日本が、アジアのエネルギー安全保障の「中枢国家」になり、サウジアラビア・UAE(アラブ首長国連邦)が日本主導のアジア秩序に正式参加した。これは、ホルムズ封鎖で、「日本しか頼れない」構造が露呈したからだ。
中東産油国にとって、日本は「アジアの安全保障の唯一の柱」であることを証明した。だから、日本主導の枠組みに入ることを決断した。日本の備蓄技術・金融支援は、他国では「代替不能」である。日本は、世界最大級の備蓄量、備蓄技術、民間タンク貸し出し(産油国共同備蓄)、100億ドルのパワーアジア構想を持つ。サウジ・UAEはこれを利用することで、ホルムズ封鎖でも輸出を継続できるのだ。日本の技術と金融が、産油国の生命線になった。
サウジ・UAEは、中国でなく日本を選んだ理由は何か。中国の政治リスク、中国の軍事的不安定、中国の海洋進出を嫌い、アジアのエネルギー秩序の「中心」として日本を選んだもの。これは、当初から進んできた「日本+UAEのアジア供給センター化」の制度化である。
日本が、なぜアジアのエネルギー秩序の中心になったのか。アジアの備蓄量は、タイが61日、フィリピンは53日、ベトナムも30日である。これに対して、日本は200日以上である。ASEAN(東南アジア諸国連合)のエネルギー安全保障は、日本の金融力によって守る形になったのである。
この枠組みが、実は「台湾有事抑止」に直結する。ASEANが、日本へ依存するからだ。中国の台湾侵攻は、「ASEAN全体のエネルギー危機」を招く。ASEANの石油備蓄が日本主導で整備されれば、中国が台湾に侵攻すると、ASEAN全体が日本側に結束する。つまり、日本主導の備蓄網は、台湾侵攻の「経済的抑止力」へ繋がるのだ。中国は、期せずしてASEANを敵に回すという事態を招く。
『日本経済新聞 電子版』(10月4日付)は、「サウジとUAE、アジア石油備蓄に協力へ 日本がエネルギー安保主導」と題する記事を掲載した。
サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)がアジアの石油備蓄に協力する枠組みが動き出す。日本は、金融支援や備蓄技術の提供で連携を後押しする。様々な物資の供給網で結びつく地域のエネルギー調達の支援は日本の経済安全保障の強化にもつながる。
(1)「日本が、主導する東南アジアなど11カ国のエネルギー分野の枠組みアジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)が8日、フィリピンで閣僚会合を開く。特別協議にサウジ、UAE両政府の次官級幹部が参加し、石油備蓄に協力する方針を表明する。11日にはサウジで産油国と消費国の閣僚級対話「国際エネルギーフォーラム」がある。日本が参加し、アジアとの連携の枠組みを共有する見通しだ」
AZECにサウジとUAE両政府の次官級幹部が参加し、石油備蓄に協力する方針を表明する。これは、ASEANにとって初めての経験であろう。アラブ産油国は、これまでASEANを重視してこなかった。だが、日本が一括して代理購入する制度を始めるだけにASEANへ目を向けることになった。画期的な動きである。
(2)「アジア共同体の閣僚会合は、成果を共同声明にまとめる。加盟国が石油備蓄の増強で中東産油国と協議する土台になる。具体的な内容や規模は今後、個別に2国間で詰める。サウジやUAEが対象国に輸出を拡大したり、有事に優先供給したりすることが想定される。アジアとの連携は、産油国にもメリットがある。サウジとUAEの原油輸出量は、ホルムズ海峡の封鎖で落ち込んだ。消費国の備蓄に協力する枠組みを整えておけば、海上輸送が難しい状況でも備蓄タンクから出荷を続けられる」
サウジやUAEが、ASEANへ積極的に原油を売り込むのは、日本が一括して支払い窓口になるからだ。アラブ産油国は、支払条件に厳しいだけに、これまで直接取引を控えてきた。ところが、日本によって100億ドルの基金を用意されているから、安心して売り込めるのだ。
(3)「日本は、国内の民間タンクをサウジなどの国営会社に貸し出している。「産油国共同備蓄」と呼び、緊急時にはタンク内の原油を優先購入できる。こうした仕組みも先例となる可能性がある。日本は4月に高市早苗首相が100億ドル(約1.6兆円)規模の金融支援を柱とするエネルギー協力の「パワーアジア」構想を提唱した。今回の閣僚会合での合意を踏まえ、資金協力や備蓄ノウハウの供与を進める」
日本が提供する100億ドル資金は、日本がASEANの「原油中央銀行」になるようなものである。これは、日本がASEANのエネルギー供給網を「差配」するからだ。日本には、ASEANを日本経済圏へ組込む機会になる。
(4)「東南アジアは歴史的、地理的にエネルギーの多くを中東に依存してきた。2月に米国がイランを攻撃し、イランが報復で海上輸送の要衝ホルムズ海峡の封鎖に走ったことで石油の供給が途絶するリスクにさらされた。日本は、1970年代のオイルショックをふまえて石油備蓄の体制を整え、世界でも最大規模の200日分以上を確保してきた。アジアは備えが薄かった。資源エネルギー庁によると、3月時点で原油と石油製品を合わせた備蓄量はタイで61日分、フィリピンで53日分だった。ベトナムはさらに少なく30日分にとどまった。ホルムズ海峡の封鎖後、各国はガソリンの給油制限など消費抑制策を強いられた」
各国の原油備蓄量の差は、外貨高準備高の差でもある。外貨事情にゆとりがあれば、日本のように200日を超える備蓄が可能である。だが、多くの国が1~2ヶ月の備蓄である。外貨のゆとりがない結果であろう。それだけに、日本の100億ドル提供は「ビッグ・プレゼント」になる。



