台湾有事に関する高市早苗首相の発言を受け、中国政府は国民に日本への渡航自粛を呼び掛け、これに追随する形で中国の「一国二制度」下にある香港当局も市民に注意喚起した。日本は、親日家が多い香港人にとって人気の旅行先である。渡航のキャンセルは、目立っていない。市民からは、「訪日意欲にあまり影響はない」との声が漏れるという。
『時事通信』(11月9日付)は、「香港人の訪日意欲衰えず 注意喚起『気にしない』―日中対立も団体ツアー催行」と題する記事を掲載した。
日本政府観光局(JNTO)によると、2024年の香港からの訪日客数は過去最多の268万人。香港の総人口は約750万人だが、国・地域別で韓国、中国、台湾、米国に次ぐ5位だった。
(1)「香港政府保安局は15日、日本に関する渡航情報を更新。根拠を示さず日本で中国人が襲撃される事件が増加傾向にあると主張し、渡航の際は警戒を強めるよう促したが、渡航自粛までは求めていない。同局は現在、日本の渡航警戒レベルについて、東京電力福島第1原発の周辺地域だけを3段階で最も低い「黄色」に指定。他の地域は対象になっていない」
香港は「一国二制度」の下で独自の制度と文化を維持している。中国本土の政治的動員とは異なる反応を示すことが多いのだ。今回の件でも、北京の渡航自粛要請に形式的に追随しつつ、実際の旅行行動には大きな影響が出ていないのは、香港市民の主体的な判断と日本への親近感が背景にあると考えられる。
訪日経験のある人ほど、日本への好感度が高まる傾向がある。これは、訪日体験を通じた主体性の確立の結果だ。当局が、何を指示しようと自己の選択を優先させる構造が構築されているもの。香港や台湾では、観光が政治的宣伝をはねかえす力を持っているのが特徴とされている。まさに、このことが香港に起こっているのであろう。
(2)「注意喚起を受け、香港の航空各社は予約変更などに柔軟に対応。ただ、旅行会社では、日本への団体ツアーに関する問い合わせが減ったものの、大量キャンセルは発生していないという。監督機関も訪日ツアーの販売を継続できると明確にしており、ツアーは通常通り催行されている。「地震など身の危険を感じる場合には訪日意欲が下がる」(地元旅行大手)傾向があるとされる。しかし、日中の国同士の政治的対立に対しては、香港の住民は本土の住民に比べ心理的に距離感がある。渡航警戒レベルの引き上げや航空便の欠航などさらに強い措置が実施されない限り、大きな影響はないとの見方が多い」
香港は本来、国際都市であり英国的自由を謳歌していた。そこへ、中国が乗り込んできて自由を抑圧したという経緯がある。香港市民は、心の中では本土政府と距離を置いているのであろう。訪日観光によって「失われた自由の空気」を吸うのだ。
(3)「30代香港人女性は訪日注意喚起について、「香港人なら気にしない」と明言する一方、「日本旅行禁止など事態が厳しくなる可能性もある」と今後の推移には不安ものぞかせた。40代香港人女性は「京都がやっと静かになると周囲は喜んでいる」と話し、中国人の訪日自粛による日本のオーバーツーリズム(観光公害)解消を期待する声が出ていると明かした」
香港では、中国政府の「日本旅行警報」によって、「京都が静かになる」と中国本土客の減少を期待している。日本の観光資源は、礼節・風景・食文化・余白の美など、言葉にしなくても伝わる価値を内包している。これは、静かなる「観光外交」として、世界にじわじわと浸透していくものだ。
観光は、単なる経済活動ではなく、外国人へ「文化・歴史・生活様式を体験」として伝える手段である。その意味では、「オーバーツーリズム」は、この趣旨かはずれている。中国政府が、訪日団体旅行を自粛させているのは、静かなる「観光外交」を推進する上で好適なケースかも知れない。


