中国は、長期不況脱出策としてダンピング輸出攻勢をかけている。他国の被害などお構いなしの傍若無人の行動である。典型的な「不況輸出」だ。最新の中国貿易統計で比較できる17品目のうち、前年同月比で単価が下がった品目は鋼材や家電、集積回路など6割にのぼっている。下落品目の割合は、2022年秋ごろから増え始め、昨夏には8割を超えた。下落基調が続き、足元も6~7割で推移する事態だ。
『日本経済新聞 電子版』(8月31日付)は、「東南アジアにも対中関税論、衣料や鉄鋼 安値流入を警戒」と題する記事を掲載した。
東南アジア各国で中国を念頭に輸入規制を検討する動きが広がっている。インドネシアが衣料品や陶磁器への追加関税を検討するほか、ベトナムは鉄鋼製品でダンピング(不当廉売)調査を始めた。中国からの輸入品が急増し、自国産業への打撃が広がっているためだ。
(1)「インドネシアは8月、繊維製品の輸入に対してセーフガード(緊急輸入制限)を発動した。ニットや織物、カーペットなどの輸入関税を引き上げる内容だ。陶磁器などセラミック製品の輸入関税も引き上げる計画で、インドネシアのズルキフリ貿易相は「追加関税は45〜50%になるだろう」と語った。ズルキフリ氏はかねて「国内産業の脅威となる輸入品を管理する」として、繊維や衣料品、陶磁器など7品目を対象に追加関税を課す方針を示していた」
繊維製品は従来、人件費の安い発展途上国が優位であった。中国のように人件費の上がった国が、インドネシアへ繊維製品の輸出攻勢をかけるのは「コスト割れ」であろう。これだけ、国内需要が減少していることを証明している。インドネシアは、繊維製品の追加関税を45〜50%にする意向だ。
(2)「すべての国を対象とするが、念頭に置くのが中国製品だ。インドネシアでは中国からの繊維製品や陶磁器の輸入が急増し、国内の関連企業が苦境に陥っている。同国の全国労働組合総連合によると、1〜6月に少なくとも繊維メーカー10社が事業再編や人員削減を実施し、約1万4000人が解雇された。3月に地場の繊維会社を解雇された男性(26)は「今のままでは国内製品は太刀打ちできない。安価な中国製品と勝負できるように関税を引き上げるべきだ」と話す」
インドネシアでは、中国による繊維製品のダンピング輸出で、約1万4000人が解雇されている。中国が、国内需要対策を取らない結果だ。
(3)「中央統計局によると、インドネシアの中国からの輸入総額は1〜6月に324億ドル(約4兆7000億円)と前年同期から8%増え、過去5年で最高となった。全体の輸入額が横ばいにとどまる半面、中国の伸びが際立つ。ベトナムでは1〜6月に中国からの輸入額が前年同期比34%増えた。フィリピンとタイもそれぞれ11%、7%増加し、いずれも過去5年で最大となった。東南アジアの主要国は、これまで中国を重要な貿易相手国と位置づけ、目立った対中輸入規制を導入してこなかった。米欧などが中国への輸入規制を強め、さらなる輸入増加に対する警戒感が広がってきた。」
米欧は、中国製品へ関税率引上げで対抗しているので、その余波が東南アジアへ及んでいる。東南アジア諸国は、これまで中国が重要な輸出先であることもあり、中国のダンピング輸出への防御が甘かった。中国に、その虚を突かれた形だ。
(4)「中国製品の輸入が増加している背景には、中国の内需の低迷がある。中国の国内総生産(GDP)は4〜6月期に前年同期比4.7%増と政府の2024年目標の5%前後を下回り、減速が鮮明だ。過剰生産によって国内からあふれた製品が輸出に回り、同期間の輸出は5.9%増えた。不動産不況に伴う鋼材の余剰在庫も大量に流出しているとされる。東南アジア各国は輸入規制を検討する一方、中国からの報復措置を懸念している。中国は23年に東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の貿易額のおよそ2割を占め、域外では最大相手だ。インドネシアなどは、中国にエネルギー資源や電気製品を輸出しており、中国が報復関税や禁輸措置に踏み切れば輸出産業への打撃となる」
中国の4~6月期の輸出は5.9%増である。まさに、「不況の輸出」の結晶である。これだけ他国では雇用が失われている。インドネシアなどは、対中輸入で関税を引上げれば、中国の報復を受けるので慎重である。
(6)「インドネシアは当初、中国製の繊維品などにセーフガードと反ダンピングの関税を二重で課し、税率を100〜200%引き上げる意向を示していた。だが対象を中国に特定しない方針に切り替えた。政府関係者は「中国を過剰に刺激すれば投資誘致など他の分野にも影響する可能性がある」と説明した」
インドネシアは、中国を刺激しないように中国だけを対象にせず、他国製品も対象にするという。いかに、中国の報復を恐れているかを示している。