セブン&アイ・ホールディングス(HD)への買収提案に関連し、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)の提示額が6兆円規模だったことが5日、わかった。セブン&アイは、この価格が安いことと、米国の独禁法で抵触する恐れのあることを指摘する回答をACTへ送るという。
ブルームバーグデータによると、クシュタールがコンビニ大手に実施した直近の主要大型買収は2017年の米CSTブランズで、買収直前当時の簡易買収倍率は12.1だった。この簡易買収倍率は、企業の合併・買収(M&A)の初期段階で、買収金額の算出で過去の類似買収事例を参考に、企業価値(EV)を本業利益で示すEBITDA(利払い・税金・減価償却・償却控除前利益)で割った値、いわゆる簡易買収倍率を活用する手法が使われるという。買収コストを何年で回収できるかを大まかに判断する材料になるからだ。
クシュタールが、同倍率で7&iHDを評価した場合、同社のEBITDA(5月末時点で1兆400億円)を掛け合わせて純負債(2兆7600億円)を差し引いた想定買収額は9兆8000億円に上る。これは、現行株価に約70%のプレミアムを上乗せした水準で、現在の為替レート(1加ドル=108円30銭)で換算すると約905億加ドルとなる。仮に、ここから10%円高・加ドル安が進めば、クシュタールにとっては約1000億加ドル(約11兆円)の買い物となる。以上は、『ブルームバーグ』(9月4日付)が報じた。
こういう簡易買収倍率に基づく計算からすると、クシュタールが提案してきた「6兆円」は安すぎる。前記の買収理論値は11兆円である。提案した6兆円は余りにもかけ離れている。真面目にM&Aを考えた結果にはみえないのだ。
『日本経済新聞 電子版』(9月5日付)は、「セブン『買収価格は不十分』と書簡、カナダ社提示は6兆円」と題する記事を掲載した。
セブン&アイ・ホールディングス(HD)への買収提案に関連し、カナダのアリマンタシォン・クシュタール(ACT)の提示額が6兆円規模だったことが5日、わかった。セブン&アイは特別委員会などの議論を経て、同日までに「買収価格は不十分で、競争法上の懸念も残る」などとする趣旨の書簡をACTに送ることを決めた。
(1)「ACTの買収提案は1株15ドル弱で現金で全株式を取得する内容だったことがわかった。法的拘束力のない、初期的な提案だった。提案は7月中下旬だったとみられ、当時の為替レートで1株2200〜2400円ぐらいとなり、買収総額は6兆円規模となる。セブン&アイはACTの提案を特別委員会で検討していた。検討委の報告を受けて、5日に取締役会を開き、ACTへ書簡を日本時間の6日にも送ることを決めた」
ACTは、直近の主要大型買収が2017年の米CSTブランズで、買収直前当時の簡易買収倍率は12.1だった。これからみても、安値の買収価格を提示したことは、「本気」でなく「打診」程度のものであったのだろう。だから、「非公式で友好的」という控えめなものであった。
(2)「書簡では、「ステークホルダーの最善の利益に資する提案ではない」と指摘。「実効性の伴う協議を行うだけの根拠・材料を提示していない」と訴えた。買収価格が低い点に加えて、米国の競争法上の課題についても適切に考慮されていないとしている。ACTに対して買収価格を含む提案内容について再度、検討することを求める。「懸念が払拭されてもさらなる協議が必要」としており、今後はACTの出方が焦点となる」
セブンからの書簡では、「ステークホルダーの最善の利益に資する提案ではない」、「実効性の伴う協議を行うだけの根拠・材料を提示していない」と一蹴されている。赤っ恥をかかされている。
(3)「セブン&アイは、ACTからの買収提案を受けて、取締役会議長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏を委員長とする特別委員会を設置。5人ほどの社外取が複数回の会合を開き、セブン&アイの企業価値を適切に評価したものか、長期的な成長につながるものかなどについて検討を進めてきた。セブンは8月19日に「ACT社から内密に、法的拘束力のない初期的な買収提案を受けていることは事実」とするコメントを発表。ACTも同日、拘束力のない友好的な提案をしていると発表していた。実現すれば、海外企業による日本企業買収としては最大級となる見通しだった」
セブン&アイにとっては、今回の一件は良い刺激であった。株価が低迷していると、こういうM&A話が飛び込んでくるリスクが高まるからだ。これをきっかけに、改革を急ピッチで進めるほかない。