勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: ASEAN経済ニュース時評

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    謬説がまかり通っている。米イラン戦争で、勝者は中国説というものだ。石油不足によって、中国のEV(電気自動車)やバッテリー、太陽光パネルが輸出増になったというのだ。これは一時的な現象であって、中国が友好国イランへ何らの支援もできなかったことで、グローバルサウスからは「失望感」が漏れている。あれだけ「反米」を唱えながら、米国の軍事行動が始まると沈黙した。停戦合意が結ばれる、国際赤十字のように「救護品」を送ってお茶を濁している。平常の「大言壮語」は消えていたのだ。

     

    原油不足を理由に、ASEAN(東南アジア諸国連合)への石油製品輸出を停止した。ベトナムやフィリピンは、日本へ窮状を訴えて来たので、日本が「POWER Asia」政策を立案し100億ドル支援を打出した。ASEAN首脳会議では、日本の支援を受けて原油備蓄などに取組む方針を決めた。こうして、中国がこれまでのASEANへ築いて来た供給ルートは、日本へ取って変わられたのだ。こういう大きなミスを冒しながら、米イラン戦争の勝利者は中国などと謬説を流している。日本が、勝利者である。



    『中央日報』(6月30日付)は、「イラン戦争最大の勝者は中国?米国経済も影響の射程圏」と題する記事を掲載した

     

    米国とイランの戦争で最大の勝者が中国という分析が出ている。世界経済が大きな打撃を受ける中でも中国は直接被害が少なく、ホルムズ海峡封鎖によるエネルギー・供給網危機はむしろ中国の産業競争力を浮上させる契機になったためだ。

     

    (1)「カート・キャンベル元米国務副長官は30日、日本経済新聞とのインタビューで、イラン戦争により石油と天然ガスの供給が中断されエネルギー安全保障の重要性が大きくなったとし、最も大きな影響を受けたのはインド太平洋地域だと指摘した。その上で、中国が米国とイランの衝突の勝者の1人だと評価した。キャンベル元副長官は、中国はエネルギー調達と備蓄の両方で余力がある。世界経済の不安定の嵐に耐えるのに最も成功している国」と話した」

     

    中国に原油備蓄にゆとりがあれば、なぜASEANへの石油製品の輸出を停止したのか。原油備蓄に余裕がなかったから、製品輸出を停止したのだ。輸出停止されたベトナムやフィリピンは、依存する先がなく日本へ供給を依頼してきた。日本は、出光興産によって400万バレルをベトナムへ緊急供給して急場を凌いだ。同時に、前記の「POWER Asia」プランを立てて根本的エネルギー供給網の確立を提案して受託された。今後は、日本が中国に代って石油供給網を担う他に、新たに電力供給も受託する方向だ。こういうビッグ・プロジェクトが、日本とASEANで結ばれようとしている。中国は、ASEANへの影響力それだけ失ったのである。


    (2)「キャンベル元副長官が会長を務めるコンサルティング会社アジアグループもこの日発表した報告書で中国が石油と天然ガスを大規模に備蓄し、クリーンエネルギー供給が豊富で最悪の危機を避けることができたと評価した。その上で中国政府は輸出統制と補助金、為替相場管理などで経済的衝撃を吸収する能力を立証したと付け加えた」

     

    これは、実態とは全く異なっている。中国は、原油備蓄量を急減させながら、原油輸入量を減らしている。世界の石油業界は、「七不思議」としている。なぜ、輸入量を減らしたのか。外貨準備高に問題があったからという推測がされているほどだ。


    (3)「中国は、イラン戦争が発生すると備蓄原油を積極的に使い、石油精製企業に輸出規制と生産統制を実施して国際原油価格上昇による市場への影響を最小化したとの評価を受ける。原子力、太陽光、風力など非化石原料エネルギーの活用度が高いのも衝撃吸収の要因のひとつに選ばれた」

     

    中国が、国内の石油精製企業に輸出規制と生産統制を実施して、国内原油価格の値上がりを防いだことが褒められることなのか。海外への石油製品供給責任を、ないがしろにしても良いという議論は余りにも無責任である。輸入国の立場はどうなるのだ。こういう無責任さが、日本のPOWER Asia政策によって崩されたのだ。

     

    (4)「むしろ今回の危機は中国の産業競争力を世界に知らせる契機になった。石油と天然ガス依存に対する懸念が大きくなるにつれ、太陽光パネル、バッテリー、電気自動車技術などに対する世界的な需要が大きくなってだ。いずれも中国が世界市場を掌握している分野だ」

