香港メディアは10月29日、ブラジル政府が中国の巨大経済圏構想「一帯一路」参加を見送る方針を決めたと報じた。中国は習近平国家主席が11月に20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開かれるブラジルを公式訪問し、ブラジルの一帯一路参加で合意して目玉としたい考えだったが、目算が外れた形である。共同通信が29日に伝えた。
米通商代表部(USTR)のタイ代表が最近、一帯一路参加は慎重に判断するようブラジルに促す発言をし、中国側が反発した経緯がある。先進7カ国(G7)で唯一参画していたイタリアは昨年12月、期待した成果がなかったとして一帯一路からの離脱を中国に通知した。ブラジルは、こういう状況を勘案したとみられる。
『ブルームバーグ』(10月24日付)は、「ブラジルに『一帯一路』参加のリスク考慮促すータイUSTR代表」と題する記事を掲載した。
米通商代表部(USTR)のタイ代表は23日、訪問先のブラジルで中国の巨大経済圏構想「一帯一路」に触れ、参加の是非を検討する際には参加することで生じるリスクを考慮すべきとの考えを示した。
(1)「同代表はサンパウロで開かれた集会で、「ブラジルの友人たちには今日の経済におけるリスクを客観的な視点、リスク管理の視点から見てほしい。ブラジル経済の強靭さを高めるために、最善の道筋とは何かを真剣に考えてほしい」と語った。ブラジルのファバロ農相は22日遅く、米国と欧州連合(EU)の保護主義的措置に対抗するため、中国の一帯一路構想に参加すべきだと発言していた」
BRICSは、中ロが主導権を握っているが、参加国のインドやブラジルは、これら勢力に従う意思は全くない。それだけに、ブラジルが中国の一帯一路へ参加することは、ブラジルの外交姿勢と相容れないことになる。一帯一路参加が、中国の権益に取り込まれることを意味するからだ。
(2)「タイ代表は、最終決定はブラジル政府の判断に委ねられるが、主権は世界経済において米政府が維持しようとしている側面だと強調した」
下線部は、中ロが主張するような世界新秩序が生まれないことを示唆している。プーチン氏が、BRICSをまとめて中国の国際銀行間決済システム(CIPS)へ加盟させたいと焦っていることを牽制し、米ドル決済に代わる世界ネット決済機構は存在し得ないと指摘しているのだ。
BRICS加盟9カ国が10月23日採択した「カザン宣言」にもうかがえるように、西側からの経済制裁で苦しむプーチン氏が固執する「脱ドル化」の動きを目指している。プーチン氏は、首脳会議で「ドルは政治的目標を達成するために武器として使われている」と強調。米国の国際銀行間通信協会(Swift、スイフト)に代わる国際決済システムの構築を急ぐことを訴えたという。
プーチン氏の念頭にあるのは、中国の立ち上げた国際銀行間決済システム(CIPS)だ。ロシア国営通信社によると、プーチン氏に近い実業家のアンドレイ・グリエフ氏が22日の中ロ首脳会談の席上、両首脳にBRICS加盟国にCIPSへの参加を促すことを求めたという。『日本経済新聞 電子版』(10月27日付)が報じた。
(3)「中南米における経済的な影響力を巡り、米国は中国と競い合っている。ブラジルやチリ、ペルーなどにとって最大の貿易相手国である中国は、中南米の大豆や鉄鋼、銅など天然資源の購入を進めながら、現地インフラへの投資を拡大している。中国の習近平国家主席は来月、米大統領選直後に中南米を訪問する予定。習主席はペルーのリマ近郊に建設される巨大な港湾の開港式に出席し、その後ブラジル入りし、20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するとともに、ルラ大統領との会談を含むブラジル公式訪問を行う」
中国は、南米へダンピング輸出攻勢をかけている。ブラジルは、鉄鋼製品の超安値輸入によって、多額の被害を受けている。ブラジルが、一帯一路へ参加したならば、さらにどういう事態に立ち至るかを熟考したのであろう。