勝又壽良のワールドビュー

好評を頂いている「勝又壽良の経済時評」の姉妹版。勝又壽良が日々の世界経済ニュースをより平易に、かつ鋭くタイムリーに解説します。中国、韓国、日本、米国など世界の経済時評を、時宜に合わせ取り上げます。

    カテゴリ: 東南アジア経済ニュース時評

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    東南アジア各国は、カンボジアに49%、ベトナムに46%、タイに36%、マレーシアに24%など、米国から高い相互関税をかけられている。米国が,中国の迂回輸出基地になっていると疑われている結果だ。そこで、原産地証明を厳しくするなどの対応によって、米国への「忠誠」を示そうとしている。ベトナム、マレーシア、カンボジアは4月中旬、中国の習近平国家主席じきじきの訪問を受けた國である。中国へ協力する姿勢をみせる一方、米国へも協力するという「二股」姿勢をとっている。

     

    ベトナムの貿易構造では、輸入の3割が中国である。輸出の3割は、米国が占める。中国から中間財を買い入れ、組み立てた最終財を米国へ売って稼ぐのが、ベトナムの「勝利の方程式」とされている。トランプ1期では、高関税回避を狙う中国企業によって、ベトナムが海外生産移転の最大の受け皿になった。今や、こういう「棚ぼた」が米国の高関税によって狙い撃ちされている。加工貿易で成長してきた東南アジアは、程度の差こそあれ、米中対立と無縁ではいられない状況だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(5月17日付)は、「中国製の迂回輸出 規制 東南ア、原産地証明厳しく 米関税譲歩引き出し狙う」と題する記事を掲載した。

     

    東南アジアで中国製品が迂回して米国に輸出されるのを規制する動きが広がる。タイやカンボジアは貿易手続きに必要な原産地証明書の発行を厳格化する。

     

    (1)「マレーシアも国外産のゴム手袋の輸出を禁止した。原産地の偽装などを防ぐ。迂回輸出を警戒する米国に協力する姿勢を示し、東南アジア向けの関税政策の緩和を狙う。タイ政府は4月下旬、原産地証明書の発行ルールを見直すと明らかにした。米国に輸出される太陽光パネルや自動車部品など65品目を対象に工場の立ち入り検査を実施し、原料現地調達率や生産費用などを精査する。対象品目の証明書の発行機関についても商務省外国貿易局に集約する。以前は同局だけでなく、民間企業でつくるタイ工業連盟やタイ商工会議所も発行していた。審査のばらつきをなくし、証明書発行に関する責任の所在を明確にする。迂回輸出につながる抜け穴をふさぐ意図もある」

     

    マレーシアやタイは、原産地証明を厳しくして米国へ協力する。これによって、関税が引下げられれば大きなメリットになる。

     

    (2)「カンボジア商業省も省令で、12日から米国向けの原産地証明書の発行にあたり、担当官による生産拠点の検査が必要な場合があると決めた。トランプ米政権はかねて東南アジアが中国の対米迂回貿易の拠点になっていると問題視してきた。米国はカンボジアに49%、ベトナムに46%、タイに36%、マレーシアに24%と、それぞれ軒並み高水準の相互関税を適用すると発表した。実際、中国製品は東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)により低関税で域内に流入している。その後、原産地のラベルを貼り替えたり、産地を替えるために完成品を倉庫に一時保管したりして中国産であるのをごまかして米国に輸出する例が相次いでいるとされる」

     

    中国製品は、FTAを利用してASEANへ流れ込んでいる。ラベルを貼り替えれば、簡単に「偽装」できるのだ。それだけに、厳しい対応をして米国の疑惑を払拭しなければならない。

     

    (3)「ベトナムやタイにとって米国は首位、マレーシアにとっては2位の輸出相手国だ。相互関税が国内経済に及ぼす影響は大きい。中国による迂回貿易を阻止しようとする本気度を示し、米国からの譲歩を引き出したいとの思惑が透ける。中国と陸続きで迂回輸出の拠点になっているとみられていたベトナムはいち早く対応した。商工省が4月中旬、原産地証明の発行機関に原産地偽装の対策強化を求めた。2024年の対米貿易黒字は1000億ドル(およそ14兆7000億円)を突破。中国、メキシコに次いで3番目に大きくトランプ政権の標的になりやすいとの危機感は強い」

     

    米国は、魅力のあるマーケットである。ASEANが、米国へ顔を向けるのは当然である。

     

    (4)「マレーシア国営ベルナマ通信などによると、同国政府も4月下旬にゴム手袋輸出業者向けに、現地の製造施設で生産された手袋のみの輸出を許可する方針を決めた。ゴム製品は対米輸出品目の上位5品目の一つだ。こうした各国の対応は、国内産業の保護に役立つとの期待もある。たとえば、タイでは電気自動車(EV)を中心に中国企業の進出が相次ぐが、部品の大部分が中国製と指摘されている」

     

    マレーシアは、ゴム手袋輸出業者向けに、現地の製造施設で生産された手袋のみの輸出を許可する方針を伝えた。徹底した「原産地証明」である。

     