     

    中国は、ASEANにとって「信頼できない国」という強い印象を与えた。自国だけ原油を備蓄できれば他国を切り捨ててもいいという結果になったからだ。太陽光パネル、バッテリー、EVの輸出増は一時的である。それよりも国家としての対外イメージの低下のほうがはるかに大きい代償を払うだろう。

     

    (5)「これは世界的企業の「脱中国」の歩みにブレーキをかけかねない。アジアグループは「エネルギーを全量輸入する国が大部分である東南アジア各国政府は(エネルギー危機の中で)経済を保護するため緊急融資と補助金拡大に依存している。エネルギー危機は東南アジアの製造業競争力に対する認識を弱め、企業が中国に工場を移転する傾向を鈍化させるだろう」と分析した。その上で、中東危機を契機に中国が国際社会で「安定した経済パートナー」というイメージを強化したと評価した」

     

    ASEANは、日本とエネルギー長期供給安定計画の策定に入っている。日本企業がチームを組んで、年内はフィリピンへ。次いで、ベトナムやインドネシアも作業に入る予定だ。この記事とは反対のことが今、始まっている。 

     

     

    あじさいのたまご
       

    出光興産は12日、国内の製油所閉鎖の撤回を正式に発表した。石油需要の減速が緩やかなうえ、イラン軍事衝突でエネルギー安全保障上の重要性が高まった結果だ。具体的には、ASEANが先の首脳会議で、日本の「POWER Asia」(100億ドル支援)による原油政策へ乗り出すことを決めたことを受けた結果とみられる。出光は、閉鎖予定の製油所を中止してASEAN向けを請負うのであろう。

     

    日本経済新聞』(5月13日付)は、「出光『国内精製守る』鮮明に 製油所閉鎖撤回を表明 操業維持へ投資3割増 エネ安保で現実路線に」と題する記事を掲載した。

     

    出光興産は、30年までの中期経営計画を発表した。過去最大の1兆8000億円を30年度までの5年間で投じる。そのうち5900億円は、製油所を中心とした事業にあてる。製油所の操業維持に関わる投資は前回の中期計画と比べて3割増やす。出光は、日本の全製油所19カ所のうち6カ所を持ち、全拠点を30年までは稼働させる。

     

    (1)「製油所は、輸入原油からガソリンや軽油、重油など燃料をつくる機能を持つ。加えて日常生活に不可欠な基礎化学品の原料「ナフサ」の供給源となってきた。日本では元売り各社が海外原油から石油製品を自前でつくる「消費地精製主義」を守る。輸入燃料に頼らずに、有事には石油から需要に応じて生産できる。一方、製油能力が不足するフィリピンやベトナム、インドネシアなどでは供給不足が生じた。オーストラリアも輸入比率が高いため燃料供給に混乱が生じた」

     

    出光の「国内精製維持」は、ASEAN支援の「裏側の条件」である。出光は、製油所閉鎖を撤回、国内精製能力を維持、投資を3割増、エネ安保を理由に現実路線へ転換した。これは単なる出光の企業判断ではない。日本が、ASEANに100億ドルの石油調達支援を約束した以上、 日本自身が「精製能力を維持していること」が前提条件になるからだ。

     

    なぜなら、ASEANは原油を買っても、精製能力が弱い。日本は、「精製+品質保証+物流」を担う立場である。日本が精製能力を落とすと、ASEAN支援の信頼性が崩れるのだ。つまり、出光の決断は、日本のASEAN石油安全保障の裏打ちである。

     

    (2)「日本エネルギー経済研究所の大森嘉彦理事は、「石油製品の安定供給のために適正規模の精油能力を維持すべきだ」と指摘する。日本は原油の95%を中東に頼る。出光は、南米や北米などからの代替調達を急ぐが、適した製油所は産地ごとに異なる。酒井則明社長は、「少しでも製油所の数がある方が、それぞれの地域の原油の性状に合わせた運転ができる」と説明した。ホルムズ封鎖が解かれても、各社が原油調達を多角化する流れは続く見通しだ」

     

    日本は、世界各地から原油を調達している。それぞれの特性に合わせた製油所が必要である。この意味で、数多い製油所を持つことのメリットが出てくる。

     

