勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: カナダ経済ニュース時評

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    カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールは、せセブン&アイ・ホールディングス(HD)へ買収を申し入れている。買収資金は5兆円を超すが、クシュタールは負債や株主である年金基金からの資金調達で賄えるとしている。

     

    せセブン&アイは、まだ今回の件について意思表示していないが、政府に対し「外国為替及び外国貿易法」(外為法)で最も規制が厳しい「コア業種」分類への格上げを申請したことが、関係者への取材で分かったという。これによって、合併拒否を鮮明にした。

     

    『ブルームバーグ』(8月27日付)は、「7&i、外為法でより厳しい『コア業種』への格上げを申請―関係者」と題する記事を掲載した。

     

    (1)「関係者によると、7&iHDはカナダのアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けた後に申請をしたという。仮に認められれば、クシュタールにとって買収のハードルが上がる可能性もある。関係者の1人は、財務省などの当局側が認めるかどうかは分からないと述べた」

     

    セブン&アイ・ホールディングスが、これまで外為法上の企業に指定されてきたことは重要な意味を持っている。セブンイレブンが、安全保障上において重要企業となっているからだ。今回、現実に吸収合併が持ち上がってきた以上、M&Aを阻止する「コア業種」指定替えもあり得ることだ。

     

    (2)「7&iHDの広報担当者は、法的拘束力のない初期的な買収提案があったことは事実だが、詳細について決定したものはないとし、独立社外取締役のみで構成する特別委員会で検討を進めているとコメントした。財務省には電子メールでコメントを求めたものの、回答を得られていない」

     

    セブン&アイ・ホールディングスは、簡単に「合併案拒否」という返事で済むが、強制的な買収行為が始まると収拾がつかなくなる恐れも強い。となれば、抜本的な対策として外為法上の「コア業種」に指定替えして貰うことがベストの選択になる。

     

    (3)「軍事技術の流出など安全保障上の問題につながる恐れなどから、外資企業による日本企業の買収や出資は外為法で一定の規制がかけられている。7&iHDは買収に際して事前届け出が必要な企業に指定されているが、現在は規制度合いが低い「コア業種以外」に分類されている。コア業種では出資比率が10%以上の場合、必ず事前届け出が必要になる。また10%未満であればいくつかの条件を満たせば事前届け出が免除されるケースもあるが、コア業種以外の場合に比べて条件が厳しくなる。役員を送り込まないなどの条件に加えて、コア業種に属する事業に関して、取締役会や重要な意思決定の権限を持つ委員会に参加できなくなるといった制約も加わり、買収後の企業運営がより難しくなる恐れがある」

     

    外為法で「コア業種」に指定されると、出資比率が10%以上の場合、取締役を派遣できないという大きな制約がかかる。これは、相手に対する合併意欲を削ぐことになる点でM&A阻止の役割を果す。

     

    (4)「7&iHDなどコンビニ各社は、自治体との協定などを通じ、災害時に飲食料品の供給の役割を担っている。また、店内の複合機では住民票の写しや印鑑登録証明書なども取得でき行政サービスを補完するなどインフラとしての役割を果たしており、安全保障上重要な存在との見方もできる

     

    セブンイレブンは、単なる物販業であれば外為法上の問題はなく、通常のM&A取引ですむ。ただ、セブンイレブンが住民票や印鑑登録証明書などの発行手続きを行っていることからみて、行政機能の一部を代行している。となれば、行政インフラが買収対象になるということで、安全保障上の問題へ発展するであろう。

     

    次の記事もご参考に。

    2024-08-26

    メルマガ596号 「国民的資産」セブンイレブンへ買収提案、日本の「コンビニ文化」危機 突かれた株安

     

     

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    カナダのコンビニエンスストア大手、アリマンタシォン・クシュタールが、セブン&アイ・ホールディングス(HD)の買収を提案した。成功すれば、日本企業の案件として最大規模になるばかりでなく、外国企業による大型案件として極めて珍しいケースとなる。クシュタールは、法的拘束力のない初期的な買収提案で、19日の報道後の7&iHDの時価総額5兆6300億円を上回る可能性があるという。

     

    『ブルームバーグ』(8月20日付)は、「7&iHDへの買収提案 成否にかかわらず一石を投じる可能性」と題する記事を掲載した。

     

