390億ドルの助成金を約束し、米国内での半導体生産を後押ししようとしている」
習氏が、国家主席3期目を実現するため、国内向けに「台湾侵攻」を必要以上に強調した。これが今、ブーメランとなって跳ね返っている。「口は災いの元」の典型例である。
(5)「ASMLは特定の顧客に対し、定期メンテナンスの一部を顧客が自社で行う共同サービス契約を結んでおり、TSMCのような顧客は自社の製造システムにアクセスできる。TSMCの劉徳音会長は昨年9月のCNNとのインタビューで、台湾を侵略しようとするどんな勢力であれ、実際にそうなれば同社の半導体製造装置が稼働していないことに気付くだろうと示唆。「誰もTSMCを武力で支配することはできない。軍事侵攻があればTSMCの工場は操業不能になるだろう」と語った」
中国は、TSMCの先端半導体装置の窃取が不可能であることを知れば、台湾侵攻の持つ経済的意味も薄れるであろう。