    (3)「出光は、30年までに原油処理能力を日本全体の1割にあたる日量30万バレル減らす計画を22年に打ち出した。12カ所の閉鎖を想定していた。政府が掲げた30年に温暖化ガスを46%減らす目標に沿う表明だった。想定より脱炭素への移行が遅れ、米国・イスラエルのイラン攻撃で状況は一変した。石油運搬の要衝であるホルムズ海峡が事実上封鎖され、安全保障上の化石資源の重要性が再認識された」

     

    日本の100億ドル支援は、「原油の確保」だけではない。POWER Asia(100億ドル支援)は、4つの柱で構成されている。①原油調達の金融支援、②中東との長期契約の仲介、③共同備蓄・緊急融通の制度設計、④精製・品質保証・物流の日本側サポートだ。この4番目が極めて重要で、 日本の精製能力が「ASEANの石油安全保障の後ろ盾」になる。だから出光は閉鎖を撤回したのだ。

     

    出光の決断は、「日本がアジアの石油中枢になる」ための布石である。日本は今、静かに 「アジアの石油・エネルギーの司令塔」になりつつある。その条件は3つある。①中東との強固なパイプ、②ASEANへの金融支援(100億ドル)、③国内の精製能力の維持(出光・ENEOS)である。この3つが揃うと、 ASEANの石油フローは日本を経由する構造になる。出光の決断は、この構造の最後のピースだ。

     

    (4)「資源に乏しい日本にとって、国内製造できる石油代替技術はエネルギー安全保障の観点から重要になる。出光は需要に合わせて生産できる体制を整える。同社は3月に中計を発表する予定だったが、中東情勢を受け延期した。安全保障の観点も踏まえつつ計画を点検。当初戦略の方向性は妥当と判断し、内容は大きく見直さずに公表した」

     

    日本は、資源に乏しい「資源大国」の立場になった。多くの製油所を持ち、世界各国から原油を調達する能力(商社・輸送・保険・金融)でずば抜けている。これが、資源に乏しい資源大国へ押し上げた。ASEANの石油製品まで「面倒」みることにより、日本の経済圏が広がることになった。大きなメリットになる。 

     

     

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    高市早苗首相が、ベトナムで発表した新たな外交方針は、米国や中国による「力の時代」に対応する狙いが込められた。揺らぐ「法の支配」を維持するため、経済安全保障を軸に同志国との実務的な協力枠組みに重点を置いた。環太平洋経済連携協定(TPP)の拡大が、自由貿易体制を維持する重要性を訴えた。加盟申請をしているフィリピン、インドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)など具体的国名を挙げるなど、ベトナムとの意見摺り合せをした上でのことだろう。

     

    UAEが、加盟推進国に入っていることに注目すべきだ。イラン問題で原油確保が困難になっている中で、TPP加盟国へUAEを迎える意味は極めて大きい。これで、フィリピンも原油入手難から免れる公算が強まるであろう。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月2日付)は、「『力の時代』の新外交方針、同志国と『法の支配』維持めざす」と題する記事を掲載した。

     

    首相は2日の演説で、日本の基本方針である「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」が発表されてから10年になると紹介した。その際、「私たちを取り巻く環境は大きく変わった」と語った。2016年当時の安倍晋三首相は、「威圧からの自由」「法の支配」「市場経済」を守る責任を日本が担うと訴えた。アジア太平洋だけでなく、インド洋やアフリカも含めた地域での安定と繁栄に必要な価値観を掲げた。

     

    (1)「26年の今、日本の置かれる状況は一変した。FOIPの最重要パートナーである米国が関税を使って各国を「威圧」するようになった。イランとの軍事衝突では、国際法軽視の姿勢を鮮明にし、ホルムズ海峡を「逆封鎖」した。中国も、重要物資の輸出規制などを振りかざす。ロシアは国際法に反するウクライナ侵略を続ける。各国が軍事力だけでなく経済の武器化にさらされ、「力」に従わざるを得ない環境になりつつある。FOIPの価値観は説得力を失いかねない」

     

    FOIPは、「自由で開かれたインド太平洋戦略」である。米国・中国・ロシアがそれぞれ勝手な方向を向いている今、改めて周辺諸国は経済力を強化しなければならない。それにはTPPが有力な基盤になる。

     

