2019年6月、香港で起きた「逃亡犯条例改正」反対100万人デモから、6月9日で5年を迎えた。その後、さらに香港国家安全維持法(国安法)、国家安全条例の施行により統制強化が進んでいる。香港は、高度な自治を保障した「1国2制度」が有名無実化し、いまやシャッター通りへと変わった。習近平氏が、香港の繁栄を「飲み込んでしまった」感じだ。
『毎日新聞』(6月10日付)は、「閉鎖 シャッター『中国化』で未曽有の消費不況 香港デモ5年」と題する記事を掲載した。
香港・九竜半島の繁華街「旺角」にある屋台エリア「女人街」。衣料品やアクセサリー、カバンなどを売る屋台が300メートルほど並ぶ観光名所だが、その周辺の飲食店通りでは、週末夜でもシャッターを下ろした店舗が目につく。
(1)「創業50年の老舗広東料理店は、昨年6月に閉店したが跡地の買い手が現れない。テナントのほとんどに明かりがともされず、不動産業者の電話番号を示す張り紙があちこちに貼られた雑居ビルもあった。100万人デモから5年、高度な自治を保障した「1国2制度」が有名無実化するなか、社会経済が大きく変化した」
老舗広東料理店が閉店に追込まれた。跡地の買い手が現れないところに、香港不況の深刻さがみえる。
(2)「屋台の脇で中国茶を売っていた男性店主は、「いまは欧米人や日本人の旅行者が少ない」と嘆いた。2023年の香港への旅行者数は3399万人で、コロナ禍前の19年の約6割にとどまる。しかも、このうち8割は中国本土からだ。本土の景気停滞感も強く、日帰りだったり、夜は割安な中国側で宿泊したりする観光客も多い。香港メディア関係者は「(観光客減は)日米欧でのイメージ悪化の影響だ。付近の飲食店の半数が閉店した」と指摘する」
香港旅行者は、コロナまえの6割に止まる。うち、8割は中国人という。純然たる外国人に、香港は魅力的でなくなったのだろう。
(3)「レストランの閉鎖は、観光地だけでなく全域に及ぶ。香港の北に位置する中国本土へと消費者が向かう「北上消費」が背景にあるためだ。香港の外食業界団体によると、24年3月には1カ月の間に香港全体で推計200~300軒が閉店した。香港島中心部から約50分。北方に隣接する広東省深圳市との通関施設のある地下鉄「羅湖駅」では、平日でも小型のスーツケースを抱えたカップルや高齢夫婦の姿が目立った」
香港のレストランは、今年3月だけで推計200~300軒が閉店したという。凄い数だ。観光客が減った証拠である。
(4)「中国メディアによると、23年に「北上」した香港人は延べ5334万人。香港の全人口は750万人のため、1人当たり約7回も行ったことになる。かつては本土から香港に向かう人の流れが圧倒的だったが、香港の物価高が続く中「半額以下だし、以前に比べて接客サービスも良くなった」(会社員女性の万さん、52歳)ことが、コロナ規制解除後に香港人を一気に深圳のレストランに引き寄せた」
香港人は、深圳へ買い物に出かける時代になった。これまでの「逆バージョン」である。香港よりも深圳の物価が安いからだ。中国不況が、香港不況を上回っているのだろう。
(5)「深圳の格安スーパーへは、自家用車で食品や日用品の買いだめに向かったり、買い物バスツアーが組まれたりすることも増えている。外食だけでなく小売業界も打撃を受けている。老舗スーパーの大昌食品市場は3月、香港の全28店舗の閉鎖を発表。大昌含めて近所のスーパー3店が相次いで閉鎖したという会社員女性の謝さん(29)は「ネットスーパーもあるが、野菜や果物は自分で選びたいので不便だ」と嘆く」
香港人の深圳買い物ツアーで、香港の老舗スーパー大昌食品市場は3月、香港の全28店舗の閉鎖を発表した。凄い騒ぎに発展している。「香港衰退」が実感だ。
(6)「深刻な消費不況の中で、対照的に存在感を高めているのが中国企業だ。23年5月に進出した出前大手「美団」は、配送料無料キャンペーンなどを武器に急速に浸透し、業界シェアトップに一気に躍り出た。旺角と別の繁華街「尖沙咀」などを結ぶ幹線道路「ネイザンロード」では年明け以降、中国の大手飲料チェーン「蜜雪氷城」(ミーシュエ)や串焼き店チェーン「木屋焼烤」などが相次いで進出している。ネイザンロードは、かつて香港の民主派デモ隊が集結した舞台。「香港の経済社会も中国化することは避けられないだろう」。香港に通算30年近く駐在する柳生政一・元香港日本人商工会議所事務局長(72)は語った」
中国のチェーン企業が、相次いで香港へ進出している。こうして、香港色は日に日に薄れてゆくのであろう。