日本のGDPは4位へ転落し、「失われた30年」と言われて、日本人は萎縮している。だが、ASEAN(東南アジア諸国連合)の識者調査によると、世界で一番住みたい国は日本という調査結果が出た。しかも、世界覇権国の米国を上回っているのだ。理由は、国際法を順守する姿勢に加え、経済の強さ、文化への憧れなどが信頼の背景にあるという。
『日本経済新聞』(5月25日付)は、「住みたい国、日本が首位」と題する記事を掲載した。
シンガポールのシンクタンクISEASユソフ・イシャク研究所によると、ASEANの人々が住みたい国は、域外で日本が首位だった。日本と回答した人は全体の17.1%に上り、米国(15.9%)などを上回った。
調査対象は、東南アジアの民間企業や政府、研究機関などに所属する識者で、ASEANも含む10カ国・地域連合の中から選んだ。日本は、「信頼できる国・地域連合」でも1位を獲得し、信頼度は昨年より増した。国際法順守の観点や経済力に期待する人が多く、米中や欧州連合(EU)と比べても日本への信頼が厚かった。休暇に訪れたい旅行先としても、ASEAN加盟国や韓国、欧米諸国を抑えて日本がトップだった。ASEAN10カ国の1994人が回答した。
日本は、太平洋戦争で多くの被害をASEANに残してきたが、ODA(政府開発援助)によって誠心誠意、賠償してきたことが80年近い歳月を経て「親日」へと変わったことはありがたいことである。
日本経済新聞』(23年11月15日付)は、「ASEANと日本『次の50年』アブドラ・ラザク氏」と題する記事を掲載した。アブドラ・ラザク氏は、2015年にマレーシアの独立系シンクタンク、ベイト・アル・アマナを創設した。同国外務省の外交政策諮問会議のメンバーである。
ASEANはいま、アイデンティティーの危機に直面する。ミャンマーや南シナ海の問題に一丸となって取り組めないのは地域共同体として機能していないことの表れだ。だが、内部に問題は抱えていても、この地域に関与したい国・地域に重要なプラットフォームを提供し続けている。
(1)「とりわけ日本はとても大切なパートナーだ。フィリピンやベトナム、マレーシアなど中国と(南シナ海の領有権を巡り)問題を抱える加盟国があるが、日本との間にはない。ASEANと日本の間には非常に強い相互理解がある。ASEAN側は、日本を米国の「子分」とはみていない。日本はこの地域で米国よりも多くのことを成してきた。米国が存在感を示そうとするのは、単に中国に対抗するためだ。日本はそうではなく、地域へ誠実に関与してきた」
日本は、ASEANと何ら係争問題を抱えていない国である。信頼関係を深められる基盤が成立している。
(2)「ASEANと日本は今年、友好協力開始から50年を迎えた。マレーシアを例にとれば、1981年に当時のマハティール首相が日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出し、研修生や留学生を送り込んだ。彼らが日本の文化などを持ち帰り、日本企業の投資を引き付けることに成功した。より重要なのは、日本に対する我々の認識を変容させたことだろう。もちろん、この地域には他のプレーヤーも進出している。特に最近20年間は、中国が大々的にやって来て、インフラ整備などに多くの援助を提供してきた。韓国や中東からの投資も増えている」
1981年、当時のマレーシアのマハティール首相が、日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出した。これが、日本とASEANの文化関係を深めるきっかけになった。
(3)「そうした状況でも、日本に対する信頼は揺るがない。中国は我々に指図をする。労働者は中国から連れて来るし、技術移転もせず、汚職の懸念がある。さらに、南シナ海は自分のものだと主張し、至る所に人工島を造成している。日本は違う。より純粋で信用に足るパートナーだとASEANは評価し続けている。中国を常に疑ってかかるのとは対照的だ」
日本は、ASEANへ指示することはない。領土的野心もない。純粋で信用に足るパートナーである。
(4)「次の50年はどうすべきか。日本との関係は従来、貿易や製造業に焦点をあててきた。これからはもっと他の分野に目を向けたい。代表例はテクノロジーだ。技術大国かつ知識大国でもある日本は、その道筋を示すことができる。食糧や気候変動、人工知能(AI)、移民など、あらゆる問題に技術的な解決策が必要だ。知識集約型の協力という新たな次元に進むべきで、だからこそ日本の大学に注目している。(2011年に開学し日本式教育を行う)マレーシア日本国際工科院の成功は喜ばしいし、24年には筑波大学マレーシア分校も開設される予定だ」
日本とASEANは、今後の50年のあるべき関係について「共創」という造語を打ち出した。脱炭素やデジタルなど共通の課題に協力して解決策を見いだす。岸田首相は、当面5年で官民合わせて350億ドル(約5兆円)の資金を地域に投入する方針を表明した。
(5)「安全保障も重要になる。いまの米中対立でASEANはどちらにもくみせず、対立の影響を最小限にとどめたいと考えている。米中いずれにも近づきすぎていると思われたくはないわけで、日本はこの状況をもっと利用すべきだ」
日本は、太平洋戦争の反省から、ASEAN外交はこれまで経済協力が中心だった。いまの米中対立下で、日本には安保支援の期待も強まっている。地域の緊張を高めることは避けつつ、連携を着実に進める時期だ。岸田首相が昨秋、フィリピンとマレーシアを訪問し、東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国をけん制するため、安全保障分野の協力を深めることで一致した。