    (2)「首相は、こうした状況下で「各国が自らの運命を自らの手で決める」ことの重要性を訴えた。そのためには経済・社会・安全保障のあらゆる面で脅威に打ち勝つ「自律性」と「強靱(きょうじん)性」を身につけることがFOIP実現につながると訴えた。「同志国と手を携えながら必要とする協力をしていく」という提案は、米中など大国の間で翻弄されやすい国々が共同で対処する道筋だ。首相は「日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含むインド太平洋地域全体が共に強く豊かになることができる」と唱えた」

     

    首相は、FOIP実現のためには「日本、東南アジア諸国連合(ASEAN)を含むインド太平洋地域全体が共に強く豊かになること」を挙げている。その一つれが、TPP強化であろう。

     

    (3)「首相が、打ち出した3つの重要分野はこの目標を実現するための方策だ。1つ目にエネルギーや重要物資のサプライチェーン(供給網)強靱化を入れた。経済や医療に不可欠な物資の供給体制を共同で整えれば、経済的威圧への対抗力を高められる。2つ目の「ルールの共有」で掲げた環太平洋経済連携協定(TPP)の拡大は自由貿易体制を維持する重要性を訴えたものだ。加盟申請をしているフィリピンやインドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)といった国名を挙げた。3つ目の安保協力は軍事的な脅威への支援につながる」

     

    TPP加盟促進で、加盟申請をしているフィリピン、インドネシア、アラブ首長国連邦(UAE)の三カ国を挙げた。日本の狙いが明確である。経済安全保障において、これら三カ国が不可欠であるからだ。とりわけ、UAEに注目したい。UAEが、日本へ原油面で協力している意図が明確であるからだ。

     

    (4)「新たな外交方針は、FOIPの基本理念を踏まえつつ、覇権主義や供給網の途絶といった現実のリスクへの対応を提示した。有志国による協力枠組みでFOIPを推進し、大国の威圧的な動きに対処する構想という面がある。ASEANには考え方を共有する素地がある。19年に採択した「インド太平洋に関するASEANアウトルック(AOIP)」は透明性や法の順守などを掲げており、FOIPと親和性が高い。首相は演説で「大切なこころを共有している」と説明した」

     

    FOIPは、ASEANとの親和性が高いのだ。将来の「大同団結」への伏線が敷かれている。

     

    (5)「一方で、実務的な協力の枠組みで「力の時代」に対処するのは容易ではない。重要物資を融通する仕組みがどこまで機能するかは不透明だ。日米同盟のような軍事的な後ろ盾がない国は、中国からの影響力を特に受けやすい。首相がハノイで演説したのは、全方位外交をとり中国とも近いベトナムで表明した方が、説得力は増すという判断があったとみられる。首相の演説はハノイ市内の大学が会場だった。日本のゲーム機などの電子機器を例示してベトナムが、グローバルな供給網の重要拠点だとの認識を示した。ベトナムで人気とされる日本の漫画・アニメを紹介し、まだ「力の時代」に染まらない若い世代の聴衆に未来への協力を呼びかける狙いもあった」

     

    首相は、親日性の高いベトナムでFOIPの重要性を訴えて、ASEANへのメッセージにしたことだ。フィリピンとインドネシアの加盟への旗を振り、ASEAN各国への強い呼びかけをしている。

     

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    日本のGDPは4位へ転落し、「失われた30年」と言われて、日本人は萎縮している。だが、ASEAN(東南アジア諸国連合)の識者調査によると、世界で一番住みたい国は日本という調査結果が出た。しかも、世界覇権国の米国を上回っているのだ。理由は、国際法を順守する姿勢に加え、経済の強さ、文化への憧れなどが信頼の背景にあるという。 

    『日本経済新聞』(5月25日付)は、「住みたい国、日本が首位」と題する記事を掲載した。

    シンガポールのシンクタンクISEASユソフ・イシャク研究所によると、ASEANの人々が住みたい国は、域外で日本が首位だった。日本と回答した人は全体の17.%に上り、米国(15.%)などを上回った。 

    調査対象は、東南アジアの民間企業や政府、研究機関などに所属する識者で、ASEANも含む10カ国・地域連合の中から選んだ。日本は、「信頼できる国・地域連合」でも1位を獲得し、信頼度は昨年より増した。国際法順守の観点や経済力に期待する人が多く、米中や欧州連合(EU)と比べても日本への信頼が厚かった。休暇に訪れたい旅行先としても、ASEAN加盟国や韓国、欧米諸国を抑えて日本がトップだった。ASEAN10カ国の1994人が回答した。 