    規模で7&iHDを下回るクシュタールの提案が、事業の一部を対象にしたものなのか、あるいは全体の買収なのか、提案の中身は現時点では不明だ。しかし、7&iHDに圧力をかけていたアクティビストの米バリューアクト・キャピタル・マネジメントが、現在も株式を保有していれば賛同を得られそうだ。

     

    (1)「バリューアクトは7&iHD株主として、23年の株主総会で井阪隆一社長らの選任に反対した。経営陣に対してコンビニ事業への集中も求めた。続投が決まった井阪社長体制の下、7&iHDは11月には自社株取得を発表し、今年4月には子会社のイトーヨーカ堂を中心とするスーパー事業の新規株式公開(IPO)実現に向けた検討を開始する計画を示した。だが、買収提案の報道が流れた19日、同社株が1日の上昇率としては過去最大となる23%高となったことを考えれば、買収提案を拒否することは難しいかもしれない」

     

    7&iHDは、祖業のイトーヨーカ堂を中心とするスーパー事業に改革を巡って揺れてきた。海外株主は、コンビニ事業の独立を求めて圧力をかけていた。こういう経緯からみると、コンビニ事業の買収であろうか。これは、7&iHDとして飲めない案だ。

     

    (2)「陣インベストメント・マネジメントのシニアポートフォリオマネジャー、ラファエル・ネメット=ネジャット氏は、「部分買収かどうかはわからないが、株価は明らかに過小評価されている」と話す。海外企業による買収に経営陣が消極的である可能性は高いものの、逆にそれが事業再編加速のプレッシャーにもなると指摘する。クシュタールによる買収が成功すれば、22年に米投資ファンドのKKRが行った6700億円の日立物流買収を上回ることになる。当時、親会社であった日立製作所は財務ポートフォリオを見直してコア事業に集中するため、日立物流を売却した」

     

    今回の買収提案は、拘束力のない友好的な提案をしていると発表した。セブン&アイは23年に経済産業省が定めた「企業買収における行動指針」に沿って、アリマンタシォンの提案を社外取締役による特別委員会で検討している。とはいえ、取締役会の同意が簡単に得られるわけではなく、セブン&アイの株主をみても創業家の資産管理会社が8%を保有する。国境をまたぐM&Aとなり、セブン&アイ株主に日本で上場していないアリマンタシォンの株式を付与する方式は現実的ではない。「アリマンタシォンなら調達は不可能ではない」(投資銀関係者)との声もあるが、少なくとも5兆円を超える現金が必要になる可能性がある。以上は、『日本経済新聞 電子版』(8月20日付)の見方だ。

     

    (3)「シュタールの買収提案は、店舗数だけ見ればク少々複雑に映る。7&iHDの8万5000店以上に対し、クシュタールは1万6700店だからだ。だが、円安は海外企業にとって日本企業をより魅力的に映した。しかも、7&iHD株は2月末から21%下落している。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリストのダイアナ・ロセロペーニャ氏は、今期業績の市場予想をベースに試算したEBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)倍率の業界平均が11.51倍であることを考えると、買収総額は860億ドル(12兆5560億円)に達するかもしれないと指摘。クシュタールが単独で買収できる水準を上回っている可能性がある」

     

    買収総額は、12兆円を超えるかも知れないという。クシュタールが単独で買収できる水準を超えている。となると、今回の買収提案は何の目的で行ってきたのか。

     

    (4)「クシュタールによる7&iHDの買収には独禁法の壁も立ちはだかる。米国の反トラスト法(独占禁止法)規制当局は、買収提案に異議を唱える可能性が高い、と英紙フィナンシャル・タイムズが20日、事情に詳しい関係者らの話として報じた。当局はまだ詳細を検討していないが、買い物客への潜在的な影響について精査される見通しという。買収で合意した場合、承認を得るにはかなりの改善策や事業分割を提案する必要があると関係者の1人は述べたとしている」

     

    クシュタールによる7&iHDの買収は、独禁法上の問題がある。米投資銀行ジェフリーズのアナリスト、コリー・タルロー氏は「アリマンタシォンにとって店舗数が大きく拡大するという点で、おそらくポジティブだ」と好意的に受け止めた。一方で「提案の財務面での詳細が不明であり、米国でシェア最大級の2社が統合することは独占禁止法の(審査が難航する)リスクがある」と分析している。これは、日経の報道である。

     

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