     

     

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    中国は、長期不況脱出策としてダンピング輸出攻勢をかけている。他国の被害などお構いなしの傍若無人の行動である。典型的な「不況輸出」だ。最新の中国貿易統計で比較できる17品目のうち、前年同月比で単価が下がった品目は鋼材や家電、集積回路など6割にのぼっている。下落品目の割合は、2022年秋ごろから増え始め、昨夏には8割を超えた。下落基調が続き、足元も67割で推移する事態だ。

     

    『日本経済新聞 電子版』(8月31日付)は、「東南アジアにも対中関税論、衣料や鉄鋼 安値流入を警戒」と題する記事を掲載した。

     

    東南アジア各国で中国を念頭に輸入規制を検討する動きが広がっている。インドネシアが衣料品や陶磁器への追加関税を検討するほか、ベトナムは鉄鋼製品でダンピング(不当廉売)調査を始めた。中国からの輸入品が急増し、自国産業への打撃が広がっているためだ。

     

    (1)「インドネシアは8月、繊維製品の輸入に対してセーフガード(緊急輸入制限)を発動した。ニットや織物、カーペットなどの輸入関税を引き上げる内容だ。陶磁器などセラミック製品の輸入関税も引き上げる計画で、インドネシアのズルキフリ貿易相は「追加関税は45〜50%になるだろう」と語った。ズルキフリ氏はかねて「国内産業の脅威となる輸入品を管理する」として、繊維や衣料品、陶磁器など7品目を対象に追加関税を課す方針を示していた」

     

    繊維製品は従来、人件費の安い発展途上国が優位であった。中国のように人件費の上がった国が、インドネシアへ繊維製品の輸出攻勢をかけるのは「コスト割れ」であろう。これだけ、国内需要が減少していることを証明している。インドネシアは、繊維製品の追加関税を45〜50%にする意向だ。

     

    (2)「すべての国を対象とするが、念頭に置くのが中国製品だ。インドネシアでは中国からの繊維製品や陶磁器の輸入が急増し、国内の関連企業が苦境に陥っている。同国の全国労働組合総連合によると、16月に少なくとも繊維メーカー10社が事業再編や人員削減を実施し、約1万4000人が解雇された。3月に地場の繊維会社を解雇された男性(26)は「今のままでは国内製品は太刀打ちできない。安価な中国製品と勝負できるように関税を引き上げるべきだ」と話す」

     

    インドネシアでは、中国による繊維製品のダンピング輸出で、約1万4000人が解雇されている。中国が、国内需要対策を取らない結果だ。

     

    (3)「中央統計局によると、インドネシアの中国からの輸入総額は16月に324億ドル(約4兆7000億円)と前年同期から8%増え、過去5年で最高となった。全体の輸入額が横ばいにとどまる半面、中国の伸びが際立つ。ベトナムでは16月に中国からの輸入額が前年同期比34%増えた。フィリピンとタイもそれぞれ11%、7%増加し、いずれも過去5年で最大となった。東南アジアの主要国は、これまで中国を重要な貿易相手国と位置づけ、目立った対中輸入規制を導入してこなかった。米欧などが中国への輸入規制を強め、さらなる輸入増加に対する警戒感が広がってきた。

     

    米欧は、中国製品へ関税率引上げで対抗しているので、その余波が東南アジアへ及んでいる。東南アジア諸国は、これまで中国が重要な輸出先であることもあり、中国のダンピング輸出への防御が甘かった。中国に、その虚を突かれた形だ。

     

    (4)「中国製品の輸入が増加している背景には、中国の内需の低迷がある。中国の国内総生産(GDP)は46月期に前年同期比4.%増と政府の2024年目標の5%前後を下回り、減速が鮮明だ。過剰生産によって国内からあふれた製品が輸出に回り、同期間の輸出は5.%増えた。不動産不況に伴う鋼材の余剰在庫も大量に流出しているとされる。東南アジア各国は輸入規制を検討する一方、中国からの報復措置を懸念している。中国は23年に東南アジア諸国連合(ASEAN)全体の貿易額のおよそ2割を占め、域外では最大相手だ。インドネシアなどは、中国にエネルギー資源や電気製品を輸出しており、中国が報復関税や禁輸措置に踏み切れば輸出産業への打撃となる」

     

    中国の46月期の輸出は5.%増である。まさに、「不況の輸出」の結晶である。これだけ他国では雇用が失われている。インドネシアなどは、対中輸入で関税を引上げれば、中国の報復を受けるので慎重である。

     

    (6)「インドネシアは当初、中国製の繊維品などにセーフガードと反ダンピングの関税を二重で課し、税率を100〜200%引き上げる意向を示していた。だが対象を中国に特定しない方針に切り替えた。政府関係者は「中国を過剰に刺激すれば投資誘致など他の分野にも影響する可能性がある」と説明した」

     

    インドネシアは、中国を刺激しないように中国だけを対象にせず、他国製品も対象にするという。いかに、中国の報復を恐れているかを示している。

     

     

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