    日本は、太平洋戦争で多くの被害をASEANに残してきたが、ODA(政府開発援助)によって誠心誠意、賠償してきたことが80年近い歳月を経て「親日」へと変わったことはありがたいことである。

     

    日本経済新聞』(23年11月15日付)は、「ASEANと日本『次の50年』アブドラ・ラザク氏」と題する記事を掲載した。アブドラ・ラザク氏は、2015年にマレーシアの独立系シンクタンク、ベイト・アル・アマナを創設した。同国外務省の外交政策諮問会議のメンバーである。 

    ASEANはいま、アイデンティティーの危機に直面する。ミャンマーや南シナ海の問題に一丸となって取り組めないのは地域共同体として機能していないことの表れだ。だが、内部に問題は抱えていても、この地域に関与したい国・地域に重要なプラットフォームを提供し続けている。 

    (1)「とりわけ日本はとても大切なパートナーだ。フィリピンやベトナム、マレーシアなど中国と(南シナ海の領有権を巡り)問題を抱える加盟国があるが、日本との間にはない。ASEANと日本の間には非常に強い相互理解がある。ASEAN側は、日本を米国の「子分」とはみていない。日本はこの地域で米国よりも多くのことを成してきた。米国が存在感を示そうとするのは、単に中国に対抗するためだ。日本はそうではなく、地域へ誠実に関与してきた」 

    日本は、ASEANと何ら係争問題を抱えていない国である。信頼関係を深められる基盤が成立している。

     

    (2)「ASEANと日本は今年、友好協力開始から50年を迎えた。マレーシアを例にとれば、1981年に当時のマハティール首相が日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出し、研修生や留学生を送り込んだ。彼らが日本の文化などを持ち帰り、日本企業の投資を引き付けることに成功した。より重要なのは、日本に対する我々の認識を変容させたことだろう。もちろん、この地域には他のプレーヤーも進出している。特に最近20年間は、中国が大々的にやって来て、インフラ整備などに多くの援助を提供してきた。韓国や中東からの投資も増えている」 

    1981年、当時のマレーシアのマハティール首相が、日本の発展に学ぶ「ルックイースト政策」を打ち出した。これが、日本とASEANの文化関係を深めるきっかけになった。 

    (3)「そうした状況でも、日本に対する信頼は揺るがない。中国は我々に指図をする。労働者は中国から連れて来るし、技術移転もせず、汚職の懸念がある。さらに、南シナ海は自分のものだと主張し、至る所に人工島を造成している。日本は違う。より純粋で信用に足るパートナーだとASEANは評価し続けている。中国を常に疑ってかかるのとは対照的だ」 

    日本は、ASEANへ指示することはない。領土的野心もない。純粋で信用に足るパートナーである。

     

    (4)「次の50年はどうすべきか。日本との関係は従来、貿易や製造業に焦点をあててきた。これからはもっと他の分野に目を向けたい。代表例はテクノロジーだ。技術大国かつ知識大国でもある日本は、その道筋を示すことができる。食糧や気候変動、人工知能(AI)、移民など、あらゆる問題に技術的な解決策が必要だ。知識集約型の協力という新たな次元に進むべきで、だからこそ日本の大学に注目している。(2011年に開学し日本式教育を行う)マレーシア日本国際工科院の成功は喜ばしいし、24年には筑波大学マレーシア分校も開設される予定だ」 

    日本とASEANは、今後の50年のあるべき関係について「共創」という造語を打ち出した。脱炭素やデジタルなど共通の課題に協力して解決策を見いだす。岸田首相は、当面5年で官民合わせて350億ドル(約5兆円)の資金を地域に投入する方針を表明した。 

    (5)「安全保障も重要になる。いまの米中対立でASEANはどちらにもくみせず、対立の影響を最小限にとどめたいと考えている。米中いずれにも近づきすぎていると思われたくはないわけで、日本はこの状況をもっと利用すべきだ」 

    日本は、太平洋戦争の反省から、ASEAN外交はこれまで経済協力が中心だった。いまの米中対立下で、日本には安保支援の期待も強まっている。地域の緊張を高めることは避けつつ、連携を着実に進める時期だ。岸田首相が昨秋、フィリピンとマレーシアを訪問し、東・南シナ海で覇権主義的な動きを強める中国をけん制するため、安全保障分野の協力を深めることで一致した。

     

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